リードラの記憶
服を着替えたリードラが首をひねっている。
「主よ、主の名前はマサヨシで間違いないのだな」
「ああ、俺の名前はマサヨシだが?」
こんな和名な奴この世界に他に居るのか?リードラは何かを思い出そうとしていた。
「マサヨシ、マサヨシ、マサヨシ…………」
呪文を唱えるように俺の名前を言う。そしてリードラの目が大きく開く。
「主よ、『ジェイアール』という言葉を知っておるか?母様は『あるふぁべっと』という言葉だと言うておった。主らしい答えを貰いたい」
「アルファベットでJR? Japan・Railwayの略? でも俺ならジョ〇ー・ライデン?」
リードラが俺をじっと見る。そしてまた俺に尋ねた。
「『エスエム』という言葉を知っておるか?」
「サド・マゾが無難なんだろうが……俺ならシ〇・マツナガ?」
「これで最後じゃ、『でぃーぜっと』と言えば?」
「ドズ〇・ザビじゃね?」
リードラのほほを涙が伝う。
「母様! 待ち人は来られました! ただ、遅かった」
「おいおい、何のことだ? 訳が分からない」
俺はリードラに詰め寄った。
「母様は言うておった……『我は転生した……一人は寂しいと……。我は呪いをかけた、前の夫をこちらに呼ぶ呪い……。ただ、いつ来るのかはわからぬ。我が死しても現れぬ時、一度世に出て『マサヨシ』という男を探してもらえぬか?』と……」
「えっ」
俺は絶句した。
「『私には『マサヨシ』という者を探す手立てがありませぬ』と言うと、母様は『大丈夫、『ジェイアール、エスエム、ディーゼット』という言葉を投げかけて、その者らしい答えを出してもらえばいい。『ジョニー・ラ〇デン、シン・マツ〇ガ、ドズル・ザ〇』と答えるならば、まず間違いなく我の夫『マサヨシ』』と言うておった」
しばらくの間、何も言わず考えてしまう。嫁がこっちに来ていたのか……。何で中二病みたいな言葉使ってるんだ? リードラは続ける。
「母様はもう居らぬ。亡くなられた。我は母様の遺志に従いマサヨシを探したのじゃ。まあ、ただ人に騙され結局捕まったがの……。でも、お陰で母様の夫、マサヨシに会えた」
リードラは本当にうれしそうに笑った。
ふと、
「リードラ、俺の妻は幸せだったのか?」
言うと。
「主よわからぬ。ただ、我が物心ついたあとマサヨシのことを話すときは楽しそうじゃった。たまにジャニー〇が居ないって文句を言っておったが……。大きな体じゃが目を細めて笑っておった。主に呪いをかけた時に代償として寿命を奪われたようじゃ。ただ、呪いの話を聞いた後でも三百年は生きておったがの……。我が千歳になる少し前に亡くなられた。『マサヨシは来るかの?』と言うのが呪いをかけてからの口癖じゃった。『女に年齢を聞くものじゃない』と歳は教えてもらえんかったが、七千歳ぐらいだったんじゃないかの」
リードラが答えた。
「七千年……一人だったのか? でも、お前が居るってことは誰かと番になったわけだろ?」
「主よ、高位のドラゴンはメスだけでも生殖ができる。母様は父親の話はしなかった」
「一人で……なぜ?」
「わからない……。私は母様と同じ。でも、わからない」
リードラは静かに言った。
「遺体は?」
「山に結界を張りそのまま置いてある」
「ここからは?」
「我に乗ればすぐじゃ」
ふと、横を見るとフィナが不安そうに俺を見ていた。
「どうした?」
「前のお嫁さんの所に行く?」
俺の腕をぎゅっと持ちながら聞いてきた。
「ああ、そうしないと次に行けない気がする。俺、妻が死んだって割り切れていないからフィナたちを中途半端に扱っているだろ? みんなもっと俺に甘えたいのに俺が壁を作ってそうはさせない。みんな優しいから我慢してくれてるけども……」
俺はフィナの頭を撫でながら言った。
「一緒に行っていい?」
「ああ、行こう」
「ガントさん、ここからちょっと出かけてきます」
「おう、行ってこい。何か知らんが重要なんだろ?」
「はい、俺にとって重要なことです。俺ガントさんに呼ばれて良かった。このリードラに会えましたから。押し売りも良いのかもね」
「値切りに値切った奴が何を言う! じゃあ行ってこい」
ガントさんはガハハと笑いながら言った。
「リードラ! 度々悪いがドラゴンに戻ってくれるか?」
「わかったのじゃ」
リードラはホーリードラゴンに戻っていく。俺の着替えは……布切れになってしまった。
「変身するときは、服を脱がないとな」
俺が言うと、リードラはポリポリと頬を掻く。
「さあ行こうか、リードラ背中を貸してもらうぞ?」
俺はフィナとリードラの背に上る。
「じゃあ飛ぶぞ? 主よ背にしっかり掴まるんじゃぞ」
そして、俺達はリードラの山へと飛び立った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




