春、王都へ
冬を終え、春に向かう。牧場にも雪が無くなっていた。そのころにはコカトリスたちの雛たちが生まれ、キングやクイーンたちと歩き回っていた。俺は柵にもたれながらそれを見る。子供か……。
キングが近寄ってくる。頭を下げてきたので喉の辺りを撫でてやると目を細めた。
「元気に産まれてよかったな」
俺がそう言うとキングは俺に首を寄せてくる。「ありがとう」ってことらしい。
朝、久々に行った冒険者ギルドでリムルさんに声をかけられた。
「マサヨシ様手紙が来ております。ガント様という方です」
受付けに行くとリムルさんから手紙を渡された。
手紙の内容を要約すると…………
「お前俺に借りがあっただろう? それを返してもらいたい。王都の俺の店まで来てくれ!」
…………っていう感じだった。
嫌な予感しかしない。
「ガントさんには世話になった……行かざるを得んか……」
ため息一つつき例の扉で家に帰る。リビングのコタツには全員揃っていた。
「今日、久々に冒険者ギルドに行ったら。ガントさんから手紙が来てた。なんか、王都まで来いってさ……」
「それでどうするのです?」
マールが聞いてきたので、
「色々世話になったからな、嫌とは言えないだろ?」
と返した。
クリス、フィナ、アイナ、マール、魔法書士の件色々世話になってる。まあ、仕方ないだろうな。
「一人で行くの?」
クリスが聞いてきた。
「そのつもり。一度王都まで行けば、扉が使えるようになるからね。魔法書士の試験で、パルティーモまでは行ってるから、そこから王都までを高速移動で走る」
皆の視線が集まる。そして、奴隷たちお互いが頷きあった。
「ん?」
急にじゃんけんが始まった。結構真剣。あいこが頻発する。そのうち、「あいこでしょ」の声が聞こえなくなり、「んっ、んっ」って感じで無言のじゃんけんが続く……結構長い。結局最後にフィナが勝ち両手を挙げる。うっすらと背後に「WINNER」の文字が見えそうだった。
「結局何のじゃんけん?」
「マサヨシ様と王都に行く権を得るためのじゃんけんです」
「俺、一人で行くって言ったよね」
「両腕が余っています。しばらくの間、抱かれてスンスンできます。独り占めです。嫌ですか?」
「嫌ではないが……」
「良いんですね」
「はい……」
押し通された。弱いな俺……。
「ここがパルティーモですか、奴隷市に行く時に一度通ったけど、ほとんど居なかったです」
「それでもここに魔法書士協会の事務所があると覚えててくれたから助かった」
俺が頭を撫でると、フィナは嬉しそうにした。
「さて、王都側の門まで行くか。そこからは、高速移動だ」
「はい!」
俺とフィナは王都側の門へ向かった。
その途中……急に
「みーつけた!」
という声が聞こえた。
黒い馬車が近寄ってくる。その窓からは見たことのある少女が身を乗り出していた。
「フィナ、本気で逃げるぞ。捕まると面倒そうだ」
フィナはスンスンと匂いを嗅ぐ
「試験の時の少女ですね、了解です!」
嗅ぎ分けた、すげっ。
フィナは馬車をキッと睨むと、俺と駆け出した。
AGIがEXの俺とSSSのフィナ、人の間を縫うように走り、見る間に距離を空ける。王都側の門につく頃には、馬車の姿は見えなくなっていた。
さっさと門を出て王都へと走る。フィナは抱っこされているので、機嫌は上々。しかしたまに俺の匂いを嗅ぎ、うっとりとするのは止めてほしい。
すれ違う度に、街道を歩く人が俺たちに驚く。そりゃそうか、こんな速さで動くものなど居ないだろう、居ても飛行系の魔物ぐらいか……。
途中クエリサという村を通ったときに休憩を入れたが
「何もないです」
フィナが言う。仕方ないので早々に出発。王都を目指した。
程無くして、王都の入口の門が見えてくる。
外壁高ぇ。ドロアーテの倍か? 何だあの門、デカっ、どうやって開け閉めするんだ? 人ってすごいな。重機無しでこんなもの作るんだから。
ほどほど離れたところで、高速移動を解き、歩いて近づくことにした。まあ、あんだけスピード上げて走って、人に見られて、今更だとは思うんだけどね。
昼過ぎ、丁度腹が減ったところ、王都オウルの入街手続きのために並ぶはめになった。
「お腹が空いたです」
「そうだなあ、家に帰るのと、王都で食べるのとどっちがいい?」
フィナは少し考えたが、
「断然、王都です。マサヨシ様と二人っきりで食べられます」
ニッと笑って言った。
「だったら我慢だな。空腹は最大の調味料と言うから、我慢したぶん美味しくなるぞ」
「ハイです」
二人で空腹に耐え、順番を待つことになった。
メタボと獣人少女の二人連れ、まあ、奴隷ってのはわかるんだろうな。
「デブなのに、可愛い子を連れている」
「何であんなデブに……」
「金にあかせて買ったに決まっている」
結構、妬まれているなぁ。あっ、フィナがちょっと怒ってる。
「良いよ体形は仕方ない。どうやっても変わらないからなぁ」
冬の間、フィナやクリスに剣術を教わり運動をして痩せようと努力していたのだが、結局何も変わらなかったわけだ。俺は怒っているフィナの頭を撫でると、フィナは俺に抱きついてきた。
「チッ」
周囲から舌打ちが聞こえてきた。地味に敵ができたようだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




