酒は飲んでも飲まれるな
我が家では夕食の時に、成人した者だけではあるが冷えたエールを出す。ただ、それで終わりかというと結構それ以上の酒を求めてくる時がある。まあ、最近の流行だったら火酒だろうか。別に飲ませたくないわけではないが、女性陣が酔っ払うと結構うっとおしいのだ。そのうえ、泥酔、撃沈、ベッドまで運ぶパターンまで待っている。いつも運ぶのは俺とアイナ。一度言っておかないとなとは思っていた。言えない俺が居たのは確かだが……。ちなみに俺はステータスの補正か何か訳が分からないが、飲んでもあまり酔わない。
朝になって、俺は朝食の準備をしていた。アイナとサラは俺を手伝っている。タロスとテロフはコカトリスの世話と卵の回収だ。
マールはいつもより遅いかな?と思っていると、
バタバタと音がして、マールが起きてくる。ちょっと寝ぐせ付き、
「申し訳ありません、起きるのが遅くなりました」
「まあ、酒は程々に……、ああ、前のところでの格言なんだが、『酒を飲んでも飲まれるな』ってのがある。心しておいて」
「はい……」
「アイナ、マールにキュアーを……」
俺はアイナにキュアーを頼む。
アイナは頷くとマールにキュアーをかけた。
マールがびっくりしている。
「気持ち悪いのが治りました」
「ああ、キュアーって状態異常の回復だろ? お前らの二日酔いって状態異常だから、キュアーが効くかなと……。上手くいって良かった」
驚いているマールを再起動させるために声をかける。
「はいはい、食器とかの準備よろしく。ちょっと寝ぐせついてるぞ?」
マールは急いで鏡で寝癖を修正、テーブルや食器の準備に走った。
大体次に起きてきたのはフィナ。頭を押さえながらだった。
「おはようございますぅ。あー頭痛いですぅ」
「フィナ、酒飲んで、寝てしまったのは覚えているか?」
「いいえ、覚えてません。起きたらベッドでした」
「うんうん、で、どうやってベッドへ行ったと思う?」
「わかりません。マサヨシ様?」
本当にわからないんだろうな。フィナの目がキョロキョロしてる。
「では教えてやろう。お前はアイナにおんぶされて部屋に行ったのだ! あの小さい体におんぶされて……」
アイナは、俺のステータスに引っ張られているため、そんなに苦ではなさそうだったが。
「えっ、ほんと?」
フィナがアイナを見ると、
コクリ
アイナが頷く。
「姉として、どう思う?」
「情けないです」
「ん、よろしい。俺からの送る言葉だ。『酒は飲んでも飲まれるな!』はい、復唱3回!」
「酒は飲んでも飲まれるな! 酒は飲んでも飲まれるな! 酒は飲んでも飲まれるな!」
「よろしい。以後気を付けるように」
アイナがキュアーをかける。
「フィナ、体調は良くなったか?」
「気持ち悪さは無くなりました」
フィナはそう言いながらリビングへ行った。
最後にクリス、頭が爆発している。お前は山姥か?
「んー、頭が痛い」
クリスは弱いくせに飲もうとする。
「アイナ、クリスにキュアーを」
「わかった」
アイナが二人にキュアーをかける。
「あっ、気持ち悪いのが無くなった」
「スッキリしただろ? キュアーって二日酔いにも効くみたい……マールで試した。一応、言っておく、お前を運んだのは俺だ」
「ありがとう」
しょぼんとするクリス。
「で、フィナにも言ったが、俺から送る言葉だ。『酒は飲んでも飲まれるな!』はい復唱三回」
「酒は飲んでも飲まれるな! 酒は飲んでも飲まれるな! 酒は飲んでも飲まれるな!」
「はい、よろしい。酒に酔って弱い敵に負けるなんて、あってはならんからな。気を抜かないように!」
さてと、
「マールは寝ぐせだけだが、クリス、フィナを誘って風呂に入れ。ヨダレが付いたり、髪が寝癖どころじゃ無くなってる」
俺がそう言うと、クリスは手鏡で自分を見る。「ゲッ」と言ってそそくさとリビングへ向かう。フィナに声をかけに行ったのだろう。
「やっと、静かになったかな?」
サラが俺に聞いてくる。
「マサヨシ様、あの程度の忠告で良いのですか?」
「あんまり言い過ぎてもな」
「それが原因で尻に敷かれているのでは? もっとビシッと!」
「んー尻に敷かれるのは慣れているから、こんなもんじゃない?」
そういや、俺が異世界人だってのは信号機たちに言っていないなあ。
しばらくすると、二人が風呂から出てきた。
「気持ち良かったです。すっきりしました……」
「そうね、風呂に入ってさっぱりできた」
フィナとクリスが髪をタオルで拭く。
「ところで、一番酒癖が悪いのは、クリスさん、私、マールさんの中では誰ですか?」
聞かないほうがいいと思うのだが、フィナが聞いてきたので、
「んー、一番悪いのかぁ……」
三人の視線が集まる。
「クリスだな『ちゅー』だの『抱っこ』だのを連発する。絡みつく。そのくせ一番に酔いつぶれて寝る」
「次は?」
「フィナかなぁ? まあ、フィナは抱っこしてたら静かだから、まだましかな。だから最後はマールか、マールはニコニコしながらのんで、気配無く寝てる感じ。まあ、三人とも部屋まで運ばなきゃいけないのは変わらないがね……」
クリスからの視線が痛いが、本当のことだ。
「アイナや信号機たちも居る時があるんだから、お前ら大人としてちゃんとやってくれよ?」
「「「はい……」」」
反省してくれるといいんだが……。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




