転移の扉を作って
転移場所ができたってことで、早速転移の扉を作ることにした。
場所はリビングのソファーが無い一角。
材料は、枠が付いた扉、マンゴー大の魔石……以上。
「ふんっふふんふふ、ふんっふふんふふ、ふふふふふーん♪ ふんっふふんふふ、ふんっふふんふふ、ふふふふふーん♪ ふんふふんふふんー♪」
鼻歌を歌いながら、転移の扉製作に取り掛かる。皆が俺を見ながら通り過ぎるが、集中しすぎて気が付かない。
目的地である木漏れ日亭の薪小屋の座標をマップから取り出し、転移のイメージと座標、そして魔力登録者以外使えないというプログラムを魔石に注入する。魔石はできた。この魔石を扉のど真ん中に固定すると自立した。ん、流れは俺の扉に近い。ただ使ってみるわけだが……俺が使ったのでは意味が無い。
キョロキョロと周りを見回すとアイナが居た。
「アイナ、ちょっと来てみ」
「何?」
「魔道具ができたから、実験」
「そういうのはクリスで……でも、やる」
えっ、クリスってそういう立場?
「じゃあ、ちょっとおいで」
アイナが近づいてきたので、俺はアイナの手を取り、一緒に魔石に手を当てた。一瞬光る。
「これで、この扉の使用者としてアイナが登録された」
俺と一緒に魔石に触らないとこの扉の使用者としては登録されない。
「扉が使える?」
首を傾けて聞いてくる。
「ああ、これはドロアーテに行ける扉……使ってみる?」
「使う」
アイナが扉を開けると、そこは何もない倉庫……正確には薪小屋……明かりも無いので転移の扉から漏れる光で何とか周りが見える程度……。
「じゃあ、外に出るか」
俺とアイナは扉を通り、先にある薪小屋の扉を開けた。
「あっ、木漏れ日亭」
アイナは驚いている。
「そう、この扉は俺んちからこの場所に来るだけの扉だ。俺が居なくてもドロアーテに来たかったら使えばいい」
「わかったけど、マサヨシと一緒のほうがいい」
「ん? まあ、使いたかったらでいいよ」
「うん……あっ私は大丈夫だけど、クリスもフィナもマールも大丈夫だけど、あの三人は魔力足りないかも」
「信号機?」
俺はあの三人のツナギの色から信号機と呼んでいる。奴隷たちも信号機たちも意味は知らない。
扉を通ってリビングに戻る時にアイナが言った。そうか、俺や奴隷たちは魔力が多いから問題ないが信号機はそうはいかないか……。
「うん、あの三人は魔力が足りない。登録しても使えないかも」
「魔力不足かぁ……俺はあいつらに卵を持っていってもらいたいんだがなぁ」
貯めて使う。そういう物が前の世界にあったな。蓄電池って奴だ。そういえば、スイカ大の魔石が余っていた。こいつを使って蓄電池ならぬ蓄魔池を作ればいいか。
スイカ大魔石にプログラムを注入。九十パーセントで青表示と注入停止。九十パーセントより少なく三十パーセントより多いなら緑表示、三十パーセント以下で赤表示、魔石で繋がるところへの魔力補給って奴。これで、蓄魔池完成……したはず?あとは小さな魔石を細く伸ばし、扉とスイカ大の魔石を繋ぐ……。これでどうだ? おっと、魔力注入しておかないと。
「ぶう、マサヨシが私を放っておいた」
アイナがほっぺを膨らませていた。
「悪い悪い、改善して皆が使えるように考えていたら忘れてしまった」
頭を撫でてアイナの機嫌を取る。ふと見ると、赤ツナギの後ろから尻尾を出したサラが俺たちを見ていた。何を作っているのだろうってところか?
「おい、サラちょっと来い」
「えっ、私?」
ぴょこんと猫耳が動く、呼ばれると思っていなかったか?
なかなか来ないので、手招きする。
「何?」
「怪しい実験」
アイナ、余計なことを……。アイナはニヤニヤしている。
「いや怪しい実験じゃないから、この扉を使えるかどうか確認したいだけ」
「これは、マサヨシ様の?」
サラはマールに教育され、俺のことを「マサヨシ様」と呼ぶ。
「いや、別の物だ、こことドロアーテを結ぶための物。ここって、ちょっと街へ買い物って距離じゃないだろ? だから、俺が居なくてもドロアーテに行けるような道具を作ったってわけだ」
「で、私はどうすれば?」
「まずは、この扉の魔石の所を俺と触ってくれ。そうすればこの扉が使えるようになる」
俺はサラの手を持つと、扉を触った。魔石が光ったね。
「それじゃ、扉を開けてみて?」
サラが転移の扉を開けると、すんなりと開いた。横にあるスイカ大の魔石も青から緑へ色が変わっている。
「じゃあ、奥に行って建物の扉を開けてみて?」
俺はサラに付き添い、サラに薪小屋の扉を開けてもらった。
「あっ、外に出た」
「ああ、ここは木漏れ日亭の中庭だ、もしかしたら、コカトリスの卵を持ってきてもらわないといけないから覚えておいて。さて、一度戻ろう」
再度転移の扉を開けリビングに戻る。
サラにタロスとテロフを呼んできてもらい、同じく使用者登録をする。二人が転移の扉を使用しても、特に問題なかった。ついでに信号機三人をルーザさんに紹介しておく。
「ルーザさん、この三人が今後コカトリスの卵を持ってくることになると思います」
ルーザさんは三人を見ると、
「わかったわ、私はこの宿の主人のルーザです。三人ともよろしくね」
そう言って三人の頭を撫でた。
俺たちは木漏れ日亭から家に戻り、クリス、フィナ、マールの使用者登録を行った。
「これで、紅茶が買いに行けます。でも……」
「ドロアーテに散歩に行けるけど……」
「木漏れ日亭にオムライスを食べに行けるけど……」
「簡単にドロアーテに行けるようになったけど……」
視線が刺さる。ん? 俺?
「連れていってもらいたいわよね」
「「「はい」」」
ああ、そういうこと……。
「ん、時間が合えばね」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。




