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奴隷が居ぬ間のトラブル

 さて、一人で外出するってのも久しぶりなんで、パルティーモの街をうろうろしてみることにする。

 パルティーモの街はドロアーテほどは外壁が高くはないが、四方に門があり、それぞれから道が延びていた。交差点角地から、町が広がったって感じかな? 王都への中間地点、他の領地への経由地点にもなっているのだろう。町中には市が立ち、生活感のある声が響いていた。


 適当な出店で串焼きを買い屋台を冷かしながら歩いていると……

 あれ?

 一目見て高級そうだとわかる服を着た少女が居た。紫色の肌? ダークエルフじゃなさそうだな。魔族か? 年齢はアイナより少し上ってとこか。ただ、きょろきょろと周りを見回し落ち着きが無い様子。

「居たぞ!」

 皮鎧を着た冒険者らしき男がその子を見つけると捕まえに走り出した。気付いた少女は走り出すが路面に躓きコケた。

 結構ドジだな。と勝手に思った。

 俺は素早く少女を拾い上げジャンプする。三十メートルほど跳び上がった。

 俺もドジだな。このステータスになってジャンプなどしたことが無かったので跳び過ぎたようだ。力加減を勉強しないと……。

 まあ、何とか建物の屋根の上に着地し少女を立たせた。

「追われているのか?」

「うん」

 少女が答える。この格好だどこぞの貴族か大商人の娘ってところか……金ぴかの服だ。着せられている感がある。

「どこに連れていけば安全?」

「ヘドマン子爵の家。そこに行けば安全」

 少女から家の話が出ると、俺のマップに場所が表示された。

「ほい、乗りな」

 俺はしゃがみ込み、おんぶの体勢をとる。すると「んしょ」って感じで俺の背中に乗ってきた。

「ちゃんと掴まっててな」

 そう言うと、ジャンプで建物の上を移動する。最初に跳んだ時に、追手の冒険者らしき男たちから声が上がるのは聞こえたが、すぐに声は消えた。

 後ろを見ると少女は目を瞑りぎゅっと俺の背を持っている。

 移動速度もそこそこあるのだろう、五分もすればヘドマン子爵の屋敷内に飛び降りることができた。

 玄関らしき扉の方へ行く。そこには人は居なかったが、内部に人の気配がしたので問題は無いだろう。

「ここでいいか?」

「うん」

 まあ、二度と会うことはあるまい、メタボに助けられたと言ってもだれも信用しないだろうし……。

 俺は扉を出すとさっさと家に戻った。


 扉を閉め、カバンへ仕舞う。おっと、キングが俺の方を見る。

「コケッコ?(増やしてきた?)」

 キングは口角を上げふざけたことを言う。キングの群れは着実に増えている。

「増やしてないよ! 失礼な……」

 そう言って、家の中に入った。


「ただいま!」

 俺が言うと、フィナがスンスンと俺を嗅ぐ。

「違う女の匂いです」

 ピキンっって感じでクリス、アイナ、マールが反応。

「マサヨシ様、何が?」

 マールが聞いてくる。

 重い空気が流れる。こりゃ説明が必要か……。

「試験は通ったんだ。その後、串肉食ってたら、襲われている女の子が居たんで、助けて、家に連れていって帰ってきた。そんだけ、名前も言ってない」

「それだけですか? 本当ですか?」

 マール、グイグイ来るな……。

「信用できん?」

「それを言われると……」

「まあ、俺の素性がわかるようなことはしてないから、どこかで会って話しかけられない限り、何も無いよ」

「今回は信用してあげる」

 クリスが言う。いつもは信用されていないらしい……。

「仕方ない、信用する」

 アイナお前もか。


「まあ、とりあえず試験は通ったので、晴れて魔法書士になれました。契約書も作れます」

「契約書作れるようになってどうするの?」

クリスが聞いてきた。

「アイナみたいな親の無い子供を雇おうかと……。冬は子供には辛いぞ? 契約で縛って、ここで働かせたらいいかなとね……」

「仕事が無いじゃない?」

「仕事は作ればいいさ。冬の間、木漏れ日亭に卵を持っていったり、キングとクイーンの相手をさせたり……メイドの真似事をさせたり、何なら、字を教えたり計算を教えたりしてもいい。その子たちが自活できるようになれば、契約を破棄すればいい」

この世界の識字率は低い、アイナは知らない間に文字を覚えていた。INTがSのお陰か……。俺が最初っから字が読め書けたのはINTがEXのお陰かな? まあ、力ない子供でも字が読め計算ができるなら雇ってくれる場所は多いだろう。それで出ていくなら契約を破棄すればいいと考えていた。増えても困るしな……。

 アイナが俺を見る。

「ありがとう……」

と言った。アイナも気にしていたのかもしれない、何てったって『聖女』だからな。

まあ、アイナに流されて、何かしてみるのもいいかもしれない。どうせ、俺は何していいかわかっていないのだから……。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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