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魔法書士免許

 朝飯を食い終え、リビングで紅茶を飲んでくつろいでいる時、

「俺、魔法書士の試験受けてこようと思うんだが、どっか近くに魔法書士協会無い?」

 皆に尋ねた。

「王都には確実にあるんだけど、ここから馬車で十日はかかる。途中のパルティーモに無かったっけ?」

 クリスが言った。

「確か、あったように思います。まあ、私も聞きかじりですけども……」

 マールも答える。

 フィナと、アイナはさすがに知らないか……。

「パルティーモにはありましたよ? ガントさんが書類がどうとか言って協会に入ったことがあります」

 おっと、ノーマークのフィナから有力情報。

「ありがとうフィナ。だったらチャチャっと試験受けてきます」

 ついでに契約書の書き方も……。

「クリス、距離的には?」

「丁度、王都までの半分。馬車で5日ね」

「なら、4時間ほどで着くな。そこで試験受けて、扉で帰れば日帰りが可能!」

「あなたなら大丈夫でしょう」

 クリスの太鼓判を貰った。

 マップを見ると、パルティーモと王都の表示がされている。結構距離あるけどまあ何とかなるかな。

「そういうわけで、パルティーモに行ってくる。留守番よろしく」

「「「「いってらっしゃーい」」」」

 俺はそそくさと扉を出し、ドロアーテの街の外に出る。そこから一人で高速移動を開始した。


 最高速で移動する。途中スケバという村があったが完全にスルーした。街道を歩く人に驚かれはしたが、何とか四時間程度でパルティーモまで到着した。



 パルティーモへの入街手続きを終える。入街手続きの際、魔法書士協会の場所を聞いておいたお陰で、マップに表示され迷わず魔法書士協会へ行けた。

 通り沿いの二階建ての大きな煉瓦造りの建物。そこに魔法書士協会看板が出ていた。受付を見ると、中に恰幅のいいおばちゃんが一人受付にもたれるように座っている。奥に何人かいるようだ。

「失礼します」

「はーい。どのような御用で」

「魔法書士の一発試験を受けたいんですけど?」

「ああ、駆け込みの奴ね。すぐできるけど、やる?」

 案外簡単に進む。

「できるなら」

 おばちゃんは、受験用の書類を取り出した。名前の欄を指差し、

「では、ここに名前を書いてください」

 羽根ペンを渡される。

 マサヨシっと。

 羽根ペンと書類を返す。

「試験料が、一万リルになります」

「結構するんだな」

 おばちゃんはきょろきょろと周りを見回すと

「でもね、王都で講習受けたら十万リルよ。まあお金を使った分、試験は簡単だけどね」

 体を近づけ小声で言う。

 大っぴらに言えない奴か……。お金をかけたほうが簡単なんて、なんだか世知辛いねぇ。

 俺は、おばちゃんに金貨を一枚渡す。

「じゃあ、あの試験官に話しかけて。試験方法教えてくれるから」

「わかった」

 試験官というおっさんに近づいた。


 スキンヘッドで痩せたおっさんだった。魔法使いのローブのような物を着ている。

「珍しいな、一発の魔法書士の試験を受けに来るのは」

「そんなに?」

 安くてすぐに免許証がもらえるなら、こっちのほうが良いと思うんだが。

「一週間ぶりぐらいになる。昔は、一発試験を受ける方が多かったんだが、俺が試験官を始めてからは難易度の高さで受ける者が少なくなってな、この試験じゃ合格できないから、王都で安定の講習で免許をもらう者が多いんだ」

 おっさん、暗に「俺、魔力高いから止めとけ」と言っているのか?

「で、試験方法は?」

「この契約書を上書きして燃やせ。それができたら合格だ。ちなみに俺のINTはAだ。できるかな?」

 不敵に笑う。でも、このオッサン威張ってるけどAだってさ楽勝だな。ちょっとイラッとしたので、契約書に大量の魔力を流す。

 ボッ!

 フラッシュコットンのように爆発的に燃え、消えてしまった。


「悪いね、炭も残らなかった」

 そういや、ガントさんは自分で契約書書いて試験官が燃やせなかったら……って聞いたんだけど、試験方法変わった? ああ、難易度上げるため? 講習の方が協会的に儲かるのかもしれない。

「おっ、お前、あんなに簡単に燃やすとは。どんなステータスだ?」

 おっさんの顔から余裕が無くなり、脂汗をかいている。

「そういうのは言わないほうが良いと思うんだけど。で、合格でいいんだよな?」

「ああ、これが合格の(ふだ)だ。受付に持っていけばおばちゃんが免許証を渡してくれる」

 悔し気に(ふだ)を渡された。

「ちなみに、契約書の書き方ってどうすれば?」

「えっ、お前書き方も知らないのに魔法書士になろうとしてたのか?」

 驚くオッサン。

「基本、専用の紙に契約内容を書き、同意の上、魔力を通せば契約は成立する」

「専用の紙は?」

「協会で売ってる。必要ならば買えばいい」

「わかった、ありがとう」

 さっさとおばちゃんの所へ戻る。


「おばちゃん、免許くれ」

 おばちゃんに(ふだ)を渡すと、

「おー、あんたやるね。最近合格する人なんて居なかったんだ。じゃあ、これが免許ね。さっき書いてもらった名前を入れてあるから、失くさないように。まあ、失くなっても再発行できるんだけどね」

 免許証が軽い扱いだな。

「あと、あんたINTがS以上だね。協会にその旨を登録しておくから、重要な契約の時に呼ばれる可能性があると思っておいて」

 にっこりと笑いながらおばちゃんが言う。あのおっさんを使っているのは、INTのステータスを測るためか?

「でもどうやって場所を特定する?」

「な・い・しょ。うふっ」

 おばちゃんにそういう言い方されてもな。


「難易度が高いなりの理由があるってことか」

 講習で魔法書士の数を増やし、一発試験で能力が高いものを探すってトコかなぁ?

「ご明察、協会も良い魔法書士が欲しいの、契約が破られないようなね。契約が破られたら魔法書士の意味が無くなっちゃうから、だから、協会から手紙が来たらお願いね」

 上手く考えられているもんだ。

「頻度は?」

「そうね、年に一回あるかないか。もしかしたら、一生無いかもしれない」

 うわ、すっげー適当。

「わかった」

 悩んでもわからん、適当に答える。

「そう、ありがとう」


「あと、契約書用の紙ってここで売ってる?」

「ああ、有るわよ。契約専用紙ね一枚百リル」

 結構するな。一枚一万円か……。

「だったら、百枚もらえる? ホイ、一万リル、金貨一枚」

「毎度ありー。これが契約専用紙百枚ね」

 おばちゃんは茶色い紙に包まれた紙束を渡してくれた。

「で、あんた契約台は?」

「ああ、知り合いに譲ってもらった」

「まあ、無くても契約はできるんだけどね……」

 ボソリとおばちゃんが言う。

「えっ、まさか、無くても契約できるのか?」

 ガントさんが普通に使っていたから知らなかったぞ。

「契約台は魔力の消費を抑えるための道具。魔力があれば無くてもできるわよ? ただ、普通の人じゃ無理だろうけど……。あなたできそうなの?」

「いや、わからない」

「わからないってことは、できそうなのね」

 にっこりと笑うおばちゃん。

「一度、契約書作ってもらおうかしら……」

 おばちゃん怖ぇ、何か俺の情報を剥ぎ取られている感じがする。

「今忙しいから、手紙が来たらってことで」

 さっさと、おばちゃんが持ってきた専用紙を受け取り協会の外に出る。そして、人気のないところで契約専用紙を収納カバンに仕舞った。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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