買い出しと紅茶
パンが切れたので、ドロアーテに買い出しに出た。
買い物は、基本アイナナビ、略してアイナビを使うのでアイナ必須なのだが今日はマールも追加だ。何か買うらしい。
「ココのは柔らかくて美味しい」
ごっつい、碇のマークが腕についてそうな、おっちゃんがやっている店だ。
「いらっしゃい」
店の中には、パンが並ぶ。ライ麦パン? 小麦パン? ともにラグビーボールぐらいの大きさがある。
ああ、これを切って使うのね。了解。
「アイナ、どのくらい買えばいい?」
「マール、どう?」
「十個ずつぐらいで良いのでは?」
「おいちゃん、これとこれ、十個づつ」
「おう、全部で百リル」
俺は銀貨一枚をおっちゃんに渡すと、袋一杯に入ったパンを貰い店を出た。
そういえば酒が欲しい気がする。たまにも飲むのもいいだろう?
「アイナ、いい酒屋ってあるか?」
「付いてくる」
トタトタとアイナは先行する。
アイナビ曰く、
「ここは、大丈夫」
アイナお墨付きに、ハズレはない。
「ごめんください。居られますか?」
「はーい。何のご用で?」
店員らしきおばちゃんが出てきた。
「エールって樽で買えます?」
俺が聞くと、
「在庫があるんで、問題ないですよ」
「果実水もあります?」
「ありますよ? これは瓶売りになりますが……」
アイナの分も確保。
「あと、強いお酒とかはありますか?」
「火酒というお酒があります」
「火酒? それは本当?」
どうしたマール? 急に食いついてきたぞ?
「火酒はドワーフが好んで飲むという酒精のきつい酒です。でも、うまい。しかしなかなか手に入りません」
「よくご存じで。たまたま二樽ほど手に入りまして、売り手がついていない物があります」
「マサヨシ殿、これは買いです!」
マール、おまえもいける口か?
俺には、リビングが酒乱の場になる場面しか思い浮かばない。
「わかった。すみません、エール一樽、果実水は十本、火酒は二樽全部。あと有れば洗ってある空ビンを二・三本貰えませんか」
「空き瓶なぞ、どうするので?」
「仲間に飲んべえが多いので、小分けにしておかないと飲み過ぎてしまうんですよ」
「そういうことなら、瓶に移し変えておきましょう」
「それでは、エール一樽が五千リル。果実水が十本で千リル。火酒が二樽で六万リル。瓶への詰め直しは、サービスさせていただきますね。全部で、六万六千リルになります」
火酒、高っ。エールの六倍ですか。
俺は、金貨七枚を払った。
「はい、これがお釣りになります」
銀貨四十枚を受け取った。
「どこへお運びすれば。馬車もないようですが」
「ああ、物の有る場所へ連れていってもらえますか?」
「えっええ、こちらです」
俺たちは、おばちゃんの後をついていく。すると、大きな倉庫に出た。
「エールは、これになります」
エールの樽が雑然と並ぶ。
「では、一ついただきますね」
俺は収納カバンにエールの樽を仕舞う。
「えっ、どうなったのです?」
「カバンの中にいれました。ほら、この通り戻すこともできます」
俺は樽を出す。そしてまた仕舞った。
「結構容量があって便利なんですよ。ただ、俺じゃないと使えませんが」
「そうなんですか」
おばちゃん残念そうだね。流通の革命になるね。
「それじゃ、果実水はどこに?」
さっさと、流す。
「果実水は、ここにあります」
箱には一リットルほどの瓶が二×五の十本並んでいた。これを一つ、収納カバンに入れる。
瓶は陶製なのね。
「あとは、火酒ですね」
「奥になります」
おばちゃんについていくと、二樽だけ横に置いてある場所に着いた。
「これです」
「それでは、瓶への移し替えをお願いします」
「しばらくお待ちくださいね」
おばちゃんは、果実水の空ビンを持ってくると、上手く火酒の樽の木栓を抜き、三本分移し替えてくれる。俺はそれを受け取ると、収納カバンに入れた。
「じゃ、残りの火酒ももらっていきますね」
更に、樽に入った火酒も入れる。
おばちゃんの「毎度ありがとうございました」の声を背に、俺たち三人は酒屋を出た。
「マール、アイナに感謝だな。火酒が飲めるぞ」
「ありがとう、アイナ様」
「ん、気にしない」
さすがアイナビ。
「あのぉ、私もいいですか?」
申し訳なさげにマールが声をかけてきた。
「そういえば、買いたいものがあるって言ってたな」
「そうなんです、紅茶の葉がありません。この前の紅茶の葉はふと気づいて買ったのですが、そういうお店があれば買いたいのです」
「そういうことらしいぞ? アイナ」
アイナビが検索を始めた。この町には紅茶葉専門店ってあるのか?
「雑貨屋だけど、お茶のいい匂いがする場所があった」
トタトタと歩き始める。
俺とマールはそれに付いていく。
「ここ、多分あると思う。あまり自信が無いけど……」
珍しくアイナに自信が無い。
「まあ、とりあえず中に入るか……」
俺達が中に入ると、結構高圧的な目で俺らを見る婆ちゃんが居た。
「ここに、紅茶の葉って売ってますか?」
俺が婆ちゃんに聞くと、手で奥を指差した。
「あそこ?」
コクリ
と婆ちゃんは頷いた。
婆ちゃんに言われた通り奥に行くと、茶筒のような大きさの容器が並ぶ棚にたどり着いた。
「えっ、これギモリの……これはレポリ、あーコイテレのもある」
マールが興奮しだした。
「どうかしたのか?」
「ここには滅多に手に入らない紅茶の葉がいっぱいあります。それも美味しいと言われる物ばかり。価格を見てください、一万リル。知らない人が見れば高すぎると思われるかもしれませんが、幻の紅茶です。安いぐらいです。これは私も飲んだことはありません」
知らない間に、婆ちゃんが近寄ってきていた。そして手招きする。マールは誘われるようにそこへ向かった。
「えーーーっ! レンデリの葉じゃないですか!」
リアクションを見てニヤリとしている婆ちゃん。俺は値段を見て驚く。
「おまえ、この茶筒一個5万リルって……」
「高い」
そんなことを二人で言っていると、
「違います、良い紅茶にはいい理由があります。深い味わい豊かな香りそれが心を豊かにします」
うんうんと頷いている婆ちゃん。
「マサヨシ様……」
じーっと俺を見るマール……と婆ちゃん……。まあ、あんまり売れるような物じゃないんだろうな。
「わかったよ、その紅茶の葉買えばいいだろ? あと、好きな葉っぱ適当に買え!」
決して婆ちゃんの視線に負けたわけではない。
マールは喜んでいろんな葉を選ぶ。どさくさに紛れて紅茶用の茶器セットも購入しているのに気付いたが気にしない。多分この買い物って結構金がかかってるんじゃないだろうか……。
「十一万二千リルだが十一万リルに負けておいてやる」
ほら高いじゃん。一千万円以上なり……。
「はい、金貨十一枚」
「毎度、そこのダークエルフのお嬢ちゃん……またおいで、良いの探しておくから」
婆ちゃんが口角を上げ、マールではなく俺を見ながら言った。
そりゃ財布は俺だけどよ……。
マールは紅茶の葉と茶器セットを受け取るとぎゅっと抱きしめる。
「ありがとうございました、マサヨシ様!」
マールの嬉しそうな顔が輝いていた。




