冒険者ギルドへ……度々
周囲が薄明るくなると、早々に俺はソファーに逃げた。揉め事は勘弁だ。まあ、アイナは知ってるし、フィナは匂いでわかるだろうし、クリスは勘がいいから気付くだろう。でも、目の前で一緒に寝てないってのが必要だと思う。抱き枕状態から解放され、安心したのか俺は寝てしまった。
しばらくすると、気配がする。俺の前に光点。常駐してあるレーダーに反応があった。ゆっくり目を開けると、フィナが俺をスンスンと匂っていた。
「マールと寝ましたね?」
「寝たよ?」
「私は?」
フィナが俺を見る。
「クリスさんとマールさんは添い寝、アイナは、同じ部屋で寝たことがある。私は?」
フィナの目力アップ。
「んー、今日、向こう行ってからじゃダメか?」
「だったら待ちます。今日ですね……約束ですよ?」
「あっああ、今日な」
目力に負けた。
朝食を取る。そして宿代の精算を行う。
「仮設のベッドは本当に助かりました。また宿泊するときはよろしくお願いします」
ルーザさんは、
「こんなに見てて楽しいのは久々でしたよ。日が変わるたびに女性が増えるんですから」
ニヤニヤしながら言った。
「面目ない」
「あなたはだらしないような感じではないけれど。みんなを大切にしてあげてね」
「ありがとうございます」
「皆で助け合って、仲良くね」
ルーザさんは女性陣に声をかけてくれた。
「「「「はい!」」」」
木漏れ日亭のルーザさん。長い間宿の切り盛りをして人を見てきたのだろう。歳を経た女主人が言う重みのある言葉。
「それでは失礼します。お世話になりました」
「「「「お世話になりました!」」」」
俺たちは宿を出た。
俺たちは冒険者ギルドへ向かう。
クリスは冒険者ギルドのスイングドアをバンと開けた。
クリスに皆の視線が集中する。
「おい、あれだろ? 炎の風を討伐したパーティーって……」
「二百人以上を四人で討伐だろ?」
「あんまりちょっかい出すんじゃないぞ? ギルドマスターも知ってるらしいから」
などとヒソヒソ声が聞こえる。
えー、美人いじり無くなっちゃったの? 威圧は必要ない?
「リーダーがデブなんだよな、何であんな奴にあんなに美女が……」
その言葉を聞いたアイナが威圧をかける。
「アイナ、別にいいから」
頭を撫でると威圧をやめた。
しばらく受付が開くのを待っていると、ギルドマスターのグレッグさんが近づいてきた?
「マサヨシ、お前、牧場買ったよな?」
「買いましたけど?」
「あそこにコカトリス居なかったか? 最近コカトリスの目撃情報が多くてな、それもお前の牧場の周りでだ」
「今でも居ますよ? 多分うちのコカトリスですね。人を襲うなって言ってあるから、大丈夫かな?」
「まあ、襲われたって話は聞いていない」
「下手に手を出さなければ大丈夫って言っておいてください」
「ああ分かった」
おっと、そう言えば。
「話は変わるんですけど、コカトリスの卵っていくらぐらいするんですか?」
グレッグさんは驚く。
「お前、手に入れたのか? あれは高いぞ? 一個で金貨十枚ぐらいする」
えっ、そんなにするの? 一千万? 俺ら二個食ったぞ?
「高すぎないですか? たかがコカトリスですよ?」
「お前、たかがコカトリスに冒険者が何人殺されていると思う?」
わかるはずがない。
「この王国内でも数十人は殺されているんじゃないか?」
「危険度が高すぎると?」
「ああ、嘴でつつかれたら石化だからな」
「その卵が安定供給できたらお金になりますかね?」
グレッグさんが俺を見る。
「お前、そんなことできるのか?」
「んーキング次第ですね」
「キング?」
「コカトリスキングです。俺の牧場の群れのボスですね」
「キングなんて災害指定だぞ?」
「妙に俺と気が合いまして、仲良しです」
お互いしんどいのだ。
「まあ、仮に流通させられるのなら、一個金貨七枚ぐらいじゃないか、少し安くしてお得感は必要だと思うが?」
「わかりました七枚程度ですね? もしクイーンの卵だったりしたら?」
「お前には驚かされる。そんなものまであるのか?」
「昨日食べましたけど」
「どうだった?」
味は必要だろうか? まあ、滅多に出ないのだろうな。
「まあ、美味かったです」
「くう、羨ましい。俺も食いたかった。まあ、有ればだが、白金貨1枚ぐらいするんじゃないのか? 美食家がこぞって買うだろう」
「白金貨1枚? 本当ですか!」
一億円だよ一個で……。
「ああ、出す奴は出すと思う」
コカトリスクイーンの卵は自家消費に決めた。
話をしている間に、受付が開いた。クリス、フィナ、アイナには待ってもらい、受付へ行った。
「おはようございます、リムルさん」
「おはようございます。マサヨシ様。今日はどんな御用で?」
「この子の冒険者登録ですね」
「それでは、このカードにお名前を書いていただけますか」
一連の流れが始まる。マールが水晶球に手をかざすと、水晶が輝きだす。おっと、今回も明るすぎて目が開けられない。
ピシっピシッ
徐々に輝きは陰り元の水晶に戻った? ああ、ヒビだ……。
「はい、これがマール様のギルドカードになります。あとは、マサヨシ様にお聞きください」
えっ、それだけ? アイナの時以上に端折るか……。まあ、内容は覚えているから問題ないが……。
マールはカードを受け取る。俺たち二人は、三人のもとへ行った。
早速ステータスを見せてもらう。
マール 女性 38歳
HP:9412
MP:16302
STR:A
INT:SS
AGI:SSS
VIT:A
職業:メイド?
所有者:マサヨシ
冒険者ランク:F
何で、メイドの後に「?」固有職業? わけわからん。
まあ、素早さ特化のステータスではあるけど何だろう、クリスのような斥候系を更に特化した感じ? 忍者? アサシン? 確かに灰色の肌は夜の世界に溶け込みそうだけど……。明るい所に居て欲しいな。
「メイドの後の『?』って何?」
クリスも同じところに突っ込みが入った。
「『?』って職業につくんですね……」
フィナも気になるんだろう。
「『?』メイドの枠に収まらないのかも」
アイナが言った。メイドの枠って何だ?
マールは自分の事を真剣に話す俺たちを気にしているようだ。
「まあ、見ての通りだ。マールも元々冒険者登録なんかしていなかったんだ、ステータスを把握しているはずもない。家でメイドをしてもらうのが主になるから、そんなに『?』にこだわらなくてもいいと思うけどね」
「だったらいいけど。気にはなるわね」
「気にはしておくけど、しばらく様子見だ。すぐにはわからないだろう?」
そう言って、俺たちは冒険者ギルドを出た。




