オムレツ再び
昼も近づいたので、キングが持ってきてくれた卵を料理することにした。前回はコカトリス、今回はコカトリスクイーンの卵だ。味の差があるかだな。
キッチンにある竈に火を起こす。買い出しで手にいれた薪を鞄の中から探したダガーで切った。
使ったダガーが高級品だったのか、
「無駄な使い方」
と言って、クリスが後ろを通りすぎる。
別にいいだろ? 使い勝手が良いんだから。後で調べたら、白金貨一枚、おお高級品。道具は使ってこそ価値がある……と勝手に解釈している。
その細くした薪を焚き付けにして、ライター魔法で着火。火を大きくした。
後ろから覗いていたアイナが、
「マサヨシだったら大きな火の魔法を使えばいいんじゃない?」
と聞いてきた。
「小さな火から大きくするのが楽しいんじゃないか」
火を起こすのって、そういうものだろ?
しかし、アイナは
「マサヨシから犯罪臭がする」
勘違いされた。俺、放火犯に見えるのだろうか?
火も大きくなり実用可能になったと思った俺は、朝の手順で、オムレツを作る。皿に盛ろうと振り返ると、そこにはフィナがフォークと皿を持って待っていた。
「いい匂いがしたのです」
耳がピンと立ち、尻尾をブンブン振っている。
そういや、フィナが言ってたな、嗅覚がいいって……。
「はいどうぞ」
そう言って、皿にオムレツを乗せると、テーブルにフィナが走る。あっコケた。グジャグジャになったオムレツを、悲しそうに見るフィナ。耳も尻尾も元気がない、シュンとしている。そして、寂しげに俺を見る。
「まだ、卵液には余裕がある。ちゃんと片付けと掃除してきな。作っておいてやるから」
俺がそう言うと、ドタドタと片付けを始める。
実際に残った卵液で九つほどのオムレツができた。それぞれ一つずつオムレツを乗せテーブルに置く。匂いに誘われて片付けが終わったフィナが椅子に座っていた。すでにフォークも持っている。
「フィナ、皆を呼んできてくれ。木漏れ日亭のお弁当と一緒に食べよう」
「ハイです」
そう言うと、フィナは全速力で皆を呼びにいった。しばらくすると、皆が集まる。
「クイーンの卵をオムレツにしました。味を比べて食べてみてください。いただきます」
「「「「いただきます」」」」
皆が食べ始めた。
「お代わりもあるから、遠慮するな」
「美味しい、朝の卵よりもキメが細かい感じ。卵自体の塩気に追加した塩が丁度いい」
クリスが絶賛してくれる。
「すっごく、美味しいですぅ」
フィナはそんな感じだな、おかわりを目指して頑張ってる。
「マサヨシ様、これならお店が出せます」
コクリ
「マサヨシのは何でも美味しい」
「店を出す気はないな。でも、暫くは料理人の代わりをしないといけないだろうな」
「私も少しはできるので、お手伝いしますね」
「マール、ありがとう。クイーンの卵は全体的に味が良くなっているみたいだね」
「そうね、卵料理としては、私が食べたことがないほどに美味しい」
クリスが言った。
アイナが俺をじっと見る。
「どうした?」
「何でマサヨシは料理ができるの?」
「そうだなあ、嫁さん死んでからは、自分で作ってたからかな。三年もすれば少々はできるようになる」
「私も料理できたほうがいい?」
「できないよりは、できたほうがいいと思うけど?」
えっという顔をする残り二人。
「でも、苦手なら仕方ないんじゃない?」
ホッとする二人。
クリスは作ってもらえる家に生まれてるだろうし、冒険者の頃は食堂や携帯食だろう。フィナは奴隷の間、ガントさんの所で作った物を食べていたみたいだし、まあ、料理に期待はしていない。
「暇なときに教えてやろうか? 簡単な物だけど」
「マサヨシが教えてくれるなら」
アイナは嬉しそうだった。
昼食を食べ、片付けが終わると無性に眠くなった。
「せっかくベッドが使えるようになったんだ、昼寝をして帰るか?」
「いいわね」
「楽しみです」
「昼寝する」
「えっと、私は?」
「一緒に寝ればいいじゃない、あのベッド広いから」
「良いんですか?」
「良いんです」
「いい」
「だったらご一緒します」
勝手に決まったが、文句を言う気もない。
「とりあえず、汚れた服を着替えよう」
俺は女性陣の着替えを渡し、空いた個室に向かった。後ろから気配……。
「お前ら向こうで着替えろよ、部屋余ってるだろ?」
「だって、見せてもいいでしょ?」
クリスが言う。
「でも、良くない」
「見せたいです」
フィナが言う。
「でも、見たくても見ない」
「見る」
「倫理的に無理、と言うか見ても喜ばない」
「私は見せませんよ?」
「それ正解!」
「ということで、俺とあなたたちは別部屋で着替えます」
「ケチ!」
「ケチです」
「ケチ」
何で、ケチ呼ばわり。
「それが普通です」
マールが意外に常識人で助かった。
俺が一番早かったので、ベッドの真ん中で寝ることにした。良い寝心地。しばらくすると、寝入ってしまう。
「誰がどこに寝るのよ!」
クリスが言う。
「私は、マサヨシ様の前がいいです」
フィナが言う。
「私は、マサヨシに抱きつく」
アイナが言う。
「私という者がありながら……」
悔しがるマール。
要はうるさい、目が覚めた。
「うるさいよ、お前ら」
「だって、良い場所で寝たいでしょ? だから、場所の交渉」
「長そうだな」
定番の位置争いが始まる。
言い争う女性陣。
「お前らじゃんけん知らんのか?」
「「「?!」」」
「グーが石、チョキがハサミ、パーが紙を表している。グーはチョキに、チョキはパーに、パーはグーに勝てる。三竦みになっているんだ。ほれ、これがグー。これがチョキ。これがパーな。三人以上でも同じものを出したり、バラバラでもグー・チョキ・パーがそろってしまうと、あいことなる。仕切り直してやり直し。アイナ、俺とやってみるか?」
コクリ
アイナが頷く。
「じゃあ、じゃんけんホイ。」
俺がグー、アイナがグー
「同じものが出たから、あいこな。じゃあ、あいこでしょ」
俺がグー、アイナがパー
「アイナの勝ちだ!!」
アイナがパーの手を見て嬉しそうにする。
「これで、三人以上でやってて、グー・チョキ・パーが揃ってしまうと、あいこな。あいこでしょでやり直し」
フィナの手をチョキにして出す。
「じゃ、皆でやってみ」
マールはあまり興味が無く、三人での勝負になった。
結局、フィナが勝ち俺の前、俺の後ろにアイナ、アイナの後ろにマール、フィナの後ろにクリスという形で収まった。
「眠いから寝るぞ?」
俺は寝たが、フィナと、アイナから前後で抱き付かれ、クリスの寝言で結局眠れなくなった。




