買い出しと大掃除
ドロアーテの街に戻り、買い出しを始める。掃除道具、必要な家具、寝具、カーテンなど、必要と思われる物を次々と指示していくマール、言われるがままに買い込み、カバンに入れていった。俺も鍋、フライパン、包丁、ボール、等の調理器具。食器十人分(食器は別に拘りはないが、銀製にした)。あと調味料、薪等の料理に必要と思われるものを買った。
「マサヨシ様、そのカバンも便利ですね」
「ああ、これも便利に使ってる。大体の物が入るからな」
そういや買い出しなんて、いつぐらいからか、一人暮らしになると適当に買って、家に帰って済ます。二人だった時は大きな袋をもって、マンションに帰ったっけなぁ。無駄に買った物、足りなかった物、ワイワイ言いながら、袋から出すのも楽しかったような気がする。
「マサヨシ、何考えている?」
アイナが俺に聞いた。
「ん? ちょっと昔を思い出していた」
「昔?」
「俺が二人で生活していた時のこと。こうやって買い出しに行ったこと。懐かしいなぁってね」
「マサヨシは、戻りたい?」
「戻れないだろ? まあ、だから前を向かなきゃいけないんだろうけど。俺は昔を振り返るのが悪いことだとは思わない」
「私は今がいい」
「俺も今が良いかな。誰もいない部屋は苦手だ」
「奥さんが居たら?」
「あいつは死んだんだ。ただ、引き摺っているのも確かかなぁ。三年経つんだけどな。忘れていないんだよ。多分簡単に忘れられない関係なんだよ夫婦って」
ふと空を見る。
「女々しいか?」
「ん、死んですぐ忘れるよりはよっぽどいいと思う」
「ありがとうな」
八歳に慰められてしまった。
さすがにメタボが美女四人を連れて街を歩くと目立つ、そこら辺に居るゴロツキが声をかけてくるわけだ。しかし、
「よう、メイドさん、そんなデブよりも、俺らと良いことしようよ」
なんて言い終わった後には、気絶した男が転がっている。ああ、フィナとクリスが当身を入れているのね。そのうちアイナの威圧が発生、俺らの集団に近づき文句を言う者は無くなった。
「クリス、フィナ、アイナ、ありがとうな。でも、あまりやりすぎないように。俺が太り気味なのは本当のことだから」
そう言って、三人の頭を撫でた。
「マサヨシ様、買い出しはこれくらいでいいと思います。あとは帰って掃除ですね」
「その前にちょっと寄り道。ガントさんトコに行って、メイドと料理人の確保しとこうと思ってね。マール的に要望はある?」
「マサヨシ様の思うようにすればいいと思います。私は本来数日後には亡くなっている存在でしたから。できるなら私のような存在を助けてやってもらえれば嬉しいですね」
「たまたまだぞ? 『クリスがメイドが居たらいい』って言ったから探しただけだ。売れ残りと言われたマールにたどり着いたのも、他のメイドが売り切れていたから……。俺のモットーは『欲のある人助け』。メイドが欲しいから助けただけ。マールは自分の生き運に感謝すればいいと思う」
「はい、生き運にも感謝しています。でもマサヨシ様にも感謝しています」
真剣な目で俺を見るマール。
「まあ、とりあえず、ガントさんトコに行くぞ!」
ちと恥ずかしい俺は、速足でガントさんの店へ行く。
「おう! マサヨシ。また来たのか?」
ガントさんはすでに店を片付けているようだった。
「おはようございます。今日はガントさんへの依頼です」
「なんだ?」
「次の奴隷市の時に、メイドと料理人を一人ずつ連れてきてほしいのですが?」
「おう、それくらいなら問題ない。次の奴隷市は来年の今頃になるから、一年後になるぞ?それでいいならってことになるが……」
「一年か結構ありますね」
ガントさんは考えだした。
「そうだな、お前にはこの札を渡しておこう。これはお前が俺のお得意様ということを表している。これを持って王都の俺の店に来れば、店の者が探してくれるだろう。居なければ仲介もする」
「俺はお得意様じゃないですよ?」
「いや、お得意様になるさ」
変な自信を持ってるな。
「だったら、ありがたくいただきます」
「おう、王都で待ってるぞ」
えっ、俺王都まで行かなきゃいかんの?
「それじゃ、また今度」
「おう、またな!」
そう言って、店を出ると、人気が無いのを確認して、扉で農場へ移動した。
買ってきたものを、俺とマールでセットしていく。ベッドメイクやカーテンなどの設置、風呂の道具、キッチンの整理を行った。
他のクリス、フィナ、アイナは拭き掃除に専念してもらう。「ていねいに!」と付け加えた。三人はお嬢様+野生児×二という家事と無縁な三連星である。黒いメイド服を着ているから、まさに例の三連星のようにいきなり物を壊した。
「だって、やったことが無いんだもん」
可愛く「だもん」って誤魔化すな。
「やったことがありません」
「やったことが無い」
お前らは仕方ない? いや、頑張ってもらわねば。
マールがてきぱきと動く。身体能力も向上しているのか、普通の人が届かないような場所にも行く。もしかして、一人で何とかなる? いや、もう一人は要るな。俺がフォローしないと仕事が多すぎる。
拭き取れてないところがあるようで、姑っぽく指でなぞり、埃を見つけてしまうマール。マール的にはまだまだ気になるようだが、とりあえず母屋は住めるようになった。




