先立つもの
「それで今からどうするの?」
クリスが聞いてきた。
そんなこと言われても思いつくのはまずはお金かなぁ。
「俺はこの国のお金も持ってないからなぁ。先立つものが欲しい」
俺の財布の中に福沢さんと新渡戸さんと夏目さん野口さんが数人いるが、当然この偉人たちはこの世界で通用しない。つまり無一文である。
「なら、剥ぎ取りやればいいじゃない。あなたが殺したんでしょ? そこのゴブリン、服や下着は無理だけど、身に着けているお金や武器を回収すればいいのよ。魔物や賊を倒したら持っている物は基本的に討伐者の物になるの」
「そういうことならば回収するかな。あそこに居る奴隷商人の彼も?」
チラリとクリスのほうを見ると、
「私が許す」
と胸を張って言った。
奴隷商人のこと結構恨んでたのね。
俺はまずゴブリンの身に着けているものを集めた。皮の鎧が五着、錆びた剣が五本、木の弓が三挺、八匹分の装備って結構な量である。お金も持っていたが、全部合わせても銀貨で五枚と銅貨七枚だった。
困った。馬も死んでいるから馬車は使えない。これじゃ、せっかく剥がした武器や防具を放置していくことになる。もったいない。
肩にかけたカバンに例の異次元なポケットをイメージ。
頼む……イメージ通りになってくれ。
皮鎧をカバンに入れてみると、おっと入った。
ありゃ、何か視線を感じるが……。
俺を見て口を開けているクリスが居た。
「クリス、口が開いているぞ?」
言われて気付いたらしい。
「えっ、ああ、えっ? どうなってるの?」
こんなに焦るってことは、こっちにはデフォルトで収納カバンは無いのだろうか?
とりあえず、
「俺の収納カバン結構入るから便利なんだ」
そう答えた。当然嘘だ。
クリスの許可をもらったので(別に要らんけどね)奴隷商人を剥ぐ。皮の鎧と錆びてない剣だった。あとブーツを手に入れる。サイズはダメだね俺には合わない。さっさとカバンに入れる。財布には……金貨二十八枚と銀貨四十一枚と銅貨五十四枚が入っていた。
大金? 他の奴隷でも買うつもりだったのかね?
ゴブリンたちのを足して金貨二十八枚と銀貨四十六枚と銅貨六十一枚。
「クリス、こんだけで食事付きの宿何泊分?」
クリスにお金を見せる。
「うーん、普通の宿で二~三年ぐらいは暮らせると思う」
おお、長期滞在可能。
「そういえば、クリス、お金持ってないよね」
「返してもらった袋の中に財布は無かったわ」
「金貨十枚持ってて」
俺が金貨を差し出すと、
「えっ何で?」
クリスが驚いて聞いてきた。
「急に要るかもしれないから。別々になった時、急にお金が必要になっても困るしな」
「でもね、普通は奴隷にお金持たせたりはしないのよ?」
「俺は奴隷扱いしないと言っただろ? だから持ってて。やっぱりお金は無いと困る」
俺がそう言うと、渋々ながら
「わかった」
と言って、クリスはお金を受け取った。
ちなみに、クリス先生の話では、
この国には貨幣が四種類あるらしい。銅貨が一リル、銀貨が百リル、金貨が一万リル、白金貨が百万リルってな具合だ。鉱物が変わると百倍って感じだね。銅貨が一枚で一リル。話だとパンが二~三個だから、百円ってことにしよう。だから、銀貨が一万円、金貨が百万円、白金貨が一億円ってとこ?
現在所持金、金貨十八枚と銀貨四十六枚と銅貨六十一枚。十八万四千六百六十一リル、千八百四十六万六千百円なり。結構金持ちでいいのかな? 俺の換算って合ってる? ちと微妙?




