揉めた後
ゲルドから分捕った魔石の箱を収納のカバンに入れる。あとで実験だね。そして、木漏れ日亭へ向かって歩いていると女性陣に遭遇した。皆走ってきたのか息が荒い。
「ん? どうした?」
「えっ、マサヨシが男二人に引きずられていったって」
クリスが言う。
「つらそうな顔してたって言っていました」
フィナが言う。
「ああ、あれ? やられた感出さないとって目は伏せていたんだ。あんまり元気に連れていかれてもいかんだろう?」
「マサヨシ、大丈夫?」
走ったせいか額から汗が垂れ、顔がちょっと赤くなったアイナが言った。
「色々叩かれたり切られたりしたけど、なんともないぞ?」
「いきなり主人が居なくなるのかと思いました」
マールその考え方は悲しい。
「一応話は終わったから、気にしなくてもいい。でも心配してくれてありがとうな」
クリス、フィナ、アイナついでにマールと頭を撫でた。
「でも、何があったの?」
終わったじゃダメかね。クリスが聞いてくる。
「んー、クリスを買う予定だった商人にわざと捕まって、殴られて蹴られて、イラっとして、暴れて、魔石貰って帰ってきた。もう手を出してこないと思う。以上」
「えっ? なんで?」
クリスが目を見開き俺を見る。
「だって終わらせたしな。その時俺しかいなかったし、この終わらせ方で良いかなと……。クリスがあの商人をどうにかしたいのなら手伝うが?」
「どうにかしたいわけじゃないけど……」
「俺はあの商人が居なかったらクリスに会えなかった。本当は死ぬほどのお仕置きをしたほうが良かったんだろうが、そういうのもあって程々のお仕置きをして帰ってきたわけだ」
「程々のお仕置き?」
「そう、あの商人は嘘をつけないようにした。正確に言うと、嘘をついたら体に電撃が走る魔法をかけた。電撃を我慢できたら嘘はつけるが、なかなか難しいだろうな。体も動いてしまうし」
「嘘をつけないんじゃ、死活問題じゃない。商人にとって」
「正直な商売をすればいいだけ、死なない程度の程々のお仕置きだろ?」
「たしかに、程々のお仕置きね。全部じゃないけど、少しはすっきりしたわ」
クリスがニコリと笑った。
「で、お嬢様方、お買い物はお済みで?」
「ん、おばちゃんが見繕った。メイド仕様」
アイナが言った。
「大幅に足が出ましたけど、みんな満足です」
フィナが楽しげに言う。
「大幅? まあ、満足できたならいいけど……」
「後で見せてあげる」
クリスが言った。
マールは恥ずかしいのかモジモジしている。とはいえ、マールの服装は変わってないな。
「あー、言い忘れていた」
皆が俺の方を向く。
「マール、俺の奴隷になったからって、奴隷にならないでください。いつものマールで楽しくやってもらえればいいから。俺はダメな主人何で色々注意してくれると助かる。これ命令な!」
「また言ったわ」
「定番です」
「定番」
三人が俺を揶揄う。
「仕方ないだろう? 俺、奴隷なんてもん持ったことないんだから、お前らだって一昨日からだろ? どう扱えばいいのか知らんよ」
「初めて聞きました、そんな言葉」
マールが驚いている。
「まあ、こんな主人だが、見捨てないでもらえると助かる」
マールは俺を見て笑っていた。
「さあ、みんな帰るぞ、宿で飯だ」
木漏れ日亭に着き、ルーザさんに事の顛末を話す。
「というわけで、しばらくあの部屋に五人で泊まりたいんだけどいいですか?」
「畏まりました。四人部屋ではベッドの数が足りないでしょう。簡易ですがベッドがありますので、食事の間にリビングへ運んでおきましょう」
ルーザさんが気を使ってくれた。ホント助かる。
食堂につくと、空いたテーブルに向い合わせで座り、宿泊客用の夕食を五人前頼む。
パンの盛り合わせが中央に、鶏肉系? シチューになってるものと、サラダ、そして、なんの肉だ? 牛っぽいのがステーキで出てきた。付け合わせは、ジャガイモ? 結構ボリュームあるね。あとは、エールがそれぞれに一杯ずつ、おっとアイナは果実水が揃った。
「それじゃ食べるか、いただきます」
皆ががポカンとしている。
「どうした?」
「『いただきます』とはどういう意味があるの?」
クリスが代表して聞いてきた。
『いただきます』はこの世界では通用しないか。
「俺の住んでいた所では食事をする前にするんだ。こっちでは食事の前にお祈りとかしない?」
「神に感謝する」
「俺の所じゃ『いただきます』なんだ。この食事を得るために失った命に感謝して、両手を合わせて食事を『いただきます』って感じかな? 正確には覚えていないけど……」
「マサヨシが言うなら、私もいただきます」
「「「いただきます」」」
それぞれが、俺を真似て「いただきます」をした
元々、ここの食事は美味い。しかし空腹感が食事をより美味しくしていた。
「料理に使われている肉は何だ?」
俺は、知らない肉について聞く。
「シチューに入っているのが平原キジのモモ肉です。あと、ステーキになっているのは、グランドキャトルの肉です。平原キジは今一番美味しい時期ですね。冒険初心者の収入源になっています。グランドキャトルは多分どこかで育てられたもの? 野生はほぼ狩りつくされたと聞いています。でも、この肉は手がかかっているからか美味しいです」
フィナが教えてくれた。
「ああこれがグランドキャトル? 牛肉そのものだな」
「マサヨシ様、この肉は普通に流通している肉のはずですが、今まで食べたことが無かったのですか?」
マールから質問された。
「少々事情があってね。そこらへんは部屋に戻ってから説明するよ」
「わかりました」
マールは頷いた。




