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魔法書士教育

 所有者の変更についてはガントさんに頼むことにした。

「そういうことなんで、ガントさんよろしく」

 俺がそう言うと、

「俺がやってもいいが、お前もできるんじゃないのか? 紋章の上書きができるほどの魔力だ、問題なさそうだがね。俺もしばらくしたら王都に帰る。帰ってしまえば契約関係のことはフォローできんからな。お前がやってみたらいい」

 ガントさんは俺にやらそうとしてきた。

「やってみてもいいけど可能なの? 技術とかは?」

「そんなものは気合じゃよ、この契約台さえあれば簡単にできる」

 そう言って契約台を持ってきた。

「この台の前で、ケストから自分へ主人を変更すると念じ、紋章へ魔力を注ぎ込めばいい」

 意外と簡単そう? 

「そういや、君、名前は?」

「マールと言います」

「それじゃあ所有者の変更を始めるね」

 俺は、「マールの所持者を、ケストさんから俺へ変更する」と念じながら、紋章へ魔力を注ぎ込んだ。

 マールと契約台が光り、そして収まる。

「紋章を見てみろ、所有者マサヨシって感じるだろ? これで終了だ」

 ガントさんが言った。

「契約完了、今後ともよろしく」

「はっはい、こちらこそよろしくお願いします」

 マールは言った。


「とりあえず、呼び方は『マサヨシさん』でも『マサヨシ様』でもいいから。適当に呼んでくれればいい」

「では、『マサヨシ様』とお呼びしますね」

 いつもながら貫頭衣はあまりよろしくないので、

「クリス、服を貸してもらえるか? このままじゃ外には出られないだろう?」

「いいわよ? どうせ、服も買いに行かなきゃいけないんでしょ?」

「ご明察だ」

 俺は収納カバンの中からクリスの着替えを出し、マールに着せた。これなら、外を歩いても問題ないだろう。靴は、まあ、どっかで買えばいいか。


 ガントさんの店での用事も終わり、そろそろ出ようと思った時に。

「お前、契約台要るか? さっきも言ったが、俺はもう二、三日したらこの町を出る。奴隷も売れてしまったしな」

 ガントさんが契約台を叩きながら言った。

「そりゃ、そのものがあれば隷属の紋章をつけたり、所有者の変更ができるんだろうけど、俺の周りに今のところ居ないぞ?」

「でも、そういう状況になった時、わざわざ俺に頼むのか? どこに居るのかもわからないぞ? 魔法書士に手続きしてもらうのも時間と金が結構かかるしな。顔見知りも居ないだろうし。お前だったら自分でやった方が早いと思うが」

 真剣にガントさんは言ってきた。

「そんなもん?」

「ああ、そんなもんだ」

「でもどうやって、隷属の紋章をつける?」

「んー、何か都合のいい動物居ないか? 魔物でもいい、隷属させることができる。ただし、お前の魔力次第だがね」

 都合のいい魔物ねぇ……。一つ思い浮かぶんだが、やっていいのかどうか。

「思い当たるのが居る。そいつで教えてもらっていい?」

「どんな動物だ? 魔物か?」

「魔物、まあ何かは会ってみてからのお楽しみで」

「お前のお楽しみはなんか怖いな。まあいい、その魔物で教えよう」

 ということで魔物で教えてくれることになった。


「おーいお前ら、マール連れて服買ってきてくれるか? 俺はガントさんに隷属の紋章の書き方を教わってくるから。クリス、この前渡した金貨残ってるか?」

「ああ、あるわよ?」

 死んだ奴隷商人から剥いだ金貨を十枚渡しておいたのだ。

「それで、マールの服を買ってきてもらえないか? 服はこの前アイナの服を買った服屋で、あそこは靴もあるから、靴も一緒に買っておいて」

「アイナ、案内よろしく」

「ん、わかった」

 アイナが答えた。

「わかったけど予算は?」

「金貨一、二枚じゃない? まあ、皆が納得するならそれを超えてもいいよ。そこはクリスに任せる」

 クリスがニヤリと笑う。何をする気だ? 

「あんまり時間がかからないと思うけど、合流は木漏れ日亭に集合することにしよう」

「じゃあ、みんな服を買いに行くわよ。アイナ、案内お願いね」

 そういうと、女性陣はガントさんの店を出ていった。

「さて、ガントさん、俺たちも出かけますか」

 俺は例の扉を収納カバンの中から出す。そして、魔力を流して扉を開けると、そこは俺の屋敷の前だった。

 ガントさんは、固まっている。

「ガントさん、行くぞ?」

「あっ、ああ」

 俺はガントさんの手を取り、契約台を引き摺って扉の向こうへ行った。


 俺は扉を仕舞い、ガントさんを見たが、まだ固まっていた。

 コカトリスの群れの方からリーダーが来る。俺がこっちに来たのに気が付いたのだろう。

「コケッ」

「おう!」

 俺は手を上げ挨拶をする。するとリーダーが俺をじっと見ていた。

「ついてこい?」

 コクリ

 リーダーは頷くと歩き出す。

 まあ、俺と一緒に来たから、コカトリスに襲われることも無いだろう。ガントさんは放置だ。

 俺はリーダーに付いていった。すると、巣を作り卵を温めるコカトリスが居た。

「巣ができて良かったな」

「コケッ!」

 リーダーは頭を下げた。「ありがとう」ってことかな? その後、母屋の玄関に向かう。

「なんかあるのか?」

 リーダーについていくと、卵が一つ置いてあった。ダチョウの卵ぐらいの大きさかな? 

「コケッコココケコケ、コケッ。ケッコケ。(この卵は雛が生まれない、やる。お礼)」

 そんな風に感じた。無精卵か、そういえば卵は絶品って言ってた気がする。

「まあ、ここじゃ調味料も無いし、食べるならもう少し後だな。宿屋で料理してもらってもいい。とりあえずカバンへ収納だ」

 そう言うと、俺はカバンにコカトリスの卵を仕舞った。

「ありがとう」

 俺は、コカトリスに礼を言う。

「ところで、頼みがあるんだが、聞いてくれるか?」

「コケ? (何?)」

「ちょっと付いてきてくれ」

 俺が、ガントさんの下へ戻ると、リーダーも付いてきた。

「俺な、この人に教わりたいことがあるんだけど、お前を実験台にしていいか?」

「コケココ。(別にいい)」

「俺がお前の主人になるってことなんだけど、それでも?」

「コケココ。(別にいい)」

 何となくだけど、了承を得られたようだ。


「ガントさん、こいつが魔物」

 ガントさんを軽く揺らす。

「へっ、えっ、コカトリス。これヤバい奴だろ?」

 ガントさんは戻ってきたようだ。

「こいつで練習したいんだけど、いい?」

「襲わないのか? 襲わなきゃ大丈夫だと思うが」

 ガントさんは怯えていた。

「で、どうやればいい? ガントさん、紋章は適当でいいのか?」

「ああ、形になっていれば問題ない。あまり簡略化すると、契約できない時がある。まあ、絵を描く感じで指に魔力を通すんだ」

 ふむ、絵ねぇ、そういえばヨーロッパあたりにコカトリスの紋章ってあったことない? 

「おーい、リーダー、ちょっとしゃがんで頭出してくれない? 目元に紋章書くから」

 リーダーは素直にしゃがみ、俺の前に目を持ってきた。

 魔力を通しながら指でなぞって、目元に昔見たコカトリスの紋章を書く。くすぐったいのか、コカトリスはもぞもぞと動いた。魔力で書いた紋章は白く残った。

「うむ、ちゃんと書けたようだな。未契約の紋章は白い。あとは魔力に乗せて、紋章に契約内容を書き込むだけだ」

 コクリ

 俺は頷くと「俺や、俺の家族、俺の仲間を傷つけない、殺さない。俺の言うことを聞く」ってのを、魔力に乗せて紋章に流し込むと、紋章が白く光りだす。光が消えると紋章は黒くなっていた。

「成功だな。契約が上手くいくと、紋章は黒くなる」

「了解」

 ん? あのコカトリス、一回りぐらい大きくなってないか? 二メートル五十センチ程度だったリーダーが三メートル近くまで大きくなっていた。トサカも何かデカくなって艶々している。ああ、引き上げたのか。

「まあ、強制的に上書きがされると、赤くなるのは知ってるな」

「ああ、二人ほどしてるからな」

「やっぱり、あのエルフ」

「知ーらない! おーい、リーダー、従魔になったわけだが、別に自由でいいからな」

 流した。


「これで、従属の紋章の付け方は教えた。これはお前に渡しておく」

 ガントさんが契約台を俺に差し出す。

「ありがたくいただくよ。どうして俺にこんなに世話を?」

「お前に恩を売っていた方が何かと良さそうな気がしてな……商人の勘だ」

 そう言ってニヤニヤしていた。

「ああ、思い出した。魔法書士協会の事務所があるところに行ったら、一応試験受けて正規の魔法書士の資格を得ておくこと! 後々面倒になる恐れがある。王都で講習があるが講習を受けなくても各事務所の一発試験で資格を取ることもできる。まあ、講習を受けたほうが試験内容は簡単だと言われているがね」

 あー前の世界でも、そんな感じだったな。


「ガントさんの場合は?」

「俺は一発試験だ!!」

 ガントさんは胸を張っていた。

「おぉ、すげえ」

 大型二輪免許でバイクを押した記憶が蘇る。

「で、試験内容って?」

「契約書を作って……契約台で契約して、確かあの時は付きまとい禁止の奴だったかな? その契約書が試験官によって強制解除されなければ合格だったような。まあ、契約書は解除されると燃えてしまう」

 ストーカー禁止の書類って……解除されちゃダメじゃん。

「ちなみに紋章は一度強制的に何かしてしまうと焼き付きが起こって、それ以降条件は変わらなくなる。焼き付きってのは契約の変更がきかなくなるってこと」

 さらに続く。

「魔法書士ってのは強制上書きされないぐらいの魔力が必要ってわけだ。ちなみに契約台での契約でも最後に契約した魔法書士の魔力が基準になる。それと同等またはそれ以上の魔法書士でないと契約更新できない。俺のステータスでINTはAだ。俺以上の奴ってのはなかなか見ない。ってことは、強制解除は難しい」

 ガントさん鼻高々。確か、クリスとアイナはS、フィナはAだったよな。マールは冒険者登録してないからわからないか。意外とA以上が周りに居る。ちょっとありがたみが無い。


「ほう、すごいな。俺は、INT……言わない」

 おっと、釣られそうになった。

「言わないか」

 ガントさんは残念そうだ。

「そんなに知りたいか?」

「ああ、知りたい」

 フィナやマールの件で世話になってるしなぁ。

「だったらヒント、……二文字だ」

「えっ、それってまさかSS?」

「違う違う、別の二文字!」

「お前……」

 ガントさんが恐れおののいている。

「ばらさないでね。えーっと、事務所で試験を受けて通れば、晴れて魔法書士になれるというわけだな」

「ああ、まあ、そういうことだ。思った通りなら、お前、契約したら最後、他人じゃ契約解除できない魔法書士になるんだろうな」

「どうだか……。リーダーありがとな。これで俺の教育も終わった」

 リーダーは群れへ戻る。それを見届けると俺は契約台を収納カバンに仕舞った。



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