そして……
イングリッドにもクラーラにも男の子が産まれた。
イングリッドの子はランヴァルド王がリヒャルト、クラーラの子はバルトール王がヘルムートと名付けた。
二人は溺愛しているのか、朝な夕な扉を使って来る。オッサンが孫をあやす姿など俺は見たくはない。
だから、扉の使用権を二人の主要な部下に与えた。
王が部下に引きずられるように国に帰っていく姿を見かける。
アイナにも妊娠の兆候が出たらしく、
「できちゃった。責任取ってよね」
と言ってきた。
「俺が責任を取らないとでも?」
「そう言う返しが欲しい訳じゃない。何か困った顔をして『わかった』って一言、言ってくれればいいだけなのに」
アイナは少しご機嫌斜め。
「そんなことより。ありがとう」
と言ってアイナを抱きしめると。
「私だってありがとう。本当にうれしい」
アイナはそう言って笑っていた。
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子を成し、家族が増える。
俺が死ぬとき、孫や玄孫、多くの家族が俺の周りを囲んでいた。
トラックに轢かれて死んだ時はただ一人。
周りに誰もいなかった。
まあ、元々面倒は苦手だったが、それでも自治領主になって好き勝手やらせてもらった。
楽しかったなぁ……。
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チューブスライダーのような中を抜けると、明るい世界。
俺は籠の中に入れられ、布団のような物をかけられていた。
手は赤子の手。
声を出そうにも「だー」とか「うー」とか、声さえ出ない。
今度は転生か……。
小さな村で猟師の父親の下ですくすく育った。
母さんは俺の出産の際に死んだらしい。
顏も変わった俺。
力は……相変わらず。ああ、魔力も……。
ヤレヤレ。
父さんが不慮の事故で死に一人になった後、街に出て冒険者になった。
その街の名はドロアーテ。
あっ、生まれ変わっても世界は変わっていなかったのか。
赤いユニコーンのマークがついた服を着た男たちが闊歩する。
出店の果物に手を出し、金を払わずに歩いていた。
これまたヤレヤレ。
どこで歪んだのやら……。
「お兄さんたち! 店のものを盗むのは良くないんじゃないのか?」
俺が声をかけると、
「お前、田舎者だろ?
この印が何の意味を成しているか知っているか?
俺はヘムの領立の学校を卒業した印。この印を持つ者はこの領地の中で好き勝手出来るんだよ!」
よくも恥ずかしくなくそんな事を言える者だ。
「ほう……知らなかった。
その印をつけていれば、好き勝手していいと……。元々、その印は隷属の紋章を目立たなくするためにマサヨシって奴が作った印だったと思ったんだがね」
自分で自分の事を言うのは恥ずかしい。
「バカ言え。マサヨシって言えば、アスマ自治領の初代領主じゃないか!
もう千年以上前だぞ! そんな事を覚えている者が居るかよ!
知っているのは、この自治領の守護龍、リードラ様ぐらい」
そう反論され俺は頭を掻いていた。
本当のことなんだがなぁ……。
すると、俺の傍に見たことがある女性が俺の前に現れる。
男たちは知っているのか、
「あっ、リードラ様」
と頭を下げた。
リードラはそれを気にせず俺に向き直る。
「お前、なぜマサヨシのことを?」
リードラが俺を覗き込む。
「ん? 俺はJRもDZも知っているからな」
驚いた顔のリードラ。
「まさか……、アイナが言っていた『マサヨシはこの世界の魂じゃないから、魂の流れに乗るには一度転生しなきゃいけないの。だから、いつかどこかの生れ出ることができなかった赤子の中に転生するかもしれない』と言っていたことは本当だったのか?
マサヨシが死んでからも我の紋章は消えなかった。
隷属は魂の繋がり。魂が残っていたせいで、消えなかったということなのか?」
「んー、そりゃわからん。
ただ、俺は猟師の息子として生まれたのは間違いないな」
「寂しかったのじゃ。
これで独り占めができる」
泣きながらリードラが抱き付いてきた。
全力で抱き付いたのだろう俺の体がミシミシと言った。
「リードラはどこに?」
「我用の屋敷じゃな。
邪魔なのか与えられたみたいじゃな」
リードラは苦笑い。
「あっ、使われなくなった収納カバン。我が持っておるぞ。
あの服もな……。匂いを嗅いで興奮しておった」
などと自分で恥ずかしい事を言い、赤くなるリードラ。
ヤレヤレ。
「そりゃ、返してもらったほうがいいかもな。
まあ、使えるかどうかわからないが」
俺が言うと、
「そうじゃのう。このあと我の屋敷に来てもらえんか。
できれば、泊まって欲しい」
「ああ、どうせ、俺も泊まるところが無い。頼むよ」
俺は頷いた。
俺がタメ口でリードラと話をしているのに驚いている男たち。
「さて、こいつらが出店のものを盗んだんだが、今の自治領じゃこういうのが当たり前なのか?」
「そうじゃな。勘違いしている奴が多いのじゃ。お主ら、本当にあの学校でそのような事を学んだのじゃな。現バストル家当主に文句を言いに行かねばならん」
リードラが言うと、
「そっ、それだけは」
「ちゃんと払います」
そう言って出店の店主に金を払うと、そそくさと去っていく。
バストル家は今でも厳しいのかもしれないな
「主……でいいのかの?」
リードラが言う。
「ん、ああ、『主』でいい。今更変えられても困るからな」
「じゃあ、主よ」
「ん?」
「我と旅に出んか? 主が死んで、千年以上経ち変わってしもうた。
マサヨシを知る者も既に我一人。我を含めた妻の面影を持つ者を探しながら、さっきのような気に入らない事を潰しても面白そうじゃ。
これでも、アスマ、オースプリング、レーヴェンヒェルム、ピットの守護龍らしいからの。
少々の無茶はできよう」
「二人っきりの旅か。
歩くかね?」
「そうじゃのう、歩くか……」
流れは決まったようだ。
俺とリードラで旅に出ようとすると、アグラが肩にとまる。そしてエン、スイ、フウ、クレイも現れた。
「マスター、置いてくなんてズルイです。
ダンジョンマスターのお帰りを待っていたのです」
アグラが俺の肩にとまり大きな声で話す。
「うるさいよ」
俺はアグラの頭を突っついた。
「私たちだって……ねえ……」
「そうなんですぅ」
「転生しているのは知っていた」
「声ぐらいかけてくれたっていいでしょ!」
エン、スイ、フウ、クレイが文句を言う。
「はいはい、久々に俺の中に入ればいいさ」
そう言うと、四体の精霊は俺の中に入っていく。
「やっぱり、この中はいいわねぇ」
と言うクレイの声が聞こえる。
「さて、行くかね」
「そうじゃのう」
俺とリードラは歩き始めた。
しばらくすると、
「それでのう……主よ」
リードラが聞いてくる。
「ん?」
「今度は何人の妻を娶るんじゃ?」
「知らんよ。成り行きだろ?」
「まあ、何人でもいいのじゃが、面白い奴がいいの」
「そうだな。クリスやフィナ、アイナ、マール、カリーネ、イングリッドにラウラ、ノーラにクラーラ。面白かったな」
俺は頷いた。
二人で旅をする。
まあ、いろいろあって、いろいろ暴れた。
変な通り名も付いた。
で……色々集まった。
リードラが思った通り。
ま、それもまた良しだろ?
……完……
無理やり感満載の終わり方です。
申し訳ありません。
R15の設定値がわからず、いろいろ失敗もしてきましたが、終わらせることができました。
私の拙い文章にお付き合いいただきありがとうございました。
今のままで良かったのか、もうちょっとエロい方にしておいたほうが良かったのか、元妻を倒したところで止めたほうが良かったのか。今更ですが悩みます。
サテ、途中で止まっている者も多く、それも何とかしたいところ。
その辺も何とかしつつ、新しいのも書いていこうと思います。
何度も行進が止まってしまった私の作品に長い間お付き合いいただきありがとうございました。
「ある雨の日から始まった事」と言う新作を始めました。
気が向きましたら、読んでみてください。




