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丸投げ

 軍を進め、オウルの傍に駐屯地を作る。

 兵力は六千人程になっていた。

「結構増えたなぁ……」

 俺は兵士たちを見る。


 まあ、それでも寄せ集めだから烏合の衆に近い。ちなみに王都を防衛する騎士や兵士の数は俺等の数倍いるらしい。

 更にはその兵力を維持するための金や兵糧は十分にあるらしい。


 ふむ……兵糧がなくなれば、軍は維持できなくなるな。

 しかし、それじゃ人々の食糧を取り上げる可能性がある。


 俺が考えていると、

「何か考えておる」

「そうじゃな」

 ラウラと人化したリードラが俺を見ていた。

「あんまり血を流したくなくてね。

 この進軍の落としどころは考えてあるんだが、そこまでの過程を考えているわけだ」

「過程か……」

 ラウラが呟いた。

「そう……。軍を王都に入れ、戦闘になれば民に恨まれるだろ?

 欲を言えば兵士のみ。さらに欲を言えば王であるバルデンだけで終わらせたい。

 甘いのかもしれないけどね」

「いいのではないか? 今、マサヨシができることをすればいい。

 マサヨシの強さを見る丁度いい観客がいるではないか。オングストレーム侯爵との戦いでできなかったことをすればいいのじゃ」

 リードラが言った。


 ふむ……、俺らしくね。


 レーダーでバルデン王を探す。


 おっと発見。周囲に結構な人数。

 軍議でもしているのかね?


「リードラ、行くぞ!」

「畏まった」

 俺は龍に戻ったリードラの背に乗ると、王城の上に飛ぶ。

 そして、王城全体にスタンクラウドをかけた。

 一瞬にして、白い雲が王城を囲む。


「ちょっと行ってくる。

 リードラは戻ってろ」

 そう言ってリードラの背から王城の中庭に降りた。

 そのまま、王城の通路を歩きバルデン王の所を目指す。

 ガチャリと扉を開けると、そこではいい服を着て突っ伏した者たちが居る。その中に見たことがある顔を見つけた。

「さてと」

 そいつを担ぎ上げると、痺れながらも意識があるのだろう……周りの者の驚いた眼が俺に刺さった。

 気にせず扉を出してオウルの外の駐屯地に戻る。

 忘れずに麻痺を解除しておいた。


「ただいま」

 ゴロリと王である者を地面に転がした。

「あいかわらずだな」

 ラウラが苦笑い。

 先に帰っていたリードラも現れる。


 三人でバルデンを囲むと、俺は麻痺を解除した。


「お前! 王である儂に何をする!」

 震えながらバルデンは言った。

 結構大きな声を出したせいか、兵士たちも集まってくる。

 バルデンを見たことがある兵も居たのだろう……、

「王が捕まった」

 と呟いた。

「さて……どうしようか……。殺してもいいし、逃がしてもいいんだが……」

 バルデンは少しの威圧を込めながら言った俺の言葉に、

「ヒイ」

 と小さな悲鳴を上げた。


 あっ、兵士が引いてる。


 バルデンを縛って転がした後、俺はオウルの街を見ていた。

「何をしているんだ?」

 と聞くテロフ。

「ん? 『バルデンを助けに来る奴は居るのかなぁ』って……門を見ていたんだ。助けに来る者が居るのならば返してやろうかとね……」

「返す?」

「ああ、俺がやった事は普通のやり方じゃない。本来は戦って力を見せ合って勝ち負けで決まる。

 だから、バルデンをオウルに帰し、仕切りなおそうかと思った訳だ」

「だから、門が開き、バルデンを取り返しに来るのを待っていた訳か」

「そういうこと……」


 それから、一日経っても、二日経っても、一週間経っても、門が開き兵が姿を現すことは無かった。


 捨てられたかね?

 所詮傀儡?


 ラウラ、リードラを連れ、オウルの中に扉で移動してみた。

 人は歩いておらず、兵士や騎士が闊歩する。


 戦いの前ってこと?

 静かだねぇ……。


 女連れの俺を見つけた数人の騎士風の男たちが俺たちを囲んだ。

「何か?」

 俺が聞くと、

「いい女連れてるじゃねえか。俺にも分けてくれよ」

「男一人に女二人なんて、いい趣味してるよ」

 騎士たちはニヤニヤと笑いながら俺に近づく。


「だってさ。今度三人でしようか?」

 俺が言うと、ラウラが頬を染め、リードラに至っては、

「面白そうじゃのう」

 とニヤリと笑うった。

「何、無視しているんだ!」

 と俺にとびかかって来た騎士をラウラが捻り上げる。

「この……!」

 助けようとした騎士をリードラが殴ると騎士は吹き飛んだ。

「うちの女性陣は強いんだ。あんまり舐めてると死ぬよ!」

 後ろに居た騎士が俺を羽交い絞めにして俺の首元にナイフを置くと、

「男がどうなってもいいのか!」

 と脅しにかかった。

 ラウラもリードラも何もしない。


 俺も人望無いねぇ……。

 それとも信用されてる?


 そして、

「やってみればいいのじゃ。

 その男を殺せるのなら、(われ)も諦めよう」

 とリードラが言った。

 ラウラも、

「できるのならな」

 と頷く。


「この!」

 そう言うと、本当にナイフで俺の首を切った。

 何かが俺の首を撫でる感じがする。


 こそばゆいなあ……。


「酷いねぇ。助けてくれてもいいじゃないか」

 俺が言うと、

「酷くはないじゃろ、ノーラのナイフを受けて刺さらなかったじゃろ?」

 リードラが当たり前のように言う。

「それは、服の上からであって……」

「マサヨシ殿ならば、大丈夫」

 ラウラの根拠のない追い打ちの言葉。


 信用もここまで来ればなんか寂しいな。


「バッ、バケモノ!」

 騎士たちが我先にと逃げ出した。

 そんな姿を見ながら、

「これじゃ街の人たちが可哀想だ」

 と呟いた。

「どうするんだ?」

 ラウラが聞いてきた。

「ん? 色々とは考えている」

「なれば、問題なかろうて」

 リードラが頷いた。



 誰も居ない道の真ん中を歩いていると、周りに騎士と兵士を置き、正面から黒塗りの馬車が現れる。

「邪魔だ、どけ!」

 騎士の声。

 避けずに歩く俺たち。

 斬りつけようと騎士が俺に近付いた時、リードラが威圧を使った。

 棹立ちになる馬たち。

 急な停車に馬車のトランクが開いたのか、中から箱が飛び出して路上に転がった。衝撃で箱が開く。

 中には金銀財宝。


 ああ……、家財を持って逃げている訳か……。

 いや、それとも別の物?


「あの紋章。アイスラー伯爵だ。確か、現王の政務の要だったはず」

 ラウラが耳元でささやく。

「伯爵……、まさか逃げてるとか?」

「かもしれないな。王が拉致されたことで、負けを意識して自領にもどろうとしているんだろう」

「ラウラ、この様子だとオウルから兵が出ることは無いだろうな。扉で返すから、オウルの各入り口前に兵を動かし、検問所を作って逃げる貴族を捕らえるようにしてもらえないか?」

「わかった」

 俺が扉を出すとラウラはそれを通り、兵の元に戻る。

 すぐにでも兵を動かしてくれるだろう。

「リードラも、各入り口の上にワイバーンを配置しておいてくれ」

「畏まったのじゃ」

 すると、ワイバーンがオウルの上を飛び、東西と南にあるオウルの入口の上に三頭ずつが舞い降りた。


 これで逃げられまい。


 アイスラー伯爵の馬車を放置し、そのまま王城に入る。

 既に門番などは居なかった。

 人の気配がしない王城。

 ある部屋の前で、

「早くしろ! 王国の宝物を手に入れる機会は今以外にない」

 と騒ぐ男たちが居たので、即座に痺れさせておいた。

 壁にかかっていたはずのものがなくなり、あったはずの鎧も消えている。


 盗まれたりもしているのかね。

 困ったもんだ。


 王の間に行くと一人の老人。

「やっぱりあなたが来ましたか。

 確か、その女性はパーティーの一人でしたな」

 リードラを見て老人は言う。

「俺を知っている?」

 俺が聞くと、

「ええ、ここで何度か……。アクセル様を引き取られる時もおりました。

 あなたはこの国をどうするつもりなのですか?」

 と聞いてきた。

「特に考えていない。頭が変わるだけだろ?」

「頭はあなたが?」

「ん? 俺がここに座って誰か俺の言う事を聞いてくれるのかね?」

 俺が聞くと、

「聞く者も居れば、聞かない者も居るかと」

 と老人は答えた。

「じゃあ、ここに座って言う事を聞いてくれる者をここに座らせるさ。

 で、あなたは何者? 俺、この国に興味が無くてね」

「そうですな、この国の内務を取り仕切っておりました。

 前王が使える者を連れて行ったので、忙しくて大変でしたがね……」

 苦笑いする老人。

「じゃあ、その忙しくした元凶の所に行きましょうか」

 俺は扉を出し、ドロアーテのマティアスの部屋に繋ぐ。

「マティアスに文句言っている老人が居たから連れてきたぞ」

 扉の向こうに見える老人を確認すると、マティアスは苦笑いした。

「マティアス王!」

 老人はマティアスの前に跪いた。

「私はもう王ではないよ」

 困った顔のマティアス。

「そうなんだよなぁ……」

 俺も呟いた。

「だから、あのオウル、マティアスに任せようと思うんだ」

「えっ?」

 マティアスは唖然とした顔をしていた。

「あの周辺、あれを領地にして領主をやってもらえばいいかと思ってね」

「お前……」

「んー、騙されて王都まで行った時に思い付いた嫌がらせ。ミスラが言っていたように、俺が軍を進めれば周りの貴族たちが俺につくと思っていたんだろ?」

「ああ、思っていた」

 肯定のマティアス。

「だから、思い通りに動いた結果の後始末をマティアスに頼みたい。

 マティアスなら勝手知ったるだろうに?」

 俺はニヤリと笑った。

「それに、マティアスならそこに居る爺さんも喜んで手伝うんじゃないか?」

「はい、マティアス様へ忠誠を誓います」

 老人は嬉しそうだ。

「人手は自治領から連れて行けばいい。できれば半分ぐらいは孤児院から選んで欲しいがね」

「勝手に進める」

「ああ、勝手に進めるぞ。

 勘違いするなよ。マティアスはもう王ではない。俺の部下だ。部下は上の者のいう事を聞くもんだろ?

 あの街を元の活気のある街にするのはお前の仕事だよ」

「俺はオースプリング王国を捨てたんだ」

「ああ、オースプリング王国などは無くすさ。そうだな、公爵ってのはもう居ないって話だからマティアス・オースプリング公爵あたりでどうだ? 要は貴族たちのとりまとめだな。

 アスマ自治領の協力者のアスマ貴族連合? そのトップがマティアス・オースプリング公爵って訳だ」

「やることは国王と変わらないだろ?」

「そう、だから丸投げ。

 これで、貴族絡みのことは無くなる」

 俺の言葉にマティアスは頭を抱えた。

「受けないのか?」

 俺が聞くと、マティアスは、

「俺はお前の部下だからな」

 嫌そうな顔で苦笑い。

 しかし爺さんは喜んでいた。


 こうしてオウル周辺の土地はマティアスに管理してもらうことになる。

 バルデン以下王都から逃げ出そうとした者たちは、ラウラが捕らえそのままカーヴで幽閉になる。

 結果バルデンが持っていた土地やら王都から逃げ出そうとした貴族たちの土地やらもひとまとめにすれば、公爵としてふさわしい、結構な大きさの領土になった。

 もう、オースプリング公国と言ってもいいぐらいだ。


 王都騎士団はオウル騎士団になり、ミスラの部下が団長になっていた。

 規律を重視する者らしく、ミスラが『あいつだったら騎士団を鍛え直すだろう』と言っていたので、まあ、大丈夫だろう。


 爺さんはマティアス時代の内務大臣だったらしく、嬉々として働いているそうだ。

 人手の関係でうちの孤児院から行った面々も鍛えてくれている。

 教えるのも楽しいらしい。

 何とかやっていけるようになったようだ。

 ただ、マティアスは愚痴を言いに俺の家に来るようになっていた。


 これで人間側の揉め事への俺の出番はなくなったな。

 何かあったらマティアスが何とかしてくれるだろう。

 酒の相手をして愚痴ぐらいは聞くさ。


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