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進軍

 オングストレーム侯爵の領地に駐屯地を作って数週間。

 特に何も起こらない。


 まあ、毎日斥候が確認には来ていたがね。


 その間、俺はラウラを連れ、家を行ったり来たりしていた。

「どう思う?」

 家に戻りカルラをあやすラウラに聞く。

 手を伸ばし、ラウラの顔を触るカルラ。

 ラウラは優しくその手を避けながら、

「どう思うもこう思うもないだろう。マサヨシがどう動くのか気が気じゃないのだろう。

 境界線を越えられても、それを止める方法がないからな。

 今頃、ハルトヴィヒ子爵がクルツ侯爵の所に泣き付いている頃だろう」

 と言う。

 ラウラが楽しそうだ。ミスラと同じ笑い方。

「泣き付いても変わらないだろう?」

「そう、変わらないんだ。

 だから、マサヨシ、待っていればいい。

 そうすれば結果はついてくる。。

 暇だから私はテロフと銃を使う部隊の精度を上げる訓練をするつもりだ。

 斥候たちは音だけでも驚いているかもしれないな」

 そう言ってラウラはカルラに笑いかける。

「待つのは苦手なんだがなぁ」

 と俺が呟くと、ラウラが

「待つのも仕事だよ」

 とニヤニヤである。


 実際、テロフとラウラは銃の訓練をする。その銃声は何も無い平原に響き渡っていた。

 ミケが、

「暇なのニャ」

 と呟く。

「空でも飛んできたらどうだ?」

「空を飛ぶと、リードラさんと空戦しなきゃいけなくなるから大変なのニャ。

 後ろをとったと思ったら、一瞬で位置が変わるのニャ! ズルいのにゃ! 酷いのニャ!」

 ミケが文句を言っていると、

「あれぐらいの動きで惑わされたら、襲われたらどうするのじゃ?

 (われ)の本気はもっとすごいのじゃぞ? それに耐えられる動きができねば、ワイバーンライダーに囲まれた時にどうする? (われ)はいつもミケの傍には居れんからのう」

 リードラが現れる。

「それはそうニャンですけどね……、もうちょっと……」

 突然のリードラの登場に、ミケは汗をかきながら頭を掻く。

「実際逃げ切ったではないか。ミケのワイバーンの扱いは上手くなっているのじゃ。じゃからもう少し頑張るのじゃ」

「わかったのニャ」

 ミケは頷いていた。

「さ、行くぞ!」

 ミケを引きずるリードラ。

「助けてくれなのニャー!」

 ミケの声が響くのだった。


 リードラも暇だったのかね?


 更に数週間たったころ、昼過ぎにオングストレーム侯爵から使いが来た。

 オングストレーム侯爵の城に行き、執事に連れられて客間所に行くと、オングストレーム侯爵本人と、同じぐらいの年齢の男性。

「お待たせしました」

 俺が言うと、オングストレーム侯爵が、

「急な呼び出し、申し訳ございません」

 と頭を下げる。

「近くに居ましたので問題ありません。

 それにしても何かあったので?」

「人を紹介したいと思いまして。マサヨシ殿の今後に関わる方です」

 そう言うと、

「こちらがクルツ侯爵。お会いになるのは初めてだと思います」

 と言って、近くに居た男性を紹介した。

「お初にお目にかかります」

 クルツ侯爵が頭を下げた。

「こちらこそ」

 俺も頭を下げる。

「オングストレーム侯爵、これは仲介?」

 俺にもさすがにわかる。

「まあ、言ってしまえばそういう事です。クルツ侯爵とその寄子がアスマ自治領側につきたいと言っているとしたら、どうなさいますか?」

 オングストレーム侯爵が聞いてきた。

「んー、どっちでもいいかなぁ」

 俺は呟いた。

「どちらでもいいですと?」

 クルツ侯爵はびっくりしたのか、語勢を上げて言う。

「そうでしょう? 直接城なりを攻撃すれば為政者が居なくなってその土地は得られると思っている。税率を下げれば、商人や農民は喜んで新しい為政者に付くだろうしね。あとは領民寄りの政治をすればその土地は落ち着くよ。一部の親族が反乱を起こしても、それを押さえる力はあると思っているからね。その辺はオングストレーム侯爵が身をもって知っていると思う」

 俺はそう答えた。

「はい、身をもって知らされました。ただ、負けた者への配慮もしっかりしていただきました。負けたとはいえ恩は感じております。お陰様で物もまわり始め、物価も落ち着いております」

 オングストレーム侯爵が苦笑いをしていた。

「要はアスマ自治領に対して余計なことをしなければ、こちらからも手を出さない。うち寄りになろうが、オースプリング王国側になろうが俺には関係ないんだ。ただ、あとになるほど俺の信用は得られないだけ」

「…………こちらから手を出さなければ、領地を安堵していただけると?」

 俺を心を覗き込むようにクルツ侯爵が見た。

「今の広さで十分だと思っているから、別に領地が欲しいとは思っていない。貴族は貴族で自分で統治すればいいんじゃないかな?」

「ではなぜ軍を?」

「オースプリング王国への嫌がらせ。オングストレーム侯爵に嫌がらせをしたからその報復」

「嫌がらせ?」

 クルツ侯爵が俺を見る。

「だってそうだろ? 確かに俺の方に付いたってのは有るが、俺の情報なしで無理やり戦争を焚きつけたのはオースプリング王国だ。その責任も考えず、痛い目をさせられて弱っているオングストレーム侯爵に更に経済封鎖だぞ? 俺の仲間になった者にした行為。嫌がらせぐらいしても罰は当たらないさ」

 俺は言った。

「まあ、こう言うお方だ。ベルマン辺境伯もそれを知って付いたのだろう」

 オングストレーム侯爵は笑った。

「自分より自分の仲間ですか……」

 クルツ侯爵が呟く。


 そしてしばらく考えたあと、

「その仲間の枠はまだ残っているでしょうか?」

 とクルツ侯爵に聞かれた。

「枠は広げればいい」

 俺が言うと、クルツ侯爵は跪き、

「私クルツ侯爵とその寄子、その仲間に加えてもらいたく思います」

 と頭を下げた。


 こんな感じで街道を進むたびに、街道付近の貴族たちは俺に付くようになった。

 とりあえず、「少なくてもいいから兵を出すように」と指示を出すと、続々と兵士が集まった。

 オングストレーム侯爵の五百人が基準。


 別にそんなに多くを求めていなかったんだが……。


 パルティーモまで到着したところで、パルティーモからレーヴェンヒェルム王国寄りの貴族が俺の方に付くと連絡もある。


 ありゃ、王都周辺しか残ってないや。


 まあ、マティアスはこの辺まで読んでいたんだろうな。

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