後始末2
去っていくオングストレーム侯爵の兵たち。
「マサヨシ、忙しくなるな」
「その辺はマティアスに投げる。
貴族の扱いは俺にはできないよ」
ひらひらと手を振りマティアスに言う俺。
「俺が反乱するとか思わないのか?」
「その時はその時。
諦めるよ」
俺が言うと、マティアスは苦笑いしていた。
俺は振り向き、
「あっ、ミスラにラウラ。
軍関係は二人に任せるから」
と言うと、
「ああ……また書類が……」
受けてくれるらしく、恨み節を言うミスラ。
それを見て笑っているラウラが居た。
さて、戦争は終わった。
丸投げして、ゆっくりするかね……。最初からこの行まで前話と全く同じ
数か月後、マティアスから「オングストレーム侯爵の孫がうちの孤児院兼学校に入学してくることになった」という連絡が来た。
そして、その寄子の子や孫まで付属してくるそうだ。
「何故に?」
面倒そうな雰囲気を感じ、苦笑いをしながら俺はマティアスに聞いた。
「それは当然人質だ。
向こうから言ってきた」
「別に人質など要らないぞ?」
俺は言う。
「それを名目にいい人材を確保しようという目論見もあるのだろうな」
「え?」
「知らんのか?
お前の孤児院って、この周辺で一番人材が集まっているぞ?」
「そうなの?
イングリッドとか、マリエッタさんとかマリーさんとかアビゲイル様とかそのぐらいしかいないだろ?」
俺が首をかしげていると、
「その面々が受けた教育はその国の頂点に近い。
この孤児院を出た生徒は、必然的にそれに近い知識を持つ。
そういう人材を手に入れようと考えているのだろう」
とマティアスが説明をする。
「まあ、それは別にいいんじゃないのか?
卒業した子供たちが元気にやってくれれば。
それにうちはうちで仕事を提供するだけだからね」
「あと、アクセルを篭絡しようとする者も出てくるだろうなぁ……」
マティアスが呟く。
「娘をアクセルの妻あたりに付けて、美味しい思いをしようという考えかね?」
「そういうことだ。
一応、お前の一番弟子。
俺の息子だということも知っているだろう」
「まあ、テオドラとエリスがその辺は何とかするんじゃないのか?
一人二人は増えるかもしれないが」
「その辺はマサヨシの影響を受けそうだが……。
それでもアビゲイルの目もあるだろうから、変なのが引っ付くこともあるまい」
マティアスは笑いながら言っていた。
しばらくして再び、
「マサヨシ、ベルマン辺境伯からマサヨシに属したいと極秘に連絡が来た」
とマティアスから電話機に連絡が来る。
「ん?
で、どうする?」
俺が聞くと、
「ベルマン辺境伯は、お前の怖さを知っている。
裏切ったりはしないだろう」
との事。
「だったらいいんじゃないのか?」
ぐらいしか言いようがない。
「それではその旨をベルマン辺境伯に連絡しておこう。
その寄子の貴族からも連絡が来ているが……。
どうする?」
「どうするも何も、入れた方がいいんだろ」
「うむ、その通りだ。
そのうち、ヘムに挨拶に来るだろう。
その時はもてなしてやってくれ」
「それぐらいはするさ。
うちの仲間になってくれるのならな」
「そうそう、侯爵も辺境伯もお前の寄子のような物だ。
ちゃんと防衛策を考えるんだぞ?」
と受話器から声が聞こえた。
「軍事面はミスラがやるんじゃないのか?」
俺が返すと、
「ミスラができるのは、兵を鍛え運用することだ。
お前ができるのは兵を素早く展開する方法をつくること。
お前なら距離を気にせずに、兵を展開できるだろうに」
マティアスに言われてしまった。
「へいへい、街道を整備しますかね……。
あとは、それぞれの領地に行って、即動けるように準備するさ」
「その辺はお前の仕事だろうな。
ああ、そうそう、ベルマン辺境伯の子もお前の学校に入ると言っていた。
これも人質ということらしい。
それだけ、お前を恐れているのだろうな」
「まあ、いろいろな立場の子が集まるのはいいんじゃないかな。
アクセルの人脈にもなるだろうしね」
俺はマティアスに言う。
「アクセルは既に騎士隊に所属しているだろう?」
「ああ、でも、アクセルは孤児院に部屋を持っているからね。
顔を合わせることもある」
「人脈を作るのはアクセルだ。
好きにさせればいいさ」
こうして、ベルマン辺境伯とその寄子もアスマ自治領に所属することになる。




