表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
322/328

後始末1

「アイナ、居る?」

 孤児院の保健室に行くと、椅子に座っているアイナが居た。

「マサヨシ、どうかしたの?

 戦の最中でしょ?」

 扉から現れた俺にアイナが言った。

「ああ、マサヨシがここに来られるということは、戦は終わったんだね」

「そういうこと。

 こちらの圧勝だったよ」

「ん、よかった」

「そこで、アイナには負傷者の回復、死者への祝福をして欲しい」

「わかった」

 アイナは椅子から立ち上がると、俺の傍に来る。

 扉を越えると、二人でリードラに乗った。


 戦場に戻り、リードラと共に降りると、戦後処理が行われていた。

 俺は嵌ったままのオングストレーム侯爵の騎兵の死体をクレイに言って掘り出した。

 一部生きている者も居たが、動けそうな者は居ない。

 オングストレーム侯爵の兵士たちは捕虜として集められる。

 死体は敵味方に分け、別の場所に集めた。


 生き残ったのは半分以下か……。

 力を見せるためとはいえ、殺し過ぎたんじゃないか?


 そんな事を思ったが、やってしまったことは仕方ない。

 結局負けた方の恨みを背負うしかないんだろうなぁ……。


 アイナが死者に祈ると、何かが抜け空に昇って行くような気がした。

 美しい女性が死者に祈る姿。

 それは、一種荘厳な雰囲気を作った。

 騎士たちは聖女たるアイナを見て泣く。

 そして、アイナはオングストレーム侯爵の兵士たちの所に行くと、そこで祈る。

 すると、傷ついた体が癒えるのだった。

 唖然とする騎士に兵士たち。


「なぜ、私たちを先に?」

 一人の兵士がアイナに聞いた。

「マサヨシはね、本当はあなた達をケガさせたり殺したくなかった。

 でもね、あなたたちってマサヨシの兵士たちが強い事を知らないでしょ?

 それをオースプリング王国に知らしめるために、兵士たちに戦わせた。

 結果がこれ……。

 マサヨシももっといい方法があったんじゃないかって思っていると思う。

 マサヨシの妻である私ができるのは、命を落とした者への祝福と、けが人の回復ぐらいだから、それをするだけ。

 それに、けがの程度ならうちの兵士よりあなた達のほうが酷かったしね」

 アイナの言葉に、兵士たちは何も言えなくなっていた。


 生き残ったオングストレーム侯爵とその寄子の前に俺は出る。

 後ろには、ドラゴン状態のリードラ。

 そして、ミスラ、ラウラ、マティアス、アレックス、ヘルゲ様が居る。

「マティアス。

 あとはどうすればいい?」

「どうもこうもない。

 ここまで勝ってしまえば、お前が何を言っても向こうは受けるしかないだろう。

 なっ、オングストレーム」

 マティアスはオングストレーム侯爵を見る。


 すると、

「マティアス様、なぜ王をやめられたのですか?」

 オングストレーム侯爵がマティアスに縋るように言った。

「簡単に言えばマサヨシのせいだな。

 王であった私が霞むぐらいの実力を持っていた。

 その実力差に気付かず、強いマサヨシに何も言えない私を弱くなったと吹聴する者が居た」

 マティアスはオングストレーム侯爵を見た。

「お前もその一人だったな」

 目を逸らすオングストレーム侯爵。

「だから、王をやめたのだ。

 私より国を上手く回せるのであれば、その者がやればいい。

 そうだな、やって見せろという所だろうか」

「それではなぜ、そこのマサヨシの元に?」

「それは、オークレーンの始末の時。

『あいつがもう少し早く出てきておれば面白かっただろうに……』

 と死に向かうオークレーンが笑っていたからだろうな。

 何が面白いのか? 知りたくなったのだ」

 マティアスは少し遠くを見ながら、オングストレーム侯爵に言う。

「まあ、マサヨシの所は人手が足りなかった。

 その弱みに付け込み、今はここに居る。

 オークレーンが感じた面白さではないかもしれないが、国が発展するのを見て楽しんでいる」

「この者のせいで、私の領地は衰退を始めました!」

「誰も、アスマ自治領と交流しろという者は居なかったのか?」

「王国と敵対する勢力と手を結ぶなど……」

「お前たちがそう思うなら仕方ない。

 ただ、貴族は王国が小さくなったものだろう?

 お前たちの領土を維持し、下に居る民たちを富ませるのが仕事。

 マサヨシの利権を奪うのではなく、ともに発展を願うのであれば、このような事にはならなかっただろうな。

 王都からの援軍で勝ちを意識したのだろうが……」

 図星なのか、オングストレーム侯爵は黙るのだった。


「良かったな。

 半数も生き残った」

 マティアスはオングストレーム侯爵を見た。

「戦で半数になるなど大敗。

 情けなく思います。

 しかし、それでも生き残った者が多いというのは?」

「本来、マサヨシは戦などしなくてもいいのだ。

 兵士さえ出さなくてもいい。

 儂が『兵士同士を戦わせろ!』と言ったのだ。

 マサヨシの恐ろしさを見せるためにな」

 マティアスが俺を見る。

「ちょっと派手なのをやってくれるか?

 この辺は無事にしてもらわないと困るが……」


 面倒なことを押し付ける。


 大森林の中央。

 魔物も何もいない場所を選び、魔法を使う。

 大きな大きな炎の魔法を小さく小さく圧縮して爆発させた。


 アセチレン?

 酸素濃度は高めで……。


 ピカっと光った後、十秒ほどすると、轟音と共に台風のような風が吹き荒れた。

 俺たちが居る天幕が大きく揺れる。

「派手かどうかはわからないが、魔法を使ってみたぞ」

「あと何回魔法が使える?」

 マティアスの問いに、

「んー、使用した分はもう回復したかな?

 もっと大きい奴を使えるが、ここまで影響が出る」

 と俺は答えた。

 マティアスはため息をつくと、

「今の魔法を、お前たちが行軍しているところに打ち込めば、終わっていたんだ。

 戦いをさせてもらっただけでも、ありがたいと思わないとな……」

 オングストレーム侯爵に語り掛ける。

「まさか、私たちは……」

「ああ、生贄みたいなものだ。

 こちらは戦争を回避したかった。

 しかし、王国の口車に乗ったお前たちは攻めてきた。

 舐められないために攻めてきた者を相手しなければならない。

 アスマ自治領に攻め込むことがどういう事が知らしめるために、儂はマサヨシを出さずに兵同士で戦わせたのだ。

 兵だけであの強さだぞ?

 マサヨシが本来の魔法を使い、魔物が動けばどうなると思う?

 見てみろ、正しき者につくというホーリードラゴンが背後に居る」

 マティアスが指差すと、リードラは炎を吐き出した。


 えっ?

 そうなの?

 ホーリードラゴンって正しき者につくの?


 顔に出さないようにして驚いていると、オングストレーム侯爵が俺を見る。

「王都はその事を?」

 マティアスに聞いた。

「知っているはずだ。

 マサヨシは『貴族殺し』だからな。

 今の王の前で、力を振るったしな」

「それを王都は知っていた。

 私が負けることがわかっていた」

 厳しい顔で呟くオングストレーム侯爵にマティアスは頷く。

「この自治領の実力を見るための当て馬だった?

 部下を失い、寄子さえも殺されるのがわかっていたと?」

「ああ……。

 皆殺しさえ予想していたかもしれない。

 マサヨシがそれぐらいのことができるのは知っているからな」

「私はどうすれば……」

 オングストレーム侯爵の言葉に、

「どうすればいい?」

 と被せるマティアス?


 俺に決めさせるつもりか?


「ああ、別に何もしなくていい。

 こちらからそちらに手を出すつもりは一切なかったからね。

 開拓する土地も大森林があるし、飢えてもいない。

 金もあるし、まあ、周りの義理の父親たちと仲良くできればいいかな」

 マティアスはオングストレーム侯爵を見ていた。

「ただ、オングストレーム侯爵の民を飢えさせないように。

 こちらからの攻撃で、人が多く死んだだろ?

 その者たちの家族を何とかしてやってもらえないかな?

 そのための手伝いはできる。

 孤児ができたのであれば、俺の所の孤児院で預かってもいい。

 元々争う気など無かったからね」

 俺がそう言ったあと、オングストレーム侯爵の顔が変わり、

「マサヨシ殿の国に属するとして、領土は保証されるのでしょうか?」

 と聞いてきた。


 ありゃ、言葉遣いが変わってる。


「ん?

 属するって?」

「アスマ自治領に属するということです」

「何でだ?」

「こちらの方が、我が民が富むと考えました」

 マティアスがニヤリと笑う。

「そりゃ、敵が少なくなるのは助かるが……」

 と俺が言うと、

「そうか……、オングストレーム侯爵が自治領の配下になると?

 今まで所属したオースプリング王国を裏切ることになるが?」

 マティアスが続ける。

「構いません。

 王都にある情報も与えられず、大敗をしました。

 皆殺しになるところを助けられ、賠償の請求をされるどころか、自分の国の民を労われと言われる始末。

 今の王との格の違いを思い知らされてしまいました。

 アスマ自治領を王国と共に敵とするより、属して味方にする方に利があると感じた次第」

「マティアス、こんなんでいいのか?」

 と聞くと、

「いいも何も、マサヨシ、言ったであろう?

 貴族は強い者に従うのだ。

 属するというのなら、受ければいいのではないのか?」

「そんなもんかね?」

「オングストレーム侯爵がアスマ自治領に大敗した。

 しかし、大敗したオングストレーム侯爵が許され、アスマ自治領に属する。

 オースプリング王国の重鎮であるオングストレーム侯爵がだ……。

 さあ、この噂が流れれば、どうなるのやら……」

「面倒しかなさそうだが……」

 俺が呟くと、マティアスが笑っていた。


 オングストレーム侯爵は周りの寄子たちに、

「これは儂が独断で決めたこと。

 お前たちが儂の下から去るも良し。

 他の貴族に頼んで、寄子としてもらえるように手配はしてやろう」

 すると、寄子たちも口々に、

「「「「私も!」」」」

 と声をあげる。

 その流れに

 こうして、アスマ自治領の隣であるオングストレーム侯爵は寄子込みで属することになった。



 去っていくオングストレーム侯爵の兵たち。

「マサヨシ、忙しくなるな」

「その辺はマティアスに投げる。

 貴族の扱いは俺にはできないよ」

 ひらひらと手を振りマティアスに言う俺。

「俺が反乱するとか思わないのか?」

「その時はその時。

 諦めるよ」

 俺が言うと、マティアスは苦笑いしていた。

 俺は振り向き、

「あっ、ミスラにラウラ。

 軍関係は二人に任せるから」

 と言うと、

「ああ……また書類が……」

 受けてくれるらしく、恨み節を言うミスラ。

 それを見て笑っているラウラが居た。


 さて、戦争は終わった。

 丸投げして、ゆっくりするかね……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ