決戦
俺たちの領地は精霊のお陰で早めに麦が実り、豊作に湧いていた。
代償に俺の魔力が吸われたけどね。
その程度で実りが早くなるのなら良しだろう。
まあ、刈り取った麦わらは必要な物を除き、畑のど真ん中で燃やすように指示を出した。
後方のかく乱が成功しているふうにするためである。
リーゼには実家へ「後方のかく乱が成功した」との手紙を書かせていた。
とはいえ、既にこの領地に入っている諜報部員的な者がこのバレバレのトラップを連絡しているかもなぁ……。
ま、いっか。
そして、本来なら収穫の時期。
ドロアーテの大森林の外。
平原にオングストレーム侯爵の兵が現れた。
「ミスラ。
どんな感じ?」
俺は本陣に入る。
「どんな感じも何も、お前何やった?」
ミスラに胸ぐらをつかまれた。
「ん?
なんかあったのか?」
俺が聞くと、
「予定よりも少ない。
七割ほどだ。
特に予定した数の歩兵が来ていない。
ミケに偵察をしてもらったが、森の中に隠れている感じも無い……。
確実に兵が減っているんだ」
ジロリと俺を睨んだ。
「タロスに嫌がらせはしてもらったが……」
「嫌がらせだと?」
「ああ、夜な夜な、銃で敵の人を攻撃しては逃げてもらった。
寝られないから疲労が凄いだろうねぇ。
怖くなって歩兵が逃げたのかなぁ」
口笛を吹くふりをしてそっぽを向く。
ミスラは俺を降ろすと、
「例の噂は本当だった訳か。
何人かの貴族が死んだとも聞いた。
士気の低い兵。
集まった者は烏合の衆って訳だな」
ミスラが口角を上げた。
「そうかどうかはわからないが……。
いつもの実力は出せないんじゃないかな?」
「マサヨシはすでに動いていた訳か……。
じゃあ、俺も一つ……」
ミスラがインカムを触り、
「ミケ、やってくれ」
と言うと、
後方の集積所に炎が上がる。
「食料も無い、士気も低い。
もう勝つにはこちらに攻め込むしかない。
これで負けたら、お前に笑われそうだ」
「戦う前に勝てるようにするのが、戦いの常道だと聞いたがね。
それに、もっと恐れてもらったほうが、戦わなくても良くなるし」
「あっ、土の精霊が使える孤児たちの部隊を連れてきてるから……。
運用の仕方はラウラに教えてある。
後は任せたよ。
うまく使ってくれ」
「お前が軍を動かしたほうが勝てそうなんだが……」
苦笑いのミスラ。
「マティアスに言われたよ。
俺が動いて勝ったんじゃだめだとね。
俺の『部下』が強くなきゃいけないらしい。
ラウラ、アクセル、マティアス。
その下に居る騎士たちに兵士たち。
皆がオースプリング王国の兵より強くなきゃな。
んじゃ、リードラと観戦してるから」
俺は本陣から出ると、本来の姿に戻ったリードラに乗り空に上がった。
糧秣が燃えたオングストレーム侯爵の部隊は戦うしか選択肢が無い。
いや、降伏という手も有るが、多分選ばないだろう。
上から覗いていると、俺のインカムに「騎兵隊前へ」の声が響き、騎士同士が動きはじめた。
騎士の数はほぼ同数。
お互いに全速で馬を走らせているところで、オングストレーム侯爵の騎兵がいきなり前のめりに倒れた。
ラウラがあの部隊を使ったのか……。
騎馬の足元がいきなり沼地になったって訳ね。
バランスを崩した騎士たちが沼に落ちた。
鎧の重さでもがくしかない。
ラウラの馬上筒からの射撃の音が響くと、すぐに騎兵の部隊はそのまま相手騎士の部隊を迂回し、歩兵を襲う。
歩兵と騎兵の乱戦の中、弓兵がこちらを撃ちあぐねていた。
逆に敵騎兵の部隊が居る沼地に弓矢が降り注ぐ。
それが終わると歩兵が近づき、騎兵を殺していった。
歩兵は沼地を歩き正面から敵陣に向かう。
いや……既に沼地ではないか……。
土の精霊が再びお仕事をし終えている。
歩兵は元に戻った平原を走り始めた。
そのまま敵陣の正面から歩兵を潰す。
混乱している歩兵。
装備的には冒険者かね?
殺す訓練のみをした獣人を主にした歩兵。
移動速度も速い。
歩兵がどんどん少なくなっていった。
おっと、上空にワイバーン。
ああ、ワイバーンライダーか。
本陣を狙っているのかね。
俺はライフルをイメージしてワイバーンライダーを落とそうとした時、上空から現れたミケのワイバーンロードがワイバーンライダーを咥え、放り投げた。
俺にサムズアップをするミケ。
戦闘は終わりに近づく。
敵本陣周りの兵士を我が兵が取り囲む。
アクセルがオングストレーム侯爵らしき者を引きずり出し戦争は終わったようだ。
勝どきが上がっていた。
けが人はアイナを連れてきて回復かねぇ。




