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オングストレーム侯爵

 次の日の夜、ミスラがリーゼを連れて現れた。

「仲がいい事で」

 俺がニヤニヤしていると、

「言ってろ!

 お前がやったんだろうが!」

 とツッコミが入る。

「お前が許可を出せば、離れられるって言っただろ?

 何で一緒なんだ?」

「わっ私は護衛だからな」

 リーゼが少し顔を赤くしていた。


 ふむ……そういう事にしておくか。


 俺はグラス三つに火酒とツマミを準備した。

 指先に氷を出すと、それぞれのグラスに入れる。

「すまんね」

 ミスラが言う。

「アタイが飲んでもいいのかい?」

 不思議そうに聞いてきたが、

「お前の魔法にやられるつもりはないよ。

 それに、俺の奴隷だ、主人には手を出せない。

 まあ、今日はうちの妻たちがリビングに居ないだけ。

 飲む相手が居ないから、ミスラに相手になってもらおうかとね?

 リーゼはついでだ」

 と言っておいた。

「あっ、このお酒美味しい。

 冒険者が飲む酒じゃないよ」

「こいつは食いもんにうるさいんだ。

 だから、美味いものを知っている」

 仲良く話すミスラとリーゼ。


 尋問中に何があったのやら……。




「それで、オングストレーム侯爵の情報は?」

「とりあえず、リーゼの事な」

「ああ、それは問題ないが……」

 するとミスラは、

「リーゼはオングストレーム侯爵の寄子であるクルーゲ男爵の次女。

 男爵の次女など、道具にしかされない。

 それが嫌で、十四歳の時に家を出て冒険者として動いていたんだ。

 魔法の素質が高かったのだろう。

 練習して魔法を覚え、それで多くの魔物を倒し、名を上げた。

 現在二十二歳独身」

「年齢と独身は関係あるのか?」

「無いな」

 ミスラが苦笑いしている。

「それで?」

 俺が聞くと、

「ある日、親から『重要な話があるので、家に帰ってきてもらえないだろうか?』という手紙が、冒険者ギルドに届いていた。

 仕方ないので一度実家に帰った時『オングストレーム侯爵が辺境伯領を攻める前のかく乱をやってもらいたい』と親に言われたそうだ。

 成功すれば、恩賞も思いのまま。

 前金も多かったので、受けたということ」

「それでリーゼは冒険者っぽくして、うちの領地に入ってきた訳だな」

「そういう事だ。

 他の部隊は居ない。

 オルトロスにも付いてもらった。

 嘘はついていないようだ」

 一通りのリーゼの説明は終わったようだった。


 すると、

「何よ! この領地は!

 簡単に見つかっちゃうし、何であんな小さな子があれほど強いの?

 嘘を見破る魔物なんて聞いたことが無い!」

 キレ始めるリーゼ。

「酒癖は悪そうだな」

「そうだな」

 俺とミスラは苦笑い。

「活きがいい娘が来たようじゃな。

 元気な声が響いておる」

 リードラが現れた。

「リーゼって言う俺の新しい奴隷」

 俺が言うと、

「また増えるのかの?

 順番がまた遠くなるのう」

 と苦笑いする。

「ああ、ミスラに押し付けたから大丈夫。

 ミスラの護衛だ。

 ただ、ミスラの命令を聞くようにしてるから、ミスラ次第だね」

「俺は奴隷だからと命令を聞かせて何かしようとなど思わないぞ!」

「そうれしゅ。

 尋問も命令ではなく丁寧に聞いてくれたのれしゅ」

 リーゼはろれつが回らなくなっていた。

「酔ったぞ?」

 ミスラがジト目で見る。

「こんなに弱かったとはな」

 俺も少し反省。

「寝たら寝たで、そこら辺に転がせておけば、いいじゃろう」

 リードラはリーゼを見ながら言う。

「とりあえずは、続けるか……」

「そうだな」

 俺とミスラは話しを続ける。

 リードラがリーゼの相手をし始めた。


「オングストレーム侯爵は?」

「オングストレームは、秋に入って収穫する直前に動くそうだ。

 自分らだけ、収穫をして糧秣を得る。

 そして我々の方の畑は、リーゼたち潜入部隊が後方のヘムの畑を燃やし、糧秣を燃やす。

 継戦能力を削ぐつもりらしい。

 そして、混乱を起こさせる。

 その混乱に乗じて、ドロアーテに攻め込み、美味しい所を手に入れるということらしいんだ」

「少々燃えたって、セリュックから買うだけなんだがねぇ。

 ドロアーテにも大量の兵糧をため込んである。

 俺としては、オングストレームが行ったことに対する補償を、それを使ってすることで、民たちの忠誠心があげられる。

 逆に、もしオングストレームが勝ったとしても、畑を焼いた相手として恨まれるだけなんじゃないかね?」

「まあ、それだけ勝ちたいんだろうな。

 恨まれようが、勝ったもん勝ちだ。

 勝てば好きにできる」


 勝てば官軍って奴か。


「リーゼから、オングストレームに手紙を書いたりはしないのか?」

 そう思ってリーゼのほうを向くと、既に眠ったリーゼにリードラが毛布を掛けていた。


 床で寝かせればいいと言っていたのにねぇ。


「それは聞いていないな」

 ミスラが言う。

「あるなら、盛大に、後方かく乱をしているふうな手紙を書かせてやってくれ。

 でないと、親の顔もあるだろうしな。

 麦の穂を取った後なら、麦畑を燃やしても問題ないだろう。

 派手に燃やして、向こうを喜ばせてやればいい」

「了解した」

 ミスラが頷いた。

「あと、向こうの兵力は?」

「王都からの援軍を含めて一万五千ぐらいだろうか……。

 歩兵が中心だと聞く」

「王都騎士団はどんな感じ?」

「主力はこっちに来たからな。

 数が減っている。

 訓練度はどうだろう。

 厳しい者が減っただろう。

 個人の能力が高くとも、戦争は集団戦だからな」

「そりゃそうか……。

 それにしても、向こうはうちが出せる兵力の一・五倍か……。

 向こうの歩兵は農民?」

「ああ、そうなるな。

 装備もそろっているかどうかわからない。

 そうでないこの場所が異常なんだ。

 それも、農民は農民、兵士は兵士、別れているだけでも違う。

 騎士は戦うための訓練を受けるが、歩兵は農業と兼務だから、なかなか訓練ができない。

 騎士が良く動いても歩兵が整然と動くところは少ないんだ。

 更には武器も防具も新品を支給する領地なんて無い」

「でも、あれって、孤児が作った実習用の物だし……。

 材料は鉱山から出てるし……。

 タダだぞ?

 一応ドランさんの検品があるから、品質は一定以上だろうが……」

「いや、孤児が鎧作れる時点で凄いんだ。

 孤児と言うのは生産性が無い。

 普通は食事を出して教育を受けられる場所が無いんだ」

 ミスラは呆れ顔だった。

「まあお陰で、内政の現場に入ってくれる孤児も増えた。

 書類の処理も早くなった。

 商人の弟子になって、自分の店を持った者も出てきた。

 ドランさんやベンヤミン、ボーの技術を得て、別の街で仕事を始めた者も居る。

 そのまま、冒険者になって、ダンジョンを目指す者も居る。

 マリエッタさんにデザインを教わり、新しい服を作る。

 糸を撚り、布を織り、染色する者。

 自分がなりたいものを見つけ、その職業に就く。

 それでいいと思うがね」


 十四歳の春、孤児たちは卒業する。

 その前に孤児院には行列ができる。

 ヘムの街だけでなく、多くの街の商人たちや職人たちが、従業員として雇おうと来るのだ。

 読み書き計算。

 何なら、帳簿の書き方まで知っている。

 後は、自分の店に合わせてやればいいだけの人材。

 それを求めてやってくる。


「話がそれたな。

 職業軍人だけの部隊一万と、寄せ集めの部隊一万五千の戦いを見てみたいね。

 総大将はミスラだ。

 あとは任せる」

「丸投げかよ」

「ああ、丸投げ……と言いたいところだが、一つ二つ、助言程度かね」

「じゃあ、こっちは秋に向けて、大規模戦闘の訓練ををしようか」

 こうして、話は終わった。



「あー、リーゼ、寝たかぁ……」

 頭を掻くミスラ。

「抱いて連れて帰ればいいだろ?」

「しかし、女性を……いいのかね?」

「手を出さないならいいんだよ。

 俺なんて手を出さないから怒られた」

「そんなもんか?」

 ミスラが俺に聞く。

「ああ、そんなもんだ。

 だからって、手を出さないようにな」

「ああ、そのつもり。

 揉めそうだからな。

 お前を見て知っているから」

 ミスラはリーゼをひょいと抱き上げると、扉の部屋に向かった。



 俺の嫌がらせを知ってか知らずか

「上手くいくかの?」

 と聞くリードラ。

「さあね?」

 俺は言う。

(われ)は、抱き上げて部屋に連れて行ってもらっておらんのう」

「お前は酒が強いからな」

「では、たまには頼むぞ」

 俺はリードラを抱き上げ、リードラの部屋に連れて行く。

「ここで手を出さないのも困るのう。

 その気なのじゃからな……」

 結局リードラの部屋で一晩過ごすのだった。


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