尋問
夜、リビングでレイの相手をしていると、ミスラが扉の部屋から出てきた。
「ミスラから来るなんて、どうかしたのか?」
俺が聞くと、
「マサヨシ。
アクセルが侵入者を捕らえたんだ」
ミスラが言った。
「おっ、アクセルやるねぇ」
と言うと、
「話を聞こうとした偵察小隊を魔法で全滅させている。
冒険者風の格好で、デロムの村に侵入し何かしようとしていたようだ」
ミスラが続ける。
「それで?」
「明日、アクセルの小隊がその侵入者を連れてくるので尋問をして欲しい。
わざわざ、この時期に入ってくる侵入者。
ただの犯罪者ではないと思うんだがね?
それに、マサヨシの精霊……エンって言ったっけ?
催眠術が使えるとラウラから聞いたことがある」
ラウラがポロリとこぼした言葉なんだろうが、よく覚えていらっしゃる。
「で、そいつらは最終どうする?」
俺が聞くと、
「自治領主様に任せるさ」
ミスラが言った。
ふむ……。
ミスラが押し付けてきたんだ。
押し付け返すかね。
次の日の朝、朝食が終わったころに、
「あら、アクセル。
マサヨシから聞いたけど、侵入者捕えたんだって?
それがそこに居る五人?」
クリスが扉の部屋から現れたアクセルに声をかけた。
「たまたまです。
この人たちが僕を子供だからとバカにしてくれたのと、オルトロスのコロが嘘をついていると教えてくれたおかげですね」
(連れてきた←?)
「フィナがわんこ小隊の隊長のオルトロスに教えた奴ね?」
「ええ、そのお陰です」
「それにしてもテオドラに、ああ部下の騎士ね。」
現れた騎士を見るクリス。
クリスを見て唖然とする騎士たち。
「すげえ……。
エルフって初めて見た。
領主様の妻って美人ぞろいなんだな。」
そのうちの一人が呟くのを聞いて、クリスが嬉しそうにしていた。
「それにしてもエリスまでどうしたの?」
「マサヨシさんの精霊は炎で催眠状態にできるから、後の参考にしようと思って……」
「フーン……」
クリスはエリスを見ると、
「アクセルのためね。
頑張って」
そう言うと、リビングに居る俺の手から、レイを抱き上げ二階に上がっていった。
少し顔が赤いエリス。
「マサヨシさん、おはようございます」
「おはようさん。
そいつらが侵入者?」
「はい」
俺はソファーから立ち上がると、
「さて、尋問に行こうか……」
玄関から外に出た。
尋問するって言ってもなぁ。
特に場所があるわけでもなし……。
迎賓館でやるか……。
ゾロゾロと全員で向かう誰も居ない迎賓館。
んー、最近使ってないんだけどねぇ。
無駄に庭が広いから丁度いいだろう。
「それで、何でデロム村に来た?」
俺が侵入者たちに声をかけると、
「冒険者として、ダンジョンを攻略するためだ!
そして、冒険者として名を上げる!」
とのたまう冒険者の一人。
「はい、嘘ー」
ケルの念話が届いた。
中央の顔の口角が上がったままのそりとケルが現れた。
迎賓館の壁をひょいとと飛び越えると俺の横に座る。
その大きさに驚く騎士たちと、怯える女。
「やっぱり?」
俺が見上げると、
「匂いが変わりましたね」
と言う。
「そうか。
嘘をついたのか……」
俺は無表情で近寄るとビンタをする。
くるくると回ってケルの前に落ちるとそのまま動かなくなる。
ケルが頭を下げると、一飲みに飲み込んだ。
唖然とする侵入者たち。
あっ、これ、ハリケーン〇キサー。
でもやっぱり、グランドキャトルにやってもらった方がいいのかね?
アクセルに、
「えっと、どうしたんですか?」
と聞かれた。
さすがに「ハリケーンミキ〇ー」の事を考えていたとは言えないよな。
「ん?
ああ、次はどうしようかとね。
さて、次はあんただ」
俺は残った男の一人を指差した。
「さて、この時期にうちの土地に乗り込んで何をしようとした?」
「だから、冒険者として名を上げようと!」
すると、
「はい、嘘」
ケルからの念話が届く。
無表情でビンタをすると再びくるくると回った後ケルの前に落ちる。
それをまた飲み込む。
「マサヨシさん。
これでは情報が……」
アクセルが俺に言ってきた。
本当は情報が喉から手が出るほど欲しいが……。
「こいつら騎士だろ?
多分言わない。
アクセルだったらどうする?
任務中に捕まって『情報を吐け!』って言われたら……」
「僕だったら、耐えます。
もし、この領地の不利になることならなおさらです」
「うん、だから、こいつらは言わない。
だから一回聞いて嘘を言うのなら、嘘をつき続けるだろうね」
「だからと言って……」
「アクセル。
では、偵察部隊の四人は死んで良かったのか?」
「それもダメです」
「だったらどうする?」
「それは……」
アクセルは考えていた。
「俺は殺す。
生き残る選択肢である『本当の事を言うか言わないか』聞くだけでも甘いと思うぞ?
それに殺す者は殺されることを前提にしていないとおかしいだろ?
領地を守るにしろ、金で動いたにしろね……。
多分、いつかアクセルが考えなければならないこと。
俺の場合は、手を広げすぎて手が届かなくなった。
だから、皆を守るために殺すことに決めた」
「僕の場合は違うかも……と?」
「ああ、アクセルの場合は違うかもしれない。
お前がいいと思う答えを捜せばいいよ。
まあ『こういうのもある』ってことで嫌な部分を見せたんだ。
さて、続けるぞ?」
アクセルとの話をやめると、再び男を指差し質問を続ける。
結局男たちは何も言わなかった。
ケルがえづくと、男たちの装備が出てくる。
うえっ……胃液まみれ。
酸っぱい匂いが漂う中、
「さて、あんた一人になったね」
と言うと震えている女。
「で、何をしに来た?」
「オングストレーム伯爵に、こっ後方のかく乱と、穀物の畑や糧秣、各村や町への放火。
不安を煽れって言われてきたんだ。
あたいは、金で雇われただけなんだ」
俺がチラリとケルを見ると、
「本当の事を言っていますね」
と念話が届く。
「だから……」
「だから?
我が領土の騎士を殺していいと?」
「それは……」
「いくら中立の冒険者でも、相手に加担した時点で敵だ。
命は助けるが、情報を貰うぞ。
あとはミスラの仕事だね」
契約台を出そうとしていると、
「えーっと、父さん。
炎の精霊で催眠術は?」
エリスが俺に聞く。
「エン、テオドラにやってみてくれる?」
俺が言うと、
「えっ?」
と焦るテオドラ。
しかし、エンのユラユラと揺れる炎の前に催眠術にかかったようだ。
「まあ、こんな感じ」
その横でホムラがエンからやり方を学んでいた。
「ちなみにテオドラはアクセルの事をどう思っているんだ?」
俺が聞いてみると、テオドラは無表情で、
「命にかけて守る我が愛すべき存在です。
できれば、アクセル様の子を身ごもりたい」
盛大なカミングアウト。
俺がパンと手を叩くとテオドラの意識が戻った。
真っ赤なアクセルに、
「負けられない」
と呟くエリス。
アクセルの部下三人は、アクセルとテオドラを見てニヤニヤとしていた。
「私は何を?」
テオドラはオドオドと俺に聞いてきた。
「ああ、テオドラがアクセルへの思いのたけを言ったのさ」
「えっ、でもそれはマサヨシ様の催眠術で……」
「そうでもテオドラの本音だろ?
アクセルに聞いてもらって良かったな」
真っ赤になるテオドラが居た。
「さてと……。
ミスラが扱いやすいように、奴隷にする。
生きているだけマシだろう?
ちなみにアクセルもテオドラも俺の奴隷だ」
まあ、嫁さんのいないミスラ。
仕事しすぎて女性の相手など居ないだろう。
現場で、そういう女性が居ればいいんだがねぇ……。
兄貴のほうの結婚が遅れるっていうのもあまりよろしくない。
まあ、正直に言えばミスラへの嫌がらせである。
「と言うことで、名前を教えて欲しい」
「リーゼ」
「ふむ、リーゼね。
悪いが隷属する」
「嫌よ!
奴隷にして、あんなことやこんな事するんでしょ?」
被害妄想が激しいな。
あんなことやこんな事は、既に妻たちでやり込んでいるのであまり興味が無い。
「マサヨシさんは奴隷だからって、邪険に扱ったりはしない」
アクセルが前に進み出た。
「僕は、マサヨシさんの奴隷になってよかったと思っている。
テオドラにも会えたし、エリス姉にも会えた」
「そこは私の方が先でしょ?」
と言うエリスの言葉が聞こえる。
「まあ、あんたに手を出す気はない。
ただ、お前は魔法使いだろ?
お前程度の魔法にやられる気はないが……」
俺が言った言葉が癪にさわったのか、縄を解くとファイアーボールを唱える。
しかし、誰も気にせずにとりあいもしない。
驚いたのはアクセルの部下だけ?
俺の体に当たる直前で光の壁に阻まれた。
「えっ?」
焦るリーゼ。
「悪い、ヘルワームってマジックワームの上位種の服なんだ。
魔法なんて効かない」
再び飛んでくるファイアーボールだったが、スイが現れてそのファイアーボールを掴んで消した。
唖然とするリーゼ。
「なっ、効かないんだよ。
お前はこの領地じゃ犯罪奴隷だ。
じゃあ、隷属化するからな」
唖然とするリーゼに近づくと、隷属の紋章を付けた。
「ミスラのいう事を聞け!
そして、お前はミスラを守れ!
ミスラが死んだ場合には、お前も死ぬ。
そして、我が領の者を傷つけることは許さない。
俺は持ち主として縛りを付ける」
そう言うとリーゼの体が光った。
「うし、アクセル、終わったよ。
アクセルはデロム村に戻って、通常業務をしてくれ」
「マサヨシさん、わかりました。
じゃあ、デロム村に帰ろうか」
アクセルはテオドラにエリス、部下を連れてデロム村に戻るため、迎賓館を出ていく。
アクセルたちの姿が見えなくなると、
「あとはミスラにこの女を押し付けて嫌がらせをして終わりだな」
「押し付けるって!」
リーゼからツッコミが入ったが、無視をして扉を出すと、ミスラの執務室に繋いだ。
リーゼは扉の向こうが別の場所だということに気付き、唖然としている。
「おはようさん。
例の件の犯人を連れてきた」
リーゼの手を引っ張ると、連れて中に入る。
「早かったな」
ミスラが立ち上がり、近づいてきた。
「んー、そのくらいかな」
俺が言うと、
「ん?
マサヨシ『そのくらい』とは何だ?」
「ミスラの許可が無ければ、この距離以上は離れられない」
俺が言うと、リーゼの体が光った。
「まあ、そういう訳で、リーゼは俺の奴隷だ。
ミスラのいう事を聞くようにしてある。
だから、好きなだけ情報を聞いたあとはお前の護衛にする」
「は?」
フリーズするミスラ。
「ん?
お前の周り女っ気ないから……。
リーゼを付ける。
ヘルゲ様も心配していたぞ?」
「これ以上離れられんのか?」
「んー、お前が許可すれば離れられる。
ただ『戻ってこい』的な事を言うと、半強制的にお前の近くに戻ってくるぞ。
リーゼはお前中心の生活になる訳だ。
じゃあ、情報収集頼んだよー」
俺はリーゼを置きミスラの執務室から出るのだった。




