侵入部隊
まずはどうやって、連絡が取れなくなった小隊を探すかだけど……。
「テオドラ、小隊からの連絡が途絶えた場所は?」
「それは、デロム村の近くと聞いただけで、詳細な場所までは……」
把握できていないのか……。
チラチラと僕を見るコロ。
自分を使えということらしい……。
そうか……。
「コロ、血の匂いがする場所を探してもらえないかな?
魔法使いが居るって言ってたから、焦げ臭い匂いもありそうだ。
そういうのも有ったら頼む」
僕が言うと、コロは「ワン」と一声鳴く。
すると、コロたちは散った。
しばらくすると、フォレストウルフが戻ってきて「ワン」と吠える。
「見つかった?」
僕が聞くと、
「ワン」
と吠え、チラチラと僕たちを見ながら走り出す。
僕たちはビャッコに乗りフォレストウルフ追った。
追った先にはコロが座って待っている。
そこには酷いヤケドを負い死んだ兵が四人転がっていた
偵察で動く人数の基準は四人。
間違いないだろう。
偵察部隊は異常時の報告の後、結果報告をすることになっている。
結果報告が無い事で、異常を感じた通信担当者から捜索の依頼が出たようだ。
僕は通信機を触ると、
「誰かいますか?
こちら、アクセルです」
と声をかけた。
「えっ!
アクセル様!
アクセル様の無線を受けちゃった!」
声が高い。
なんでだろう?
「えーっと、いいですか?」
僕が言うと、
「はい、報告をお願いします」
担当者の声が仕事の声になった。
「ミスラ様からの指示で、偵察部隊を捜索していたのですが、その偵察部隊を見つけました。
炎の魔法で殺されていました。
これからその相手を探します」
「了解しました」
報告を終えると、
「坊ちゃん、何者なんでしょうね?」
ドルスさんが言った。
「わかりませんが、先ずは偵察部隊を殲滅した相手を探す必要がありますね。
まあ、冒険者装備なら、デロム村に潜むでしょう。
ですから、入口で検問でしょうか」
「はあ……。
面倒ですな」
対象が多いのでうんざりしているようです。
「いいえ、面倒ではありませんよ。
あの村に新しく来た人を調べればいいだけです。
それに、コロが居るから大丈夫です。
嘘をつくときの匂いがわかりますから。
まあ、やることをやって見つからなければ見つからない時です。
その時は僕がミスラさんに謝ればいいんですよ」
僕が言うと、
「まあ、そうなんですけどね……」
とドルスさんが頭を掻いていた。
死体を近くの村に運び、デロム村へ運ぶように村長に依頼する。
その後、冒険者ギルドに行くと、テオドラと共にデロム村の村長を兼務するカリーネさんの所に行く。
カリーネさんは僕に、
「『カリーネおばさん』はダメよ。
『カリーネさん』でよろしくね」
と呼び方指定をしていた。
背後に何か威圧感を感じたので、それ以来「カリーネさん」と呼んでいる。
執務机で仕事をしてるカリーネさん。
その横にはタマモちゃんが気持ちよさそうに寝ている。
エリス姉が頬をつついていた。
「あら、アクセル君、どうしたの?
エリスに会いに来た?」
優しげに僕を見るカリーネさん。
「今日は仕事の話です」
僕が言うと、
「アクセル君は仕事以外にも会いに来たっていいのよ?
その方が、エリスも喜ぶんだから」
その言葉に「余計なことを……」とでもいうように、
「お母さま!」
とエリス姉が怒っていた。
「で、また喧嘩でもあった?」
とカリーネさんが話を戻す。
そう、この村での僕の仕事は大体喧嘩の仲裁だ。
たまに暴れ過ぎた者を僕が取り押さえる。
僕の二倍はありそうな男を僕が取り押さえると、周りから歓声が上がるのだ。
だから、この村に住む僕を知っている人は僕に絡むことは無い。
僕をバカにすることは無い。
「いえ、そういう訳では……。
先ほど偵察小隊が魔法で焼き殺されました。
冒険者風の格好をしていたということですから、この村に潜伏するつもりのようです。
そこで村の前で検問をしようかと……」
カリーネさんの顔が少し険しくなる。
「それでどうやってその冒険者を探すの?」
「この村に住む冒険者は僕が質問すれば大体素直に答えてくれます。
僕が聞いてバカにするような冒険者は大体新入りです。
まあ、それでまずは仕分けようかと……」
僕が言うと、
「それはいい方法ね。
この村に住む者があなたが『強い』ことも知らない人は居ないし。
小さな騎士様の名前も知らず、バカにする者は確かによそ者でしょうから」
と感心。
「それで仕訳けた冒険者の中から嘘をついている者を捜す予定です。
うちのオルトロスのコロは嘘を臭いで見破りますから」
テオドラが補足すると、
「私も手伝おうか?
炎を使う魔法使いなら、炎の精霊と仲がいい私が居た方がいいでしょ?」
大きな尻尾を揺らしながらホムラちゃんから離れた。
エリス姉はこの三年ほどで背も伸び、カリーネさんによく似てきている。
マサヨシさんが言うボン・キュッ・ボンに近づいていた。
「ダメだよ!
ケガさせちゃいけない」
「あら、テオドラはいいの?」
「違うよ!
僕はテオドラの実力を知っている。
でも、エリス姉は……」
すると、
「エリス、アクセル君はねエリスが心配だから言ってるの」
「それはわかってるんだけど、ちょっと悔しくて」
エリス姉はテオドラを見た。
「私だって、クリスさんのお墨付きは貰っているのよ。
マサヨシさんに教わった魔法もあるし」
エリス姉は人差し指に小さな青い炎。
「見た目よりも威力があるのよ。
やってみる?」
エリス姉が笑った。
「私とやろうというのか?
隷属さえしていない身で」
テオドラがエリス姉を睨む。
「はいはい!
若いっていいわねぇ。
でも、今やったとして、アクセル君の目的は達成するかしら?
今やらなければいけないことをしないで、好きな男の前でいがみ合っててどうするの?
そんな事をしてアクセルは喜ぶ?」
カリーネさんが静かに、でも有無を言わさぬ雰囲気で言った。
「「…………」」
テオドラもエリス姉も静かになる。
「エリス姉。
僕のいう事を聞いてくれるなら、一緒に来てもらってもいいよ。
そりゃ、エリス姉が一緒に居たら嬉しいし」
と言うと、
「わっ、わかったわよ。
ちゃんと言うこと聞くから……」
あれ、エリス姉がモジモジ。
「テオドラには居てもらわないと困るんだ」
「私はアクセル様に助けられました。
いつでもアクセル様と共に居ます」
テオドラも少し赤い。
「さすがマサヨシの一番弟子」
と言ってカリーネさんが意味不明な笑いを浮かべていた。
村の外の依頼を受けた冒険者が続々と帰ってくる。
村の入口で僕は中に入る冒険者に声をかけた。
「おっ、隊長お疲れ!」
「アレックスちゃん、頑張ってるわね!」
僕の周りにはテオドラにエリス姉、マウラさん、デインさん、ドルスさん。
その後ろにコロとフォレストウルフ。
しかし、それでも僕を知っている冒険者はも気軽に僕に声をかける。
僕もみんなに声をかけ続けた。
そして、夕方もう日暮れになり扉を閉めようとした時、四人の戦士風の男に一人の魔法使い風の女性を連れた冒険者が現れる。
「すみません、この村は初めてですか?」
僕が言うと、
「何だ、この村はこんな小僧が村を守っているのか?
アスマ自治領は人材不足なのかね?」
「ああ、あなた達はやっぱりデロム村は初めてなんですね。
そんなあなた達に質問があります」
否定しない冒険者たちを無視して僕は続けた。
「先ほど、この先で偵察に出ていた騎士が殺されました。
焼け焦げた遺体がありました。
魔法を使った攻撃だと思われます。
さて、あなた達はその犯人でしょうか?」
僕のストレートな質問に、
「そんなことはしてねぇなあ」
「ああ、僕ちゃんの言うようなことはしてねえ」
「嘘だというなら証拠を出せ!」
「そうだ、疑う理由が無い」
と騒ぐ。
「お姉さんは魔法使いみたいだけどどう?」
僕が聞くと、
「そこの僕ちゃん。
私がそんな悪い魔法使いに見える?」
と言う。
すると「ワオン」とコロが吠えた。
「あなた達嘘をついていますね。
あのオルトロスは嘘をつくときに発する匂いがわかります。
そう訓練してあるんです」
「アクセル。
その女、炎を使うって」
エリスが言った。
「エリス姉、ありがとう。
とりあえず、調べさせてもらってもいいですか?
その間、食事も出しますので屯所の牢に入ってもらえると助かります」
僕が言うと、戦士風の男が僕の後ろにまわり剣を押しあてた。
「こんなガキにこんな事をさせるから、こういう事になる」
「で、結局やったんですか?」
僕が聞くと、
「私たちが森から出た所で見つかっちゃって、殺しちゃった」
悪びれもせずに女性が言った。
「そうですか」
僕が言うと、マウラさん、デインさん、ドルスさんがニヤつく。
「こいつが殺されたくなければ、手出しするなよ!」
冒険者風の男の一人が言った時、
「ご愁傷様」
と言うエリス姉の声が聞こえた。
僕は不意にしゃがみ剣を外すと、全速で動いて五人の鳩尾を軽く殴る。
そして五人とも盛大に吐き、気絶した。
女性が吐く姿は見たくないかも……。
「相変わらずね」
「さすがアクセル様」
二人が同時に言った後、お互いに顔を合わせ、微妙な雰囲気で顔をそむける。
仲良くすればいいのに……。
まあ、放っておいても仕方ないので、五人を縛り上げ牢に入れるのだった。
「という訳で、牢に入れてあります」
僕は通信担当に報告をする。
「それでは、明日転移の扉を使ってヘムの屋敷へ連れて行ってください。
マサヨシ様に尋問をしてもらいます」
「了解しました」
通信を終えたあと、
「ふぅ……、終わった」
一息つく僕。
テオドラが紅茶を淹れてくれた。
エリスがどこからかクッキーを出す。
「お二人とも気が利くねぇ」
マウラさんが言うと、テオドラとエリス姉がマウラさんを睨む。
「おおこわ」
それでもクッキーを一つ摘まんで逃げていくマウラさん。
マサヨシさんは十人の妻のバランスを取っているのか……。
凄いな。
改めてマサヨシさんの凄さがわかった瞬間だった。




