元王子出撃
執務室で書類を相手にしている俺。
マサヨシが軍務関係を俺に振ったせいで、前よりも書類が多いぞと……。
「コンコン!」
と言うノックの後、
「ミスラ様、よろしいでしょうか?」
声が聞こえる。
「入れ」
と俺が言うと、通信部門の長が現れた。
「ミスラ様。
偵察の小隊が『魔法使い付きの兵士に襲われた』との通信の後、連絡が途絶えました」
と俺に報告をする。
「ドッグ系の魔物小隊は?」
「あの辺の魔物が居なくなったため、その部隊は魔物の小隊を付けていなかったそうです」
「近くにいる部隊は?」
「デロム村に居るアクセル様かと……」
「アクセルか……」
ミスラは少し考えると、
「アクセルの小隊に指示。
魔物の小隊と共に、侵入者を捜せ。
冒険者として潜り込むつもりかもしれない。
すでに、潜入している可能性もある」
「了解しました」
そう言って兵士は去った。
「ふう」
ため息をつく俺。
「そろそろか……。
こちらも準備しておかないと、いつマサヨシから連絡が来るかわからないな」
そう言うと、再び書類に向かうのだった。
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僕はデロム村の騎士屯所に居た。
いつもは冒険者のいざこざの仲裁ぐらい。
最近では、僕らの小隊が歩くと少々の争いはやめるようになった。
「コロ!
くすぐったいよ!」
屯所の柵にもたれていると、オルトロスの一匹が僕に纏わりつく。
マサヨシさんが僕らへと付けてくれたわんこ小隊の長であるコロ。
僕の身長より大きいコロに押さえつけられ、僕は二つの顔に舐られていた。
屯所から出てきたテオドラが、
「アクセル様。
ミスラ様から侵入者の捜索の指示が……」
僕に言う。
「侵入者?」
「ええ、魔法使いを連れた小部隊。
偵察部隊の一つを潰したようです」
「この近くで遭遇したってことは、冒険者に紛れ込むのかな?
すでに協力者は入っているのかな?」
「何にしろ、ミスラ様の指示です。
我々はその指示に従うまで……。
その侵入者を捜しましょう」
「だね。
遊びは終わり」
僕の雰囲気が変わったのに気付いたコロは、僕から離れお座りをした。
「マウラさん、デインさん、ドルスさんお仕事ですよ」
僕は僕の部下である、僕の倍以上の年齢を生きている男の人たちに声をかけた。
「定期偵察には早いんじゃないですかい? 坊ちゃん」
三人の中でもリーター的なマウラさんが聞いてきた。
「ミスラさんから連絡があって、別の偵察部隊がやられちゃったみたい。
マサヨシさんも戦争が近いって言ってるから、その辺の絡みみたいだね」
「じゃあ、坊ちゃん。
お仕事に行きましょうか」
マウラさんたち三人が立ち上がる。
三人が配属されてきて僕を見た時を思い出すと、今でも思い出して笑ってしまう。
「こんな小僧の下で働くのか?
小僧のお守りとはなぁ」
顔を手で隠し落胆を表に出すマウラさんたち。
「私はこの部隊の副官テオドラだ」
「龍人様のお出ましとはね。
あんたも、こんな小僧のお守りとは大変だな」
苦笑いマウラさん。
テオドラがニヤリと笑うと、
「アクセル様に勝てるなら、マサヨシ様に言って配置転換を頼んでやろう」
と言う。
「その小僧が俺に勝てるとでも?」
「ああ、三人相手でもいい」
「バカにするな!
こんな小僧に俺たちが負けるとでも?」
「隊長になる者が自分より弱いのが気に入らないのであれば、戦って確認すればいい。
私は強いアクセル様について行くのだから……」
「龍人が人に付くだと?
それも強いからだというのか?」
僕を見るマウラさんたち。
そしてテオドラ。
「アクセル様、本気であの三人の相手を。
隊長たるもの、部下に舐められてはいけません。
ラウラ様もおっしゃっておられました」
まあ、このあとの戦闘でマウラさんたちをボコボコにしたわけで……。
「一応言っておこう。
お前ら、ヘルゲ・バストル御仁を知っているか?」
テオドラがマウラさん達三人に言った。
「そりゃ、騎士ならば、何度となく聞いている。
元王都騎士団騎士団長。
戦場の鬼と言われた男だ」
「そのヘルゲ殿がこれ以上相手にならないということで、私が相手をしている」
「そんな……。
バケモノか……」
「ああ、バケモノだ。
身体能力は私より低いが、剣技で私を上回る。
そして、アクセル様の持つ剣は聖剣。
なまくらな剣など合わせるだけで切れる。
だから、アクセル様は素手で戦ったのだ」
「手を抜かれたって訳か……」
マウラさんが僕を見た。
「強さを計るだけって言ってたからね。
だだ、僕は強いだけの未熟者。
自分で言うのは何だけど、まだ十一歳の少年。
冒険者たちの喧嘩を仲裁するぐらいならいいんだけど、現場の判断ができないんだ。
大人の判断と言うのができない。
テオドラも龍人。
人の世というのを知らない。
だから、ミスラさんは僕に戦闘経験が豊富なあなた方を付けたんだと思う」
「未熟だが今でも俺たちを瞬殺するあなたが経験をして、現場で判断ができる指揮官になった時、どうなるんでしょうね。
まあ、いいでしょう。
弱いものに率いられるよりは生き残る確率は上がる」
「そうですな」
「実力は認めないとね」
マウラさん、デインさん、ドルスさんが頷いた。
「さてアクセル様をどう呼びますかな?」
デインさんが言う。
すると、ドルスさんが顎に手を当て考えると、
「『坊ちゃん』でいいんじゃないか?」
と言った。
「お前たち!」
テオドラは反論しようとするが、それを僕が制すると、
「いいですね、坊ちゃん。
世間知らずな僕にはちょうどいい」
と笑って言った。
「ん、いいね。
怒るなら考える所だが、自分を理解し受け止めた。
それじゃ『坊ちゃん』。
暫くお世話になります」
こうして僕は、マウラさんたちに「坊ちゃん」と呼ばれている。
僕は鎧をつけると、神馬ビャッコの背に乗る。
その後ろにテオドラとマウラさんたち。
コロが二匹のフォレストウルフを連れて現れた。
「仕事ですかい?」ってところ。
「全員揃ったね。
さあ行こうか!」
僕たちの小隊はデロム村から出ていくのだった。




