周辺の動き
オースプリング王国からの離反者は今のところ出ていない。
静観という所なのだろう。
俺の出方次第ってところなのかもしれない。
その中の、オングストレーム侯爵。
アスマ自治領から、パルティーモへ向かう街道の出口を塞ぐように大きな領地を持つ。
その下に、男爵やら子爵やらの寄子が多くいるようだ。
その辺の事はよくは知らない。
マティアスに聞けば教えてくれそうだが、長そうなのでやめた……。
オングストレーム侯爵領から、多くの農民や商人がアスマ自治領に流れ込み、国の発展に手を貸してくれているのも確かである。
更にはドロアーテからの商人はヘムからダンジョン街道を使ってパルティーモに移動する。
または、セリュックに向かって岩塩を得る。
時間的距離はヘムを利用するほうが格段に早い。
オングストレーム侯爵領を通る旅人の数も激減したと聞く。
まあ、オースプリング王国は気にしない事にしてるんだが、恨まれてるんだろうなぁ。
そんな中、そんなオングストレーム侯爵領に動きがあった。
大部隊を動かすためには当然食料が要る。
馬のための飼い葉も必要となる。
武器や防具もそろえなければならない。
価格が周辺の騎士の領地で買い占められ高くなり始めたという報告があった。
更には、傭兵も雇われ始めたという話を聞いた。
税金も上がったそうだ……。
そろそろかねぇ?
国境近くでの小競り合いも少なくなった。
嵐の前の静けさのよう。
俺はマティアスと話をしていた。
「そろそろ攻めてくるかな?」
俺がマティアスに聞くと、
「だろうな。
オングストレーム侯爵領は穀物を栽培し、それを商人に売ることで金を得ている」
と言って、ジロリと俺を見る。
「しかし、急に近くに商売敵が現れた
どこかが大森林を開発し穀物を増産した。
何だ、あの三圃制と言うのは。
更に魔物を使って農作業を楽にした。
で、その領地の穀物が安い。
更には、ダンジョン街道を使えばどの王都にも売りに行けるのだ。
そんな便利な街に商人は群がる。
商人も来ない、住民は逃げる……。
どうにもならなくなったオングストレーム侯爵。
隣の領主に恨みを持つだろうな。
さてどうしようと考える?」
「俺んちに攻め込む?」
「美味しい場所があるからな……」
とマティアスが頷く。
「どうやったら、最小限の流血で済む?
オングストレームを殺ればいい?」
オングストレームだけの暗殺ならば、可能だと思った。
しかし、
「それはではダメだろうな。
今後のために、うちの軍は一度オースプリング王国のどこかの貴族と戦い、完膚なきまでに潰さないといけない。
軍も強いということを見せつけないと……。
そうしないと、お前一人の自治領と認識され、お前が死ねば弱くなったと思われる。
いや、お前が死ねば弱くなったと思われるのは間違いないが、お前無しでも十分に強いということを見せつけておかないとな」
「俺が出張っては意味がないと……」
「そういう事だ」
マティアスが頷いた。
「さて自治領兵士の初陣か。
戦場はドロアーテの先の平原。
魔物部隊は使うな。
兵士だけだ」
オーダーを上げるマティアスだった。
ふとミケの事が思い浮かんだ、
「ワイバーンライダーは?」
「それは向こうにも居る。
コカトリスライダーもいいだろう。
飼い慣らした魔物に乗るのは問題ない」
ということだった。
現有戦力ってどのくらいなのだろう……。
ドロアーテは歩兵が二千、騎士が千、弓兵が五百ほど。
ヘムには、歩兵が千、騎士が五百、弓兵が五百ほど。
セリュックには、歩兵が四千、騎士が千五百、弓兵が二千ほど
貴金属の販売とその他農産物の販売による余剰金で、兵農分離して訓練ばかりしている職業兵士である。
あと、タロスが隊長の孤児院出身の者で編成されたコカトリス部隊。
これが二百程度。
おう……、いつの間にか一万越えか……。
把握はしていたつもりだが、今更ながら増えたな。
しかし全兵力とはいかない。
一部はセリュックに置いておく。
リルのわんこ部隊もセリュックに配置した。
軍のトップは一応俺ではあるが、実質はミスラである。
その下にマティアス、ラウラ、アクセルが並ぶ。
まあ、アクセルは現場実習中らしいが……
ラウラのフォローはクリス。
アクセルにはテオドラ。
ただ、戦争というものであればテオドラだけじゃなくヘルゲ院長に付いてもらおう。
いざとなったら、うちの妻たちの何人かを出してもいい。
ノーラとかなら問題ないだろう。
マティアスはあえてトップには立っていない。
アクセルとマティアスが裏切れば俺の自治領無くなるなぁ……。
信用してバカを見るのなら俺のせい……問題はない。
「こちらも、糧秣と飼葉をドロアーテに集めておくか……。
補給はここからになるだろうからな」
マティアスが言った。
「大森林をを越えてくるような兵士は居るかね?」
「魔物が徘徊する森……。
しかし、その魔物はお前のケルベロスとフェンリルの部隊に狩られて居ない。
大部隊であの森を越えるのは難しいだろう。
さて小部隊ならどうか……と言われると、どうだろうな。
巡回する兵士に、嗅いだことが無い匂いに敏感なオルトロスとフォレストウルフ。
繋がる通話装置。
何かがあればすぐに連絡が届き、増援が向かう。
小部隊では勝てないだろうな。
でもまあ、お前並み。
いや、アイナぐらいの強さがあれば、十分に混乱は与えられるだろう」
「傭兵ならば、小部隊で何とかしそうだがね……」
「そう言えば、オースプリング王国で有名な魔法使いがオングストレームに入ったと聞いたが……」
マティアスよ。
それはフラグというものだ。




