レイの婚約
俺はクリスとレイと共にリビングで待っていた。
メイナード王とランベルク公爵そして、その孫に会うために待っているのだ。
ランベルク公爵はメイナード王の王弟フリッツ・ランベルク公爵。
その娘、ハイデマリーと婚約を行う。
俺の血を欲しがるメイナード王がレイとの婚約を求めた。
「子供の婚約がこんな歳からとは、領主って面倒だな」
「仕方がないでしょう?
あなたがそれだけ影響力を持ったってこと。
お父様も、もし純血に近づいたひ孫が国に入りたいというのなら、なんとかするんじゃないかしら」
「要は、俺との繋がりを濃くしたいわけね。
クリスと俺の子じゃハーフエルフになってしまう。
それよりも濃い血ができれば、エルフ側に取り込むと……」
「そういう事ね」
「だからって、一歳ちょっとのレイに嫁がせようと思う?」
「思うのが国王なの!」
扉の部屋から扉が閉まる音がすると、
「さて、到着ね」
とクリスが言う。
しかし、奥から女の子が泣く声が近づいてきた。
すると、メイナード王、メイナード王によく似たランベルク公爵、そして乳母の女性に抱かれたハイデマリーと思わしき女の子が現れる。
ハイデマリーは真っ赤になって泣いている。
「どうしたんですか?」
俺がメイナード王に聞くと、
「自治領主に会うのに、おもちゃを持たせているわけにはいかない。
取り上げたらこの結果だ」
乳母の手には小さな馬のオモチャがあった。
ふわりと風が動いた。
レイの手が動いている。
すると、取り上げられたはずのオモチャが女性の手から離れて宙に舞い、女の子の手元に戻る。
するとキャッキャと笑い始めた。
そして、女の子がレイを見る目が変わり、
「あっ、あいあと」
と女の子は頬を染め、レイに言った。
女性はいくつでも女性か……。
レイは何も言わない。
一応「とうたん」「かあたん」と妻たちの名前と簡単な言葉は言える。
それを見たメイナード王。
「レイがやったのか。
凄いな。
レイ、じいじだぞ」
メイナード王が手を広げてレイを迎えに来る。
メイナード王が俺の前に来ると、レイも手を出しメイナード王に抱かれる。
「うむうむ、良い子じゃ」
と抱き上げるメイナード王。
そのまま、俺の耳元で、
「お前の教えてくれた子作り法、試してみたら息子どもの妻が妊娠しおった」
と小声でつぶやく。
月のものの周期を調べ、妊娠しやすい時期を教えただけなんだながなぁ。
「これで、レイが婚約すれば、マサヨシとの血のつながりが濃くなって、我が国も安泰だ」
そんな風に言っていたメイナード王に。
「じいじ、メッ。
泣かせる、メッ」
ハイデマリーを指差しながらレイが怒ると、
「そうね、可哀想よね」
クリスが同意した。
「悪かったのう。
それで、ハイデマリーはどうだ?」
わかるはずはないと思ったのか、メイナード王が聞くと、
「かわい」
とニコリと笑って返した。
すると
「ふむ、当人たちは気に入っているようだな。
ここで遊ばせていいか?」
と言うので、
「ああ、レイを降ろしてやってくれ」
と言うとメイナード王はレイを降ろす。
二人のお見合いが始まった。
リビングのカーペットはフカフカなので、レイはいつもここで遊んでいる。
そこにハイデマリーが降ろされると、トタトタとレイの所に行く。
そのままハイデマリーはレイの頬にキスをした。
レイが身をよじる。
「チューダメ?」
ハイデマリーが言うと、
「はず(か)しい」
とレイが言う。
しかし、
「ちゅき」
とハイデマリーが近寄って抱きしめた。
「近寄られると逃げるのはマサヨシと一緒ね」
クリスの一言。
「まあ、俺も俺なりにあの頃はいろいろ引き摺ってたからね」
そう言って俺は返す。
レイは、
「ヨチヨチ」
とハイデマリーの頭を撫でる。
ハイデマリーは気持ちよさそうに目を細めていた。
「あれも一緒」
「そんなことは知らん。
嫌ならしないけど?」
「それとこれは別よ」
クリスは俺にもたれてきた。
ランベルク公爵がレイを見て驚いていた。
「その子に精霊が?」
と驚いていた。
「ええ、既に精霊が付いているわ。
マサヨシと同じく、四大精霊」
クリスが笑いながら言う。
「まあ、ここには精霊が多いから、知らない間に精霊が付いていたりするわ」
苦笑いをしながら、クリスが言った。
知らん間に、精霊魔法使いが増えているんだよなぁ。
土の精霊が付いた者が増えたおかげで、土木工事が捗ってはいるんだが……。
精霊が居る国は栄えるというのはこういう事なのかもしれない。
「うちの騎士たちをマサヨシ殿の所に研修に出すとかはダメなのか?」
ランベルク公爵が聞いてきた。
「マサヨシに聞いてみて。
でも、エレメンタルバインドを使って精霊を持ち帰ったら、この国は大丈夫としても、おじ様の精霊は居なくなるかもしれないわね。
だって、この自治領って精霊にとって居心地がいいんだから」
クリスの言葉に俺の精霊も、レイに付く精霊も、クリスの精霊も大きく頷いていた。
何ならランベルク公爵の精霊は指をくわえている。
「どうだろうか?」
そこで俺に聞いてくるランベルク公爵も面の皮が厚い。
「エレメンタルバインドを使ったとわかった瞬間に、その騎士を遠慮なく消します。
それでいいのなら、我が領土に研修に来てください。
あっ、当然ランベルク公爵にも責任を取ってもらいますね」
「兄上!
このような事を、人間に言わせてもいいのですか?
このような男の元に可愛いハイデマリーをやるなどと」
「バカ!
マサヨシを怒らせたら、国がなくなる。
ランヴァルド、バルトール、クリスもマサヨシ側だ。
レイとハイデマリーの婚約を勧めたのもそれ。
ハイデマリーがマサヨシの領地との繋がりになればいいと思ったのだ」
「だからと言ってこの態度は……」
不機嫌そうにランベルク公爵が呟いていた。
マールが紅茶を淹れる。
「これはロイヤルティーバードの紅茶」
ランベルク公爵がホウと息を吐く。
怒りが収まったようだ。
茶菓子として、ケーキが現れた。
二人にもケーキ。
レイが、
「マーリュ。
サラお?」
とマールに聞くと、
「ええ、サラのケーキよ」
とマールが答える。
「おいしし。
くりゅ」
レイがハイデマリーの手を握り、テーブルまで引きずってきた。
「食べゆ」
レイはフォークでケーキを掬うと、
「あーん」
と差し出す。
パクリと食べたハイデマリーの目が細くなり、目尻が下がった。
「おいしし?」
レイの言葉に、
コクリと頷くハイデマリー。
こりゃ、サラのケーキに撃墜されたな。
「優しくて美味しいものを食べさせるレイにハイデマリーがメロメロね」
クリスが言うと、
「お前と一緒だな」
と俺は返した。
「仕方ないじゃない。
あなたがそうしたんだから。
レイも血を引いているみたいね。
年上の女性なのに年下のように扱う。
あなたと一緒の事をしている」
「俺は精神年齢とギャップがあったからねぇ」
俺とクリスがレイとハイデマリーを見て話をしていると、
「マサヨシ、ハイデマリーとの婚約はどうだ?」
メイナード王が聞いてきた。
「まあ、仲も良さそうなのでいいんじゃないでしょうか?」
と俺が言うと、
「じゃあ、そういう事でいいな。
五年後にはここに通わせるぞ?」
とおしてくる。
「早くないですか?」
「扉を使って学校に通わせればいいだろう?
一緒に学べばいい」
「まあ、それはいいですが。
結婚はお互いに成人してからですよ」
この時期に結婚の話をしなきゃならんとは……。
「それでいい。
うん、強い血が入る」
「兄上。
この館に凄い数の精霊が集まり始めました」
ランベルク公爵が驚いている。
レイが手を上げると、小さな精霊が手にとまった。
青い色……水かな?
「こえ」
レイが言うと、小さな精霊がハイデマリーの肩にとまる。
「せいえい。
一緒に居たい」
レイがハイデマリーを指差す。
「ハイデマリーに精霊が付いた。
あの子の導きで……」
「ここでは、精霊が人を選ぶ。
人が精霊を選んではいかんのだ。
精霊自身が手助けをしたいと思う者に精霊はつく。
ハイデマリーに頑張って欲しいと思う精霊が居たのだろうな」
「エレメンタルバインドは?」
と聞くランベルク公爵に、
「マサヨシと付き合う限り使わぬ方がいいだろうな」
メイナード王が言っていた。
帰る段階になってハイデマリーが、
「かえあない!
レイと居ゆ!」
とレイを抱き駄々をこね始めた。
「別に泊ってもいいですよ?
乳母さんもいるみたいですし、ベッドに二人で寝かせれば?」
俺が言うと、
「それはいいな」
とメイナード王が笑う。
「私の孫なのですが……」
ランベルク公爵苦笑い。
しかし、その日泊った後、夜のたびにメイナード王の扉から、毛布を持って現れるようになった。
通い妻が出来上がる。
そして、たまに、メイナード王と昼間に来ては昼のおやつであるケーキやクッキーを美味しそうに食べるレイの婚約者がいるのだった。
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