情報
オースプリング王国との戦争が近いと思われる。
「さて、町や村を繋ぐ情報網が要るねぇ……」
とブツブツ呟いていると、
「何言ってんの?」
とレイを抱いたクリスに突っ込まれた。
「ん?
ああ、各村や町との連絡手段をね……」
俺が言うと思い立ったように、
「念話じゃダメなの?」
とクリスが言ってきた。
「それでもいいが、皆が使えるようなものがいいな。
念話は俺と妻たちとの直通。
それ以外で遠くと話す方法を考えていたんだ。
思い立ったのが電話だね……」
「電話?」
「ああ、向こうの世界の通話装置。
音って波だから、それを電気と言うものに変換して、電気の波を受信側で音の波に変えるわけ」
「そんなこと言われたって、わかんないわよ」
「だから、声を魔力に変換して、それを受信側で増幅すればいい訳か……。
線はマジックワームの糸でいいから、何とかなるかね」
「お父さん、一人で考え出したみたい。
邪魔しちゃおっか」
アウアウと言いながら俺に抱き付いてくるレイを抱え上げる。
「頭の中でできてるなら、実際やってみたら?
どうせ魔石を使った魔道具でしょ?」
クリスの言葉に、
魔石を二つ出し俺の部屋とリビングでマジックワームの糸で繋いだ。
レイが魔石を持ち、
「あーあー」
と声を出した。
そのあと、
「聞こえてる?」
と俺が聞くと、
「聞こえてるー。
普通に聞こえたわよ。
最初がレイでその後マサヨシよね」
クリスの声がクリアに聞こえた。
ん、使えるね。
固有の音を作って、その音の順番を魔石に覚えさせればいいか……。
昔なら電話交換士なんだろうなぁ。
数字のボタンで押せばその音が出るようにして。
相手の番号を作ってその数字を押せば、音の順番で相手に繋がる。
まあ、完全にプッシュ回線パクってます。
ガントさんに手伝ってもらい、懐かしい形の電話を作ってもらった。
一応プッシュ。
音で電話の番号を入力し魔石に覚えさせる。
クレア先生に手伝ってもらって、街道沿いに電柱を立てるとマジックワームの糸を通し、ホムの俺の部屋(0001番)、ドロアーテのマティアスの部屋(0002番)、セリュックのノーラの部屋(0003番)で繋いでみた。
「ジリリリリリリ…………」
懐かしの呼び出しベル。
俺が受話器を取ると、
「あー、マサヨシ。
聞こえる?」
「ああ、聞こえる」
「お父さん向こうに居るよ」
とノーラが言ったあと、
「だーうー」
というアリスの声が聞こえてきた。
「これ便利ね。
アリスが気に入ったみたい。
アリスの枕元に置いておけば、喜びそう」
嬉しそうなノーラの言葉に、
「いや、これって子供のオモチャじゃないから……」
とツッコミを入れてしまった。
とりあえず各村の役場に繋ぐ予定。
そして個人宅だね。
まあ、個人宅は先になりそうだがね。
コレで各村と街との連絡が取れれば、手紙なんかで連絡を取る必要がなくなる。
書類は難しいだろうが、イエス・ノーがわかるだけでも便利だろう。
これで、役場同士の連絡が早くなれば仕事もはかどる。
んーいいねえ……。
ありゃ、軍事利用は?
電話は電話で使えるからいいか……。
というわけで、再び考えた。
んー、クリスも言ってたように、念話装置を簡略化して小隊単位で持たせるか……。
チャンネル設定して、全体へ連絡ができるようにすれば全体に指示が伝わる。
両面作戦なんかも可能になる。
いいね。
続いて、過去に手に入れた魔石を使い、発信する魔力が妻たちのチャンネルと違う念話装置を作る。
当然髪飾り系ではない。
ヘッドセットっぽくしておけば、鎧の中でも使えるんじゃないかな?
実際数個のヘッドセットを作り、ミスラとラウラに現物を見せ、騎士や歩兵の部隊長に取り付けてもらい、連携を確認した。
「いいっスねこれ……」
「そうそう……」
「今まで太鼓などの音や狼煙、近ければ手信号などで攻撃の機会を合わせていましたが、これならば、全体に号令をかければ遠くからでも攻撃のタイミングを合わせられます」
などと言う声が上がった。
ミスラからは、
「前線の情報を後方でも知ることができる。
我々の指示もその時々に合わせて、出すこともできるな」
ラウラも、
「部隊名を数値化して決めておけば、その部隊を個別に動かすこともできるし、戦術、戦略の幅が広がる」
と言っていた。
その辺は素人の俺が言うことじゃないと思う。
あとは現場のプロに任せた。
とりあえず、現在必要な数だけは作って、ドロアーテにもセリュックにも渡した。
情報を制する者は戦いを制す。
リアルタイムの情報がどう戦いを変えるか……。
各所の軍で念話装置を着けた訓練が始まる。
読んでいただきありがとうございます。




