流民
「ドロアーテ周辺に流民が来ている」とマティアスから連絡があった。
現状のオースプリング王国がどうなっているのかは知らないが、酷いのだろうな。
着の身着のままで子供を連れてきている。
子供を連れてきているということは、死ぬためでなく新たに生きる夢を持ってのこと。
マティアスには食料を与えるように依頼した。
元は農民、畑を耕す労働力にもなる。
要は俺とクレイ先生が何とかして彼らが働く場所を作ればいい訳だ。
システムは今までと同じ。
畑を作ってそこで働いてもらう。
最近、労働力のグランドキャトルも準備した。
ダンジョン産でよく言う事を聞く。
鋤を作れば畑の労働力になった。
ただし、危害を加えたら反撃をしていい事にしてある。
だからたまにけが人が出る。
「またやっているのかの?」
暇そうなリードラが聞いてきた。
「ああ、流民を受け入れる」
そう言っていつもの開墾と区画整理。
百人程度が住む土地を十カ所ほど作っていた。
あー、そういや、どこら辺から流民が来たんだろ。
家を貰ってこよっかなぁ……。
「良からぬことを考えておるのぅ」
リードラの口角が上がった。
「流民の所から家を貰ってこようかと。
農具とかもあるだろうからね」
俺とリードラはドロアーテに向かった。
マティアスの所に行くと、
「領主様のお出ましか。
早いな」
と苦笑いする。
「報告を受けましたからね。
一応対応しておかないと」
俺も苦笑い。
「領主様の言いつけ通りにはしているが、食料を与えてもこっちが疲弊するだけだ。
生産性が無い人間をずっと囲っておく訳にはいかないぞ?」
「土地は俺が確保しました。
食料と種の貸し付けをしてあとは住まわすだけです。
だから、流れてきた村から家を持ってこようかと……」
「小作人はどうする?
小作人の家は自分の物じゃないぞ?」
あっ……。
「村ごと移住してきたところはそういうのが無かったようで、普通に建物を移築できたんですけどね……。
失念していました」
「一時しのぎだ。
テントのようなものでもいいと思うぞ。
長屋みたいなものを作ってもいい、しばらくはそこで暮らしてもらう。
その間に建物の確保をするしかないだろうな。
ただなぁ……。あまり時間がかかると不満が出る。
さて、領主様の手腕を見せてもらおうか」
そういう経験をしたことがあるのかマティアスが苦笑いをしていた。
んー建物ねぇ……。
木造がダメなら、モルタル?
そうか、土で作ればいいのか……。
でもそれだと熱くて寒かったりしないだろうか。
でも一時しのぎなら……。
クレイ先生と相談をし、同じ形の家を作ることにする。
単純な直方体。
縦十メートル、横十メートル、高さ三メートル程度。
中をTの字に区分けして、小さな部屋は土間一つ、台所一つ、あと広い部屋が一つ。
壁の厚さを五十センチ程度にしておけば大丈夫だろう。
話に聞けば、地震はないらしい。
ならば崩れる心配もないだろう。
ああ、一応近くにトイレを作っておく。
区画ごとに家を作る。
出来上がった家の中を見ると、暗い。
あっ、窓が無かった……失敗失敗。
あと、床が固いねぇ。
土間と台所はいいとして、居住スペースである部屋は何とかしないとな……。
ボーに言って、フローリングでも作ってもらおう。
ああ、その上に敷くカーペットぐらいは要るな。
これはカールに依頼。
クレイ先生は最初、慣れないせいか少し時間がかかったが、慣れてくると3Dプリンターのように下から上へと土の家が出来上がる。
一件につき五分ほど、
「味気ないわね」
クレイ先生が言うと、家の壁が白くなった。
「明るくなって良いでしょう」
クレイ先生は自己満足で笑う。
家が出来上がると、クレイ先生主導でスイが協力、井戸を作る。
水汲み用の釣瓶が要るなぁ。
効率から考えると、ガントさんに手伝ってもらって手動ポンプでも作るか……。
結局二週間ほどかかったが、全てが完成した。
そこに移民を受け入れる。
そして、作物ができるまでは、食料を配給する。
「こりゃ上等だ。
前住んでいた家よりも大きくて住みやすいでさぁ」
との事。
まあ、それならいいか……
んー、一時的に食料備蓄が少なくなるなぁ……。
オースプリング王国はそれを狙っているのかね?
最悪高くとも食料を買って補給だろうな。
ポンプについては、ガントさんは俺の言葉から鋳造技術を弟子と共に考え、手動ポンプの構造を理解し、最終的には手動ポンプを見事に作り上げる。
まずは流民用の家に付属した井戸に取り付けた。
「領主様、水汲みって私の仕事なんだけど、あの機械取り付けてくれて、楽になったよ」
と子供たちに喜ばれた。
一年ほどは流民の村がお荷物状態だったが、それでも次の年には十分な食糧を生産できるようになる。
これで、オースプリング王国の国力が減って自治領の力が上がる。
いいねぇ。
噂を聞きつけた別のところからも流民が来るようになった。
「家と土地を与えてくれる」
という噂が流れているようだ。
一応タダではないんだけど……。
ちゃんと働くなら受け入れますぜ。
「結局何とかしてしまうんだな」
マティアスが笑っていた。
「まあ、こっちは領民が少ないですから、貴重な労働力です。
受け入れて損はないですよ。
今は貴金属や衣料品、菓子などで儲けてはいますが、それだけじゃ腹は膨れませんから。
今はノーラの所から食料を得ることで何とかしています。
しかし、できれば食料自給は自治領内でできるようにしたいですね」
俺は言った。
「さて、お荷物にするために自治領内へ民が流れるのを許していたオースプリング王国。
しかし、労働力として定着し、生産をして国力を上げることになってしまった。
次はどうすると思う?」
マティアスが意地わるそうに笑う。
「そりゃ『金を払え!』とか言うんじゃないですか?
基本無理難題でしょう?」
「よくわかったな。
そういう事だ。
次は『領民を返せ!』『返さないなら、金を払え!』という所じゃないかな?」
「はぁ……。
ただの駄々っ子じゃないですか。
まあ、びた一文払う気はないですがね」
「それでいい。
が、戦を仕掛けてくるだろうな」
「いいですよ。
全てを潰しましょう。
攻め込んできた者全てを骨まで残らないように……。
一度はっきりしないといけないですね。
『甘く見るな』と……。
俺が今まで甘すぎたんでしょう。
殺すのが怖くて、ほとんど殺さなかった。
でも、もう守る者もできました。
それを守るために戦いましょう。
必要ならば恐怖を植え付けます」
「そのつもりなら何も言わない。
こちらも準備はしておこう」
マティアスは静かに言うのだった。
流民の流入は止まらず、その後も続々と自治領に入ってきた。
俺は畑を作り住む場所を与える。
領民たちはまじめに働き、自治領も発展していった。
お陰で森は大きく開け、ヘムの街の周りには畑が広がる。
オースプリング王国から使者が現れ「流民一人につき金貨一枚を請求する」という手紙が渡された。
「何言ってるんだか……。
王に『ふざけるな!』と言っておいてくれ」
使者にそう伝え、俺はその要求を突っぱねるのだった。
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