アビゲイル様
アビゲイル様が居るカーヴに扉で向かう。
そこにはアビゲイル様が落ち着いたドレスを着て立っていた。
「何者!」
と言う声をあげると、構える。
そして俺を確認すると、
「あなたでしたか」
と言って構えを解いた。
「さて、アクセルの所へ行こう」
俺が言うと、
「私の幽閉はまだ終わっていません。
マティアス王にも迷惑が掛かります!」
全否定される。
まだ情報は来ていないか。
「内乱があって、マティアス王は王位を譲ることにした。
別に負けたわけじゃないけども、俺がいろいろやったから、王で居るのが嫌になったのかねぇ」
俺は言った。
「えっ、マティアスが?」
驚くアビゲイル様。
「ああ、まだ王位には居るが、バルテン公爵に譲るよ。
その代わり、ドロアーテの領主として赴任してくる。
俺の下に来るらしい。
まあ、領主なんて俺の性に合わないから、有能な人が来るのは助かるんだけど」
俺は頭を掻く。
「それと私の幽閉に何のかかわりが?」
「で、動乱のどさくさに紛れてあなたの幽閉を解いてもらったわけだ。
マティアス王が王である間にね。
言質を取ってるから問題ない。
文句言われて、攻められても何とかする自信はあるし。
まあ、いろいろ言ったけど、幽閉は解けたからアクセルの所に行こう」
俺は手を差し出した。
「えっ、あっ、ほっ本当に?」
泣き崩れるアビゲイル様。
「泣くのはアクセルに会ってからにして欲しいかな?」
「あっ、はい」
涙をぬぐいアビゲイル様は立ち上がる。
「持って行くものは?」
「これだけです」
そう言って、包みを胸に抱え俺の手を取る。
そして、アビゲイル様はカーヴの部屋を出て家のリビングに来るのだった。
「アビゲイル様、どうぞ」
マールが紅茶を出す。
アビゲイル様が紅茶を啜ると、
「ああ、こんなに美味しい紅茶は久しぶりです」
一息つけたようだ。
すると、ヘルゲ様がアクセルを連れて現れる。
「「あっ」」
と言うと、アビゲイル様とアクセルは引かれあうように抱き合った。
「こんなに……こんなに大きくなって……。
手が空いた間にせっかく作った服が、これでは合いませんね」
ああ、あの包みはアクセルの服だったのか。
「お母様……痛いです」
アクセルが言うと、
「ああ、ごめんなさい。
あまりに嬉しすぎて、力の加減が……。
それで元気だったの?」
「孤児院の皆と仲良くやっています。
それにヘルゲ様もよくしてくれます」
アビゲイル様がヘルゲ様を見ると、ヘルゲ様は軽く会釈をした。
「さて、今こういう事を言うのは問題あるかもしれないけども、ただでアクセルに会わせたわけじゃないんだ」
すると怯えるようなアビゲイル様。
「私の体を?」
と言って身を隠すように体をよじる。
何を考えているんだ?
「無い無い」
否定すると、
「でしょうね」
と言ってアビゲイル様が笑った。
イタズラかね?
「それで、何をすれば?
私はアクセルに会えた。
だから、何でもします。
この体を晒せというのなら、遠慮なく」
何故脱ごうとする?
「働いて欲しいのです」
俺が言うと、
「働くとは?」
アビゲイル様は思っていなかったのか首を傾げた。
「見ての通りうちの孤児院って先生が足りない。
うちの妻たちが手分けして手伝っている始末。
本来は騎士団長とかギルドマスターとかそういう所に居座ってもらいたいんです。
そのためには先生の余裕が欲しい。
それも上級のね。
俺としては読み書き計算ができる孤児にしたい。
今後生きていくには重要なことだと思うから」
頷くアビゲイル様。
「そのためには読み書き計算ができる人は必須。
さて、目の前にいる方は、読み書き計算、さらには礼儀作法に裁縫ができる優良物件だと思っているのですが……」
ああ……とアビゲイル様が納得した顔になる。
「私に孤児院で働けということですか?」
俺は、
「そういう事です」
と頷いた。
「ただし、先生としてアクセルだけでなく孤児たちも分け隔てなく扱ってもらう必要があります」
と問う。
すると、
「元々、アクセルの姿さえ見ることのできないカーヴに居たのです。
それが、アクセルの成長を眺められる場所に居られる事だけでも私は幸せ。
ですから、私をこの地で雇ってください、おねがいします」
泣きながら頭を下げるのだった。
こうして、アビゲイル様は孤児院で働くことになる。
孤児たちの世話を甲斐甲斐しくするアビゲイル様。
そんなアビゲイル様を孤児たちは「お母様」と呼ぶようになる。
余談だが、孤児院では、ヘルゲ様がお義父様、そしてアビゲイル様以外にもマルティナさんがお母様と呼ばれるようになる。
ちなみにクリスは「クリス」で呼び捨て。
あとは「姉ちゃん」一部「おばちゃん」とか……。
ただ「おばちゃん」と呼ばれた一人は鋭い目線で「お姉ちゃんでしょ?」とにっこり笑って威圧する。
しかし、影では「おばちゃん、怖ぇー」と呼ばれ続けるのだった。
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