反乱軍の本音
「ノーラは、領軍と合流して。
俺はあれの相手するから」
ウルフが率いる軍を指差して言った。
「私も手伝います」
ノーラの言葉に、
「ん?
俺一人で、何とかできると思ってるんだがね」
「でも……」
「ノーラはまだ、引き上げられた体に慣れていないだろ?
俺としてはノーラには戦うために戻ってきてもらった訳じゃないんだ。
領土のトップとして、領兵や領民を落ち着けて欲しい。
安心しろ、こんな奴らどうにでもしてやるから」
俺はセリュックの門をすかして俺一人だけ門の外に出る。
「クスクス」
「なんだあれ」
「降伏の使者か?」
とあざ笑う声が聞こえる。
まあ、なあ……。
普通はこういうのやらないからなあ……。
「フウ、こういうの出来るか?」
俺はイメージする。
フウは自分のおでこを俺のおでこにくっつけると、俺のイメージを読んだ。
「ん、できる」
ニヤリと笑うフウ。
「じゃあ、凄いのをやってもらおうか」
俺はウルフの軍に向かって歩き始めた。
フウは俺のイメージを俺の魔力を使って再現する。
気象による攻撃。
ダウンバースト。
飛行機の墜落要因でもある上空から押さえつけられるような風。
俺を中心に風が広がる。
兵士たちは風の強さに動けず固まった。
陣幕も風の勢いで吹き飛ぶ。
中に居た貴族があらわになった。
おっと、もう勝った気なのか中でナニをしている奴も居る。
どんな時でも冷静に……これも貴族のたしなみ?
風にさらされた顔をかばいながら俺を見るウルフを見つけた。
その方にゆっくりと歩いて行く。
弓は風のせいで届かない。
魔法も飛んできたが、エンとスイ、そしてクレイが軽く防いでいた。
ウルフの前に来る頃には、剣を抜き俺の近くまで来る奴も居たが、フウが局地的に風速を上げて吹き飛ばす。
ああ、俺のすることが無い。
簡単にウルフの前に立つことができた。
剣の柄に手をかけるウルフ。
さてと……。
「俺とイングリッドの結婚式に何をやっている?」
「それは……。
これは、正当な理由があって……」
「どんな?」
俺は聞いた。
「セリュックを治めるノルデン侯爵領だけが発展して、他の貴族たちの領地が発展していない。
これは由々しき事態だ」
ただ、羨ましいだけの理由。
「ほう、発展する努力をして成功したら、それは悪い事だとお前は言うんだな?」
「仮にも、俺はお前の義兄だぞ!
『お前』とはなんだ!」
ウルフが睨む。
そっちですか。
ならば、
「イングリッドが泣いた。
お前を助けてくれって……。
お前にとってイングリッドは最愛の妹じゃなかったのか?
お前は妹を泣かせるためにこの反乱を起こしたのか?」
「…………」
「答えられないお前には『お前』で十分!
ノーラ……それだけじゃない侯爵領の皆が頑張った結果、発展したんだ。
俺はその頑張りに手を貸しただけ。
努力せずに人の金を得ようとする奴なんかに絶対にノルデン侯爵領のものは奪わせない!」
ウルフはギュッとこぶしを握り、震える。
「何故、お前はそんなに……。
俺はなぜおまえに勝てない。
力だけではない、政策についてもだ。
どうしてお前だけが上手くいく?
なんでオヤジはお前を気に掛ける?」
ウルフは泣いていた。
「ランヴァルド王が俺を気に掛けるのは、この国に不利益が起こらないようにするためだろう。
もしかしたらイングリッドが俺を好きでなくても、俺がイングリッドを求めればレーヴェンヒェルム王国のためにイングリッドを差し出したんじゃないかな?
仲良くはさせてもらっているが、上手く使われている感はあるよ。
でも、ランヴァルド王の判断は王国への利益にはなっている。
例えば、塩はこの国では専売。
キャラバン隊から買い付ける塩よりもデュロム村の岩塩の方が安い。
なら、今までの差額はどうなる?
国の運営にまわせるわけだ。
それだけ力ある俺をうまく使うことで利益を出している。
そういう計算の上で俺を気に掛けているだけだ」
やっぱり、上手く使われているよな?
後で、王に説教だ。
「で、あー、なんだ……政策が上手くいくのは、俺の周りにはいろいろな人が居るからだ。
王様や貴族だけでなく商人、果ては獣人の婆さんまで。
人脈だよ。
お前にはおべっかを使う貴族ぐらいしか人脈が無いんじゃないのか?」
「…………」
ウルフは何も言わなかった。
「まあ、いいか。
ウルフは俺の力を見てなかったな。
えーっと、俺の力を一部見せておくぞ。
お前が反乱を成功させてこの国の頭になる気なのなら、それを見て俺との付き合いを判断すればいい」
俺は特大のファイアーボールを作る。
しかし、そのファイアーボールの色は青い。
完全燃焼の色。
それを圧縮して、レーダーに人が映らない場所へ飛ばした。
ピカッと閃光が走り、それに遅れて、ものすごい爆風が届く。
そして数秒間、ビリビリと地面が震え、空に大きなキノコ雲が浮かぶ。
俺はフウのお陰で問題はないが、周囲に居た者たちは地に伏せ爆風に耐えていた。
そんなつもりはなかったが、ウルフが俺にひれ伏す形になっていた。
見た目がそんな状況。
俺は気にせず。
「手抜きでこんな感じ。
お前が王として、どう思った?
正直、本気で反乱軍となど戦いたくはないんだ。
特に身内になるウルフ・レーヴェンヒェルムとはね」
しかし、ウルフは何も言わず伏せていた。
ノーラが俺の下に走り寄ってくる。
そして、伏せているウルフを見てぎょっとする。
「ここまでの進軍で、かなりの略奪をした貴族たちが居るようですね」
その言葉に、
「何!
そんなはずはない」
ウルフが顔を上げ反応した。
「私は私欲のためにこの軍を起こしたつもりはない!」
再び大きな声を上げる。
「俺への嫉妬で起こした反乱が私欲じゃないというなら何なんだ?
百歩譲ってウルフがそうでなくても、それ以外の貴族たちはタダでなど軍を出すつもりがなかったんじゃないのか?
ウルフ、貴族の幕舎があったところを見に行こう。
意外といろいろありそうだぞ?」
俺はウルフを片手で持ち上げて立たせた。
「ここに居る貴族の中で一番位が高いのは?」
ノーラに聞くと、
「ベルケン侯爵です」
ノーラが俺に言った。
そして、三人で貴族の幕舎があった場所へ行く。
それも、幕舎に女を呼んでいた貴族のところを目指す。
俺が歩くと、バケモノを見るように兵士すべての目線が俺を追った。
裸でベッドの上で唖然としている老齢のデブ……。
あっ、以前は俺もそんな感じ。
今は違うけど。
「ベルケン侯爵ですね」
苦笑いのノーラ。
隠したつもりだったのだろうが、風で幕舎が飛ばされ、中にあったものが露出していた。
そこには荷車いっぱいの硬貨が入った箱や、貴重品、貴金属、様々……。
「あんた、この金銀は?」
「なぜ、そんなことを言う必要がある!」
とのこと……。
「エン」
俺が呼ぶと、
「あの男を催眠状態にすればいいんだね」
と言ってベルケン侯爵の前で手に炎を灯す。
仕事が早い、いいねえ。
しばらくすると、目に光がなくなった。
「マサヨシ、できたよ」
エンが俺に言った。
俺はベルケン侯爵に質問をする。
なぜ兵をあげた?
……商人たちがうるさいのだ。セリュックだけ儲けているってな。
この金銀の硬貨と貴重品は?
……途中の村や町で略奪した。今後、ウルフを傀儡にして私たちでこの国を治める。だから先に貰っておいてもいいだろう?一部は商人への借金返済に使う。それでも余りある物を得た。
女子供に手を出してなどいないだろうな?
……戦利品に手を出して何が悪い?民など我々に税を納める働きアリではないか。兵士にも言って好きにさせた。
結局この反乱は?
……ランヴァルド王が居ない間に一部の貴族で国を手に入れ、我が物にするため。
ウルフは何のために?
……どんな反乱にも旗印という者が必要。丁度ランヴァルド王に不満を持っていたウルフ殿下を煽り、頭に立ってもらった。
反乱が終われば?
……勝ってしまえば、我々がこの国を支配し、ウルフ殿下には居なくなってもらう手はず。負けてもウルフ殿下に死んでもらえれば、被害は最小限。
うわっ、腐ってるねぇ。
他の参加していた貴族たちも、似たようなもんだった。
ウルフを見ると、現実を思い知らされ唖然としている。
「さて、どうする?」
ウルフに聞いた。
「俺は……」
それからの言葉は無かった。
俺も今、ノープランなんだよなぁ
俺は頭を掻くと、
「ウルフ。
とりあえず軍を引く指示を出せ。
それで帰らない奴らは、俺が好きにする。
まだ戦う気があるのなら残ってもらってもいいが?」
「引いてどうすればいい?」
「とりあえずこの場から去れ。
あとは俺が何とかしてやる」
するとウルフが、
「私はマサヨシと和解した。
オセーレに戻る」
催眠状態の貴族たちも、ウルフの指示に従うように設定したので、その指示に従い陣を片付ける。
頭がそうするのなら下も従う。
兵からは不平不満が出ていたがクソくらえだ。
ウルフに頑張ってもらおう。
いうことを聞かない兵士が居ると思ったが、人があった場所に残る兵士は居なかった。
あのファイアーボールのお陰だといいんだが……。
一応俺はフウをウルフの護衛に付ける。
殺されてもいかんからね。
「参加した貴族の処分はオッサンの下、オセーレでやるから、憎くても殺さないように」
と言うと、
「わかった」
そう言って、セリュックから去っていくウルフの背は小さく見えるのだった。
読んでいただきありがとうございます。




