執務室奪還
更新再開ですが、書き方など若干の違和感があるかもしれません。
申し訳なく思います。
よいしょっと。
クラーラとバルトール王を連れ執務室に戻ると、誰も居ない。
「間に合ったようだな」
バルトール王が言った。
ありゃ?
独特のアルコールの匂い……執務室に酒瓶が転がる。
前祝いでもしたのかね?
クラーラはアルコール臭に鼻を隠しながら、
「お父様、これは?」
とジト目で聞くクラーラ。
しかし、バルトール王は何も気にせずガハハと笑うと、
「いいであろう?
祝いの前前祝いで飲んだものだ。
我が娘が儂より強い男の下に行く……これが飲まずにおれるか?」
嬉しそうに笑う。
俺が、
「という事らしいぞ、心から祝ってくれてるってことでバルトール王を許してやったら?」
というと、
「マサヨシが言うんなら我慢します」
クラーラがフンと言ってバルトール王から目を逸らした。
まあまあ……。
外から、
「みんな力を入れろ!
この扉を開けないと、私は王になれない!
早く開けないと王が帰ってくるぞ!」
若い男の声が聞こえた。
「クルトの声」
クラーラが言う。
「あいつ、まだこの扉を開けられんのか……。
一人で開けられんと仕事にも差し支えるだろうに。
困ったもんだのう」
苦笑いのバルトール王。
「マサヨシよ、あの扉を開けて向こうに居る者にクラーラの夫となったお前がどんな力を持っているのか教えてやってくれ」
バルトール王は俺を見てサムズアップして言った。
ドワーフは力に従う種族、俺の力を見せろという事らしい。
俺は執務室の扉に手を添えると、全力を込めて扉を開ける。すると「ベコン」と言って外れる蝶番。
支えるものがなくなった扉が吹き飛んだ。
「あー、またやっちまった」
埃が上がり周りが真っ白になる。
そんな状況でドワーフたちが俺を見ていた。
俺は苦笑いをしながら、執務室から出ると、
「クルト様!」
という声。
クルトを始め数人のドワーフが扉の下敷きになっているようだ。
仕方ねえなぁ…
俺は片手でドワーフを下敷きにしている扉を掴むと、その扉を片付けた。
「お前ら、どうした」
執務室の扉を片手で持ち上げるなどあり得ないのだろう。
唖然とするドワーフたち。
あまりの衝撃にドワーフたちの開いた口が塞がらなかったようだ。
結果、ニコニコのバルトール王とクラーラ。
二人にとっちゃ、これが当たり前か……。
助け出されたクルト、開口一番
「何で人間が執務室に!」
クルトが俺を指差して言う。
すると、
「儂が頼んだのだ」
バルトール王が執務室の奥から顔を出すと、周囲からザワザワとささやき声がし始めた。
「居ないんじゃなかったのか?」
「そんなはずが!」
「クラーラ様も……」
クルトの取り巻きたちが焦る。
完全に計画から外れてしまっているのだろう。
執務室を占拠し王が王たるために使う物を奪取。
その後、自分が王だと宣言する予定だったのかもしれない。
「ドワーフがなぜ力を持つものに従うのかわかるか?」
執務室の前に居るドワーフたちにバルトール王は静かだが威厳のある声で話しかけた。
「ドワーフは山を切り開き洞窟を掘り、鉱石を得て精錬することで生活の糧としていた。
しかし、そういう洞窟では落盤が起る。どんなに坑木で固めていてもな。
そんな中、助けに行けるのは強い力を持った者。落盤した岩を砕き、先に進める者なのだ。
今のクルトにそんな力はあるか?
この執務室の扉を自分の力ではなく他人に開けさせるような者でいいのか?」
バルトール王はクルトを指差す。
誰かに乗せられ、勘違いして暴走するような者に国の先行きを任せられるのか!
皆の者言うてみよ!」
最後には吠えるように言うバルトール王の言葉にドワーフたちが圧倒され、言葉が消える。
穏やかな口調で、
「あの者はな、クラーラの婿だ。
あの者とクラーラの間にも子ができるだろう」
そう言うと、バルトール王は俺を見てニヤリと笑う。
我々ドワーフの寿命は長い、クラーラの子とクルトを比較してからでもいいのではないかな?
クラーラの子が成人するまでにクルトが自身を鍛え、クラーラの子より強くなるのであれば、クルトが跡を継げばよい。
クラーラの子の方が強くこの国をまとめられるほどの強者になっているのなら、クラーラの子が継げばよい」
と言う。
そして、
「だからな、それまでは、儂がこの国の王だ!」
バルトール王が再び吠えるように言った。
バルトール王の威厳にドワーフたちは膝をつき頭を下げる。
立っているのはクルトだけになった。
終わったね……王ってすげえや。
「バルトール王。
俺には無理ですね」
頭を掻きながら俺はバルトール王を見る。
「三十年も生きていない若造に、この雰囲気を持たれても困るのう。
儂とて最初はそこに居るクルトのような者だった。
だが、王にされ、嫌々ながらも切磋琢磨して、今の儂が居るのだ。
そこはわかって欲しいのう」
バルトール王がニヤリと笑った。
古いが「ちょいワル」だね。
カッコいい。
こうして、クルトの反乱らしきものは終わった。
クルトにはおとがめなしだったが、クルトを煽った母親はドワーフの土着の宗教に関する教会のようなところに幽閉されることになったらしい。
「さて、オッサン。
勝手に決めたね。
俺の子供にはドワーフの王になれというつもりはないぞ?」
俺が言うと、
「そうです、肉親で争う世界で生かしたくありません」
クラーラも言った。
すると、
「大丈夫、儂の孫じゃからな。
ドワーフの血が流れるマサヨシとクラーラの息子ならばどんなドワーフもなぎ倒すドワーフの王になる素質がある。
さてどんな偉丈夫になるのやら」
楽しげに言うバルトール王。
何気に息子指定。
バルトール王はフッと笑うと、
「クルトは儂の息子ではない。誰とも知らぬ男と妻の子供だ。
クルトの母親はそれをバレるのを恐れたのだろうな」
サラッと爆弾発言をする。
クラーラも初耳で驚いていた。
「クルトを王にすれば、必然的にクルトの血は王の血となる。
だから、焦ってこのような事をした。
強き男なら王家の血など関係なかったのだ。」
王は知っていた。
だが、それを表に出さなかった。
出せなかったというのが正しいのだろうか?
それだけ、クルトの母、つまりバルトール王の妻を愛していたのだろう……。
そして、大きくため息をつきながら、
「あいつも余計なことを考えず、儂を信じてくれれば良かったものを……」
バルトール王は顎髭をつまみながら少し遠い所を見ていた。
「反乱に参加した者に対しても罪は問わない」ということになり、ドワーフの国は何事もなかったかのように動き始める。
「ドワーフの国のために子供を作らなきゃいけなくなったんだけど」
俺の方を見て言うクラーラ。
半笑いなのは、嬉しいからかね?
「バルトール王の跡継ぎのために頑張るのか?」
俺が言うと、
「違う。
私が欲しいから」
プイとそっぽを向くクラーラ
その顔は赤かった。
そして、家に戻る俺たち。
そこには、ランヴァルド王とメイナード王、クラーラ以外の女性陣が居た。
「いやぁ、マサヨシのお陰ですぐに解決。
さすが馬鹿力じゃのう」
ニッヒッヒと笑いながらバルトール王が言う。
「馬鹿力は無いでしょうに」
と苦笑いである。
俺とバルトール王が掛け合いをしていると、
「さて、今度はうちの番だな」
とランヴァルド王が声をあげた。
「へ?」
「ある男とイングリッドの婚約が発端で、その婚約者が結果を残しすぎて、それを俺が可愛がるもんだから嫉妬に狂って、我が息子も今頃反乱してるんじゃないかなぁ」
当たりまえのように「いやーすまんね」とランヴァルド王は頭を掻きながら言う。
「それって本当ですか?」
イングリッドがランヴァルド王に聞いた。
「ああ、本当だ。
結婚式の予定が決まった後に、影が知らせてくれていたからな。
まあ、誰かさんのせいで実入りが悪くなった御用商人が借金がある貴族共の尻を叩いて、ウルフをそそのかしたのだろう。
さて、原因である誰かさんには、あまり人を殺さずに何とか収めて欲しいのだが……」
えー、面倒。
しかしなあ……。
「マサヨシ様、ノルデン侯爵領の領都セリュックに数千の兵士が近づいていると、ワンコ第三小隊からの遠吠えが繋がりました」
リルからの念話。
「何故、セリュック?」
俺が言うと、
「当てつけなのだろう。
今一番発展している街。
それも、レーヴェンヒェルム王国で残したお前の結果だ。
ノーラ・ノルデンはお前の婚約者でもあるしな。
ウルフとしては、何でもいいから勝ちたいのだろう。
それが不意打ちであっても」
はあ、確かに何かにつけ絡んでいたけどもよ……。
「動かされるほうは迷惑だろ?
それで、俺はウルフを無傷で捕らえればいいのか?」
俺が聞くと、
「どちらでもいい。
あいつも自分がやった事の結末がどうなるかぐらいは知っているだろう」
ランヴァルド王は言った。
目は厳しい。
とは言え、殺すという選択肢は使えない。
イングリッドの事もあるしな。
結局「何とかしろ」ってことなんだろう。
ああ、まさか、バルトール王と一緒か?
反乱を治めることで、俺の力を認めさせるのか?
わかったよ。
何とかしてやるよ。
俺が扉を出すと、イングリッドとノーラが駆け寄ってくる。
「一人で行くのですか?」
イングリッドが聞いてきたので、
「ああ」
俺が言う。
「私はノルデン侯爵ですから、当然領都に行きます」
ふんと鼻息荒くノーラが言った。
「わかった」
俺は頷く。
「できれば……ウルフお兄様を殺さないで欲しい」
俺に抱き付き、イングリッドが懇願した。
「そのつもりだよ。
イングリッドの父親殿からのオーダーは『殺すな』ってことらしいからね。
それにしても嫌なオヤジだ」
俺が言うとランヴァルド王目線を逸らし下手な口笛を吹いていた。
俺とノーラは扉をくぐる。
「あっ、ノーラ様」
ノーラに気付き、集まる領兵。
今後の方針を聞きたいのだろう。
俺がセリュックの外壁の上に登ると向こう側にはすでにウルフが率いる数千の軍が陣を敷いているのだった。
拙い小説を読んでいただきありがとうございます。
新作で「トンネルを抜けると……転生してしまいました」を連載しております。
気が向いたら読んでいただけると幸いです。、




