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オッサン五人

誤字脱字の指摘。大変助かっております。

「マサヨシの独身最後の夜に乾杯じゃ!」

 ジョッキに入った酒を一気に煽るバルトール王。

「私の結婚式など、もう二十五年前です」

 ヘルゲ院長が言う。

 おう、銀婚式

「儂などもう百年は前だぞ?」

「私は、二百年だな」

「私は四十年ってところでしょうか?」

 長命種のバルトール王、メイナード王、ランヴァルド王の順に独身終了の時期を話した。

 王たちはとっくに金婚式越えか……。


「ところで、お前は何者なんだ?」

 メイナード王がオークプリンセスから揚げを齧りながら、いきなり俺に聞いてきた。

「俺ですか? 俺はただの成り上がりの自治領主ですが」

 適当にごまかしてみた。

「お前の過去を調べたのだが、クリスと出会う前のことがわからない。ポッとあの草原に出てきたとしか思えない。ドロアーテの門番に『森の中でずっと魔法の修業をしていた』と言ったそうだが、お前のような珍しい服を着ていれば、どこかで話題として出ていてもおかしくないだろう?」

「そんなことを言われてもな……クリスから聞いていないのですか?」

「まったく聞いてはおらん」

「メイナードよ、だから何なのだ? マサヨシはここに居て明日、我が娘と結婚する」

 バルトール王がメイナード王に言った。

「あの子は私の愛すべき娘なのだ!! なのに、どこの馬の骨ともわからない。いや、馬の骨なのかどうかさえももわからない男と結婚するという。確かに、自治領主で、各国に影響力も持っている。あのじゃじゃ馬娘を手懐けてもいる」

 メイナード王の顔が赤い。

 性格が変わってる。

「オッサン、メイナード王は酒が弱いとか?」

「ああ、あまり強くはないし、性格も変わる」

 ランヴァルド王(オッサン)が言った。

「要は悔しいんだろ? 盗られてしまうのが嫌なんではないか?」

 バルトール王が煽る。

「そうだ。でもな、人族ということ、生まれ育ちがわからないということ以外は、こんないい話は無い。割り切れない俺も情けなくてな」

「儂はクラーラがマサヨシの下に行ったことはいい事だと思っている。王位継承権を放棄したとはいえ、弟が手を出してくるかもしれないような環境よりも、ドワーフと共に働き愛する人の役に立つことをしているほうが楽しいだろうて。ヘルゲ殿はどうだ?」

「私はラウラがマサヨシの下に行ったことは良かったと思う。女らしさが表に出て丸くなった。騎士なんて男だらけの世界で生きてきたラウラがだ! 素性がわからなかろうが、私が信用に足ると思った男。皆さんもそう思ったから、可愛い娘をやるんじゃないんですか? ね、ランヴァルド王?」

「これは無茶振りですね、ヘルゲ殿。私の場合はイングリッドがマサヨシを選びましたから。それに従ったまでです」

 頭を掻きながらランヴァルド王(オッサン)が言った。


「俺がどんな人間かをクリスもクラーラもイングリッドもラウラも話していないんですね」

「儂は前に太っていたとは聞いたが……」

 バルトール王が言った。

「儂も聞いたぞ」

「それは私も知っています」

「私もですな」

 バルトール王の話にメイナード王、ランヴァルド王(オッサン)、ヘルゲ院長が合わせる。

 それは知っているんだ。


「私の出自は?」

 と四人に聞くと、バルトール王を筆頭に

「聞いてはおらん」

「儂もだ」

「私もです」

「私もですな」

 という返事が返ってきた。

「私の義理の父となる人です、話しておきましょう。ちなみに婚約者たちは知っています」

 俺の言葉を聞き、かしこまる四人。

「私はこの世界の人間ではありません。この世界には、事故に巻き込まれた時、死別し先にこの世界に生まれ変わった妻の呪いで飛ばされてやってきたのです。メイナード王が言ったように、ステータスは全てEXであり、創魔師という職業になっています」

「何? この世界の人間ではない? だから、足取りがつかめなかった訳か……」

 メイナード王が納得する。

「はい、別の世界の国に住んでいました」

「妻が居たのか?」

 バルトール王が驚きの声を上げた。

「はい、病死しましたが、結婚はしていました。この世界にホーリードラゴンとして生まれ変わったようです。この世界で亡くなったのですが、ゼファードのダンジョンマスターのリッチにその体を操られ、ラスボスとして存在していたのですが、私と戦って死体が消える際『あの子たちを愛するように』と言って天に昇っていきました。今羽織っているローブが彼女が残したローブです。ダンジョンを攻略したあとの事は、皆さんの知っての通りですね」

「メイナードよ、確かに知って安心する事もあるのだろうがな、聞かなくてもいい事もあるのだ」

 バルトール王は諭すように言った。

「フン、王は知ることが仕事だ」

 と、メイナード王は気色ばんでバルトール王に言い返す。

 しかし、

「すまなかった。確かに娘が幸せなら聞かなくてもいい事だった」

 と、俺に頭を下げるのだった。


 暫く飲み続けていると、

「にしても、魔族領の南は大いに発展しているな」

 メイナード王が言う。

「よく知っていますね。でも、岩塩鉱山や穀倉地帯などはあとから付いてきた物ですから」

 とランヴァルド王(オッサン)はニヤニヤ笑っている。

 まあ、確かに税収は増えているだろうな。

「ふむ、マサヨシから一番の恩恵を受けているのは魔族か……。しかし我々のところも貴金属の価格が安定した。さらに塩の値段が安くなって家庭に回りやすくなった」

 と バルトール王は髭を弄りながら、言う。

「それは、マサヨシがノーラ・ノルデン侯爵の後見人をしているのが大きいですね。直接手出しができる」

 俺を見ながらランヴァルド王(オッサン)が言う。

「私のところには何もないではないか!」

 赤ら顔のメイナード王が俺の肩を持ち揺すって言った。

「メイナード王。そんなこと言われても、顔を合わせたのは最近ですし、あまりいい印象はありません。ストルマンでは精霊騎士たちとやり合うことのほうが多かった」

「そうだな、試してばかりか……。すまなかった」

「まあ、テロフの件も有りますから便宜は図ります。まずは塩。買っていただけるのであれば貴金属も有ります。砂糖も蜂蜜もですね」

「うむ、まわせ。塩は魔族もそうだが我が国でも専売だ。南領からは遠くてな、高価になってしまう」

「メイナード王よ、商人にキャラバン隊をやめさせても利になるものが必要かと思います。我が魔族の国では、商人がキャラバン隊の儲けが少なくなることを恐れて岩塩鉱山のある村を襲わせたことも有ります。マサヨシの手勢により撃退されたようですが……」

 ランヴァルド王(オッサン)が忠告した。

「ふむ、確かに商人の収入が減るのも問題があるな」

 考えるメイナード王。

「商人がうちまで取りに来てくれるなら原価は安くしますが?」

 俺が言うと。

「しかし、距離がある。その辺のことは結婚式が落ち着いたら、クリスと一緒にストルマンに来るように。クリスと一緒だぞ!」

 やけに「クリスと」を念押すな。

 ん? クリスと会いたいだけ? 

 言ったら揉めそうか……。

 とりあえず、

「了解しました」

 と言って俺は流した。


「で、子供は?」

 ランヴァルド王(オッサン)が俺に聞いてくる。

「そういうのは授かりものでしょう?」

「一人頭二人でも二十人か……」

 ニヤリと笑うバルトール王。

「儂も早く孫が見たいな」

 ヘルゲ院長がぼそりと言う。

「メイナードよ、お前のところは孫がおらんのか?」

 バルトール王がメイナード王に振った。

「それがな、結婚はしているものの子はおらん。エルフは長寿のせいか、当たりづらい。儂もよく三人を作ったと思うぞ」

「孫かぁ……」

 感慨深げなランヴァルド王(おっさん)

 気が早いなぁ。


 酒が進み皆の顔が赤い。

 そんな時、

「知っているか、エルフ、ドワーフ、魔族の王が一堂に会することなどは滅多になかった」

 ボソリとヘルゲ院長がグラスを煽りながら言った。

「そうだなあ、メイナードと前回会ったのは二十年前か」

 バルトール王が言った。

「違うぞ、三十年前だ。酔ったのか?」

 ニヤニヤしながらメイナード王も言う。

「私は王子の時にメイナード王と、五年前にバルトール王と会ったっきりですね。三人が集まるということは確かに無かった。マサヨシの便利な魔道具のお陰でここに会することができた。そして、義理とはいえ人族、エルフ、ドワーフ、魔族、四つの国の王の息子となる」

「なに? マティアスも義理の父になるのか?」

 メイナード王が驚いて聞く。

「ああ、あのアイナって子はマティアスの落とし種ですよ。マサヨシのこの辺の国への影響力は絶大ですね」

 ランヴァルド王(オッサン)が俺を見ながら言った。

「面倒なだけですよ。ただ、皆で暮らしていける場所が欲しかっただけなのに」

 酒を煽りながら俺が言うと、

「仕方ないな。お前が出会ったものを大切にした結果、力を持つ権利と行使する権利を持ってしまったんだからな。儂だって王子に産まれたくて産まれたわけじゃない。王子として生まれた結果、王を継ぎ王となって国を動かす権利を持ってしまった。だから、せめて国を動かす権利を持ったのであれば、民に喜ばれようとは考えている。だから、お前はまず自分の身内に喜ばれるように頑張ればいいんじゃないのか? まだ小さな自治領のな」

「クリスに聞いたぞ『たまたま』なんだろ? だから、力を手に入れたのは『たまたま』だ。諦めろ。あとは力を持ってしまったお前の使い方次第ってことだろうな」

 バルトール王とメイナード王が諭すように言った。

「まあ、妻たちを泣かさないように努力します」

「それでいい」

 ランヴァルド王(オッサン)が頷くのだった。


 その後は、王たちやヘルゲ院長が我が娘の小さかった頃の話を聞くことになる。

 俺の知らない彼女たちの姿を知る親。

 出会った彼女たちが彼女たちであったから、俺は好きになったんだろうな。

 「彼女たちを育ててくれてありがとう」と思えた。


 結局、明け方まで飲むことになる。

 オールで飲みか……久しぶりだ。

 皆が赤ら顔で、苦笑い。

 急いで俺の魔法で酒を抜いた。

「さっ、お開きだ。そろそろ花婿を解放してやろう」

 バルトール王がそう言って笑うと、現場を軽く片付けるとメイナード王、バルトール王、ランヴァルト王は迎賓館へ、ヘルゲ院長は孤児院へ、俺は俺んちに向かうのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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