前の日
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
雪がちらつき始める季節。
結婚式の前の日になった。
一番最初に来たのが、ランヴァルド王とマルグレット王妃。
昼過ぎには、転移の扉のところから現れた。
「護衛を連れて来ないってどういうこと?」
「面倒だろ? 一応マルグレットのドレスの事もあるからメイドは数人連れてきた。あとはお前んちの孤児たちで何とかしてくれ」
とランヴァルド王がいった。
王城から連れてきたメイドが俺に会釈する。
おう、丸投げ……。
「信用してくれるのはいいがね」
「おう、信用してるぞ。今一番発展してるノルデン侯爵の後見人様だからな」
「美味しいお菓子も出してもらえると聞いていますし……」
えっ、それですか?
「そりゃ菓子も出しますが。今日はあまり出ませんよ?」
「?!」
愕然とするマリーさん……泣きそうだ。
「出ない……の?」
「あまり出ません」
「ちょっとは出るの?」
「ちょっとは出ます。焼き菓子とかケーキぐらいは」
「だったらいい」
ニコリと笑うマリーさん。
俺がランヴァルド王の顔を見ると、申しわけなさそうな顔をしていた。
俺は迎賓館であるクリスの母ちゃんの館へランヴァルト王夫婦とメイドを連れて行く。
「これがアウグストの館か、さすがだな。ほど良く主張していてしつこくない」
「そうね、コレなら迎賓館としても十分。あっ、祭壇もあるのね。結婚式をしてからの披露宴ってわけね。司祭は?」
「アイナがやります。司祭ができますから」
「まあ、自分の結婚式なのに司祭をするの? 珍しいわね。呼べば良かったのに」
マリーさんが言った。
「それでも良かったんですが、アイナがするって言うので……。まあ取引されましたがね」
「取引を? どんな?」
ランヴァルド王が聞く。
「んー言えないな」
と俺は答えた。
するとマリーさんが、
「ふん♪どうせ『最初に抱くこと』なんて言ったんでしょ? 順番争いが激しそうですものね。マサヨシさんのところは」
ジト目で俺に聞いてくる。
「さすがマリーさん」
俺がそう言うと、マリーさんがドヤ顔だ。
「まあ、アイナにはまだ手を出していないんだ。気にしているようだから。結婚式終わったあとで別にいいかなと思ってね」
「まあ、記念にはなるでしょうね。でもちゃんと皆を平等に愛さないとダメよ!うちのイングリッドだってよろしくね」
「畏まりました。当然大事にさせていただきます」
「よろしい」
マリーさんの許しが出たようだ。
階段を上り、奥の寝室に向かう。
「まあ、このサイン。家具もベッドも全部アウグストの作じゃない!」
マリーさんが驚く。
この辺はイングリッドも同じかな?
「詳しくはわからないけど……寝具以外は全部アウグストの物らしい」
「今の世じゃ、アウグストの作自体が一堂に集まることはないの。椅子などの家具は売られてしまうから」
「まあ、盗賊団たちがこの館の価値に気付いていなかったお陰ってのがあるんだろうね。それじゃここがオッサンとマリーさんの部屋。部屋にはクローゼットがあるから、荷物はそっちに頼むよ。その辺は連れてきたメイドさんたちでOKかな?」
「問題ないだろう。メイドたちの部屋は?」
ランヴァルド王が聞いてくる。
「こっち側はすべて使ってもらってもいいが、四人だったら余った部屋は荷物置き場にしてもらってもいい」
「了解した」
「食事になったら誰かが呼びに来る。それまではゆっくりしていてもらおうか」
「いいわね、新婚みたい」
ランヴァルド王にすり寄るマリーさん。
メイドたちがさっと部屋を出ていった。
「ん?あっ、そういうこと……ごゆっくりどうぞ」
部屋出る前に振り返ると、そこには悲しい目をしたランヴァルド王が居た。
再び迎賓館の前に行くと、ごっついドワーフの前に恐縮して傅くベンヤミンたち。
ごっついドワーフが手を上げると、ベンヤミンたちが去っていった。
「連れてきたわよ」
俺に気付いたクラーラの声と共に、
「来たぞ」
バルトール王の声も聞こえた。
「護衛は?」
「儂は一軍を相手にする自信は有るな……。それに、ここで暗殺も無かろう。服など自分で着られる。クラーラもおるし問題ない」
「宿はどうする? 親子水入らずでクラーラの家に泊まるのも良し。迎賓館にある部屋に泊まるのも良し」
「お前は?」
バルトール王が聞いてきた。
「俺んちで泊まるけど……」
「それでは面白くあるまい? 独身最後の夜は男同士で飲み明かすのが常だ。クラーラはお前の家で寝かせればいい。クラーラの家に男親たちを呼んで飲み明かせばいいだろう」
「決定事項?」
「当然だ。なに、集まらなくてもお前と差し向かいで飲めばいいだけの話。酔っ払っても、ほれ、前の魔法でちょちょいと治してくれれば、式にも出られる」
ヤレヤレだな。
「それいいわね、マサヨシの家で女子会をしてもいいし。マールやイングリッド、ノーラのお母さまも一緒に飲めば楽しいかも」
クラーラが便乗案を言い出した。
男と女で別れての飲みね……。
「俺はまあ、いいですけどね。夕食とかどうします?」
「そうだな、クラーラの家まで運んでもらえないか?」
「それでは、そうしますか……。飲む分の当ても要るでしょう? オヤジさん、男親に声をかけてくれるんでしょ?」
「それぐらいはしてやろう。どうせお前の土地を見回る予定だしな。ついでだ」
「だったら、私はお母さま方に聞いてみよっと」
「それじゃ、あとでな。勝手に見学させてもらおう。クラーラも行くぞ」
そう言うとバルトール王はクラーラを連れ牧場に向けて歩き始めるのだった。
家に戻ると、マール家族が居た。
「お忙しい中、参加していただきありがとうございます」
一応形だもんな。
俺はエドガーさんとモーラさんに頭を下げた。
エドガーさんが不安げに、
「いえいえ、私たちも呼んでいただいて感謝しております。マールに聞いたのですがメイナード王も参加されるとか?」
と聞いてきた。
「クリスティーナのオヤジさんだからね」
「王と同列で参加してもいいのでしょうか?」
「俺が知ってる身内にしか声をかけていません。だから、問題ないですよ。国同士の結婚でもありませんし、その辺は気にしなくても大丈夫」
「だったらいいのですが……」
俺の言葉では不安はぬぐえなかったようだ。
「旦那様がそう言っているのです。大丈夫」
マールがエドガーさんに言っていた。
「マール、迎賓館に連れて行ってあげてくれ。泊まる部屋にも……部屋は教えてあるだろ?」
「はい、わかりました。じゃあ、父さん母さん行きましょう」
そう言って、マール一家は迎賓館の方へ向かった。
オーヴェにガントさん、グレッグさんにリムルさん、木漏れ日亭のルーザさんは当日来るということだ。
最後に来たのがメイナード王。
クリスと共に現れた。
「遅くなったか?」
気にしているのかメイナード王が俺に聞いてきた?
「いいえ、全然。式は明日ですから問題なしです」
「クリスが養子縁組の書類を持ってきてな。それを終わらせるのに手間取った」
ヤレヤレ感満載でメイナード王は言った。
「クリス!」
「だって、面倒なことは一緒に終わらせたほうがいいでしょ?」
そっぽを向いて反論するクリス。
「面倒なことってお前……」
「テロフの事もあるし、仕方ないでしょ?」
「仕方ないと言われてもなぁ……」
「おう、メイナード、やっと来たか」
ごっついドワーフ、バルトール王が現れた。
「バルトールか? お前も?」
「マサヨシに娘をやることになってな」
「俺もだ」
王同士で旧知の仲なのか友達のように話し始めた。
「で、マサヨシの独身最後の夜を祝うために『飲もう』という話になっていてな。ランヴァルドにはメイド経由ですでに了解を取ってある。ちなみに発起人は俺だ」
バルトール王がニヤリと笑った。
「お前は飲みたいだけだろう?」
メイナード王も笑う。
「バレたか……。で、メイナードはどうする?」
「いいだろう、参加させてもらおう。クリス、部屋へ案内してくれ」
メイナード王はクリスを連れ、迎賓館に向かうのだった。
結局、王たちとヘルゲ院長そして俺がクラーラの屋敷で、残りが俺んちで女性陣に分かれて夕食をとることになった。エドガーさん夫婦は部屋食になったようだ。
サラに手間をかけさせてしまうが「弟子が増えてますから大丈夫」と言って受けてくれた。
「マサヨシよ、やっと来たか」
すでに赤ら顔のバルトール王。
そして男性陣の参加者はランヴァルド王、バルトール王、メイナード王、ヘルゲ院長、エドガーさんは王たちに遠慮して不参加になったということだ。
サラの温かい料理と冷えた火酒、ワインにエール。氷と水は容器に満たしておいて、足りなくなったら追加だな。
「それでは、マサヨシの独身最後の夜を、男たちで祝いたい。酒は行き渡ったかな?それでは開始だ」
オッサンだらけの飲み会が始まった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




