表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
293/328

結婚指輪

誤字脱字の指摘、大変助かっております。

 結婚式の準備が進んでいるのかどうか、自分でも把握しきれていない。

 当時のウェディングプランナーに言われた、

「結婚指輪だけは忘れないでくださいね」

という言葉をふと思い出す。


 あっ、結婚指輪を準備してねえや。

 防御の指輪を婚約指輪と考えれば、結婚指輪は必要だよな。


 そこで、

「すみません、結婚指輪って必要ですよね?」

 ノルデン侯爵領への帰り際、マルティナさんに聞いてみた。

 当然のように、

「当たり前でしょ。結婚式には全員の分が必要です!」

 との言葉が出た。

 おっと、ちょっと怒ってる。

 そりゃそうか、娘のことだ。

「ちなみに指輪にする素材は?」

 恐る恐る聞いてみると、

「この国では銀、金、白金、オリハルコン、ヒヒイロカネの順に高価になるの。私はフィリップから白金の指輪を貰ったわ」

 マルティナさんはフィリップに貰ったと思われる、左の薬指に白銀に光る指輪を大切そうに触っていた。

「でも、ヒヒイロカネの指輪は世の女性の夢ね。物語にしか出てこない結婚指輪」

「つまりヒヒイロカネの指輪を作ればいいわけですね」

「そう、どんな場所でもあの赤く輝く光は映えると言われている。王妃でさえなかなか手に入らない金属……でもマサヨシさんは手に入れられると聞いたけど?」

「はい、大丈夫です。何とかします」

 ヒヒイロカネって、やっぱり希少。

 まあ、俺んちから量を出さなきゃいい事。

 確かにヒヒイロカネは赤く、アルマイト加工したアルミのような発色をする金属であり、光り輝き映える。


 ドランさんの所へ行き、ヒヒイロカネの加工を頼むと、

「任せろ。必要なら金剛石も入れるか?」

「金剛石?」

「この世で一番硬いと言われている石だ」

 ああ、ダイヤモンドでいいのかな?

「クレイ、金剛石って作れる?」

 クレイが現れて、

「んー、作れるわよ。マサヨシの魔力をほとんど使って特大の作る?」

 とドヤ顔で言った。

「めっちゃデカいやつを求めているわけじゃないんだぞ! 指輪につける、ちっちゃいやつでいいんだ」

指で大きさを見せると、

「それだったら、すぐにできると思うわよ」

と、請け負ってくれた。

「だったら俺の知ってるので作りたいんだが、できるか?」

「大丈夫。その金剛石を想像してみて」

 俺はブリリアントカットのダイヤモンドをイメージする。

 屈折率を考え、一番輝いて見えるように考えられたカットだったっけ?

 妻に送ったダイヤモンドの結婚指輪にほんの小さなものがついていた。


 こんな感じだったかな?


 と、イメージしてみる。

「んじゃ作るわね。手を出して」

 クレイはそう言うと、手の上にカットされた十一個の小さなダイヤモンドが現れた。

 おう、ごっそり魔力が減る。

 そして、手に乗ったそのダイヤモンドをドランさんに渡した。

「見事な金剛石だな。この大きさなら取り付けられるだろう。任せておけ、最高のものを作るからな」

 そう言ってダイヤモンドを受け取ると、ドランさんは鍜治場で作業を始めるのだった。


 ん?

 ってことは婚約指輪の防御の指輪さえも渡していない相手が居る。

 何ならバレッタも銀鏡も渡してない。

 全員が平等って訳じゃないが、やはり渡すべきものは皆に渡しておいたほうがいい。


 すぐに、防御の指輪を収納カバンの中から探す。

 ん、人数分以上はある。

 防御の指輪はOK。


 次は銀鏡。

「ドランさん、ちょっと場所借りるよ」

 俺がそう言うと、

「好きにしろ」

 槌を振りながら振り返らずに返事をするドランさんだった。

 だれに渡してなかったんだっけ……。

 リードラ……銀鏡だけでいいか……。

 いや、やっぱりあったほうがいいね、バレッタ。

 あー、カリーネには指輪を渡したけど、バレッタや手鏡渡してないぞと……。

 あとの四人は全部渡してないや。

 俺は、手鏡を六枚作る。

「とりあえず人数分完成っと。ドランさんありがとね」

「おう」

 再びドランさんは振り返らずに返事をした。


 さて、バレッタだ。

 久々にバレッタを買ったドロアーテおばちゃんの店に行くと、

「あら、いらっしゃい。あんたん所で儲けさせてもらってるよ」

 と言ってにこやかに迎えられた。

 確かに制服やら下着やらで結構注文していたはず。

「そりゃ良かった。今日は服じゃないんだ。バレッタってまだ残ってる?」

「あれはもう無いよ。何か月経ってると思ってるんだい?」

 そりゃそうだよなあ。

「製作者は?」

「わからないねぇ……ぱっと見て綺麗だったから仕入れただけだからねぇ」

 作者不明か……。

 こりゃ似せて作るしかないよな。

 俺は頭を掻いた。


 仕方ないので俺が牧場の縁側でバレッタの製作に勤しんでいると、

「おとうさーん」

 エリスがキツネの大きな尻尾を振り振りやってきた。

「何してるの?」

「ん? バレッタを作ってる。髪を留める金具の部分が結構難しくてな」

「あっ、これアイナちゃんが使ってる奴」

 エリスは目敏く気づく。

「正確に言うと、それに似せた奴だな」

「何で作ってるの?」

「ん? クリス、フィナ、アイナとマールには渡していたんだが、リードラとかカリーネには渡していないんだ」

「ラウラさんやイングリッドさん、ノーラさんにクラーラさんも?」

「そういうこと。情けないが忘れていた……ってわけだ。今更だが渡しておこうかとね」

「そうだね、お母さんも羨ましそうだったから喜ぶと思うよ。で、私は?」

 縁台で手を動かす俺を覗き込むようにエリスが聞いてきた。

「要るのか?」

「うん!」

 大きく頷くエリス。

「そうだなぁ、出来上がったら持って行くよ」

「ヤタ!」

 この子にも頭が上がらなくなりそうだ。

 エリスの手鏡も作った。


 そして、遅ればせながら渡していく。


 リビングに居たリードラに声をかけると、

(ぬし)よ、どうした?」

 と、聞いてきた。

「ん? バレッタとか銀の手鏡とか渡してなかっただろ?」

「わっ、(われ)は興味は無いが……」

 と言う割には動揺し、俺の手にあるものをガン見のリードラ。

 興味がないわけではないようだ。

「バレッタはリードラの髪の色に合わせた白だ。黒縁(くろぶち)つけてるから目立つだろう? ホーリードラゴンにならない時はつけておいてくれ。鏡は、まあ、使いたかったら使えばいいや」

 リードラはバレッタと鏡を受け取りながら、

「前、(われ)にその二つを渡さなかったのはなぜじゃ?」

「ああ、『ドラゴンになる時に邪魔かなあ』と……思ってね」

「確かにドラゴンの時には必要ないが、最近ではドラゴンでおる時間のほうが少ない。それに(われ)とて女じゃぞ?」

「そうは言うが、さっき『興味が無い』って言って無かったか?」

 俺が聞くと、

「うっ……」

 言い返せないリードラ。

「ごめんな。俺も綺麗な白い髪にアクセントが要るかと思ってたんだ。しかし、思ってただけで行動を起こしていなかった。本当に申し訳ない」

 俺が謝ると、

(ぬし)はズルいな。(ぬし)が謝って(われ)が許さないとでも?」

 口をとがらせながらリードラが言った。

 拗ねたかな? 

「それでも謝る。俺は間違っていたからね。だから『ごめんなさい』だ」

 すると、

「そうじゃな……」

 リードラは宙を見て少し考え、

「許してやる代わりに(われ)を抱くこと。誰もおらぬ場所でな」

 と言って口角を上げた。

 畏まりました。


 久々にゼファードの冒険者ギルド、ギルドマスターの部屋に向かう。

 そこでは、カリーネが机で事務仕事をしていた。

 んー、なぜか緊張。

「いらっしゃい。緊張してどうしたの?」

 そんな俺を見て不思議そうな顔をしたカリーネが居た。

「ん? ちょっとな」

「もったいぶって……で、何?」

「渡してなかったものを渡しておこうと思って」

「渡していないもの?」

 書類を置いて立ち上がるカリーネ。

「バレッタと手鏡」

「あっ、ダンジョン攻略メンバーが持っていた奴ね」

「正確に言えばリードラ以外が持っていた奴」

「でも私の髪は間から耳が出てるから。けっこうアクセントあるのよね」

 気にしないふり? 

 エリスは「気にしてた」って言ってたんだがなあ。

「そういや、カリーネの髪は後ろで編んであったな」

「エリスが編んでくれるからね」

 編んだ髪を後ろから前に出した。

 左肩から前に垂れる。

「じゃあこれ」

 さっと、バレッタを取り付ける。

 銀に赤縁(あかぶち)の物だ。

「やっつけっぽいけど、まあいいわ」

 カリーネはそう言いながらもバレッタを優しく触っていた。

「すまんかったな」

 俺がそう言うと急にカリーネは胸を張り、

「エリスが妹か弟を欲しがっているって言ったわよね」

 見下ろすように俺に言う。

「確かに言ったな」

 俺は答える。

「だったら、わかってるわよね」

「そりゃな。俺も大人だし」

「よろしい! 許してあげる。今日は無理だけど、楽しみにしてるわね」

 ニヤリと笑うカリーネ。

「してやったり」ってことかね。

 まあ、機嫌がいいからいいか……。


 イングリッドに持って行くと、

「ずっと待っていたんですよ! クリスさんとか普通に着けているし……」

 やっぱり気にしていたようだ。

 早速紫色のバレッタを髪に着けていた。

 イングリッドは鏡で自分を見て具合を確認していた。

「んー、遅くなって申し訳ない」

「だったら、私を愛してください。授かりものだというのはわかっていますが、私とあなたの子供が欲しい。あなたと皆で子供を育てていきたい」

「子供かぁ……正直実感無いんだよなあ。出来たら可愛いんだろうか?」

「可愛いに決まっています!だから、待ってますね」

 そう言うとイングリッドはにっこりと笑うのだった。


 ノーラの執務室に行き渡すと、

「やっと渡してくれたんですね」

 と、涙を流すノーラ。

「気になっていた?」

「そうですね、私は皆の中に入ったのが遅い方でしたから指輪がもらえないかと思っていました。あなたが私を大切にしてくれるのはわかっていたのですが、不安だったんです」

「申し訳ない」

「いいんです。私のことやノルデン侯爵領の事をあなたが考えているのもわかっていたのに、不安を持っていた私が悪い」

「でも、俺も忘れてて、やっつけのようになってしまった。申し訳ない」

 頭を掻きながら俺は謝る。

 するとノーラが、

「私はあなたが好きなんです。申し訳ないと思うなら、誘ってくださいね」

 と、恥ずかしげに言う。

 誘うってのはアレのことなんだろう。

「了解! 今度、侯爵様を誘わせてもらいます」

 俺がそう言うと、ノーラは嬉しそうに俺を見ていた。


 そして、クラーラ、

「これでクリスに嫌味を言われなくて済むわ」

 軽くため息をつきながら言った。

「そう? クリスが嫌味を言ってたんだ」

「まあ、あの子はあまり気にしていないんだろうけど、やっぱりね……。持っていないから言い返せないのが悔しかったのよ」

 クラーラが苦笑いである。

「悪かったな、気にさせてしまった」

「今ちゃんと私に防御の指輪をくれたでしょ? だからいいの。あなたの妻になる女性が多いのは知ってる。でもやっぱり、たまには抱いて欲しいかな。だって、夫婦になるんでしょ?」

 小さな体を前に出し、俺に近寄るクラーラ。

「おっおう」

 押され気味の俺。

 小さな体に似合わない力で俺を押し倒しながら、

「別にお父様の後継ぎにする気はないけど、孫も見せたたいしね」

 クラーラが言った。

「おっおう」

 攻められる俺。

「だからこのまま」

 そう言うクラーラに俺は流されていった。

 んー、俺も相変わらずだ……。


 王都騎士団の詰め所に行くと、部下に稽古をつけるラウラ。

 ラウラが俺を見つけると、隣に居る副官に何か言って俺に近づいてくる。

 隣に居るラウラの首筋から汗のにおいと少し甘い香水のようなにおいがする。

 前は汗の臭いだけだったような……。

「悪い、邪魔だったか?」

「いいえ、大丈夫。一応隊長なのよ。だから融通もきくの。でも、こんなところまで来るのは珍しい。どうしたの?」

「ん? ああ、話ができる場所はあるか?」

「じゃあ、こっちへ来て」

 俺はラウラの後について部屋の一つに入った。

「で、話って?」

「申し訳ない。俺は皆に防御の指輪を渡してたんだ。今更だが、婚約指輪代わりに貰ってもらえないかな? あと、銀鏡とバレッタも」

 ラウラに防御の指輪を見せると、恥ずかしそうにラウラは左手を出す。

「入れろ」ってことなのだろう。

 俺はその薬指に防御の指輪を入れた。

 ただ、指輪を入れるだけの行為。

 女性にとっては人生が変わること。

 ラウラは喜び涙を流す。

「嬉しい」の一言が、俺が忘れていたことの重さを知らせてくれたような気がした。

 訓練のためか、邪魔にならないよう上げていた髪を下ろす。そして早速オレンジに黒縁(ぶち)のバレッタを着けた。

「似合うな」

 その俺の言葉を聞くと、

 ラウラはポッと頬を染め微笑むのだった。



 数日後、アイナが目敏くバレッタが皆に渡ったことに気付いたようだ。

「マサヨシ、あれ、おばちゃんの店で買ったの?」

 リードラが着けたバレッタを指差して言った。

「いや、おばちゃんの店に無かったから、俺が作った」

「むー、羨ましい」

 アイナがちょっと膨れる。

「そんなこと言われても、お前のほうが先に持ってるしなあ」

「そうだけど、手作りが丁寧な上に綺麗」

 とっさに

「バレッタの前期型と後期型で納得してくれないだろうか?」

 と言ってしまった。

 戦車じゃあるまいに……。

「なにそれ? でもマサヨシが困ってるようだから我慢してあげる」

 そう言って、アイナが去っていった。


 ふう、十人平等って難しいよ。

 忘れていた俺も悪いんだがね……。

 結婚したらどうなるのやら……。

 自業自得だけどね。


 ーーー番外ーーー

「エリス、これやる」

「あっ、できたんだ。指輪まで……まさか私も?」

 意地悪そうな顔をしてエリスが言った。

「エリスを妻にするのは無いからな、俺の娘になるからだ。もし結婚指輪が欲しいなら、アクセル辺りに貰ってくれ」

 エリスは少し考えると、

「そうだね。アクセルならいいかなぁ」

 そう言って空を見上げる。

 俺は冗談で言ってみたつもりだが、エリスは肯定した。

 本気のようだ。

 アクセルよ、お前は俺と同じ道を歩みそうだ……頑張れ!



ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ