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コカトリスと物件購入

 コカトリスの群れが高速で牧場の敷地内へ入ってきた。俺は母屋の外に出る。気配を感じたのか、三人も俺についてきた。

「んー、こういうコカトリスみたいな魔物が使う状態異常はどういうふうに回避するの?」

「当たらなければどうと言うことは無いわ。コカトリスの嘴の攻撃に当たると石化するの。コカトリスは単体でいることは少ないから、周りを囲まれて突っつかれて石化するパターンが多いわね」

 クリスが説明してくれた。

「マサヨシ様、コカトリスの肉と卵は絶品です。希少価値が高いから、結構なお値段になります」

 フィナ、口元に涎が……。

「石化されたら、キュアーする」

 アイナが胸を張る。

「その時は頼んだぞ」

 しかし武器らしい武器といえば、クリスのレイピアぐらいでフィナは素手、アイナは回復魔法のみか……。盗賊討伐で得た武器もあるが、今すぐ出す余裕がない。俺が頑張らないとな。


 そうこうしているうちにコカトリスの群れが現れる。「コカトリス」、雄鶏の体に蛇の尻尾の怪物って聞いたことがある。しかし、見た感じ雄鶏っぽいのは先頭の一羽のみで、あとは雌鳥っぽかった。

「あの先頭の奴、ちょっと大きいよな」

 通常のコカトリスの大きさが二メートル程度なのに比べ、先頭に立つコカトリスは二メートル五十センチと頭一つ大きかった。

「あれは、コカトリスリーダーかもね」

「コカトリスリーダー?」

「『群れを統べるボス』って感じかしら。私たちで言うとマサヨシみたいなものよ」

「苦労してそうだなぁ」

「「「ん?」」」

「いえ、何でもないです」

 俺は目をそらす。


 そのコカトリスリーダーが前に出てくる。何となく嫌な感じ。

「マサヨシ、あのコカトリス威圧してる」

 アイナが背伸びをして耳打ちしてきた。

 前の世界で言う「メンチを切る」って感じだろうか? 鶏が歩くように頭を振り、微妙に角度を変えて俺を睨んでくる。威圧って感じはしないんだけどな。ちょっとイラっとする。

 ここは負けてはならないと思って、本気の威圧をすると、コカトリスリーダーが腰を抜かした。

 周りのコカトリスから冷めた目で見られる。リーダー以外は全部嫁? 「コケコケ」となにか責められているようだ。すると、なにか吹っ切れたのか、コカトリスリーダーの雰囲気が変わった。


「コケーコココ、コケ!」

 羽で手揉みをしながら話しかけてくる。どこで手にいれた? その交渉術。プライドを捨てたのか? まあ、当然、俺にはわからないが、

(お兄さん強そうでヤンスね!)

 と言ってるように感じた。

「コケーココケコケケ、ケコケッコケコ。ケケココケコケエーッケコ。(折り入って相談があるんでゲス。群れの中に産卵時期の者が居るんでヤンス)」

 なんだ俺、こいつの言うことがわかるぞ? 

「ココケコケエッコケケケキケッコケコ、ココッケケコオケ? (この平原を使ってないなら、しばらく使わせてもらえねえでゲしょうか?)」

「仕方ないな。使ってもいいが人を襲ってはダメだぞ」

「コケー(ありがとうございます)」

 コカトリスは頭を下げそう言うと、というか、そう言ってる感じがするだけなんだが……会話が成立している気がする。


 後ろにいるコカトリスたちと話し合いを始める。色々嫁たちに言われているようだ。今までの失態を追及? リーダーとは言え、嫁さんたちには頭が上がらないか……。親近感を覚えた。

 しばらくすると、コカトリスたちは、柔らかい草を集めたり、地面をお椀型に掘り出したりと、てきぱき巣作り作業を始めた。

 ちなみに、後でリーダーが言ってくれた内容では、コカトリスは産卵場所に平地を選ぶが、周辺が森林地帯であったため、なかなか平地がなかったようだ。嫁に急かされて見つけたのが物件の牧場で、ここで産卵できて助かったと言っていた。つか、聞こえた。

 こいつらは問題となったコカトリスの集団ではなかったのかな? 


 アイナが俺の袖を引っ張る。

「ん? どうした?」

「なに話してたの?」

「コカトリスの卵を産む場所を貸してくださいだってさ」

「貸したの?」

「ああ、貸したぞ?」

「まだ、家買ってないけど……」

「帰って契約するから大丈夫」

「あの家嫌か?」

「広くて、みんなで居られるから、ここがいい」

「だな」

「クリス、フィナ、俺とここで住まない?」

「プロポーズ?」

「プロポーズですか?」

 二人ともグイグイ来るな。

「違うから。お前らと居たら面白そうだからね」

「違う? 今はそれでいいかな? 私もあなたと居たら面白そう、だから一緒に居る」

「私もです」

「私も」

 アイナも便乗か、

「それじゃ、ここは買いってことでいい?」

「「「はい!」」」

 そして俺たちは、この牧場を買うことにした。


 例の扉を使い、ドロアーテの冒険者ギルド裏まで戻る。結局三時間ばかしの旅行だった。俺たちは、冒険者ギルドの中に入ると、早々に受付へ向かう。

「すみませーん! リムルさん居ます?」

「あら、マサヨシさんどうなさったので?」

 リムルさんが奥から出てきた。

「さっきの物件買いで、お願いします」

「えっコカトリスは?」

「牧場に居ますよ? 確認してきました」

「コカトリスが居るのに買うんですか?」

「はい、結構話しやすいコカトリスでしたよ?」

 コカトリスと話すなんて思わないだろう。正確には言うことを何となく感じただけだが。

 リムルさんは困惑していた。

「マサヨシさんと話をしてると、訳がわからなくなります。とにかく、買いですね」

 リムルさんが悪い顔で笑う。物件を処理するとマージンでも貰えるのだろうか。

「はい、買いますので手続きをお願いします」


 リムルさんの事務処理は早く、少し待つ間にサインをすれば良いまでになっていた。

「マサヨシさんここにサインをいただければ、あの家は、あなたの物になります」

 二枚の契約書と羽根ペンを渡された。

 そういえば、マンションを買うときはハンコやら何やらと手続きが面倒だったのを覚えている。まあ、それは契約に絡む人の多さだったのかもしれない。ここではシンプルに冒険者ギルドとの契約。

 俺は、契約書を見て不備のないことを確認。金貨五枚と共にサインをした二枚の契約書をリムルさんに渡した。

 リムルさんは再度確認を行った後、

「これで、あの牧場はあなたの物になりました」

 と、控えの契約書を渡してくれた。それを俺は鞄にいれる。

 この世界では意外と簡単に家を買うことができた。それも良いものを安く……。コカトリス様様だった。


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