参加、不参加1
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
結婚式の参加不参加の確認を行うため、遠方から家庭訪問を行うことにした。
「クリスと来るのはあれ以来か」
「テロフがらみ以来ね」
町中を歩きながら、二人で話していた。
「ようよう、いい女連れてるじゃねえか」
いつの時代のチンピラだ?
久々に聞いた台詞。
「エルフでもこういう手合いいるんだな」
「恥ずかしいけど、居ない訳じゃない」
クリスが頭を抱えた。
軽く威圧すると、失禁して泡を吹く。
そのまま無視をして、城門に向かうのだった。
「私よ、クリスティーナ。お父様に会えるかしら?」
扉を使っても良かったのだが、今回は正面から入ることにした。
「少々お待ちください」
門番は急いで城の中へ入る。
先触れなしで来た俺たちも俺たちなんだよなあ。
「国王様は、執務中です。お部屋に入ってお待ちくださいとのことです」
門が開き俺たちは城に入っていった。
クリスの部屋はきれいに掃除されており、俺とクリスは椅子に座って待っていた。
「俺ら監視されてるけど、どうする? 敵意はないな。俺たちの監視だけのようだ」
レーダーをみると俺たちの真上に光点が輝く。
盗み聞きのようだ。
「お兄様辺りが、私の婚約者の様子を調べさせに来たんじゃないかしら」
「気絶させておく?」
「それでいいと思うわよ」
フウに頼み、酸欠で意識を刈った。
「今更なんだが、クリスのオヤジさん何て名なんだ?」
「確かに今更ね。言わない私もだけど、聞かないあなたもあなたね。お父様の名前はメイナードって言うの。ちなみに兄の名はブルース。さて、何で私たちの監視をしているのかしら?」
「それこそわからんね。直接聞くしかないだろう?」
「そうね、誰かが呼びに来るでしょう。それまでどうする?」
「どうするもなにも、することが無い」
「この部屋ってカギがかけられるの」
「だから?」
「ねっ」
「待て待て待て……何故その方向に?」
「だって、あなた最近してくれないじゃない」
「いろいろと忙しいんだよ」
なんか、なんちゃらレスの夫婦の会話だな。
早く呼び出しが来ないかね。
と思っていると「コンコン」とクリスの部屋がノックされた。
「なあに?」
クリスが聞く。
「王がお呼びです。執務室のほうへ来てくれとのことです」
「わかったわ、すぐに行きます」
俺の心の声が聞こえたのか、意外と早く呼び出しがかかった。
俺とクリスは執務室へ向かう。
執務室の扉をノックすると、
「誰だ?」
という、クリスのオヤジさんの声が聞こえた。
「クリスティーナです」
「入れ」
一連の流れから、俺とクリスは中に入った。
俺たちが入ると、
「で、何か用か?」
とオヤジさんは聞いた。
「マサヨシが『結婚式の期日を教えておけ』とうるさいから来たの」
「ほう、ついに結婚式か。ちなみにいつだ?」
「十二月一日。『来れるなら来てもらえ』とマサヨシが言ってる」
「お前たちの居る場所まで行くのに何カ月かかると思う? 無理だ」
オヤジさんは言った。
「ですよねぇ。じゃあ、不参加でいいわね」
「仕方あるまい、往復で半年はかかる。その間国を空けるわけにはいかないからな」
ふむ、クリスは言わないつもりか。
「その点は大丈夫です。俺の魔法で直接会場まで送ります。前日に入って一泊して式を行いそのまま披露宴へ、そして一泊して朝にここに連れて来ます。二泊三日ぐらいで問題ありません」
「二泊三日か……。そのくらいなら何とかなるか……。わかった、調整しよう。ということは、前日の十一月三十日(この世界ではひと月が三十日の三百六十日で一年である)に迎えがあるということだな」
「はい、そこで、会場に付帯した宿泊施設で泊まってもらいます。大人数は泊まれませんから、お付きは五人程度にしていただけると助かります」
「わかった、公の訪問とはしない。付き従う者も最小限にしよう」
「では、十一月三十日にお迎えにあがります」
「頼む」
「えー、お父様来るの?」
クリスが駄々をこねる。
「当たり前であろう? 娘が結婚するのに参加しない親はいない」
「俺も来てもらったほうがいいと思う。綺麗なところを見てもらえ」
「もう……しかたないわね」
渋々ながらクリスは納得したようだ。
そして、そのまま扉を出し、家に帰るのだった。
「無理に来てもらわなくても良かったのに」
俺に愚痴を言うクリス。
「それでも、来てもらったほうがいい。一応一度だけの予定の結婚式だろ?」
「『一応』は余計」
「はいはい」
「『はい」は一回」
「はい」
「ん、もう……」
ちょっと、拗ねたかな?
「親ってのは、子が成長した姿を見たいものらしいぞ? せっかくのドレス姿、見てもらっておけ」
「わかったわよ」
クリスは仕方なさそうに言うのだった。
クリスのオヤジさん出席。
次はマールんち。
ヒヨーナのアパートの前まで扉で飛んだ。
いつも通りの突然の訪問。
しかし、エドガーさんとモーラさんは温かく迎えてくれた。
「結婚式を十二月一日に行うことになりました。参加していただけないでしょうか?」
「参加するにしろ、ここからあなたのところまでは、長い旅になる」
位置関係を理解しているのだろう、まあ、この世界の移動は徒歩か馬。時間がかかるのは仕方ないのだろう。
「私は魔法使いです、このヒヨーナに来るのもあっという間です。参加していただけるのであれば、前日の十一月三十日に迎えに来ます」
「わかりました。参加させていただきます。いいな、モーラ」
「はい、マールの所へ行きましょう」
マールの両親出席。
クラーラの親である、バルトール。
「十二月一日に結婚式をします」
俺が言うと、
「行くぞ。儂一人で行く……いや、それは許してくれんだろうな。二、三人連れて行く。マサヨシが転移系の魔法を使えるんだろ? なら、あっという間だ」
即決である。
「当然うまい飯と美味い酒は準備してあるんだろうな?」
「一応、サイクロプスの肉は出します。あとは料理人次第。腕は確かなんで問題は無いかと」
「サイクロプスか。一国の王でも滅多に食べられない肉だ。それは楽しみだな」
要は飲み食いしたいだけらしい。
「じゃあ、十一月三十日に迎えに来ます」
「心得た」
クラーラのオヤジさん出席。
「よう、ガントさん、お久しぶり」
「おう、自治領主様じゃねえか」
「よく知ってるな」
「噂にはなってるからな。で、どうした?」
「そうだな、俺の結婚式に出てもらいたい」
「いつだ?」
「十二月一日」
少し考えると、
「ちなみに参加者は?」
と、ガントさんは言った。
「えーっと、今のところランヴァルド王とバルトール王、あとメイナード王、ヘルゲ元子爵ってところだけど……ああ、マールの両親も来る」
「王が三人って……俺の出る幕ないじゃないか」
「関係ないだろ。たまたま俺の相手がそうだっただけだ。それにガントさんには、フィナの親代わりで出てほしい。ダメかな」
ガントさんは腕を組んで考え、
「えーい、フィナのためだ。喜んで出席させてもらうよ」
と、諦めたように言うのだった。
ガントさん出席。
王都オウル。
王宮の執務室。
「お久しぶりです。アクセルのこと以来ですか」
俺はマティアス王の前に出る。
「何者だ! どうやってここへ入ってきた!」
護衛の騎士たちがマティアス王を囲む。
マティアス王がそれを制すると。
「来るときは先触れをして欲しいな。護衛が居ると話せないこともあるだろう?」
「申し訳ないですが、できれば護衛を下げてもらった方が助かります」
マティアス王は、
「こいつが悪名高き『貴族殺し』のマサヨシだ。私は少し話がある。お前たちは少し出ていてくれ」
「王よ、よろしいのですか?」
隊長らしき騎士がマティアス王に聞いていた。
「気にしなくていい。悪い事をしていなければ、手を出したりしない」
「扉の外で待機しております。何かありましたら、すぐにお声がけを」
騎士たちは扉の外へ出ていくのだった。
「どうした?」
マティアス王は机から立ち上がり、俺に聞いてきた。
「ああ、アイナとの結婚式の件です。参加不参加を聞きに来ました。十二月一日です」
「そうか、元気でやっているか?」
「元気でやってますよ。ただ変わりすぎてわからないかもしれませんね」
エイジングの薬でどうなったのかまでは、マティアス王は知らないからな。
「そうか……」
マティアス王は少し考えると、
「私は出られん。出る資格も無いだろうしな」
「そうですか……。オウルを不在にする期間は三日ほどになりますが、それでも?」
「ああ……。こっちにも色々あってな。三日不在にすればこの国はバラバラになってしまう。後継ぎが決まらないのが原因だ」
オークレーンの余韻が未だ続いているのか。
そういえば、この王宮で王に護衛がついていたのは初めてだな。
マティアス王は俺の肩に手を置き、
「アイナの事は頼む。私はここからあの子の幸せを願っているよ」
と俺の目を見て言う。
「わかりました。少しは期待していたのですが、仕方ありません」
「悪いな」
そういうと、マティアス王は離れていった。
帰れということなんだろう。
マティアス王、欠席。
ついでに、ミスラのところにも行った。
「おう、お久しぶり」
「マサヨシじゃないか」
ミスラが机から立ち上がる。
「ラウラとの結婚式をするんだが……忙しそうだな。王の傍に騎士が居た」
ミスラの顔が歪む。
「マティアス王は敵が多い。結局アクセル王子以外の子にも貴族がついていてな。オークレーンほどの力はないにしろ我が娘の子が王になれば権勢を謳歌できると思っている。どの貴族が手を出すのかはまだわからない。何かが起これば、王を弑逆するだろう」
敵ばかりって訳か……。
「ミスラはそのせいでラウラの結婚式には出られないか……」
「王都だけでなく王を守るのも俺の仕事だしな。ラウラを頼む」
そういうと、ミスラは騎士団詰所の執務室から出ていった。
ミスラ、欠席。
オセーレの王宮。
ランヴァルド王の部屋に繋いだ。
扉の向こうからウルフとランヴァルド王の言い争う声が聞こえる。
「こんにちは、お邪魔でしたかね」
「なぜおまえが!」
おう、めっちゃウルフが怒ってる。
「なぜも何も、報告に来ただけだが?」
「何のだ?」
「イングリッドとの結婚式の日取りについて」
「そうか、やっと決まったか!」
ランヴァルト王が机から身を乗り出してきた。
「十二月一日に行おうかと」
「わかった、その日の前後は開けておく。私とマリーが出席するぞ。前日から入ればいいのか?」
おう、即決。
「はい、其の段取りでお願いします。詳細なスケジュールが決まればまた連絡するよ」
「わかった、マリーが楽しみにしていたのでな、報告しておこう」
ランヴァルド王、マリーさん出席。
蚊帳の外のウルフが、
「丁度良かった」
と言って俺を睨んできた。
「マサヨシよ、ノルデン侯爵領の事だ」
苦笑いをしながらランヴァルド王が言う。
「で、なにか?」
気にしない風に俺は聞く。
ちょっと嫌味が入ったかね?
「ノルデン侯爵領に農民が移動しすぎて文句が出ている。まあ、儂がそのことを野放しにしているのが気に入らないのだろう。貴族どもがウルフに取り入っているって訳だ」
「要はノーラが妬まれているってこと?」
「そういうことだな」
「それだけではない、南領からの塩のキャラバンより安い岩塩を採掘し、商人の邪魔をしているともいう」
鼻息が荒いウルフ。
「高い南領産の塩を買わずにうちの岩塩を仕入れている。それを専売で売っているんだろ? 王宮は儲けているんじゃないのか?」
「そうだな、塩の売価は下がってはいるが、実際に私たちに入る収入は増えている」
「ちなみに、ベーン伯って貴族とクラウス商会って商人が結託して盗賊団を抱き込み、うちの村を襲ってきたぞ? 盗賊団は犯罪奴隷としてうちで頂いた。ああ、クラウス商会はキャラバンをもう出せないだろうな。街道沿いの塩の販売を独占したからね」
「それでは、この国に入る税が減る」
「何でだ? ノルデン侯爵は税を払うぞ? 逆に増えるんじゃないのか? 努力もせずに、泣きついてきた貴族たちの言葉を鵜呑みにして、代弁をしたって意味がないと思うんだがね。農民が出ていくのは、それまでの農政が上手くいっていなかったから。今まで通りで問題ないのなら、長旅をしなければいけないような土地に、すでに土地を持った農民が長年耕してきた土地を捨てて移動することはないだろう? 俺たちは元々、次男三男を求めていたんだ。できる限り他の貴族の邪魔にならないようにしていた。それでも、土地を捨てるって事は苦労しても移動すべきだと判断する何かがあったからじゃないのか?」
「そうかもしれないが、領土から人が居なくなるのは死活問題だ」
ウルフの勢いがなくなってきたかな?
「俺だったら自分の土地を広げるいい機会だと思う。残った農民に貴族が指導して小さな畑を繋ぎ、大きな一枚の畑にして生産の効率を上げる。そのままでは労働力が足りないというなら、貴族が農耕用の馬や牛の貸し出しをしたりすれば、大量生産で生産性が上がり税収が上がると思うんだがね。収入が上がれば、農民たちが馬や牛を買い、独自に生産を始めるだろう。考え方次第だと思うんだ。貴族ってのは経営者でもある。農民の流出があったのなら、それを留める努力、そしていなくなってからの努力が必要じゃないのか?」
農機具を共有にして使うのは農協が典型だよな。
ただ、俺は知っていてウルフたちは知らない。
その辺の差は大きいか……。
「…………」
ウルフが黙ってしまった。
そして俺を睨みつける。
「そのくらいにしておいてもらえないか」
ランヴァルド王が俺を止めた。
「言いすぎた。ウルフ、悪かったな」
俺はそう言うと、デュロム村へ向かうのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました




