段取りについて
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
リビングのソファーで天井を見てふと思う。
誰を呼ぶ?
んー、ランヴァルド王とマリーさん。
バルトール王とクリスのオヤジさんは……名前知らないけどこれも呼ぶか。
来るかどうかは知らないが、マティアス王は……まあ、呼んでもいいな。
エリスはカリーネの横か。
ヘルゲ院長は確定。ミスラは?
マールの両親エドガーさんとモーラさん
ノーラのところでマルティナさん、オーヴェもだな。
木漏れ日亭のルーザさん。
ドロアーテのギルド関係のグレッグさんとリムルさん。あとは……アクセルとテオドラ。テロフにタロス。ガントさん夫婦。
サラとエーリクは厨房で頑張ってもらうか。
カールとブロル位かな。
あれ? こんなもの?
まあ、他に知り合いがいるわけじゃないからこんなもんか。
「何やってる?」
アイナがやってきた。
「ああ、結婚式のこと考えてた。誰を呼ぼうかとね」
俺は天井を見たまま言った。
「ふーん、するの? 結婚式」
「するつもりだけど? お前、マティアス王に来て欲しいか?」
「来て欲しいかなんてわかんない。私の姿を見てもわからないかもしれない。それに私のお父さんはここに居たから」
俺を指差してアイナは言った。
「俺は『お父さん』らしいことはできなかったよ」
「わたしには少しの間でも『お父さん』だった。仲間や家族を教えてもらった。優しいし、強いし。だから、血のつながりが無いなら、大人になってあなたの妻になりたいと思ったの」
急に大人びた口調に変えられると、やり辛いな。
「私は成長して、やっとみんなに近づいた」
エイジングの薬で大きくなれて嬉しいのかニコリと笑う。
「迷惑な話だ。どんだけ心配した事か……」
「それはそれ、これはこれ」
アイナがニヤリと笑う。
「そんな言葉誰に教わった?」
「クリスとクラーラ」
「あいつら……」
そう俺は呟くと頭を掻いた。
アイナは女子会にも参加しているから、周りの婚約者に影響を受けるのかもしれない。
「何度も言うが、俺はアイナには無理してほしくなかったんだ。が、もう諦めた。お前が努力して大きくなった」
そう言うと、俺はため息をついた。
「私が大きくなったのは嫌なの?」
不安げに、アイナが聞いてきた。
「んー、わからない。でも、あんだけ耐えて、小さかったアイナがこんな美人さんになったんだからな」
とはいえ……まだ納得はできていないんだろうなぁ。
「なら、なぜ私を抱かない? クラーラも手を出したって聞いた。貴方を受け止めて子供を産める体にもなった。でも私だけ……抱かれていない」
泣きそうな顔をするアイナ。
「大人の体になったアイナ、俺はそんなアイナを抱いていいのかがわからないんだ。言い訳にしかならないだろうが、結婚式やったあとかなぁ……」
要は逃げ、ヘタレなだけ。それでもアイナは
「それでいいよ、マサヨシにとって『区切り』なんでしょ? だから待ってる」
と優しく言ってくれるのだった。
アイナは俺の横に座ると、
「さてと、マサヨシ、神官が要るんでしょ? 私がすればいい?」
と聞いてきた。
「何でそれを?」
「私が知らないとでも? と言ってもイングリッドさんが教えてくれたんだけどね。『結婚式の準備でお父様に話を聞くみたい』って言ってた。イングリッドさんがソワソワしてた」
アイナはニヤニヤしている。
「イングリッドなら知っているだろうな。ああ、確かに神官が要るけどアイナがやってくれるのか?」
「いいよ。でも一つお願いがある。取引って奴」
「取引か……、神官をしてくれる条件は?」
「私を一番にして」
「一番?」
「そう、婚約者から妻になって一番に抱くこと。披露宴が終わって寝る時に」
ふむ、そうきたか。
「ああ、そうしようか。どうせアイナの事だ、皆の説得は終わってるんだろ?」
アイナは少し驚いた顔をすると、
「わかるんだ」
と言った。
「何となくね」
外堀は埋まっている気がした。
俺がアイナに手を出さないことをみんな気にしているんだろう。
「取引成立?」
「ああ、取引成立」
堀の無い城は落ちるだけだ。
俺は苦笑いしながら言った。
紅茶のいい匂いがするとカチャリと小さな音がする。
音のするほうを見ると、
「旦那様、紅茶をお持ちしました。アイナちゃんもどうぞ」
そこにはテーブルの上に紅茶を置き、胸にトレイを抱えて優しげに笑うマールが居た。
「ああ、ありがとう」
一口啜る。
「マール姉さんありがとう」
アイナも一口吸った。
「あっ美味しい」
アイナが美味しさに驚く。
「これはロイヤルティーバードの茶葉か?」
「はい、旦那様が買ってきてくれた茶葉になります」
「マールが淹れるとさらに美味い」
俺がそう言うと、マールは嬉しそうだ。
「アイナちゃん、首尾は?」
マールは結果がわかっているように聞いてきた。
アイナはサムズアップして約束できたことをアピールする。
「良かったわね」
「うん」
アイナとマールは笑い合っていた。
「首尾も何も、俺が陥落するしかないだろ?」
俺はそう言うしかなかった。
「はい、カリーネ様が旦那様の性格を指南して、シナリオをイングリッド様が考え、クリス様とクラーラ様が補足したものです。ずっと旦那様を見ていた我々が負けるはずがありません」
「カリーネさんが『マサヨシは何か言い訳をして伸ばそうとするから、それに乗っかれば上手くいくかもね』って言ってた」
ヘタレな俺のために攻略の指南までされていた訳か。
これじゃ勝てる気がしない。
ただ、皆の仲がいいのはわかった。
そして、皆がアイナについて納得しているのもわかった。
納得していないのは俺だけ?
それでも、我儘を聞いて待ってくれるアイナ。
何となく心地よい負けだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
継続してこんな感じです。不定期になります。申し訳ありません。




