こっちの結婚式って?
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
いきなり行くとウルフに怒られるので、今回はイングリッドにランヴァルド王への連絡をしてもらっていた。
約束の時間に扉で王の部屋へ行った。
「お邪魔します」
「おお、マサヨシか。珍しいな連絡をしてここに来るのは。イングリッドが言っていたが、結婚式について聞きたいんだな」
「そう言うことなんだ。知っての通り、イングリッドを筆頭にクリスティーナ、アイナ、ラウラ、ノーラ、クラーラ、王族やら貴族やらが多くて……。前にも少しはそこら辺の事を聞いたがね」
ランヴァルド王はニヤニヤすると。
「そう難しく考える必要はない。神官に祝福してもらって、妻にしたという宣言をして、契約をして、披露して、いい食い物食わせて、皆に結婚を納得させて終わりだ。いちばん重要なのは、出席者に花嫁が幸せになると思わせるだけの食い物と酒を準備できれば問題ない」
なぜか胸を張って言った。
「俺は既に結婚式を乗り切った」って感じかな?
すると、
「あらあら、マサヨシさんが来てるのね」
イングリッドの母親であるマリーさん登場。
「結婚式の時に膝がガクガクして、動けなかったのは誰でしたっけ?」
ランヴァルド王はマリーさんを恨めしそうな目で見ていた。
実際に結婚式の日に膝がガクガクしていたのだろう。
「マリー、わざわざ言わなくてもいいだろう。義理の父の威厳がなくなる」
マリーさんはランヴァルド王を一瞥すると、
「あっ、マサヨシさんお菓子あります? サラちゃんの新作なんかあったら嬉しいわねぇ」
とランヴァルド王を無視して、お菓子を求めてきた。
「あっ、ああ、フィコンのケーキでいいですか?」
俺はバーリーの店で出した残りになる。ちょっと大きめのケーキをテーブルに取り出した。
マリーさんが手を上げると、メイドがティーセットを持って登場。
「あなた達、こちらでお茶にしましょう」
と、マリーさんが提案する。
ランヴァルド王は諦め気味に、俺は言われるがままソファーに座った。
「まさか、俺が菓子を持ってくると思って紅茶を準備してたとか?」
と、俺が言うと。
「マサヨシさん。そいう言うのは言わないの。殿方は女性の求めるものを出していれば、大体丸く収まるものです。そうね、今はマサヨシさんの場合は子種かしら?」
いきなりの「子種」発言に紅茶を少し吹いてしまう。
「すっ、すみません」
と俺が謝ると、
「あらあら、そんなに焦らなくても、十人も居れば求められることも多くなるわよ? 体が休まる時間なんて有るのかしら。ねえ、あなた?」
矛先がランヴァルド王に向かった。俺を恨めしそうに見る。
「未だに休まる時間を渡さないマリーに言われたくは無いな」
「あなた、そんなことを婿殿の前で言うものではありませんよ」
確かにランヴァルド王とマリーさんがお盛んなことを聞いても意味がない。
「マサヨシさん。イングリッドがあなたのことを話している時はいつも笑っているの。だからイングリッドがあなたに嫁ぐのは納得しているの。でもね、披露宴の食事は別。私とこの人の娘が愛した娘のためにあなたが提供できる最高の食事を期待しているわね」
ニコリと笑って、マリーさんは言った
結局はそっちなのね、色々残念なマリーさんであった。
まあ、それでも、他のところで食べられない食事と菓子を出すつもりだ。
「はい、期待しておいてください。」
俺がそう言うと、マリーさんはにっこりと笑うのだった。
続いて鉱山へ行くと、クラーラが貴金属の抽出をしていた。
「クラーラ、今いいか?」
声をかけると、
「あっ、ちょっと待って、これを終わらせるから」
そう言ってクラーラが鉱石に手を添えると、砂状の銀が分離されるのだった。
「はい、終わり。それで何?」
「クラーラ、ドワーフの王族や貴族の結婚式って行ったことある?」
「結婚式? 急にどうしたの」
話が出て驚くクラーラ。
「そろそろ考えなきゃいかんだろうに」
「そっ、それはそうなんだけど……」
ん? モジモジ?
俺は進める。
「どんな感じにしたらいいのか魔族のランヴァルド王に聞いたんだが、他の種族がどんな感じなのか知りたくてね」
「大体お父様が出席するから、私は貴族の結婚式に行ったことはないの。だから、お父様に聞いてみればいいわ。あれでも王ですから」
水陸両用……に会いに行くか……。
「クラーラ、お前も行くか?」
「まだ、仕事が残ってるしね」
クラーラは山積みにされて置いてある鉱石の山を指差した。
「クレイ、頼むよ」
「あらあら、久しぶりの出番は成分の抽出ね」
そう言ってクレイは手を広げた。
鉱石が光り、それぞれの場所でうず高く積まれた金、銀、白金、ミスリルの鉱石から金、銀、白金、ミスリルが抽出される。
「マサヨシの精霊様は凄いわね」
クラーラが苦笑いする。
「これでいいかしら?」
そう言ってクスリと笑うとうと、クレイは俺の体に戻った。
「もう、強引ね。私の仕事が終わっちゃったじゃない」
クラーラが呆れ気味に言う。
「俺はクラーラと一緒に行きたいと思っただけだが……いかんか?」
「お陰で暇になったわ。さっさと行くわよ」
クラーラは俺の手を引き鉱山から離れるのであった。
クラーラのオヤジさんの執務室の内部に直接行く。
「何者だ!」
オヤジさんの大きな声が響いた。
「いきなりすみません。お邪魔します」
俺とクラーラが顔を出すと、
「おっ、おお、お前ら何か用か?」
そう言って、驚きを隠すオヤジさんだった。
一人の部屋にいきなり扉が出現し、俺とクラーラが出てくるのだ。焦るよな……。
「オヤジさんに聞きたいんだが……、ドワーフの結婚式ってどんな感じ?」
ぶっとい腕を組んで少し考えたオヤジさんは、
「赤ら顔の神官に祝福してもらって、酒臭いまま妻にしたという宣言をして、フラフラで契約をして披露して、いい酒といい食い物食わせて、泥酔の皆に結婚を納得させて終わりだ。ただ終わるのは次の日の夜明けごろになるがな」
と「ガハハ」と笑いながら言った。
全てについて酒がらみなだけで、内容はランヴァルド王から聞いたのと変わりはなかった。
ドワーフと言えば、
「そう言えば、クラーラは酒が強い?」
疑問に思って聞いてみた。
「クラーラは儂より酒が強い。ニコニコしながらずっと飲んでいるだろうな」
オヤジさんは言った。
ドワーフの王より強いとはね。
「マサヨシ、お前はどうなんだ?」
親父さんが俺に聞く。
「んー、わからない。酔い潰れたことがないからなあ」
本当は「こっち来てから……」って言うのをつけないといけないんだけどね。
「そんなに強いのか?」
キラキラした目で俺を見るオヤジさん。
「ええ、まあ、ドワーフに勝ったことがあります」
「そうかそうか、それなら安心だ」
そう言って、リッターあるかなというようなボトルを取り出し始めた。
あっ、多分酒だ。
見ている間に十本を越える。
「お父様! 執務中に何をするつもりです!」
クラーラが注意をするが、
「お前の夫になるものが訪ねてきて飲まないなど、それこそドワーフにあるまじき事だ!」
と聞く耳を持たない。
「それにこの火酒は樽に入れて熟成したあと瓶に入れ寝かせてあったものだ。お前の夫になる者と飲むために残しておいた取っておきだぞ。今飲まないでどうする? まあ、仕事なんて放っておきたいのも本音だがな」
再び「ガハハ」と笑ってオヤジさんが言うと、
「もう……仕方ないわね」
クラーラは諦めた顔で言うのだった。
「グラスが一つしかないな。まわし飲みでいいか?」
中ジョッキ位のグラスを出してくるオヤジさん。
「お父様、さすがにまわし飲みはないです。どうせ面倒臭いのと、見つかったら大臣達に止められるんで外に出たくないのがあるんでしょう?」
クラーラよ中ジョッキに突っ込まないのはなぜ?
これが当たり前?
まあ、とりあえず。
「グラス出しましょうか? それよりは小さいですけど」
そう言って、持っているグラスのなかで一番大きい……と言っても中ジョッキの三分の一程度の容量……のグラスを一つテーブルの上に出した。
「おお、いいの持ってるな。今日は、マサヨシのグラスでやろう」
俺は追加で二個のグラスを出す。
「マサヨシはどういう飲み方をするんだ?」
オヤジさんが聞いてきた。
「俺は、グラスに氷を入れて、その上から酒を注ぐ感じですね。ほどほどに冷えて美味いんですよ」
そう言うと、グラスの中に魔法で作った丸氷を入れた。
カランと音がする。
「クラーラ、酒を注いでもらえないかな。氷が半分浸かる位でいい」
トクトク……とボトルが息を継ぐ音が響き、この世界で初めて見る琥珀色の液体がグラスに注がれた。
「飲んでみてもらえますか?」
俺が言うと、オヤジさんは興味があったのか、グラスを奪うように持ち、ぐいと煽った。
「おお、美味い」
クラーラが「私のは?」という感じで見ていた。
「クラーラも要る?」
コクコクと頷くクラーラ。
俺は、残りのグラスにも丸氷を入れた。
「お父様、やるつもりですか?」
「当然だ、俺は婿であるマサヨシの壁にならねば」
「私もマサヨシがどれくらい飲めるのか興味があります」
二人で盛り上がり始める。
この感じ以前あったぞ。
「えーっと、俺はどうすれば……」
「「三人で飲み比べだ(よ)!」」
ですよね……。
「摘まみぐらいは出しておくので口直しに食べて、ジャーキーだけど」
クラーラに聞いていたのか、
「それにしても便利だな、そのカバンは」
と、オヤジさんは言った。
「はい。でも俺専用のカバンです」
「これがあれば流通が変わるのにな」
残念そうにオヤジさんは言った。
こればっかりは諦めてもらおう。
「さあ、始めるわよ!」
飲み比べは体に良くないんだがなあ……。
三人が手酌でグラスに酒を注ぐ。
注ぐ量は人によって違うので、ボトルが何本空いたかで決めることになった。
俺も一口煽ったが、火酒の口当たりはいい。アルコール度数はこちらの方が高そうに感じた。
この酒って、飲み比べに使うにはもったいないぞ。
順調にボトルが空いていく。
一人五本目ぐらいになると、オヤジさんが陽気になりのろれつが回らなくなる。
対して、クラーラの目がすわり、淡々と飲み始める。
一応俺は普通。
十本を越える前に、オヤジさんがキラキラで隠す必要があるものを吹き出し倒れた。
そのまま動かない。
酸っぱい臭いが漂う。
俺は呼吸があるのを確認すると、二日酔い用の魔法を使った。
そして洗浄魔法でオヤジさんごと洗うとそのまま放置した。
酔ってはいないが、貰いゲ○をしそうだ。
クラーラは飲み続ける。
そして、むくりと立ち上がると、
「おしっこ」
と言ってトイレを探し始める。
執務室にトイレなんてあるのかね……。
そう思ってレーダーで確認すると……あった、扉のむこう。
「は~や~く~」
酔って幼児化しているのか、股間を押さえぴょんぴょん跳ねて「急げ」アピールをするクラーラ。
あの扉強引に動かすとすぐ壊れるんだよなぁ。
結局手伝って直したけど特に補強とか入れてないし……。
「クラーラ、お前あれ動かせる?」
俺は扉を指差す。
フルフルと首を振るクラーラ。
だよね。
「も~れ~る~」
あー、仕方ない。
急いで執務室の扉を開けると、例のごとく蝶番が外れる。
倒れてきた扉を支えてゆっくりと置いた。
「ほれ、扉が開いたぞ? 早く行け!」
クラーラに言うと。
「いっしょぉ~」
と言って俺の手を引きトイレに向かう。
扉の前で待ってろって事か?
なんて思ったら、一緒にトイレに連れ込まれた。
宮殿のトイレは広い。中央にちょこんと便座がある。
クラーラはいそいそと下を脱ぎ便座に座ると、用を足し始める。
居場所のない俺は離れようとしたが、クラーラはしっかりとローブの裾を持っていた。
「ダメ、一緒!」
俺を見上げ、非難するようにクラーラが言う。
「俺は女が用を足しているのを見て興奮なんてしないんだがね……」
仕方がないので、目線を入り口に向け見ないようにしていた。
オヤジさんより酒が強いから、オヤジさんはクラーラが幼児化するのを知らなかったのか……。
用が終わり再び執務室に行くと、ドワーフたちが集まっていた。
クルムさんが居たので、
「クルムさんどうかしたんですか?」
と聞いてみると。
「扉が壊され王が倒れているのだ」
と焦ったような声でいう。
暗殺を視野に入れているようだ。
あっ、オヤジさん放ったままだった。
すると、兵士の一人がやってきて
「王は酔いつぶれたようです」
とクルムさんに報告していった。
場の雰囲気を読めないのか
「飲む~」
と言って聞かないクラーラ。
クルムさんが原因が俺たちであることに気づき、俺とクラーラを見ると、
「どういうことでしょうか?」
と言って睨んだ。
俺は事情を説明する。
ただ、扉を使って移動してきたことを説明するのに苦労した。
「王の事はこちらで処理しておきます。今後できれば一言あると助かりますね。あと、後日連絡しますので、執務室の扉の補修の時は手伝ってください」
彫りの深い苦労人の顔のクルムさんが俺を睨みながら言った。
オヤジさんも結構やらかしてそうだが、まあ俺としては「わかりました」と言うしかない。
結局、へべれけのクラーラをおんぶして、クルムさんへ「ご迷惑をおかけしました。すみません」と言ってからクラーラの屋敷へ向かい部屋のベッドへ寝かせた。
そのまま去ろうとしたが、クラーラの手が再び俺のローブを掴んでいた。
「いっしょがいい」
立ち上がった俺を見上げながら、幼児のように駄々をこねる。
俺はため息をつきベッドの横に座るとクラーラの頭を撫で始めた。
気持がいいのか目を瞑る。そしてしばらくすると、スースーと寝息が聞こえ俺のローブから手が離れる。
寝てしまったようだ。
「んー、クラーラにはあまり酒は飲まさないほうがいいな」
俺は心に誓うのだった。
結局、人族代表でミスラに話を聞いてみたが、
「ああ、神官が祝福して、妻にした宣言をして、契約をして、披露して、いい食い物食わせて、皆に結婚を納得させて終わりでしょ? ただし披露宴の食事は重要だぞ。その家の格が出る」
って感じ。
エルフ代表でクリスのオヤジさんにも聞いてみたが、
「神官の祝福、妻にしたという宣言、契約書の作成、妻の披露、見栄えのいい食事、皆に結婚を納得させて終わりだ。どうせクリスティーナはお前の元に行く。だからエルフの形式にこだわる必要はない」
と言うことだった。
言い方が違うが、要はいい食事が必要らしい。
あとはドワーフ対策に酒か……。
ダンジョンの魔物の素材も余ってる。さあその辺はサラとエーリクに相談だねえ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
継続してこんな感じです。不定期になります。申しわけありません。




