いろいろやっておかないと
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
俺が家に帰りリビングのソファーでくつろいでいた時、
「マサヨシ、私のドレスもできた」
とアイナがこれ見よがしにドレスを着て俺の前に現れた。
フィナの村の獣人のおばちゃんが一人ドレスの裾を持つために付いてきている。
「可愛いドレスだな」
アイナに合った純白のドレス。聖女だもんな
「みんなのドレス見た?」
「えっ? みんなドレスできてるの?」
「できてるよ。みんなマサヨシに見せたいって言ってた」
「アイナが最後?」
「クラーラが最後かな。クラーラって鉱山の関係で忙しい。だから一番遅れてる。でもね、数日中にはドレスができると思う」
そうアイナが言った。
ありゃ、結婚式の準備を急がなきゃいけないようだ。
そういや、クラーラのオヤジさん。ドワーフの王様だっけ? 報告してないぞ。一応顔見せぐらいはしておかないとな。
いきなり招待状っていうわけにもいかないだろうしね。
相談をしようと思いクラーラの屋敷に行った。
「あっ、マサヨシ、どうしたの?」
「ん? クラーラのオヤジさんに挨拶してなかったなと……」
「そんな事気にしなくていいのに、私はもうドワーフの姫ではないから」
「でもな、お前のオヤジさんに挨拶せずにクラーラを貰うって訳にはいかない。せめて挨拶ぐらいはしないと」
と俺が苦笑いで言うと。
「律儀ねぇ」
ヤレヤレって感じでクラーラが言った。
「そりゃそうだろ? 何にしろ愛娘を貰うわけだ。顔を合わせて『娘さんを下さい』って言うのが筋じゃないか?」
「私は愛娘なのかしら」
「んー、俺にとっては可愛い婚約者?」
そう言ったとたん、クラーラの顔が赤くなる。
「バッ、バカ。そんなこと言われたら恥ずかしいじゃない」
そう言ったあと、クラーラは俺をじっと見て、
「マサヨシは私を抱いてないわよね?」
と、聞いてきた。
あっ、藪蛇だ。
「すみません」
俺はクラーラに謝る。
そして
「それで、抱いて欲しいの?」
俺は疑問で返した。
結構意地悪な質問だと思う。
「そっ、それは……だって流れとはいえ、あなたが好きだからここに来たんだし。できればね……。十人も婚約者がいたら私に回ってくるのは少ないとは思ってるけど、寝るときはいつでもマサヨシが来ていいようにしているのよ? いつも来ないけど……」
「本当に申し訳ない」
俺は頬を掻きながら謝った。
「私は男性経験がないけどマサヨシならいいと思ってる。あと、一応それ相応の知識は持ってるのよ? 女性王族は子を成すのが仕事って思ってるから」
「んー、とりあえず大前提としてクラーラが傍に居ればいいんだ。子供がどうとかじゃなく、技術どうこうじゃなく、クラーラが居てくれればいい。だから、子供の事とか考えなくていい。ごめんな放っておいて」
すると、クラーラが、
「あのね、やっぱり悔しいのよ。他の人、特にクリスから話を聞くと不安になるの……『私って本当に必要なのかな』って……」
と言って俯く。
その手は固く握られていた。
「ごめんな、取って付けたみたいで申し訳ない」
そう言って俺はクラーラを抱え上げると、有無を言わせずダンジョンマスターの部屋に飛んだ。
そのあと疲れて泥のように眠るクラーラを抱き上げ、洗浄魔法で綺麗にすると、クラーラの家へ行って寝室に寝かせた。
クラーラがうっすらと目を開け俺に聞く。
「やっと二人で寝られた」
「ああ、そうだな」
そう言って、クラーラの頭を撫でるとクラーラは嬉しそうに笑った。
後日、クラーラを連れ、リンミカにあるドワーフの宮殿に向かう。
クラーラのほうで事前に連絡してあったということだが意外とすんなり宮殿内に入ることができた。
政争がどうのということを聞いていたが、今は関係ないのかね。
「姫様、お久しぶりでございます」
ごっつい髭を生やしたドワーフが現れた。
まさにドワーフって感じだな。結構な年齢なのか彫りが深くしわが目立つ。カールは髭が少なめだったような気がしたが、「ひっくり返しても顔に見える」だまし絵ができそうなぐらいの豊かな髭をたたえていた。
「クルムか」
クラーラがいつもと違う上からの口調で言う。
「王から話は聞いております。今から執務室へお連れします」」
俺たちはクルムというドワーフに続き、宮殿の中を歩くのだった。
「クルムさん……で良かったかな? この通路の鎧の影とかに人の気配がするのはどうしてだ? 俺への敵対心が見え見えなんだが」
レーダーに映る光点が赤いからよくわかる。
「気付きましたか、そうですか」
無表情のままクルムさんが右手を上げると、レーダーに映る光点の色がほとんど白になる。
「試された?」
「はい、試させていただきました」
「だったら、残り二名も何とかして」
俺がそう言うと、クルムさんが左手を上げる。
すると、周囲の光点が全て白に変わった。
「これも気付きましたか、そうですか」
と言うとニコニコと笑いながらクルムさんは再び歩き始める。
そして、金銀の装飾がされた重そうな扉の前に着くと、クルムさんはノックするのだった。
「入れ」
という地の底から響くような低い声が聞こえた。
どんなバケモノだ?
「あなたが開けていただけますか?」
クルムさんが言ってきた。
「試されてる?」
「はい、試しています」
クルムさんがニヤリと笑う。
「じゃあ、仕方ないね」
重そうな扉を片手で簡単にバン!と音がするぐらいの勢い開けると、蝶番が耐えられず、壁から外れた。
どこの銀行の金庫の扉だ。厚さが五十センチぐらいあるぞ。
それを見て目を剥くクルムさん。
「マサヨシ、父上は一人で開けられるけどこの扉って普通はドワーフ五人がかりで開けるの。そのお陰でこの執務室は密室になる。その扉を片手で壊すってどういうこと!」
ありゃ、クラーラが怒ってるな。
「んー『試している』って言われたら、程々の力を出さないと申し訳ないだろ? って言っても半分も出していないがね」
クラーラと俺の話を聞いてさらに驚くクルムさん。
「これが全力ではないと?」
と聞いてきた。
「全力ではないね。ダンジョンでドラゴンと戦っているのに比べれば全然ですね。あの時は死にかけましたし」
「はあ……」
「勢いよく開く程度でいいかなと思って力を入れたんだけど、重さに対して蝶番が弱かったんだろうね。壊してしまった。申しわけない」
と謝っておいた。
「もう、試しごとは終わったのであろう? 早く中に入れ」
再び地響きのような声が響き渡った。
「王が呼んでおります。中へ」
「マサヨシ、行くわよ」
クルムさんとクラーラに従い俺は執務室の中に入った。
「お父様、お久しぶりでございます」
「おお、クラーラ、久しいな。ところでクルム、試験はどうだった?」
クラーラのオヤジさんはクルムに聞いた。
「このお人なら、クラーラ様が弟君に殺されるようなことは無いでしょう」
ああ、そういう試験だったのね。
目の前に水陸両用? ゴッ〇? が現れた。
縦が俺と同じで、横は俺は最近痩せた姿で生活しているから五倍ぐらいある? メタボなら、三倍ぐらい?
サイクロプスのこん棒のような腕をしていた。
あれの遺伝子が混ざってこれが産まれたのか。
あれの遺伝子はこれに無いような気もするが……。
「クラーラよ、リンミカから引っ越したとは聞いていたが」
「どうせこの街に居ても、弟に殺されそうになる。だったら好きな男と一緒のほうがいいですから」
「で、そのお前の好きな男って言うのがそこに居る人間か?」
クラーラのオヤジさんは俺を指差した。
「ええ、マサヨシって言うの。ちなみにお父様より強い」
「儂より強いだと?あの細腕にそんな力があるというのか?」
「だって、あのように扉を壊せますか?」
クラーラは俺が壊した執務室の扉を指差す。
「さすがに儂でも壊したことは無いな。ただ、やれと言われればできる」
筋肉を誇示するようにポージングするクラーラのオヤジさん。
正直見たくない。
「そうですか……それではドワーフの力試しをしましょう。もともとそのつもりでその樽があるのでしょう?」
俺が発言する隙を与えず。二人で会話が進む。
そして勝手に決まる。
「よくわかったな。男の性根を見るならこれが一番だ」
クラーラのオヤジさんはバンバンと樽を叩きながら言った。
「えーっと、俺はどうすれば?」
「「俺(お父様)と戦うのだ(よ)! この樽の上で」」
血走った二人の目が俺に刺さる。
あっ、こういう遺伝子は一緒らしい。
これ、アームレスリングって奴だよな。
単純な力比べ。
「これでお前が勝てたら、認めてやる」
「認める? 何を?」
「お前らの婚約だ」
「なんで?」
「クラーラは一応王族だ。儂の承認が要る」
「報告をする気はあったが、別に認めてもらう気はなかったんだけどなあ。強引にでも連れて行けるから。でも、クラーラ的にはやって欲しいんだろ?」
小さな体で大きく頷くクラーラ。
「仕方ないねぇ」
俺が樽の前に行くと、クラーラのオヤジさんは樽の前に進み出る。腕を回しウォーミングアップを始めた。
重心を低くして構え樽に肘を載せ、お互いの手を組む。
クラーラは手を添え、
「私が声をかけたら始めてね」
と言った。
俺を睨むクラーラのオヤジさんとそれを気にしない俺。
「じゃあ、始め!」
「フンヌ!」
掛け声とともにクラーラのオヤジさんの腕が膨れ上がった。
体重をかけ一気に勝負をつけようとしてきたようだ。
その勢いを支える俺の足の下にある床石が割れた。
「その程度ですか?」
単純な力比べではないが妻ドラゴンとやっている時のほうが辛かった。
「フン!」
挑発ともとれる俺の言葉にクラーラのオヤジさんの腕はさらに太くなる。
額には筋が浮き脂汗が流れる。
俺たちの力を支える樽からはミシミシと音がし始めた。
樽が限界かな?
俺は少しづつ力を入れ、オヤジさんの腕が戻り始めるのを確認する。
そのまま樽にオヤジさんの腕を叩きつけると、樽が粉々になるのだった。
オヤジさんが右腕を支えていた。
腕を痛めたのかもしれない。
俺はオヤジさんに近寄り右腕に治療魔法を使うと、
「そういうわけでクラーラ貰いますね」
と宣言した。
クラーラが俺に飛びついてくる。
「儂の負けだ。儂の力を真っ向から受け止めそのまま返すなど、その細腕にどれだけの力を秘めているんだ? それに、あのクラーラがそんなに懐くとはな。お前とクラーラの子なら、儂の跡を継がせても良いと思うぞ」
ガハハと笑いながらオヤジさんが言う。
ありゃ、爆弾発言。
クラーラは、
「弟はどうするのですか?」
と聞いた。
当然そう聞くよな。
「あいつが残りたければあいつが何とかすればいい。この子とこの男の間にできるであろう子を相手にして勝てばいいだけだ」
あー、暗殺とかやめて欲しいんだけどなぁ。
逆襲しちゃうから。
「ドワーフの純血とかないんですか?」
俺は聞いてみた。
「エルフじゃあるまいし、そんなものあるはずがなかろう? 何を隠そう儂にはオーガの血が流れておる。何代前かは知らんが、王の妃がオーガだったと聞いている」
だからそんなに太い腕なのね。
「つまり、ドワーフの血が流れておれば問題ないのだ。それに儂も百五十歳と若い。だから、クラーラとお前の子が成人するまで待つ時間は十分ある」
長寿種の利点って奴ね。
「俺の子が爺さんになったあなたの跡を継ぐといったら任せますよ。まずはしばらくしたら結婚式をやります。来てもらえると俺じゃなくてクラーラが喜びそうだ」
「承った。招待状を楽しみにしておこう」
再びガハハと笑うオヤジさん……後で聞いた話では名はバルトール・ピットと言うことだ。
「それでは、そろそろ失礼します」
俺とクラーラは壊した扉をそのままに執務室を出て、宮殿を去るのだった。
後日、扉の修理で宮殿に呼び出され、蝶番の修理を手伝う俺が居た。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
更新ペースは上がらないと思います。申しわけありません。




