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ストルマンの後始末

誤字脱字の指摘、大変助かっております。

 ストルマンの冒険者ギルドでモニカらしき娘の捜索依頼が出ていると聞いて数日たった時に、モニカとその隣に居るテロフを見かけた。

「あいつら仲がいいよな」

「お似合いですね」

 アグラが俺の意見に同意した。

「で、どう思う?」

「どう思うとは、モニカ様が子爵様のご令嬢かもしれないってことですか?」

「ああ」

「そんなもの私に聞かないでください。聞くか調べるしかないでしょ? いくら似ているとはいえ、確定ではないのですから」

 呆れたようにアグラが俺に言った。

「だよなぁ」

 正論だね。

 折よくテロフがモニカから離れた。


 俺はモニカに近づくと、

「おう、モニカ。元気か?」

 と、適当に挨拶をする。

「ああ、マサヨシ様。元気でやってます」

「モニカのお陰で女子や小さな子たちがまとまって助かってるよ」

「いいえ、私も楽しいんです。私には兄弟がいませんから。みんなが兄弟みたいで……」

 小さな子たちが遊んでる姿を眺めながら楽しそうにモニカが言った。

「モニカ、その言い方だと記憶は有るんだな」

 俺の物言いに驚いた顔をするモニカ。

「だったら聞きたい事があるんだがいいかい?」

 と聞いてみた。

 モニカの表情が厳しくなる。

「…………」

 モニカは暫く黙っていたが、コクリと頷いた。

「最近ストルマンの冒険者ギルドへ行く事があってな、そこでモニカの特徴によく似た娘の捜索依頼があった。依頼主はアグレル子爵。心当たりはあるか?」

「……あります」

 一瞬のためらいがあったがモニカは肯定した。

「どういう関係だ?」

「ベルトルド・アグレル子爵は私の父になります」

 んー、当たりだね。

「さて、ここからが本題。モニカは父親に会いたいか?」

「そうですね、会いたいとは思います。でも戻りたいとは思いません」

「なぜ?」

「だって、テロフが居ませんから……」

 おっと、言い切ったね。


 ふむ、さっきから気になってる光点が一つ。

「子爵の家にテロフが居ないから帰りたくないんだってさ。テロフいい加減隠れてないで出てこい!」

 ポリポリと頬を掻きながらテロフが現れた。

「マサヨシさん、気付いてたんですか?俺、クリスさんにお墨付きもらってるんですよ?」

 驚いた顔でテロフは言った。

 クリスに斥候系の技術を学んでいたようだ。

「俺の探知能力なめるなよ」

 俺はレーダー探知だから気配など関係ない。

「はあ、まあ、邪魔しないほうがいいかなと」

「だったら、聞かないように離れるだろ? 気になって仕方ない奴が何を言う」

「バレバレですね」

 ばつが悪そうにテロフは言った。


「さて、テロフも来たことだし、三人で話すか。聞いていたとは思うが、モニカはアグレル子爵の娘ということだ。で、お前が居るから家に帰りたくないそうだ。で、テロフはどう思う?」

「そうですね。大前提として俺はモニカが好きです」

 そう言った瞬間、モニカが驚き涙を流す。

「お前、言ってなかったの?」

「恥ずかしくてなかなか言えないでしょう? 俺はマサヨシさんじゃないんです」

 テロフがニヤリと笑った。

「なぜ、俺を引き合いに出す」

「ご自身の胸に手を当てて考えてください」

 そう言われて考えてみると、思い当たる節が結構あった。

「ごめん、言い返せない」

「でしょう? こういうのは効果的なところで言わないと」

 うーん、何かテロフのほうが大人。

「まあ、それはいい。それで?」

「俺は親のところに一度帰ったほうがいいと思います。俺は母さんに育てられて七歳の時に死別しました。それでも母さんの思い出はいい思い出。苦しい時もその思い出に助けられたことも多い。モニカに両親が居るんだったら一度帰って思い出を作ればいいと言うのが一つ」

「ひとつ?」

 俺が聞くと、

「そう一つ。もう一つは今の俺に力がない。モニカに付いていったとしてもただのガキでしかない。マサヨシさんのところに来たお陰で俺にも精霊が付いた。モニカにも付いたんじゃないのか? でも、精霊が付いたからと言って万能になった訳じゃない。それこそ、読み書き計算。ヘルゲ院長の戦闘術。クリスさんの精霊魔法。カールさんの経営術。そんなことを学んでモニカを守れるような一人前になったら迎えに行く」

 とテロフは答えた。

「私はゴブリンの……」

 モニカが例のことを言いかけたが、

「そう言うのは無しにしよう。関係ないから」

 と遮る。

 おお、テロフカッコいいい。

 でも、俺は面白くない。

「カッコいいこと言ってるが、モニカが最初に来た時、こいつモニカのことじっと見てたんだぞ? あれは一目惚れだな」

 と暴露しておく。

 んー、大人げないな。

「ちょっ、マサヨシさん」

 図星だったのか焦るテロフ。

「効果的に……だろ?」

「はあ、まあ一目惚れは言い訳できないけど……。だから、まあ、俺が迎えに行くまで待っててくれないか?」

「はい、待ちます。いつまでも待ちます。だから、迎えに来てください!」

 嬉し涙を流しながらモニカはテロフに抱きついた。

 おれも、こいつらが一緒になれるように何とかしないとね。



 五日ほどして、俺はストルマンの街に大きな扉で移動し、ギルドで聞いたアグレル子爵の館まで神馬の馬車で行く。御者はボリスさん。連れとして、クリス、テロフ、そしてモニカ。俺はヘルワームの黒い背広。クリスはヘブンワームの白いドレス。テロフはマジックワームの黑い執事服。そして、モニカは若草色のマジックワームのドレスを着ていた。髪のセット、小物もOK。先触れとしてクリスのオヤジさん経由で事情と館への到着日時を通知してある。

「久々にストルマンを馬車で走ったわね」

「お前、あれから実家帰ってないだろ?」

「だって帰っても喧嘩するだけだし」

「何のために、お前の母ちゃんの絵を置いてあるんだ? 一度くらい顔を見せてやれ」

「子供ができたら帰ってもいいわね。『あなたの孫よ』って。純血でないハーフエルフをね」

「ただの嫌がらせだな」

「そう、嫌がらせ」

 そう言ってクリスは笑った。

 そんな俺たちを見て、

「マサヨシさん、クリスさん、ほどほどに。というか、緊張感なさすぎです」

 とテロフが言った。

「ん? ああ、着いたらそれなりになるよ。今緊張しても仕方ないだろ? お前はモニカの両親に会わなきゃいけないから緊張するだろうが、断られてもクリスが何とかしてくれる」

「そうそう、今緊張したら肩凝るわよ? ってか、何で私が?」

「王女様だから」

「大丈夫、こんなこと言ってるけど、マサヨシが何とかするから」

 俺とクリスの返事を聞いて、

「相変わらずですね、緊張するのがバカらしくなりました」

 と笑いながら言った。

 モニカもくすくすと笑っている。


 見知った場所に来たのだろう、モニカがそわそわし始めた。

「マサヨシ様、ここですね」

 ボリスさんが聞いてきた。

 俺のマップにあったアグレル子爵の場所と一致する。

「ここでいいみたいだ」

 門の前に行くと、すんなり馬車ごと中に入ることができたようだ。

 そして、馬車が止まる。

 玄関前に到着かな。

 扉が開くと俺たちは馬車を降り、玄関をくぐってロビーに入った。


 すぐに、エルフの男女が現れる。

 あれがアグレル子爵夫妻なんだろう。

 すぐにモニカが一歩前に出ると、

「お父様、お母さま、ただいま帰りました」

 と言った。

 モニカの両親は無言で近寄りモニカに抱きつく。

 そして、

「良かった、本当に良かった」

 アグレル子爵は絞り出すように言った。

 そして抱き合った三人は喜びの涙を流していた。

 襲われて掴まって売られる。どこに行ったのかもわからない。一年経てば「死んだかも」なんて思ってもおかしくなかっただろう。

 そりゃ、こうなるだろうな。

 邪魔するのは悪い。少し待つか……。


 しばらくすると、モニカは涙をぬぐい、

「お父様、お母様、こちらが私を助けてくださったマサヨシ様とその婚約者のクリスティーナ様。そして私がお世話になったテロフさんです」

 と、俺たちの紹介をする。俺たちも紹介に合わせて会釈をした。

 紹介されて初めて

「えっ、クリスティーナ様?」

 と、気付いて夫妻が驚く。

「気づかれてなかったようだね」

 と、俺が言うと、

「仕方ないわね。私、城に居ないから。アグレル子爵とも何度か会ったことがある程度だしね」

 苦笑いのクリス。

「申し訳ありません。クリスティーナ様の顔を忘れるなど」

 深々とアグレル子爵夫妻が頭を下げる。

「ああ、いいのよ、マサヨシにも言った通り、最近王城に居なかったしね」

 その後、

「私はベルトルド・アグレル。これが私の妻エレンです」

 子爵側の紹介をする。

 それが終わり、

「それじゃさっさと話を進めましょう」

 クリスが言った。

「それではこちらの部屋へ」

 と言って、アグレル子爵夫妻は俺たちを長机のある部屋へ連れて行くのだった。


 アグレル子爵夫妻側と俺たち四人? 

 ありゃ、モニカは両親側に行かなかったのね。

 そこに座ると紅茶が出てくる。

 ロイヤルティーバードの紅茶じゃなさそうだ。

 クリスは紅茶を一口飲むと口を開いた。

「事情は事前に手紙に書いた通り、マサヨシが人買いの組織を潰した時に牢屋に閉じ込められていたモニカを助けた。心が病んでいて回復するのに時間が必要だった。その心を癒したのがそこのテロフで、モニカもテロフもお互いに好き合っている」

 ゴブリンの件など言う必要はない。

「それで、我々はどうすれば?」

 ベルトルド・アグレル子爵は聞いてきた。

「ああ、モニカとテロフを婚約させて欲しいのよ」

 おっと、結構強引。

「婚約……ですか?」

 唖然とした顔でベルトルド・アグレル子爵が言った。

「そう、相思相愛ならいいでしょ?」

「しかし、テロフ君はハーフエルフと聞きますが……」

「関係あるの? この国の貴族の価値なんてどんな強い精霊を連れているかでしょ? あとエルフの純血なんてのもあるけども、精霊の力が強ければ何とでもなる。お父様の側近にもハーフエルフが居たとは思うけど?」

「それはそうですが」

「言っておくけどあなたの精霊は怯えているわよ? テロフとモニカ、ああマサヨシの精霊にもね」

「モニカに精霊?」

「それはね、マサヨシの自治領は精霊が集まるの。そのせいで結構な人数に精霊が付いている。まあ、元々精霊との相性が良いエルフなんだから精霊が付いてもおかしくないわ。モニカ、精霊を見せて」

 そういうと若草色の衣装を着た精霊が現れた。

 風の精霊だ。

「もうすぐ高位になりそうな精霊ね。テロフは?」

「俺も出すんですか?」

「そりゃそうでしょう? 良い所見せておかないと、モニカを迎えに来る前に勝手に婚約者作られるわよ」

 クリスが言った言葉にギクリとするベルトルド・アグレル子爵。

「仕方ないですね」

 そう言うと、テロフは精霊を出す。落ち着きのある成人女性のような精霊が現れた。属性は土だね。

「『土の精霊だ』って言ったら、この子にすぐに俺の精霊になってくれって言われてね。あの女……今はクレイだったっけ?に負けたくないからこの子に付いたの」

と、精霊は言った。

 あっ、コレヤバい奴だ。

「マサヨシさん見てて思うんだけど、土の精霊って建築系に強いでしょ?『何かあった時に強いかな』と思って付いてもらったんです。マサヨシさんみたいにいろんな精霊をくっつけるのは無理だから、高位の土の精霊に頼んだら、俺に付いてくれたんです」

現実主義なテロフ。

「あら?高位になってしばらく経つような精霊じゃない。この歳で高位の精霊持っているのって居ないでしょ?ほら、マサヨシも出して」

 なんか別のものを出しそうだが、それはやめておくか。

「俺もか?」

「当たり前でしょ」

 急かすクリス。

「悪い、ちょっと出てくれ」

 俺が言うと、エン、スイ、フウ、クレイとその他大勢が現れる。

「ヒィ」

 ベルトルド・アグレル子爵は俺から出てきた精霊の数と強さに驚いていたようだ。

「ああ、あと、マサヨシの自治領内の学校で読み書き計算は完璧だし、近接戦闘は人族の有力者。精霊魔法は私。経営学はカールって言う商人に教わっている。これで成長したら優良物件だと思うんだけど」

「お前、読み書き計算、完璧なの?」

 おれがテロフに聞くと、

「最近は間違えたことないですね。テストの点も一番です」

「凄いんだな」

「凄いみたいですね」

 嫌味にしか聞こえない。

「ゴホン」

 クリスが咳払いをする。

 背筋を伸ばす俺とテロフ。

「まあ、そういうことだから婚約の事を考えてみて。でもモニカはテロフがいいんでしょ?」

 コクリと頷くモニカ。

「だったら婚約しない手はないわね。あと、モニカはこの屋敷に返します。それを説得したのはテロフだから。一応言っておくわね」

 そこまで言うと、クリスは紅茶を再び一口飲んだ。

 すると、

「クリスティーナ殿下、一つ聞いて宜しいですか?」

 と、ベルトルド・アグレル子爵が聞いてきた。

「いいわよ?」

「そこのテロフ君の素性は?」

「ああ、そこ気にする?」

 クリスが言う。

 普通は貴族だから気にするだろ? 

「ドロアーテに居た孤児よ」

 包み隠さず言う。

 ベルトルド・アグレル子爵は顔をしかめると、

「それでは、アグレル子爵の家と釣り合いません」

 と言った。

 やっぱそうなるかあ。

 俺がクリスを見ると、クリスは頷く。

 事前に話し合っていたこと。

「では、アグレル子爵に釣り合えばテロフはモニカと婚約できるってことなのね」

 クリスがそう言うと、

「名もない家の孤児を子爵家と釣り合わせるのは無理です」

 とベルトルド・アグレル子爵は言いきった。

「釣り合わせるなんて簡単。テロフを私とマサヨシの養子にすればいい。王女である私と自治領主であるマサヨシの息子になれば、アグレル子爵に釣り合わない?」

 家を量る天秤はテロフの方に大きく傾くだろう。

 話を聞き驚くテロフ。

「そっそれは、殿下の息子となれば我々よりも格が上になりますから……」

 口ごもるベルトルド・アグレル子爵。

「クリスさん、マサヨシさん、俺はそんなことをしてもらうわけにはいかない。孤児で街であぶれていた俺を拾ってくれて、助けてもらって、色んなことを教えてもらって、更には養子になんかなれない」

「ん?俺はお前やお前の兄弟に幸せになってもらいたいんだよ。だから、気にするな。俺を踏み台にしてさっさとモニカと婚約しちまえ。気に入らないなら上手く結婚してモニカと一緒になって、当て付けに孤児院でも作ればいいだろ?」

「マサヨシさん……」

 テロフはきつく手を握り、下を向いていた。

「モニカもそれでいいわね?」

 モニカはコクリと頷いた。

「そう言うことで、テロフは私たちの養子にするから、婚約は問題ないわね」

 ニヤニヤしながらクリスが言う。

「かっ、かしこまりました」

 無理矢理愛娘を婚約させられたベルトルド・アグレル子爵には申し訳ないが、テロフがモニカを献身的にフォローしていたのも事実だ。それに相思相愛。諦めてもらおう。

「さて、家族水入らずを邪魔するのも悪いわね。帰りましょうか」

 クリスの言葉を聞いて俺とクリス、テロフは席を立ち馬車で屋敷を出るのだった。

 

 テロフがモニカに会いやすいように、そのうち転移の扉でも作るかね。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

帰宅後に思ったより筆が進んだので、投稿しておきます。

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