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交渉と通信手段

誤字脱字の指摘、大変助かっております。

 三日後、俺はリンミカのブロルの店に居た。

「マサヨシ様。カールから聞いたのですが、岩塩を販売したいとか?」

 揉み手のブロル。

「そう、南領からの塩より安く卸すつもり。ある商会が俺の身内にちょっかい出したところへの嫌がらせだね」

「マサヨシ様の身内を……それは無謀なことを……」

「その辺のことを知っているのは一部だからねぇ。もし俺の周りの者の事を知っているなら、手を出したりはしないだろう?」

 俺はブロルをチラリと見ると、

「そうですね、私はマサヨシ様の身内にちょっかい出そうなどとは思いません。出した後のほうが怖い」

 同意するようにブロルは大きく頷いた。

「俺は魔族の国じゃ知名度低いから仕方ない。まあドワーフの国もだけど」

「おかげさまでリンミカ内での地金の取引では私の一人勝ちです。そのせいでどこの鉱山の地金なのか問い合わせが多くなっているのですよ? だから少々は有名になっているかと……」

「そのせいで俺んちは五百人以上も居るどこぞの盗賊団に襲われたがね。さて、どこから漏れたのやら……」

「たっ、ただいま調査中でして……」

 揉み手が止まり急に手汗が増えるブロルだった。

「ああ、盗賊団は結構な金になったから問題ない。今なら犯罪奴隷が安く手に入るようになってると思うよ。『あそこには手を出すな』ってことになってればいいんだけどね」

 すると、早く話題を変えたいのか、

「えっと、それで、マサヨシ様のところからは、岩塩をいくらでこちらに卸してもらえるのでしょうか?」

 ブロルの揉み手が早くなる。

 事前にノーラと話た内容でいくか……。

「んー、南領産の塩の二割引でどう? もう少し安くしたいんだけど、オセーレに納めている価格より安くするといろいろとね……。これでも売値を変えなければ結構な利益になるんじゃない? 俺としては売値を少しでも下げて、みんなが買いやすくして欲しいけど」

「八割にしてもらえるのであれば、売値を下げることは可能です。そして再び塩でも一人勝ちができそうですね」

 ブロルがニコニコである。

「じゃあ、八割でいいね」

「はい、問題ありません」

 もう少し下げられるが、俺んちが襲われた件もあって言い辛いのか値下げ交渉は無かった。

「量についてはどのように?」

「量までは把握していないんだ。ただ、必要量は確保できる。後で村の者をここに来させるから相談して」

 んー詰めが甘いな。

「わかりました、量については後日ということですね」

「ああ、それで」


 その後ゼファードの街はカリーネ経由で商業ギルドのギルドマスターを紹介してもらい。交渉の結果、ギルドに塩を卸すことになった。フォランカやヒューホルムにはゼファード側のギルドから塩が入っているということだった。卸値はキャラバン隊の南領産の塩の七割。さすがに値引かれてしまう。

 あとは、今までの価格で売るもよし、少し下げるも良し。

 できれば下げて欲しいなぁ……的には言っておいた。

 向こうの塩も少々は安くなるんじゃないだろうか。


 結果パルティーモは一部。残り魔族の国までの街道は全てデュロム村からの岩塩で賄うことになったのであった。



 ダンジョン街道を使って岩塩販売開始である。

 デュロム村の岩塩採掘量的には十分であり、定期的にパルティーモは馬車一台、リンミカとゼファードには馬車三台に塩を満載して塩を卸す。

 女冒険者三人が言うには、日帰りになって楽になったということだ。

 まあ、そりゃそうだろうな。

 オーヴェもデュロム村の収入の激増にホクホクである。

「後見人様。セリュックへの納入による収入と同等の収入が得られています。噂を聞きつけた商人や職人がデュロム村へ来るようになりました。今の家だけでは足りなくなりそうです。村の拡張を進言します」

 とオーヴェが言ってきた。

「ああ、それはノーラに言ってくれる?あくまでも領主はノーラ・ノルデン侯爵だからね」

「わかりました。上申書を作成してセリュックへ送っておきます」


 オーヴェはそう言った後、少し考えていた。

「それにしても、ノーラ様への簡単な相談でさえ手紙を送ってからこの村へ帰るまで一週間ほどかかります。後見人様は便利な魔道具をお持ちですが、何とかならないですかね?」

 転移の扉を使えば簡単なんだがなあ。

 さすがに直接ノルデン侯爵家に飛ぶようにするのも問題があるだろう。

 だったら、

「そうだなぁ……。簡単なのは馬より早い動物を使うことかなぁ。そういえばワイバーンとか使えばすぐにセリュックまで届くだろ?」

「後見人様。ワイバーンライダーは実際に居ますが、ワイバーンを飼い慣らし肉を与えて維持することは難しいのです。そしてワイバーンより強い者も必要になります。まあ、後見人様ならその程度は問題ないのでしょうが、簡単な手紙のためにひと月金貨十枚が必要というのでは意味がありません」

 コスト高らしい。

「帰巣本能がある鳥に手紙を運ばせるって方法があったと思うが……」

 聞いたことが無い言葉だったのか、

「帰巣本能?」

 とオーヴェが聞いてきた。

「ああ、動物が自分の巣に帰る力? だったと思う」

 と、説明をする。

「セリュックが巣だと思わせて、デュロム村からその鳥を飛ばせばセリュックに手紙が届くというわけですね。でしたら返事を貰おうと思えば、逆にデュロム村側を巣だと思っている鳥が必要ということか……。ちょっと手間ですね」

 おっと、オーヴェが理解した。さすができる男である。

 足が速い犬ってのが居たな。サルーキだったっけ? こっちに居るかどうかはわからないが、ポチやリルに聞いてみればわかるかも。最悪、ヘルハウンドか狼に頼むってのも有りか。

「通信用に犬か狼を使うかい?」

「犬ですか?」

「そう、犬は頭がいいから教育すれば手紙を配達してくれるだろう。ただ、ポチやリルと相談しないとわからない部分もあるんだがね」

「犬でしたら確かに。連絡手段として考えるのも有りですね」

 んー、電話って手もあるんだけどね。銅線とかないし構造をあまり知らんので申し訳ない。

 ん? 

「オーヴェ、ダンジョン街道を使えば簡単じゃね? 犬か狼に目印をつけ手紙用のカバンを持たせて館の場所まで行かせる。街の出入りは門番に周知しておけば通してくれるだろう。オーヴェや俺、ノーラへの手紙のような簡易な配達は犬に任せるようにすればいいと思う。配達用の犬は数頭ずつ、セリュックとデュロム村、そして俺のところに配置。その犬はアグラにダンジョン街道使用認定をもらっておく。あとは指令を出して、それぞれの場所へ配達という流れだな。この場合、カバンを開けられるのはオーヴェや俺、ノーラにしておくってのが前提にはなるが」

 既に俺の頭は犬仕様確定だった。

 ダンジョンに発生させて、隷属化して能力を上げる。あとは配達地の場所を覚えさせればいいだろう。

 転移の扉を置いてもいいのだが、一応ノーラと相談してからかなぁ……。

「配達業務が事業にもなりそうだから、とりあえずテストとしてやってみよう」

「わかりました。準備は後見人様のほうでしていただけるのでしょうか?」

「ああ、こっちで準備してみる。一応形になったらまた来るよ」

「よろしくお願いします」

 オーヴェが頭を下げた。


「あと二か月もすればパルティーモからオセーレへとクラウス商会のキャラバンが通ります。街道で売れず、オセーレで売れず、さてクラウス商会はどうなるんでしょう。楽しみですね」

 ニヤリと笑いながらオーヴェが言った。

 あっ、悪い笑顔だ。

 自分の治める村が襲われかけたのだから仕方ないか。

「そうだなあ、塩一辺倒の商会だと潰れるかもしれない」

 溜息をつきながら俺は言った。

「後見人様も潰すつもりなのでしょう?」

「頑張れば生き残れる程度にはしてあるよ。知ってるだろ? オセーレよりも街道沿いのほうが卸値が高い。それよりも下げて利益を出せるなら生き残れる」

「パルティーモの価格であればわずかな利益が出せるかもしれませんがそれ以降の場所では無理でしょうね。あとは商会で損失を被るしかないでしょう。そして弱体化する。伯爵の後ろ楯で権勢を誇った商会も、旨味が無くなってしまえば見捨てられるかもしれませんね。そして別の商会が伯爵の御用達になるだけ。キャラバンを組んで南領から塩を持ち込んでいる商会はいくつかあります。その商会もどうなることやら……」

 オーヴェの中じゃクラウス商会は没落確定? 

 そして、それに巻き込まれる商会もいくつかあるのかね。

「要はね、俺の身内に手を出さなきゃよかったんだよ。出さなければこっちから行動することは無い。いきなり攻めてくるからこうなる……って言い訳しておくよ。でもやり過ぎた感はある。確かに南領から塩を入れている商会はいくつかあるだろう、関係ないのに巻き込んでしまったのは失敗だったな」

 俺が少し元気がなくなったことに気付いたのか

「後見人様。商人は『機を見るに敏』でなければいけません。オセーレの塩の価格が下がったのです。そしてその価格に対抗できないということも理解しているはずです。だったら別の道を探すのが商人です。誰も気付いていない道をです。オセーレを諦め、デュロム村から塩を仕入れ、ドロアーテやそれこそパルティーモ、ゼファードに売りに出ることも可能だったと思います。長い間の護衛、宿泊費、食料、その点を考えてもキャラバンを送るよりも十分に利益があったでしょう。それを強引に盗賊をけしかけた結果、その別の道を閉ざしたのはクラウス商会のせいです。別の道に気付いていない別の商人たちのせいです。後見人様は気にする必要はありません」

 慰めるようにオーヴェが言った。

 オーヴェ、お前商人でもやっていけるよ。

「ありがとな、少しスッキリした。まあ、恨まれたら恨まれた時だ。それじゃ、手紙の配達の件準備できたらまた来るよ」

「はい、畏まりました」

 俺は扉を出し家に帰るのだった。



ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

帰宅後に思ったより筆が進んだので、投稿しておきます。

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