いろいろ手回し
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
ダンジョン街道は出来た。
んー、見切り発車で計画なし。
売る場所さえ決まっていないのに俺もよくやったもんだ。
さて、約束を変えるんだランヴァルド王の所に行くかね。
扉を出し王の部屋へ向かう。
「おいっす!」
俺は扉を開けて中に入るとランヴァルド王は中で仕事をしているようだった。
「おう、マサヨシか。今日はどうした?」
ランヴァルド王は机から立ち上がり、俺に近寄ってくる。
「岩塩の事でちょっと話があってね」
「ほう、何だ?」
「岩塩を手広く売りたい。要は魔族の国以外の国にも岩塩を卸したい」
俺の前に立ち止まると、
「ふむ、それはなぜ?」
とランヴァルド王は聞いてきた。
「ベーン伯爵家御用商人のクラウス商会に嫌がらせをしたいから」
そのあと村を襲われた事情を説明する。
「お前に手を出してきた奴がいるのか……バカな奴だ」
と言ってランヴァルド王は呆れた顔をした。
「まあ、ノルデン侯爵の後見人が執念深いなんて知っている貴族は居ないだろ?」
苦笑いの俺。
「それはそうなんだが……それを統べるのも俺の仕事だからな。ノルデン侯爵の代替わりとその後見人がマサヨシだということは通達してあるんだがね。それだけじゃ怖さはわからんか」
苦笑いのランヴァルド王。
「俺も舐められたままというわけにはいかない。だから行動を起こすわけだ」
「ノルデン侯爵が岩塩を外に売るのは問題ない。しかし今なぜそれを?」
「ん?岩塩はオセーレにしか卸さないと言っていただろ?」
ランヴァルド王は思い出したようだ。
「そういえばそんなことを言っていたな。ただの口約束に律儀な奴だ」
苦笑いのランヴァルド王。
「口約束でも約束だからな」
「何にしろ岩塩の事はノルデン侯爵のものだ。好きにしてくれていい」
「すまないね」
俺がそういうと、ランヴァルド王は「フウ」とため息をつき
「何もなければ、お前は動かんだろうに。謝るのはこっちだ」
ランヴァルド王は申し訳なさそうに言った。
「気にしなくていいよ。さて、許可も貰ったしそれじゃ家に戻る」
そう言って俺は家に帰った。
さて、次は岩塩を卸す店。
俺の知っている店はっと……。
俺は家を出てカールの所へ向かった。
「おいっす」
支店に入り右手を上げカールにそう声をかけると、
「おっ、おいっす……でいいですか?」
と返してきた。
「ああ、それでいい」
「それで何ですかその挨拶は」
そりゃ、知らんか……。
「ああ、俺の地元で仲がいい相手にする挨拶だ」
「そうなんですか?豪快な挨拶ですね」
さすがに〇リフターズ知らんよな。
「それで、私に何か用でしょうか?」
「ブロルの店はパルティーモやゼファードに支店とかあるんだっけ?」
「パルティーモには塩の仕入れの関係で支店がありますが……ゼファードには無いですね。それが何か?」
「ふむ、ブロルの店の塩はどこから仕入れているんだ?」
「我々はパルティーモで魔族のキャラバンから南領の塩を購入しております」
ふむ、聞いた話と一緒か。
「俺の作った村で岩塩を採掘して、オセーレに納品しているのは知っているか?」
「はい、知っています。何の折でしたか、クラーラ様から聞きました。ここに分けてもらっている岩塩がそれなんですよね」
「そうだ。その岩塩を簡単にリンミカやパルティーモのブロルの店に卸せると言ったらどうする?」
カールが睨むように俺を見た。
あっ、カールの目が変わった。
即座に、
「それで、どのくらいの卸値で売っていただけるのでしょうか?」
とメモを取り始める。
しかし、俺はどの程度の価格で納めているかなど知らない。
「逆に南領の塩をどの程度でどのくらいの価格で買っているんだ?」
俺が聞くと、カールは奥に入り、こぶし大の岩塩を持ってきた。
「そうですねぇ、ここの塩はマサヨシ様のほうからただで頂いていますが、この位の重さで銀貨一枚でしょうか。」
と言って俺に渡してきた。
これが一万円ね……高ッ。
効率のいい製塩の技術もないこの世界では塩の価値が高いんだろうな。
当たり前のように塩を使っている俺んち関係って、意外と凄いのかもしれない。
「この岩塩がどの位の金額になるのかはノーラに聞いてみる。岩塩の販売は俺がやっている物じゃないからな。まあそれでも南領から運ぶ塩よりは安くはなるだろうね」
カールはしばらく考える。
「マサヨシ様、すみません。ブロル様と相談してきます。お前たち! 私はリンミカに行ってくる。あとは任せたぞ」
そう言って、店員をしている子供たちに声をかけると。
「「「はーい、行ってらっしゃいませ」」」
と子供たちは返事をした。
カールは早速転移の扉の方へ行くとリンミカへ向かうのだった。
カールに置いてけぼりになって考えた。
言われてみればそうだよな。
売りたいモノの値段さえ知らないのは問題がある。
さて、ノーラの執務室に行くべ。
執務室のドアをノックし、
「俺だけど、今いいか?」
と声をかけた。
「ああ、あなた。どうかしたの?」
中から声がして扉が開く。
「ちょっと聞きたい事があってね」
俺がそういうと、
「まあ、中に入って」
ノーラは俺を導いてソファーに座らせ、そしてノーラは俺の横に座り体を預けてきた。
「で、何が知りたいの?」
ノーラは俺を見上げる。
「オセーレへ納めている岩塩の値段を知りたくてね」
「それはまたどうして?」
不思議そうな顔をするノーラ。
「ノーラ、ベーン伯爵家御用商人のクラウス商会が、盗賊団を焚きつけてデュロム村を襲ってきたのは知っているか?」
「えっ、そんな事があったの?まだ報告書は上がってないわ」
ノーラは驚きを隠せないようだ。
「昨日の未明の話だから書類として上がるのは数日後だろうな。俺も帰ってそのまま寝たからノーラに言うのを忘れていた。申しわけない」
「それは問題ないけど……それで村は?」
「村への被害はない。襲ってきた盗賊たちも俺とポチとリルで撃退して捕まえた。その後オーヴェを契約者にして犯罪奴隷として村で働かせるようにしてある。人手が足りないらしいからな」
ノーラは俺の話を聞き安心したのかため息をつくと、
「あなた、ノルデン侯爵家としてありがとう」
と、頭を下げてきた。
「いや、問題はないよ。俺も後見人としてできることをしたまでだ。そこで、舐められたままって言うのが嫌でね。クラウス商会へ嫌がらせをしようと思ってね」
「嫌がらせ?あなた、それはどうやって?」
「前に言っていた転移の扉を使った都市を結ぶ道ってのがあっただろ?それに近いものをアグラに頼んで作ってもらった。『ダンジョン街道』って呼ぶ予定だ。デュロム村から各街へ半日かからずに行けるんじゃないかな。そこで、安い岩塩を街に卸すことで塩の値段を下げ、クラウス商会が南領から塩を仕入れてオセーレに戻る途中で得る利益を無いものにしてやろうかと……。そのためには岩塩の卸値を知らないと難しいだろう?ってなわけで、その辺を聞きに来たわけだ。カールの話では南領で仕入れた塩を買うと、この重さで約銀貨一枚だそうな」
俺は参考までにカールに貰った岩塩の塊をノーラに渡した。
「パルティーモではこれが銀貨一枚なのね。王都への卸値で考えると、この倍は買えるわね」
「えっ、そんなに安いのか?」
「あなた、考えてもみて?岩塩鉱山って採掘・運搬・護衛の経費が掛かるの。採掘は仕方ないとして、運搬と護衛費は村人とワンコ小隊、そして、マサヨシのところの女性冒険者で対応しているでしょ?単価が安いの。それにオセーレまで半月もあれば着くから、南領までキャラバンを組んで数ヵ月をかけて往復することと比較したら経費は格段に安くなるわけ。その分利益を得るための上乗せも少なくなる。正直王都への納入量を考えればこの大きさの塩で銅貨十枚でも十分元が取れるわ」
「今後、ダンジョン街道を使えばさらに経費削減になるっていうことか……」
「そういうこと。でも、オセーレへの卸値よりは低くはできない。だからオセーレへの卸値をその大きさで銅貨五十枚って考えればいいと思うわよ。他の国の街へ卸すのなら、銅貨八十枚で交渉して七五枚から七十枚で終わらせる感じでいいんじゃないかしら。生産量の増加、運送と護衛に関しては、さっき言った犯罪奴隷を使えばいいから問題はないと思うわ。実際に契約してみて量を確認しなければいけないけど、あの岩塩鉱山なら魔力で岩塩が日々回復するから大丈夫でしょう」
「了解、それで話をまとめてみる。契約は勝手に俺が決めていいか?」
「今更でしょ?私はあなたについて行きます」
ノーラがそう言って抱きついてきた。
しばらくノーラが甘えるのに任せていると、
「そろそろ私は仕事に戻りますね」
と言ってノーラは体を起こした。
「でも、たまにはここに泊まってください。一人寝は寂しいので……」
ここでも「たまには」かあ……。
ホント考えないとな。
「おう、わかった」
そう、曖昧な返事をしてノーラの部屋を出るのだった。
ふう、嫌がらせのためとはいえ労力が要る。
遅い昼飯を食べ、天井を見ながらソファーにもたれていると、
「マサヨシ、何やってんの?」
とカリーネに声をかけられた。
「お前こそ、こんなところで……」
「ああ、ちょっと早上がり」
「だったらいいんだけど」
「心配してくれてありがと」
そう言うと、カリーネは俺に近寄り、頬にキスをしてきた。
「ところで、何悩んでるの?ここでそうしている時は何か悩んでいることが多いでしょ?」
カリーネが聞いてきた。
「ノーラのところで岩塩採掘をしてオセーレに納めているのは知ってるか?」
「ああ、聞いたわよ。村作ったんだって?」
「そう、俺の村から納める安い岩塩に張り合うと、南領から仕入れて塩を納めていた商人は利益がでない。だから盗賊団を焚き付けて、商売敵の俺の村を襲ってきたんだ。撃退して特には問題なかったんだけどね」
俺の話を聞きふんふんと頷くカリーネ。
「だったら貴方のことだから、その商人に仕返しをしようと思ったわけね」
「よくおわかりで。仕返しというより嫌がらせかな?『南領から塩を持ち帰る時にその道すがらで街で塩を売っている』って聞いたからこっちの岩塩を売り込んで卸値を下げて利益が上がらないようにしてやろうかとね。村から各街までの運送距離を縮めるためのダンジョン街道は出来たわけだが」
「ダンジョン街道?」
カリーネが聞いてきたので、ダンジョンの特性を使った道のことを説明する。
「それって凄いわね。ダンジョンの出口を街と繋いで街道として使うなんて……。外の世界から来たマサヨシらしい考え方なんでしょうけど」
「でも、使えるダンジョンコアが居ないとできません」
と、俺が言うと「エヘヘ」という感じで照れているアグラ。
「後は塩を卸す相手を探さなきゃいかんわけだ。カールに言ったら食い付いてきたからパルティーモとリンミカは問題ないと思うが、他だよなぁ……伝手が無い。まあ、領主辺りに声をかけてみるさ」
俺は頭を掻きながら言った。
カリーネは腕を組み少し考えると、俺の前で胸を張る。
強調された胸が「バイン」って……揺れる。
カリーネは、
「当然ゼファードの近くにも出入り口があるんでしょ?」
と、聞いてきた。
「ああ、その通り」
「そうね、わかったわ。今度ゼファードの商業ギルド代表者に会わせてあげる」
「えっ、いいのか?」
「私は冒険者ギルドのギルドマスターよ?問題なし!約束ができたら私から連絡するわね」
そう言ってカリーネがサムズアップする。
「助かるよ」
「あなたの妻になる女よ?任せて」
カリーネはそう言うと「じゃあ」と言って部屋へ向かった。
こんだけ巻き込んだんだ。仕返しは上手くやらないとね。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
もうしばらくこんな感じです。更新ペースは上がらないと思います。申しわけありません。




