さあ完成
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
「たっだいまー」
俺んちの玄関にエリスの元気な声が響く。
俺の肩に居たアグラは、その声と共に二階の手すりの定位置へと飛び立った。
マールが玄関に出てきて、
「旦那様、エリスちゃん、お帰り」
と出迎える。
「ああ、マール、これ」
俺はロイヤルティーバードの茶葉が入った袋をマールに渡した。
「えっ、私にお土産ですか。あっこれは、ロイヤルティーバードの茶葉…………」
ロイヤルティーバードの茶葉が入った袋を持ち固まるマール。
「これは……ストルマンでしか手に入らないという、ロイヤルティーバードの茶葉。私が紅茶好きだから買ってきてくれたのですね。嬉しい!」
マールが俺に抱き着いてきた。
「おいおい、どうした? 急に抱きついて来て」
エリスが俺とマールを見てニヤニヤする。
「まあ、『旦那様』に呼び方も変わったし、やることはやったんだろうけど、エリスが居るのに見せつけるわね」
小姑のように出現するクリス。
「私は大丈夫」
ニカっと笑ってマールを見た。
今の自分の姿に気付いたのか、
「えっと、ああ、恥ずかしい」
マールは顔を真っ赤にして、奥へ走っていく。
クリスは「何やってんだか……」と言いながらマールを見送ると、
「バーリーの店はどうだった?」
と、俺に聞いてきた。
「店の中に入る時一揉めはあったが、中には入れた」
「まあ、あなたがあの店に入れないとは思わないけど……。それで、味はどうだった?」
「ロイヤルティーバードの紅茶を飲んだがマールの紅茶に勝るぐらい美味かった」
「でしょう? で、どうするの?」
「ん? どうするとは? さっき見ただろう。ロイヤルティーバードの茶葉をマールに渡したからこの家でも美味い紅茶が飲める」
「それだけ?」
俺を探るようにクリスが聞いてきた。
「それだけと言われてもなぁ……。『ロイヤルティーバードの茶葉を生産しようかなぁ』って思ったぐらだぞ? 店主のバルドさんも手伝ってくれる約束もしたし」
俺の返事を聞いてにっこりと笑うと、
「あっそう。だったらいいの」
と口にした。
ふむ……。
「結局、クリスもあの茶葉の紅茶が飲みたかったんじゃないのか? ああ、だから、バーリーの店を勧めたわけか」
いたずらがバレた子供のようにばつの悪い顔をして、
「そうよ、こっちでもロイヤルティーバードの紅茶を飲みたかったの。それにマサヨシならあの茶葉を生産できるでしょう?」
クリスは言った。
「ちなみにあのサイズの茶葉の紙袋でいくらになる?」
「そうねえ、金貨十枚ぐらいじゃないかしら」
「重さ的に金より高価なんだな」
「そう、ロイヤルティーバードの茶葉は高価なの。それをここで生産できればお金が落ちるでしょ」
どや顔で俺に言う。
「確かにな。でも少量生産だからつく価格だ。価格を下げない程度の量を生産しないといけないだろう。でも、お陰で産物ができそうだ、ありがとう」
俺はクリスを軽く抱き寄せ礼を言うと、なぜか俺の近くに来たクリスの目が潤んでいた。
「どうかしたか?」
何かを察したエリスが、
「さあ、部屋に戻ろう。頑張ってねー」
と言って玄関を去っていく。
よく気が付くエリス。
クリスの雰囲気が変わったのに気付いたようだ。
しかし「がんばれ」とはな……。
俺が見下ろすとすがり付くようにしてクリスが見上げてきた。
「今日はあなたと一緒に居たい。最近いろいろ忙しくて、朝食も一緒に食べないでしょ? ストルマンの王宮で一緒にはなったけど大分経ってる。たまには二人っきりになりたいじゃない」
俺は自分の体を確認した。
外から戻ったばかりで埃っぽいな。
「じゃあ、たまには二人で風呂入るか?」
「えっ、お風呂?」
「まあ、俺が埃っぽいのもあるんだがね。洗浄魔法を使えば埃や汚れは取れるがやっぱり風呂に入りたい。嫌か? ここの風呂は手足を伸ばして入っても十分だし、二人入っても余裕だから気持ちいいと思うんだがな」
「二人でお風呂……」
上を向いて何か考え始めるクリス。
「あー、面倒だな……」
そういうと、クリスをお姫様抱っこした。
クリスは現実に戻り現状把握できないのか「えっ、えっ」っと周りを見回していたが、気にしないで脱衣所へ向かう。
魔光燈があるとはいえ、少し薄暗い脱衣所。
クリスを降ろすと、やはり少しポーッと夢見心地な感じがあった。
「大丈夫か?」
「ん? 大丈夫」
そういうと、クリスは着ていた服を脱ぎ始めた。
サラサラと衣擦れの音がすると、クリスの裸体が現れる。
「じっと見られると恥ずかしい……」
ガン見状態だったようだ。
「奇麗な体だから見とれてしまったようだ。申しわけない」
「体だけ?」
「ん? 全部だな」
無難な言葉。
「だったら容姿も性格も綺麗って事でいいのね?」
「んー、性格はどうだろ……」
俺は腕を組んで考えるそぶりをする。
「えー、違うの?」
おっと、ちょっとクリスの機嫌が悪くなった。
「俺はクリスの性格を『好き』なんだろうな。綺麗って表現はちょっと違うと思う」
「んー、だったらいい。早くお風呂に入るわよ」
コロコロと機嫌が変わる。
俺はクリスに手を引かれ風呂に入るのだった。
かけ湯をして風呂に入るとき、
「「あ゛ーーー」」
二人でハモるようにオッサン臭い声を上げてしまう。
雰囲気も何もないな……。
しばらく大の字で浸かっているとクリスが俺に近づき、抱きついてきた。
自己主張する胸が俺の脇の辺りに押し付けられる。
「嫌?」
腕に押された胸が更に主張する?
「嫌じゃないが、ちょっとな」
風呂を終えクリスの部屋に向かっているとリードラとすれ違いざま、
「二人ともいい感じじゃな」
と。リードラはニヤリと笑いながら言う。
クリスは恥ずかしいのか顔が赤い。
俺はリードラに手を振り、
「たまにはな」
と返した。
するとリードラに
「我も『たまには』が欲しいぞ」
と去り際に言われてしまった。
いろいろ考えないといけないね。
クリスの部屋に入りクリスをベッドに寝かせると、
「どうして、回復魔法を使わなかったの?」
と聞いてきた。
「んー、それだと終わりが無いだろ?」
クリスが真っ赤な顔をして、
「そっ、その時はその時で……」
「俺も明日やることあるし今日はここまでかなぁあ。添い寝で終わり」
「ぶー」
頬を膨らませクリスが拗ねた顔をした。
「添い寝はしてくれるんでしょ?」
「ん? 添い寝はする」
「それならいい」
俺は魔光燈を消しクリスのベッドに入る。そしてクリスを抱き寄せ腕枕をして朝まで寝るのだった。
カーテンの隙間から零れる光が白み始めたころ、クリスを起こさないようにして俺はベッドを降りた。
腰のあたりを触り、治癒魔法をかけておく。
そして俺はクリスの部屋を出ると二階の手すりで寝ているアグラを
「ダンジョンの出入り口を作りに行くぞ」
と言って起こした。
すると、フラフラと俺の肩まで飛んできて、寝はじめる。
器用なやつだ。
俺は扉を出し、残りのオウル、ゼファード、オセーレ、セリュック、リンミカ、それぞれ街道沿いの目立たないところでアグラに出入り口を作ってもらい一応ダンジョン街道の形ができた。
あとは運用の仕方だよな。
扉でもつけて、通行許可証をかざさないと使えないようにしないと。
信用された者しか使えないように魔力を登録したカードでも作って、そのカードを登録者が扉に近づけて認証されないと開かない扉を作ればいいか。
んー、全ての扉をリンクさせておくかな。
扉を壊して侵入しようとしたら、即座にすべての扉の街道とダンジョンの繋がりが切れるようにしておけば、もし気付かれて強引に中に入ろうとする者がいたとしても、扉の裏側はただの土壁になる。
スロープの部分が全て土に埋まるってのもあるが、間違いで馬車をぶつけて扉を壊した場合、えらいことになるのでやめておこう。
「マスター何をぶつぶつ言っているんですか?」
気が付かないうちに声に出ていたか……。
「ダンジョン街道使用の認証方法とか、ダンジョン街道を守る方法とか、考えていたわけだ」
「ああ、使用者については、マスターが許可した者以外使えません。私の前で『お前が使えるようにしておいた』とでも言っていただければ、その者だけを使えるようにします。私はダンジョンの管理者ですから、ダンジョン内部に居る人物については把握できます。ただし、岩塩の出荷で街道を使う場合は往復のみ、つまり取引の間だけにしておけばいいかもしれませんね。それ以外の者が外部から入ってきた場合は外に放り出すようにします。その際には侵入者の魔力を記憶していますので、侵入者はその後ダンジョン街道が認識できなくなります。もし仮に間違って出入口のスロープに入ったとしても転移されませんから、そこは行き止まりのただの洞窟になります」
うっ、俺よりも考えてる。
負けた……。
なんか悔しい。
「お前、ダンジョンに居る冒険者や魔物を全部把握しているのか?」
「当然でしょう? 私はダンジョンコアです。ダンジョンの事はすべて把握済みです。まさか、私が適当にダンジョンを管理していたとお思いですか?」
アグラが腰に羽を当て、目を細めて俺を疑ってきた。
「いいや、できるダンジョンコアのアグラが適当なことをしないのはわかっている」
嘘です、適当だと思っていました……。
「それならいいのです」
眼鏡も無いのに眼鏡を直すように羽を動かした。
「それでは、私の管理方法でよろしいですか?」
「ああ、アグラに任せる」
「畏まりました」
これで、ダンジョン街道の運用方法は決まった。
アグラって意外とできるダンジョンコアだったんだな。
「さて、一応どの出口がどの街に繋がるか看板ぐらいは作ってくか」
「はい、今のままではどこに繋がるかわかるのは私だけになってしまいますから」
俺は収納カバンから木材を出し、板と杭を作って各出口の行き先表示を作るのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




