ストルマンの街
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
ストルマンの街を歩く。
フクロウを肩にのせた人と獣人の少女という組み合わせが珍しいのか、エルフの住人たちに俺たちはチラチラと見られるのだった。
しかしエリスは気にしていないようだ。
「お父さん。すごいきれいな街だね」
「そうだな、整然と建物が並ぶ街だな。でもエルフを重視する国のせいか、俺やエリスを見る目が厳しい。何が来ても問題ないって感じなゼファードの街の方が活気があって好きだけどね」
「混じり物を嫌う街って感じ?」
「エリスは上手いこと言うね。そんな感じ。座布団一枚だな」
「座布団一枚?」
「ああ、いい答えを出したら、座布団一枚ってゲームがあるんだ」
「ゲーム?」
結局、大喜利の説明をしながらしばらく歩くことになった。
突然、きれいな馬に乗ったエルフの集団が現れ、俺たちの前で止まった。
「イケメン集団だね」
エリスが言うと、
「座布団は?」
俺を見上げながらエリスが聞いてきた。
「ひねりがないからダメ」
「残念」
エリスはカクンと頭を倒す。
座布団が欲しいのか、大喜利を続けていた。
座布団の意味はご褒美ぐらいにしか意味がわかっていないようだ。
「お前たち、この街で人と獣人の組み合わせ、それも成人の男と獣人の少女という組み合わせは珍しい。どういう関係なのか説明してくれないか?」
隊長らしき男が俺を見下ろしながら聞いてきた。
「俺の義理の娘だ。この子の母親と縁あって結婚することになってな。仲良くこの街を連れて歩いていたわけだが?」
と問い返した。
すると、隊長は俺の顔をじっと見ると、
「そんな言い訳が通るとでも? お前は人買いだろう。その少女を買って、いい目を見せているんじゃないのか? その後、辛い仕事につける。最近子供がさらわれる事件が多発しているのはお前が犯人なのではないのか!」
といきなり犯人扱いしてきた。
「確かに、俺とエリスの組み合わせは珍しいかもしれない。だからと言っていきなり犯人扱いってのは酷くないか?」
「では、この子と義理とは言え親子であるという証拠を出せ」
結婚もしていないのだからそんな物はない。それに、この世界で親子の証明をするようなものも見たことが無い。無茶振りにしか思えない。
「仕方ねえなあ。根本問題を解決するしかないか……」
レーダーで七歳から十二歳の子供を指定して光点を調べると、百メートルほど離れた場所に一ヵ所だけ不自然に子供が集まる場所があった。
その数二十人程度。
「この辺に学校のような子供が集まる場所は?」
俺は隊長に聞く。
「無いはずだが……」
「お前ちょっと来い」
俺は隊長に声をかける。
「エリスも行くぞ」
俺がエリスの手を引き歩きはじめると、
「お前らちょっと待て!」
そう言いながらエルフたちはついてきた。
「お前らどこに行く!」
「そんな大声で叫ばんでも……。今向かっているのは、この辺で不自然に子供が集まる場所だ。はい、ここ」
ちょっとした二階建てのアパートのようだった。
「フウ、中を覗いてきてもらえないか」
俺が依頼すると、体からフウが現れた。
「ん、見てくる」
「ホムラも出す?」
エリスが聞いてくる。
「ホムラは攻撃特化だろ? 建物壊しそうだからダメ」
「えー残念。いいとこ見せたかったのに」
本当に残念そうだ。
ん?
突然エルフたちは馬から降り俺の前に跪く。
「お前らどうした?」
「まさか、あなた様はクリスティーナ殿下の婚約者」
隊長が恐る恐る俺に聞いてきた。
「そうだが、何で知ってる?」
「『精霊騎士団を壊滅寸前にまで追いやった男。人族で精霊女王並みの精霊を纏うものには気を付けろ』と報告されています。『その男は自分から名乗ることはない。見つけたら運が悪かったと思え』とも……」
「本人の前でひどい言われようだな」
「すみません」
隊長がヘコヘコと頭を下げる。
「女の子が鍵のかかる部屋に縛られて転がされてた」
そんな隊長などお構い無く、フウが俺に報告をする。
「男が数人、別の部屋にいる。どうする?」
フウが聞いてきたので、
「男たちを無力化してくれるか?」
と、再び依頼した。
「ん、わかった」
再びフウが建物に向う。
しばらくすると、何事もなかったようにフウが戻ってきた。
俺はフウと共に建物の中に入る。
エリスも「一緒に行く」と言い張ったが、「危険な目に合わさない」というカリーネとの約束もあったのでエルフたちと一緒に居て貰うことにした。
階段を上がった部屋の前で、
「ここ。鍵がかかってる」
フウが扉を指差す。
俺は扉の取っ手を持っておもいっきり引っ張ると、扉ごと外れた。
部屋の中には五人の男たち。
全員を縛って転がした。
マジックワームの糸だ、引っ張ってもまず切れることはないだろう。
普通の剣でも頑張れば切れるかな?刃は潰れそうだが。
男たちの処置が終わると、フウは何も言わず、階段を降り地下室に向かった。
俺はそれについていく。
「ここも鍵がかかってる」
同じく扉を壊すと、中にはレーダーの光点以上の人数の子達がいた。
年齢の設定範囲が狭かったようだ。
一様に手足が縛られ、トイレにも行かせて貰っていないのか、中はすえた臭いがした。
俺を見る目が怯えている。
「まずは、洗浄魔法」
俺は部屋ごと子供たちを綺麗にした。
風呂も入っていなかったのか、皆気持ちよさそうな顔をする。
そしてロープを切り子供たちを自由にしたあと、エリアヒールをかけ子供たちについていた傷も治しておいた。
「ふむ、これでいいかな」
俺は建物を出て、
「人拐いかどうかはわからんが、子供たちが監禁されていた。この建物の上に関与したと思われる男五名、下に子供が居る。調べてみればいいんじゃない?」
俺がそうエルフたちに言うと急いで中に入っていった。
残された俺たち。
あとはあいつらに任せておけばいいかな?
「エリス、街ぶら再開だ」
「街ぶら?」
「街をぶらぶらすること」
「お父さんの『街ぶら』に座布団一枚」
大喜利がまだ続いていたのか。
「おう、ありがとう」
俺が考えた言葉じゃないがね……。
「今更だが俺一人じゃ不案内だな。アグラもわからんだろ?」
「はい、私もダンジョン以外はわかりません」
「エリスは知らないのが当然だし……」
そんなことを言いながら街を歩いていると、冒険者ギルドの看板を見つけた。
「中入ってみるか?」
俺はエリスに聞いてみた。
「いいよ、ゼファードとどのくらい違うんだろ」
エリスは興味津々。
尻尾がファサファサと動いている。
定番の両開きの扉を開けると、意外と冒険者らしきエルフは少なかった。
更に定番の冒険者弄りもない。
建物の中を見回したが、代わり映えのないものばかり。
「あまり変化ないねぇ」
残念そうなエリス。
「でも依頼に違いがあるかも?」
エリスが掲示板のほうへ向かう。
しかし、見たことがあるような討伐や配達などの依頼ばかりだった。ただし、一つだけ赤茶けた依頼票がある。
そこに書いていたのは「我が娘を探して欲しい」との言葉。
書いてある娘の雰囲気が、ゴブリンから助け出したエルフの娘、つまりモニカの雰囲気と一緒だった。
「受付のお姉さん。この赤茶けた依頼は結構長いみたいだけど、どういう依頼?」
「ああ、この国の子爵様の一人娘が馬車で外遊していた時に襲われてね、どこかへ連れ去られたようなんです。ギルドでも一年以上探しているんですが見つからないのです。高貴なエルフは人によっては高く売れます。特に美少女と呼ばれる部類になると天井知らずと言われています。人買いが手に入れ、金を持った特殊な趣味の男のところへ送られるということがあります。でもそういう者に限って足跡は残しません」
「その子爵の性は?」
「アグレル子爵と言います。未だに手掛かりを探しているとか……。まさか、何か知っているのですか?」
「わからんよ。ただ、この依頼票に書いてある少女に似ている娘を助けただけだ」
「この依頼は未だ解決しておりません。お受けいただけるのなら助かります」
「手が空けばと言いたいところなんだが……。一応子爵の館の場所を聞いてもいいかな?」
「一応この依頼の情報なので依頼を受けない方にはお教えできないのです。しかし、子爵の名前も言っていますし、できればこの依頼を達成していただきたいのでお教えします」
回りくどいな。
受付けのお姉さんはサッサと紙に冒険者ギルドからアグレル子爵の家までの道を描いてくれた。
俺のマップにもアグレル子爵の位置が表示される。
「ありがとう、もう少し情報を整理してから行ってみるよ」
そう言って俺は受付けを離れた。
冒険者ギルドを出ると、
「お父さんどうするの? あれって多分モニカちゃんだよね」
エリスも気付いていたのか、俺に聞いてきた。
「どうすればいいのかわからん。モニカの記憶が戻っているのかもわからん。記憶があったとして、そのまま帰していいのかもね。子爵に『生きているかもしれない』と言ってもいいが、事情を知らない子爵がどう動くのかもわからない。お父さんはこういう時『力なんてあったってどうにもできないよなぁ』って思うんだ。お父さんが思ったようにやったからって、モニカやアグレル子爵が納得する結果になるかどうかわからない」
「でもね、お父さん。何かしないと何も変わらないよ?」
「そうなんだよなぁ……」
「お父さんがやっての結果なら、他の人がやってもそれ以上の結果にならないよ。だからモニカちゃんの事も考えてあげてね」
エリスが全幅の信頼を寄せてくる。
ズシリと肩に何かが乗ったような気がした。
「はあ、何とかしてみるか」
俺はため息をつき頭を掻くのだった。
「喉が渇いたね」
エリスが言った。
「マスター、お菓子が食べたいです」
エリスに便乗するようにアグラがねだってくる。
結局この街に来て何もしていない。
そういえばこの街で食い物を食べたことはない。
実際に住んでいた奴に聞く方が早いだろうな。
「クリス、今大丈夫か?」
クリスに念話で聞いてみた。
「ん? どうしたの?」
「エリスとストルマンの街に来ているんだが、何かお菓子やお茶の美味い店は無い?」
「無いわよ、マールのお茶とあなたのお菓子に勝てる店なんてあるはずないでしょ?」
「えっそうなの?」
「そうよ。だから家で楽しむほうがいいとは思うけど……お茶だけで言うなら『バーリー』って店があるわ。ただエルフしか入れないって頑固な店。でもあの店の店主は精霊の格に弱いから、あなたなら何とかなるんじゃない?」
「ごり押しで通せと?」
「あなたの精霊を表に出せば店主が腰抜かして通してくれるわよ」
「へいへい、やってみます」
「まあ頑張って」
その声と共に俺はクリスとの念話を切った。
俺のマップを見ると、バーリーの店は表示されている。
「クリスに聞いたら、『バーリー』って店のお茶が美味しいらしい。行ってみるか。菓子は俺が出してもいいし……」
俺がそう言うと、
「うん、行ってみる」
「マスター、楽しみです」
一人は大きな尻尾を、一羽は羽を震わせ期待に胸を膨らませているようだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
もうしばらく更新ペースは上がらないと思います。申しわけありません。




