後始末
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
冒険者風の男は護衛、〇ルネコっぽいのは商人かな?
「いらっしゃーい!」
某噺家風に言ってしまう俺。
実際やってみて自身で引いた……。
「なにそれ?」って感じの冷めた目で俺を観察するポチとリル。
俺は冷汗を流しながら、
「えーっと、クラウス商会の人たちで良かったかな?」
と聞いてみた。
冒険者は剣を構え、俺たちを警戒する。
「いや、俺は事実関係を知りたいだけですから、攻撃する気はありません。それで、この中で一番の偉いさんは?」
俺の質問を無視する男たち。
無言……。
時間がもったいない。
「エン、手伝ってもらえないか?」
「僕? りょうかーい」
俺から離れたエンは任せてとばかりにクラウス商会と思われる男たちの前に行く。
まあ、男たちにエンは見えないけど……。
すると「ボウッ」と小さく揺れる炎が現れた。
男たちは食い入るように炎を見る。
……しばらくすると「カランカラン」と武器が落ちる音。
男たちの焦点はあっておらず口は半開きになって涎を垂らしていた。
「マサヨシ様、準備できました」
エンは褒めて欲しいのか頭を差し出してくる。
「ありがとさん」
望み通り頭を撫でると、エンは気持ちよさそうに目を瞑った。
そこからの情報はダダ漏れだった。
クラウス商会は魔族の国で南方からの塩の輸入により収入を得ていることで有名だ。
会頭であるダニエル・クラウスが最近の業績の悪化に対して危機感を抱いたようだ。
原因ははっきりしており、ノルデン侯爵家の岩塩鉱山稼働による塩の価格の低下。
当然クラウス商会から税を得るベーン伯爵も焦る。
ノーラ・ノルデン侯爵領のデュロム村にその鉱山があるのを確認したダニエル・クラウスはベーン伯爵に進言。盗賊団を雇い村そのものの奪取を目論む。
エドガー達を選んだのは、放火や設備の破壊を恐れたからだと言う。
エドガー自身も人心掌握にも長けていたようで、村を襲ったとしても、住民には手を出さず強欲な村長や代官を襲うと言っていた。
盗賊にも「丁寧な仕事」をするってのがあるのかね。
のこのこと馬車とともに現れたのは倉庫にある塩を回収しクラウス商会の当座の収入にする予定だったそうな。
「ということらしいんだが……オーヴェ、クラウス商会を商業的に潰すと言うのは可能かね?」
「クラウス商会はキャラバンを組み、南方より大量の塩を仕入れた後、途中のオースプリング王国の街で塩を売っています。オースプリング王国の周辺に海は無く、塩湖や岩塩鉱山もありませんから塩は外から仕入れているのです。その収入は魔族の国に納めた時の収入とほぼ同等だと聞いたことがあります」
さすが、できる男オーヴェ。
「じゃあ、途中の街で売れなくすればいいのかな?」
「そうですね、そうすればオースプリング王国でも魔族の国でも利益が出なくなるので、巨費を投じキャラバンを作る意味がありません」
ふむ……。悪知恵が浮かんだ。
エンの催眠術でフラフラなクラウス商会の男たちに
「作戦は失敗。エドガー達は全員掴まり村も無傷、そしてノルデン侯爵の後見人が後日報復すると言っていた」
と商会に帰れば報告するように暗示をかけ解放した。
門の外から戻ると、エドガーに近寄る。
「さて、こっちの後始末だ。エドガー、犯罪奴隷としてこの村で働く気はないか?」
「えっ?」
エドガーは驚いた。
「契約者はオーヴェ。だからオーヴェの命令には逆らえない。そんな所かな。不条理な命令をされたら俺が撤回するから安心して。まあ、オーヴェがそんなことをするとは思えないが……。一応給料は出す。俺の感じとしてはこの村の雑用係兼私兵だね。人手が足りない畑を手伝ったり、物の運搬をしたり、低級な魔物を狩ったり、鉱山が忙しければ手伝ったり、そんなところ。ああ、自分らで畑耕して作物を作ってもいいぞ。縛りは……そうだなあ、村人と俺の仲間への攻撃は禁止、物を壊さない、盗まない。そんな所かな。ちゃんとやるなら、五年で縛り無しにするぞ? 隷属の紋章はついているが、普通に暮らせる」
「そんなんでいいのか?」
「いいんじゃないか? 嫌ならこっちとしては奴隷商人に売りに出すだけだが……」
「いや、ここで暮らさせてくれ、俺たちも定住するところが欲しかったんだ。だから、クラウス商会の話にも乗った。村長のような暮らしは無理そうだが、アンタの言う話なら納得できる」
話に乗ってくれたようだ。
「お前らはどうする? ここで働くと言うのなら、お前らの分の土地を提供するぞ? ただし、代官であるオーヴェの言うことは聞いてもらうが……」
「俺はここで働く!」
「俺も!」
「!」
次々と声が上がり、結局エドガー達はデュロム村で土地を貰い働くことになった。
俺は盗賊たちの親指を縛ったマジックワームの糸をオリハルコンのハサミで切る。
そして俺は契約台を出し、オーヴェと盗賊たち全員を契約した。
「オーヴェ、盗賊とはいえ悪い奴ではなさそうだ。あとはよろしく頼むよ」
「畏まりました。私としても融通の利く労働力が不足していましたから助かります。細かい所の補修やフォローに頑張ってもらいましょう」
オーヴェは既に何か考えているようだ。
「ところで、クラウス商会のほうへの報復は? 先ほど悪い顔をしておられましたが……」
ニヤリと笑うオーヴェ。
「おっと、気付かれていたか」
「はい、楽しそうでしたからね」
そんなに表に出てたか……。
「要は、街で塩を売れなくすればいいんだろ?」
「そうです」
「安い塩が入ればクラウス商会の売れないだろ?」
「そうです」
「この村の岩塩は安いが、オースプリング王国の街へは普通の方法じゃ遠い」
「はい」
「だったら、普通じゃない方法で簡単に街に行き、街に塩を供給すればいい」
「普通じゃない方法?」
オーヴェはわかっていないようだ。わからなくても仕方ないか……俺だからできる力業だからな。
「それは後のお楽しみ。それじゃ、眠いから家に帰るよ」
俺はデカい扉を出して、あくびをしながらポチとリルと共に家に帰るのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
ここからしばらく、更新ペースが上がらないと思います。申し訳ありません。




