それ言っちゃうから……
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
ある日、
「岩塩を納めた帰りの馬車を盗賊のような男たちが襲ってきました。護衛のオルトロスたちのお陰で被害もなく、盗賊たちも全部捕まえ、その土地の領兵に渡してあります。その際にいくらかの褒賞金が出たのですが……」
という報告をゴブリン退治以来の居候冒険者、魔法使いのエトラ、剣士のフリーダ、シーフのドーガから受けた。
報奨金については「三人で受け取っておくように。ああ、わんこ小隊に肉でも買ってやって」と言っておいた。
彼女たちも居候って言っても、冒険者になりたい子供たちへの指導もしてもらってるんだけどね。
塩の運搬の時にはオルトロス、ヘルハウンドのわんこ小隊と共に護衛についてもらっていた。
帰りの馬車には、必要な雑貨と支払われた結構な量の金貨。
盗賊に襲われても仕方はないんだが。
さて、その荷車の情報どこから漏れたのやら。
俺んちの周囲の様子を見ていると、
「マサヨシさん」
と、ノーラの母親マルティナさんが近づいてきた。
「ん? どうかしましたか?」
「ノーラから聞いていませんか? 最近一部の貴族からの風当たりが強いようです」
「特には……。今日も会いましたが、至って普通でした。にしても、風当たりが強い理由は?」
「今、ノルデン侯爵家の収入は誰かさんのせいで大きいですからね。それも何の旨味も無かった森林地帯に岩塩鉱山を発見、さらには入植可能な畑を作った。続々と村人が増えています。王都までの道は整備され移動の速度も上がり、ますます交易も盛んに。周辺の貴族の領民は我が領に移動し、寂れているところまであると聞きます」
呆れた顔でチラリと俺を見る。
「要は妬みですか。それは貴族たちが努力していないからでは? 俺は後見人としての仕事をしただけですからね……」
「岩塩鉱山を採掘できるようにしたり、入植用の畑を作ると言うのは年単位での努力が必要です。街道整備なんて本当に時間がかかる……これほどの急激な発展なんて努力でどうこうなる物ではありません」
まあ、俺の場合、精霊に頼めば問題ないんだが……。
「それを言うなら、フィリップに文句を言ってくださいよ。わざわざ俺を後見人にしたんだ」
「はい、私はフィリップに感謝しています。最後にあなたを後見人にしてくれました。お陰で没落しかなかった侯爵家を発展させることができています」
俺じゃないんだ……。
結局、俺は死んだ男に上手く使われている訳なんだが……。
「要はノルデン侯爵家に何らかの嫌がらせがあるかもしれないって事でいいのかな?」
「嫌がらせは既に受けています。しかし、ノーラの手腕で上手くしのいでいます。それがノーラの仕事ですからね。気になるのはデュロム村そのものを無き物としようとする動きです。襲撃によって、村人を離散させ、村が機能しなくなることを狙う者や、村ごと奪い取ろうとする盗賊なども居ます。敵対者には貴族だけでなく収入が下がった商人も居ますし……そういう商人も共謀し、領都から離れたデュロム村を襲う可能性が……」
「まあ、外部からの襲撃に対する備えはしてますから、多分大丈夫かと……」
リルのワンコ部隊が居るので問題はない。
でも、マルティナさん、それはフラグっぽくない?
「ノーラも『その辺はあの人に任せておけば大丈夫です』と言っていましたから、心配はしてはいませんが……」
「忠告ありがとうございます。気にしておきますね」
それから暫く経った夜明け前、リルから念話で連絡が入った。
「多数の盗賊らしき魔族がデュロム村の方へ向かっているようです」
やっぱりか……。
「途中まではマサヨシ様が作った街道を使い、デュロム村の近くでわざわざ森の中に入って歩いています。隠れているつもりなのでしょうけど、逆に目立ってしまっている気がしますね」
俺の作った街道は今のところ認知度が低く旅人が使うことはめったにない。今のところ岩塩をオセーレに納める時に馬車が走る程度である。そのため、部外者が歩くと目立つのである。その部外者が森の中に消えるのだ、余計に目立つ。
向こうもその辺のこと気付かんかね……。
俺はデュロム村の入口にデカい扉で移動した。
ポチとリルも一緒である。
レーダーで確認すると確かに五十ほどの赤い光点がデュロム村のほうへ動いている。
「ご主人様、どうなさいますか?」
ポチが聞いてきた。
「そうだなあ。俺らでやってしまうか?」
「殺してもいいので?」
ニヤリと笑うポチ。
「殺すのはちょっとね。気絶程度で……。ポチの威圧なら簡単だろ? ああ、あと静かにね。夜だから……」
「わかりました」
「私もご一緒してよろしいでしょうか?」
リルも聞いてくる。
「ああいいぞ」
リルの尻尾がブンブン振られていた。
ああ、ポチと一緒に戦えるからか……。あいつら夫婦だからな。
あー、二頭の目が合ってる。
「あーん、あなたの目力が強い」
リルがポチの視線に身もだえ始めた。
えっ、それってポチの目が六個だから?
人同士がイチャつくのを見るのも嫌だが、魔物がイチャついているの見てもなあ。
一人と二頭でくだらない話をしていると、光点が近づいてくる。
すると、リルが上を向むき、遠吠えをした。
ただし、その遠吠えの声が俺には聞こえない。
ポチが言うには「リルの魔法は人の耳に聞こえない高音域で唱えるので、人は察知できない」と言うことだった。
盗賊たちが居る方向の気温が下がり、森の木の葉の先に白い氷がつき始める。周囲が真っ白に変わった。
霧氷のようで綺麗だ。
「リルよ、私の出番がない」
ポチが愚痴を言う。
「だって、ご主人様の前で戦ったことなんて無かったから張り切っちゃって……テヘッ」
だそうな。
結局リルの魔法の一撃で盗賊たちは行動不能になった。
俺が近寄っても、震えながら
「来るんじゃねえ」
とは言うが、まともに動くことさえもできなくなった盗賊たち。
俺の後ろにポチが現れると、絶望したような顔になった。
俺は収納カバンからマジックワームの糸を出し親指同士を結ぶ。
マジックワームの糸は強く切れづらい。引きちぎろうとしても骨まで喰いこんで血が出るのがオチである。
掴まった盗賊の総勢四十六名。
俺たちだけでは数が少ないので、リルのわんこ部隊に来てもらった、総勢五十頭。
約一頭で一名の監視。
さて、この場所を知った理由を聞きましょうか。
「で、なんでこの村を襲った?」
一番装備がいい大きな男に声をかけた。
頭かな?
「知らねえ」
俺を見てバカにするように言った。
あっ、舐められてる……。
軽くビンタをするとその男はスピンしながら数メートル転がった。
「ごめん、力加減を間違えた。大丈夫か?」
俺が上から覗き込むと、
「ひぃ……」
という声を出して、芋虫のように体を引きずり何とか逃げようとした。
しかし、逃げる方向に居たポチの足に当たる。
男は巨大なケルベロスであるポチに上から覗き込まれると、
「ひぃ……」
と再び言って固まった。
俺は男に近づき、以前使った嘘をついたら電撃が走る魔法を男にかけた。
「でさ、何でこの村を襲った?」
もう一度聞いてみる。
「こっ、この村に、金が集まってるって聞いたんだ。『岩塩が採れ畑もある。新しい村で警護する兵などほとんどいない。お前らで押し入り村を分捕ってしまってはどうだ』ってな」
俺ってあまり威厳無い? ポチが来たら、べらべらしゃべるし……。
まあ、男へビリビリが来ないので嘘じゃないようだ。
「誰に言われたんだ?」
「ベーン伯爵家御用、クラウス商会のダニエル・クラウス」
「えらい簡単に喋るんだな。最初からそうすればビンタしなかったのに」
「盗賊ってのは質問に簡単に答えたりしたりしない。一度目は否定するものだ」
変なポリシーを話す男。
「で、何で話す気になった?」
「騙されたからな」
男は悔しそうに言った。
「騙された?」
「『警護する兵などいない』なんてのは嘘だ! 魔物に守られているじゃないか!」
「あの村に、兵なんてほとんどいないぞ? 十人いないんじゃないかな。魔物も常に張り付いているわけでもない。魔物を使っての監視網ができていて、異常時に魔物が守りにくるっていう訳だ。俺もフェンリルもケルベロスもいつもならこの辺には居ないから、ただ調べに来ただけじゃわからないんじゃないかな」
「それでもだ!もっとちゃんとした情報があればこんなことにはならなかった」
「それは、お前にも言えるんじゃないのか? お前の周囲を魔物が監視しているのに気づかなかった。気づいて考え、襲わなければこんなことにはならなかったと思うがね」
俺が言うと男の勢いがなくなる。
「ちなみに、そのクラウス商会との連絡はどうやって取っていたんだ?」
「手紙をやり取りしていたんだが……手紙はその場で燃やしたから残っていない」
「証拠は無しか……」
「いや、今日あの村を襲撃することをあいつらは知っている。村を奪取した後に胸元にある花火を上げれば、クラウス商会の者が来る手はずになっている。『周りに何もない村だ、花火を上げたとて何も起こるまい』などと手紙には書いてあったがね」
「そんなことを話してもいいのか?」
俺は男に聞いた。
「今は命優先だ。少しでも生き残るほうを目指さないとな」
吹っ切った顔で、男はニヤリと笑った。
デュロム村に盗賊たちを連れていく。
村に着くころには東の空が赤くなり始めていた。
村の入り口に着くと、三名の警備兵が現れる。
俺を見て、
「後見人様、こんな時間に何を? えっ、その男たちをどうなされたのですか?」
警備兵は俺、ポチとリル、そしてリルのワンコ部隊を知っているので、別に驚いたりしない。
ただ、「こんな早朝に何が?」ということに驚いたようだ。
「ああ、デュロム村を襲いに来た盗賊たちだ。とりあえず代官を呼んでもらえるかな?」
「畏まりました。しばらくお待ちください」
隊長らしき男が言うと、一人代官の屋敷に走っていった。
「後見人様、お待たせしました」
そう言って、代官のオーヴェが現れた。
「悪い、こんな朝早くに」
「いいえ、盗賊に襲われそうなところを守ってもらったのです、気にはしませんよ」
「それで、クラウス商会を知っているか?」
「はい、我々の商売敵です。我々のせいで収入が下がっていますからね。目の敵だと思いますが」
「そのクラウス商会の手引きでここを襲いに来たらしい。ちなみにこの花火を上げたら、クラウス商会の者たちが来る手はずらしいんだ。上げてみていいかね?」
「それはもう」
ニヤリと笑うオーヴェ。
「その前に後見人様、この盗賊は義賊と言われた『エドガー』じゃないですかね」
「えっ、そうなの?」
ちらっと男を見ると、男は目をそらす。
当たりかな?
「『殺さず犯さず』だったと思います」
「居るんだな、義賊って……」
「稀にですけどね」
俺は男に近寄ると、
「お前は『エドガー』でいいのか?」
「いいや、そんな奴じゃない」
そう言った瞬間、電撃が走り男は身もだえる。
「悪い、さっき嘘をついたら電撃が走るようにしてたんだ。と言う事は『エドガー』で問題ないな。じゃあ、物を盗むときに人を殺したことがあるのか?」
「あるよ」
再び電撃が走るが、男は耐えた。
「女を犯したことは?」
「ある」
男は耐える。
盗賊のポリシーってそんなに重要かね。全部逆を言いやがった。
「オーヴェ、領内で捕まえた犯罪者はどう対処すればいい?」
「領内で処分します。断頭台やむち打ち、犯罪奴隷などいろいろありますね」
「この村に人手は足りてる?」
「足りているとは言い切れませんね、鉱山の採掘や畑の手助けができるものが居ると助かります」
オーヴェは俺の意図を酌んでいるようだ。
「じゃあ、クラウス商会が片付いた後で、犯罪奴隷にしよう。わんこたちは盗賊の監視ね」
「「「ワン」」」
「俺とポチとリルで対処」
「「はい」」
俺は花火に火をつけ打ち上る。
薄明るい中、かなりの高さまで火の玉が上がる。日本の花火とは違い、ただ火の玉が打ちあがるだけで最後に弾けたりはしなかった。
まあ、目印には十分か……。
しばらくすると、荷馬車とともに男たちが現れる。
クラウス商会の者たちのようだ。
入り口に立つケルベロスとフェンリルを見て、立ち尽くし震えだすのだった。
鳥居のような入り口の両端にたたずむポチとリル、狛犬っぽいな。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
まだしばらく、更新ペースが上がらないと思います。申し訳ありません。




