魚醤
誤字脱字の指摘大変助かっております。
今日は開拓地の端っこに居る。
以前手に入れた魚醤の樽を出した。
ぱかっとな。
樽の蓋を開けると、おぉ……臭い。
生臭いにおいが周囲に漂う。
匂いに誘われ小さな虫が集まってきた。
うーん何か嫌だ。
でもこのままじゃ使えないんだよなぁ。
何とか濾して魚醤だけを抜かないと。
「スイ、何とかならん?」
おもむろにスイに聞いてみたが。
「私が扱えるのは水なんですぅ。水の温度を上げ下げしたり勢いをつけたりはできるんですけどぉ、成分ごと抜きだすのは無理なんですぅ」
と申し訳なさそうな声で俺に言ってきた。
「無茶振りしたな、こっちこそすまん」
さて、どうしようか。
ん? そういや、空になった火酒の樽があったな。口径はと……。何とか一緒っぽい。
仕立てをしている銀狼族のご婦人方の所へ行って、
「この樽の口が塞げるぐらいのマジックワームの布を貰いたいんだけど」
と言って、一メートル四方ぐらいの布を貰ってきた。
これを魚醤の入った樽に張り付けてと……。
ひっくり返して水頭圧使って少しづつ濾過するか……。
こんな感じ?
実際に濾過してみると、「ポタンポタン」と雨だれが落ちるような音がする。
時間がかかりそうだが、まあ、楽しみにするということで……。
ポチがやってきた。
「ご主人様、何をなさっているのですか? そしてこの生臭い臭い」
「えっ、家の方まで匂うのか?」
「いいえ、小隊の一つから連絡がありました『ご主人様が変なにおいをさせて何かしている』と。ご主人様なので放置したようですが、私が気になって覗きにきた次第です」
「そうか、悪かったな。これは新しい調味料を作っているんだ。つけて焼いたり、炒め物に入れたりすると味が変わる。ちなみにこの臭いに魔物が集まってきたりしないか?」
樽を倒されると困る。
「多分大丈夫だとは思いますが、小隊に守らせておきましょう」
「よろしく頼むよ」
そして、二日ほど放置した。
その間にドランさんに飯盒を作ってもらおうと鍜治場に行った。
「こんな感じの容器を作って欲しいんだ」
ドランさんに形を説明すると、
「お前ら、これ作れるか?」
ドランさんが子供たちに聞く。
すると子供たちが
「ミスリルを使っていいですか?」
とドランさんに聞く。そしてドランさんの目が俺を見る。
「いいか?」
「まあ、いいと思うけど。足りなくなったらクラーラに言ったら貰えるようにしておくから」
「ということだ、領主様から許可が出た、思う存分いいモノを作れ」
真剣な目で飯盒を作り始める子供たち、叩きだしで形を作るようだ。
そして、次の日には三つのミスリル製飯盒ができていた。
やるねえ……。
ちゃんと、棒にかけられるように釣り手も付いている。
ついでに焼き網も一枚作ってもらった。
これで焼きおにぎりが作れる。
朝、魚醤を回収すると、樽に四分の一程度。舐めてみたら確かに醤油っぽい。ちと塩辛いけどね。
匂いは……濾したことで少しは落ち着いたか。
一応樽に残った残渣は水を入れて煮出してもいいので、カバンに回収した。
瓶に魚醤を入れ、一部を小ビンに入れておく。
石でカマドを作り薪を燃やした。
懐かしいねぇ、カマドで料理はしたが、こんな風に飯を炊くのはキャンプの飯盒炊爨以来か。
米を洗って飯盒に入れ適量の水を入れる。
そして、カマドに飯盒をかけた。
おーおー、熱伝導率が高いせいか、すぐに炊き上がるね。炭化してなきゃいいけど……。
飯盒から水分が出なくなってきたので、カマドから取り外して上下逆にして転がしておいた。
「いい匂いがするニャ」
興味津々の顔でミケがやってきた。
「おう、ミケ」
「ご主人様は何をしているのニャ?」
「ああ、米を焚いている。正確には炊き終わって蒸らし中」
「米?」
「ああ『リース』って言うらしい」
「リース? あ、あれあんまり美味しくないって言われている」
ちょっと嫌な顔をするミケ。
「そうなの? 食べたことあるの?」
「無いけどそう言う噂」
そういやイングリッドも『田舎っぽいから好かれない』的なことを言っていたような。
「ふーん、だったら俺だけで食うかな。美味いのになぁ」
そう言って、飯盒から蒸らしていた飯をしゃもじを使って取り出す。
しゃもじは木で俺が作っておいた。
俺は皿に飯を盛りおにぎりを作り始める。
お焦げも丁度ぐらいかな?
ニコニコしながら黙々とおにぎりを握る俺を不思議そうにミケは見ていた。
焼き網をカマドに置くと、俺はおにぎりを焼き始める。
チリチリと音がして焦げ目がつき始める。
そして魚醤の入った小さなビンを出しておにぎりに塗りつけて焼く。
さらに魚醤が焦げて香ばしい匂いがしてきた。
ミケはスンスンと匂いを嗅ぐ。
「いい匂いがするニャ」
「ああ、香ばしくて美味しそうだろ? 何でも料理の仕方次第って訳だ。まあ、たまたま俺がその料理の仕方を知っていただけ」
この位かな?
焼き上げたおにぎりを皿に置く。
集中して料理していたせいか獣人系の子供と……ありゃ、フィナまで来てる……エリスもアイナもか……あー結局子供たちが俺の周りに集まってきていた。
「欲しいのか?」
全員が頷く姿。
絶対足りないだろ!
仕方ないのでカマドに薪を追加し、飯盒で二バッチ目を作り始めた。三バッチ目も必要かもな……。
モリモリと食べる子供たち……と一部大人。
途中からはおにぎりは皆が手伝ってくれた。
まあ、炊き上がるのに時間はかかるし熱いご飯を扱うので、結局俺とフィナ、アイナ、ミケぐらいが作ることになる。
子供たちの賑わいがなくなるころには夕方になっていた。
あいつら仕事してんのかね……。
片付けをしながら俺が最後の焼きおにぎりを食べていると、
「ご主人様、こういうのもいいですね」
「そうにゃ、またやるニャ!」
「ん、美味しかった」
フィナ、ミケ、アイナは楽しげに言っていた。
あーあ、結局食べることができたのは一個か。
皆も喜んだし、一個とはいえ当初の目的おこげ入りの焼き握りを食べられたんだ良しとするか。
こんなに喜んでもらえるならまたやるかな……。籾もあるから銀狼族に栽培を頼んでみようとも思う。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




