物件
見た目は小太りな冒険者だが、所持金は一億リル(俺換算、百億円)超えになってしまった。結構なお屋敷を買うことも可能な気がする。
「リムルさん、冒険者ギルドって家の斡旋とかしてくれる?」
俺が聞くと、
「はい、住みたい物件の情報を教えてもらえれば、探しておきますが」
とリムルさんは答えた。
「家? 家買うの?」
「家ですぅ」
「愛の巣購入」
三人は家という言葉に反応する。
アイナ、その言葉から離れような。
「まあ、アイナの言う『愛の巣』とは言わないまでも、気兼ねなく生活できる家が欲しいかな。せっかく高額報酬を手に入れたんだ、こういうのに使うのもいいかと思うんだ」
「気兼ねなく、マサヨシと……」
「気兼ねなく、マサヨシ様の匂いを……」
「気兼ねなく、いろいろ……」
三者三様に妄想を始めた。
「まあ、そういうことでどんな物件に住みたいか意見を出し合おうと思います。言いたいことがある方は、手をあげて」
そう言うとすぐに、
「ハイ!」
クリスが手を挙げる。
「はい、クリス!」
「大きなベッドが置ける部屋があるといいです。みんなで一緒に寝たいです」
「それ良いです。私も寝たいです」
「マサヨシと一緒」
ふむ、大きいベッドが置ける部屋と……
「ハイ!」
フィナが手を挙げる。
「フィナ! はいどうぞ」
「個室が欲しいです。私は今まで個室というものを持ったことがないので……」
「私も欲しいわね」
「マサヨシと二人部屋」
「ダメ! 寝るとき一緒なんだからいいじゃない。そんな羨ましいこと、許さない」
おい、八歳と張り合うな。四十四歳。
「私だって、二人部屋の方が良いです。でも男の人は、一人で色々する時も有るらしいですから、それもあって個室が要るはずです」
フィナの言う「男がする色々」が気になるけど、一人一部屋と考えて、四部屋要るね。
サッ
アイナが手を挙げる。
「はい、アイナ君」
「大きなお風呂がほしい」
「おお、俺もそれは考えていた。木漏れ日亭の風呂ぐらい大きければ、みんなで入れる」
「私はまだマサヨシとお風呂に入ったことが無いわ」
「私もです」
「それは、酔っぱらった二人が悪い」
「それはそうだけど……」
「それはそうですけど……」
自業自得です。
ということで、風呂もだな。
「俺は、広いリビングも欲しい。ってことで、まとめると。大きなベッドが置ける寝室。それぞれに個室。四部屋以上だな。大きめの風呂。広いリビング。キッチンはついてないと困る。あとトイレだが、平屋なら二ヶ所以上、二階建て以上なら各階に欲しい」
「何で? トイレそんなに要る?」
クリスが不思議そうな顔をしていた。
「俺が大をした後とか、入りたくないだろう?」
「私は気にしないわよ? 冒険者はどこでもしないと」
えっ。
「私は基本隠れて外ででしたから」
えっえっ。
「私はトイレを使ったの昨日が初めて」
アイナは壮絶すぎだろ。
異世界の常識って奴か。とは言え
「俺が気になるの! だから譲れません」
俺は言い切った。
「庭はどうしますか?私は、広ければ広い方がいいと思います。狼は走り回りたいのです」
フィナが言った。
「いいね、俺もそう思う。何かしようと思っても、場所が無いんじゃな」
「いいわね、広い庭。晴れた日なんかは、楽しめそう」
「マサヨシと一緒に庭で遊ぶ」
「というわけで、広い庭追加」
そして、リムルさんの方を向き、
「こんな具合の物件有りませんか?」
と、尋ねると、
「有りますよ! マサヨシさんたちにピッタリです」
あれ?リムルさん、悪い笑い顔になってる。
「えーっと、この辺に置いておいたはずなんだけどぉ……あ、あったあった」
リムルさんは物件情報らしき紙を取り出して読みだした。
「ココから馬車で三日ほど行ったところの元グランドキャトルの牧場になります」
グランドキャトルとは前の世界で言う肉牛みたいだ。
「二階建てで母屋の部屋数が十、使用人用の離れをも込みで十五、主人用の個室は大きめに作られていますので、どんなサイズのベッドでも大体置けるのではないでしょうか? お風呂は大きめです。四人でも大丈夫。元持ち主がお風呂でいろいろなことをするのが好きだったようです。使用人用の離れにも風呂はあります。『風呂』というだけの物ですが……。玄関を入るとリビング兼ホール。シャンデリアのような物は付いていませんが明るめの魔光燈が周囲に設置されています。あっ暖炉もありますね。キッチンは大きめです。薪を使った竈で煮炊きするようになります。水は川から。トイレは母屋の一階に一つ二階に二つ、離れに一つ、計四つになります。庭は見渡す限りです。森の入口までと考えてください。なんと、馬小屋まで」
リムルさんは一気に言い切った。俺は、風呂でする「いろんなこと」が気になって仕方ない。つか、俺の言ったのより規模が違うし……。
「それ、俺が言ったのよりかなり大きくない?」
俺がそう言うと、リムルさんは、
「お買い得! こんな大きな屋敷がなんと金貨五枚! たった五万リル!」
「で、安いなりの理由があるのね」
俺が突っ込むと、リムルさんの目が泳ぎだした。
おっと、アイナが受付の死角から飛び出し、物件情報を取り上げる。グッジョブ!
「あっ」
リムルさんが取り返そうと手を伸ばすが、その時にはクリスに物件情報を渡していた。
「コカトリスの大きな群れが出没? そのために牧場が使えなくなったみたいね。まあ、飼われたグランドキャトルなんて、コカトリスに取っちゃごちそうだから」
クリスが言う。
「コカトリスって、石化する奴?」
「そう、石化する奴。まあ、アイナのキュアーがあるし、いざとなったらマサヨシなら気合で何とかしそうだし、良いんじゃない?」
気合じゃ何にもならんだろう。と言うか状態回復に俺の治癒魔法使ったことないぞ?
「そういうことか、俺らにコカトリスの群れの退治をやらそうと?」
「いえ、一度見てもらえれば気に入るかと……」
リムルさんの言葉にさっきまでの勢いがない。
「見に行ったときに、コカトリスが出たら、退治してくれるかもって?」
俺が尋ねると。
「まっまあ、たまたま出てくることもあるじゃないですか? まあ、その時にちょこちょこっと……ね?」
って、リムルさんが答えた。
その「ね?」って何なんだろう。「ついでにやっちゃえばいいじゃない」ってこと?
いい感じの家みたいだけど、ちょっと大きい気がするんだよな。維持が難しくないか? そう思っている時に三人が言い出した。
「このぐらいでいいんじゃない? どうせ増えるでしょ?」
「増えると思います」
「間違いなく増える」
「何が?」
ホントに何が?
「多分、私たちみたいな奴隷が増えるから、この物件で良いんじゃない?」
クリスが代表して言うと、
コクリ×二
残りの二人は頷いた。
「でっ、でしょう? ですから一度見に行けばいいんですよ」
おっとリムルさんの勢いが戻る。俺は勢いに押される。
まあ、三人とも気になっているみたいだから見に行くだけならいいか。
俺は勢いに押され切って負けた。
「はいはい、一度見に行きますよ。とりあえず物件までの地図と鍵を下さい」
俺がそう言うと、
「はい、これが地図になります。あと、これが鍵。気に入らなくてもコカトリスの群れは何とかしてもらえると助かります」
「群れを何とかしたら、何かあるの?」
「依頼ではありませんから何もありません。ただ、コカトリスの群れが居なくなったことで、物件の価値は上がるでしょうね。売値が上がれば、私にいくらか……」
うわっ、悪い顔だ。
「まあ、とりあえず物件の確認には行ってくるよ」
リムルさんの悪い顔と笑顔に見送られながら、俺たちがギルドを出た。




