式をする場所
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
王の部屋へマジックワームの布の件を報告に来ていた。
「そうか、儂の力なしで何とかしたか……」
ランヴァルド王はため息をつく。
「運が良かったんですよ、たまたまフィナの村に行ったら困っていたみたいなんで……。助けたら、欲しかった人材が集まった。お陰で染色までできるようになった」
「儂も探したんだがやはり金が絡むと貴族共は渋くなる。申しわけないな」
国王といえども貴族を無視はできないか……。
「本当は恩が売れるかと思っていたんだがね」
ランヴァルド王が言った。
「いや、恩は有りますよ。あの取り壊し前の建物がなければ、ノルデン侯爵領のデュロム村は成り立たなかった。簡単に建物なんて建てられないからね」
「そう言えば報告書が上がってたな。最初の岩塩が届いたようだ。南領から入れる塩に比べれば半額程度で納められていた。量、質ともに問題はないそうだ。このままいけば、南領産の塩からデュロム村の岩塩に移行していくことになるだろう。ノルデン侯爵側も今の値段でも十二分に利益が出るそうだぞ? これでノルデン侯爵領の財政もさらに良くなるだろう。もう一つ聞いたぞ。お前またやっただろ……?」
ニヤニヤしながらランヴァルド王は言った。
「へ?」
意味がわからない
「お前、この国の穀倉地帯をノルデン侯爵領に作るつもりか?」
「ああ、セリュックよりも広い土地を開拓したってこと?」
「今、土地も安く食料の保証があるという事でノルデン侯爵領への入植希望者が増えていると聞いている。順番待ちらしい。領地の農民が減っているという事で儂にチクチク文句を言いに来ている者も居る」
そんなことは聞いていなかったが。後で連絡あるかな?
「そんなこと言われてもなぁ……」
「そこまで考えていなかったのか?」
「ノルデン侯爵には農家の次男三男を募集するようにとは言っておいたが……」
「確かに、土地を継げない次男三男はデュロム村を目指すだろうな。それに、あの村の提供する土地は平面で綺麗に四角く整理されていると聞く。そんな話を聞いたら、急峻な狭い土地で大変な思いをして作物を作っている農家たちはどう思うだろうな……。頑張って作っても少量しか生産できない。そのうちのいくらかは領主に取られ、残った作物で生活をよぎなくされる。そこに転がってきた話だ」
「『整地された土地』っていうのがここまで魅力になるとは思わなかった」
「それにお前がノルデン侯爵に言ったんだろ? 『分割でも払えば自分の土地になるようにしろ』って……」
「それは、そうしないと人が集まらないと思ったからで……」
「普通は分割払いなんて考えはないんだ。土地が売りだされると大体金のある商人が売り出している土地を買い占める。そこで雇われた小作人が農業をするんだ。自分の土地になることなんて無い。でもな、お前の言っていた方法だと『自分の土地になるかもしれない』と思えるわけだ。だったら作る者はどう動くと思う?」
「少しでも収益を上げるために工夫する? 丁寧に作る?」
「そうだ、少しでも利益が上がれば自分の土地が近づいてくる。頑張って自分の土地になれば、税を払って残った分は自分の利益になる。自分から作物を作るだろう。小作人として作らされるものとは違う。多分ノルデン侯爵領の畑でとれる作物は、他の場所よりも面積当たりの収穫率が上がる。やる気が違うのだからな。通常、そういう土地でできた作物というのは美味い。美味いと客が付く。高く売れる。まあ、その辺はまだ皮算用の部分を越えないが。このままだとノルデン侯爵領のデュロム村は発展するだろう。楽しみだな」
言い切ったあと、ふと何かに気付いたようにランヴァルド王は俺を見た。
「結婚式をすると言っていたが、お前、式をどこでするんだ?」
「…………! あーーー」
大声を上げる俺。
ノープランだった。
「まあ、お前の事だから何とかするんだろうが……。急がないと間に合わんぞ?」
ヤレヤレと言う感じで話をするランヴァルド王。
「結婚式ってどんなところでするんだ?」
「屋敷が多いな。人が多く集められる屋敷。見た目も重要だ」
「そうだな、場所の事も考えるよ。魔族の姫様が嫁ぐのに恥ずかしくないようにしないと……」
俺も思い出す。
「あっ、隠しておいたことがあるんだが、義理の父親になる人に嘘をつくのも問題があると思ってね」
一応申し訳けなさそうに……
「嘘? ああ、お前が痩せているって事か?」
「へっ? 何で知ってる?」
「イングリッドが言っていたからな。『私はどっちでもいいんですけど……』とは言っていたぞ?」
「けっこう、勇気要ったんだけどなぁ」
俺は鼻を掻く。
「拍子抜けしたか?」
「ああ、でも俺の口からも言っておかないとな」
「それはそうだ。娘の口からきくのと、本人の口からきくのじゃ印象が全然違うからな。で、お前が痩せるとどんな姿に?」
俺は精霊を外し、痩せた姿をランヴァルド王に見せた。
「ふむ、いい面構えだ」
「まあ、こんな感じ」
何か恥ずかしくもある。
「その姿なら誰かに劣ると言われるような事もあるまい? 何でわざわざ隠す?」
「んー、太った姿での生活に慣れているからかな。事情があって最近まで太っていたんでね」
「マサヨシ、太るという事は自分が管理できていないことを表す。相手へ悪い印象を与えることもあるのだぞ? お前の妻たちが原因で太っていると思われることもある。やはり痩せて清潔感がある方が周りの受けもいい。その辺も考えないとな」
ランヴァルド王の言うことももっともだ。
「そうだなあ、結婚式がいい機会だ、痩せた姿で臨むようにするよ。そうすれば周知されるだろうしね。通常の生活もだな……」
「そうしろ。にしても、まずは式をする場所を何とかしろ」
「わかったよ、一度帰って考える」
そう言って扉で家へ帰るのだった。
家に帰るとベンヤミンを探す。
ボーとボーの大工見習たちも腕を上げ、最近は寄宿舎と校舎の補修についてはボーたちがやるようになっていた。
ニコニコしながらクリスの母ちゃんの家を補修しているベンヤミンたち。
ということで、クリスの母ちゃん所に行けばベンヤミンが居る訳だ。
「ベンヤミン、いいか?」
仕事の手を止めベンヤミンが振り向いた。
「なんだ?」
「この館を結婚式場として使いたいんだが、補修にいつまでかかる?」
「ん、もうすぐ終わるぞ? ただ、今のままじゃダメだ。アウグストの庭園が無い。本来庭園と館が一緒でアウグストの作品と言える」
そういえばそんなことを聞いたなぁ。
「じゃあ、庭を回収してくるよ」
「ちょーっとまったぁ!」
昭和の雰囲気がある言葉。
「旦那、俺も連れて行ってくれないか、どんな庭園なのか見てみたい」
「いいけど」
そう言うとベンヤミンは大工道具一式、プラスハサミ? を準備した。
二人でフォランカの近くにあるクリスの母ちゃんの館跡へ行く。そこには広大な敷地が残っていた。さっそくベンヤミンは庭園の様子を眺め確認を始める。
外壁を叩いて確認。
「外壁は……問題ないな」
転がる扉を見て確認。
「扉は歪んでるじゃないか! 誰だ!」
それはリードラでございます。
言わないけど。
ベンヤミンが続けて状況を確認する。
敷石を見て確認。
「敷石は問題ない。おっ噴水があるじゃないか……でも今は壊れているか……」
植木を見て確認。
「植木は大きくなっているが使えなくはないな」
するとおもむろに、ベンヤミンは木の剪定を始めた。
「剪定なんて事もできる?」
「大工だってこういう事も出来ないと困るんだよ。特にアウグストの作品を弄りたかったら、植木までできないとダメだ」
ベンヤミンは剪定を続けながら言った。
しばらくすると、すっきりとした植木になる。
コレならデカい扉で通すことはできそうだ。
「旦那、回収をお願いします」
俺は収納カバンを触れさせると、庭園一式が光り輝き収納された。植木は生きているので一本だけぽつんと立っている。樹齢で何百年なんだろう? この庭園を見続けていた木が残った。
「相変わらず出鱈目ですな」
呆れ顔のベンヤミン。
「クレイ、頼むよ」
俺がそう言うとその木が地面ごと浮き上がり、その幹を俺は抱えデカい方の扉を出して家に戻った。
「庭園と館を一緒にするから、ベンヤミンの弟子を一度館の外に出してもらえるかな?」
「旦那がそう言っておられる、お前ら一度外に出ろ!」
ベンヤミンの号令で弟子たちが外に出た。
俺はクリスの母ちゃんの館を一度収納カバンの中に入れた。
そして、収納カバンからクリスの母ちゃんの館の庭園を出す。
壁と敷石、噴水がポンと地面に置かれた感じになった。
クレイ先生にご登場願って全てを固定。
再びクリスの母ちゃんの館を出して、庭園に再び配置、埋め込んでクレイ先生に固定してもらった。
最後にベンヤミンが剪定した植木を植える。
ベンヤミンはフルフルと体を震わせ涙を流す。
「あとは館の一部の補修と、壁と敷石の洗浄。噴水を復活させればアウグストの作品の出来上がりだ。一か月もあれば大丈夫」
出来上がった姿を思い浮かべているのかもしれない。
「扉は?」
「扉はあっても無くてもいい。意匠が違う。アウグストが建てたあと、防犯のために着けた物だろう。
扉は要らないらしい。
という事で、ベンヤミン任せだが式場の目途は立った。
はあ、ドレスも考えないとなぁ。
ウエディングプランナーなんて居ないから何すりゃいいのかわからない。
あー招待状も要るのかね?
ランヴァルド王に聞きながら何とかするしかないか……。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




