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布を作る準備

誤字脱字の指摘、大変助かっております。

 糸紡ぎ機の糸車を回す動力として水車を使うことにした。

 開拓の時にできた池から川への流れを利用する。結構な水量だ。

 水量が少ないときは、水の精霊に頼めばいいだろう。

 この世界にも水車がある。ただ、歯車が割れやすいという事だった。

 うろ覚えの知識だが歯数は『互いに素』にしないと同じところが当たり、同じ歯にダメージが蓄積して壊れると聞いた事があったので、歯車の歯数については修正してある。

 ボーと子供の弟子たちがやってくれた。


 五十台の糸紡ぎ機の前にワームズとマジックワーム、シルクワームが整然と並び、糸紡ぎ機の速さに合わせ糸を吐き出していた。

 糸巻きがいっぱいになると、小さな子供たちは芋虫たちを軽く叩く。吐き出す糸を粘液で切ってもらい、動力を伝えるクラッチを切って糸紡ぎ機を止め、糸車を新しい物と交換。再び芋虫たちを軽く叩くと二メートルほどの糸を吐き出すので、それを糸巻きに取り付け、クラッチを入れて再び糸紡ぎ機を動かす。

 すでに工場化していた。


 機織り機については、ドランさんやベンヤミン、ボーに相談したが解決策は出ず、自動化は様子見である。一応機織り機自体は有るので、ここは人数を増やして対応かなぁ。

 今、フィナが女の子たちに機織り機の使い方を教えている。フィナも久々という事で苦戦しているようだが、シルクワームの糸での練習継続中。

 たまに見せてくれる布が少しづつムラが無くなり、白く光沢をもつようになっていた。商品として出せるようになるのももうすぐかな? できた布についてはカールに確認してもらって売り出し予定。


 ドランさん制作によるオリハルコンのハサミが完成した。

「これ以上のハサミは俺にはできんな。これで切れなければ、ヘブンワームに切ってもらうしかないだろう」

 と言ってドランさんが緊張しながら俺にハサミを渡した。

 ワームズに切ってもらうと、溶かした感じになって見栄えがね……。

 実際にヘブンワームの糸が切れるかどうか試してみると、

「サクッ」

 抵抗なくヘブンワームの糸は切れた。

 ドランさんが全力のガッツポーズ。

「凄いよこのハサミ、何でも切れそう」

「俺の技術のすべてをつぎ込んだからな」

「ドランさん、悪いんだけど針の制作もオリハルコンで頼むよ」

「おう、任せろ」

 これで、仕立て関係の道具ができたかな? 巻き尺や定規とかも作らないと……。


 人手不足を感じる。

「フィナ、お前の故郷のノルフォシ村で糸紡ぎ、機織り、一連の流れができる人居ないかね」

「できる人はいると思いますが、来てくれるかどうか……」

 難しそうな顔をするフィナ。

「正直人手が欲しいんだ、ダメ元で行ってみようと思う。一緒に来てくれるか?」

「はい」

 俺はフィナと共にノルフォシ村へ向かった。


 ノルフォシ村に入ると、沈んだ雰囲気だった。所々壊れた家もある。村人たちに元気がない。

「どうしたんだろうな?」

「何かあったのは間違いないようです」

 そんな話をしていると、銀狼族の村長を見つけた。

「村長、どうしたんです?」

 フィナが声をかける。

「おぉ、フィナか。そこのマサヨシさんに教わったようにして蜂の巣を増やし蜜を得ていたのじゃが、蜜が好きなブラッドベアに襲われて、この有り様だ」

 ブラッドベアというのは蜜が好きだということだ。

「男たちは戦って追い払った。しかし死人は出なかったが怪我をした者も多い。畑も荒らしてしまった」

「俺のせいで、すみません」

「いいや、あなたが悪いわけではない。欲を出し、数多くの巣箱を作り、村の近くに置いたのが原因だ」

 村長は力無く言った


「ご主人様、怪我を見てあげてもらえませんか」

「そうだな、村長怪我人がいる家へ連れていっもらえないか?」

 村長は驚いたように俺を見ると、

「あなたは治療魔法が使えるのですか?」

 と聞いてきた。

「ああ、大丈夫だ」

「それではお願いします。貧しい村ですから、医者や司祭も呼べず、治療も不十分でしたから助かります」

 村長は俺を引きずるようにして、怪我が一番酷いという男の家へ連れて行った。


 その男は生きてはいる。

 でも包帯の巻かれた腕や足は腐っていた。熊の爪に雑菌が居たのかもしれない。

「村長、この人は?」

 男の妻らしき女性が聞いてきた。

「フィナのご主人様だ。治療魔法を使ってくれるということで連れてきたのだ」

「お願いします! お願いします! お願いします! ………!」

 必死にすがり付く。

「大丈夫、ちょっと離れててもらえますか? 村長、悪いんだけどこの女性を外に出してもらえないかな」

 そう言うと、村長は女性を連れて家の外に出た。

 俺はダガーを取り出す。そして、火酒を出しダガーを洗った。

「ご主人様、何を?」

「手足を切って、新しい物に変える。このまま繋いだままだと腐った部分の毒が体に回る。いや、すでに回っている。フィナ、手伝ってくれるか?」

 フィナは頷いた。

 あー、アイナも連れてきたら良かったかな。

 まあ、時間がなくて無理だけど。

「フィナ、この足を根本から切ってくれ」

 俺は男の変色した足を指差す。

「そうすれば、すぐに、俺が血を止める」

「わかりました」

 そう言うと、フィナはダガーを振りかぶり、男の足を根本から切った。俺はそれに合わせ、治癒魔法をかけ血を止める。

「次はその腕だ」

 腕は黒く変色している。

 再びフィナが腕を切り飛ばすのに合わせ、治癒魔法をかけ血を止めた。

 解毒の魔法をかけると、顔色が良くなる。やはり毒が回っていたようだ。

「じゃあ、最後に」

 俺は、全回復を唱え、手足が復活するのを確認した。

「これで問題ないだろう。フィナ、村長たちを呼んできてくれ」

 俺がそういうとフィナが家の外に行った。

 俺は切り取った手足をエンに頼んで灰にしてもらう。


「あっ、ああ。ありがとうございます」

 女性は俺の手を持ち離さない。

「マサヨシさんが困るだろう」

 と村長が言うと、女性は気付いて手を離した。

「悪い部分はもう無いから。あとは起きるまで待ってあげて」

「このご恩は……」

「べつにいいよ、フィナの同族だし。村長、次にいこう」

 こういうのは苦手だ。

「次は………」

 俺とフィナは村長に付いて村人を治療して回るのだった。


 結局一番酷かったのは最初の男で、あとは単純骨折や切り傷程度で済んでいた。それでも村人に感謝される。


「マサヨシさん、私たちはあなたになんの恩返しもできない。この村の畑は荒れ金もない。お金を得ようとオウルに行っても、安く使われてしまうだけだ」

 そう、村長が言った。

「ああ、元々ここに来たのって、糸を紡いだり、機を織って布を作るのを手伝って欲しいからなんだ」

「それならば女たちが手伝えます。オウルに売りに行ったりもしていますから」

「もし、畑を荒らされ、畑として成立しないのであれば、移住して俺のところの畑を耕してもらってもいい。養蜂も続けられるようにする。正直言うと村ごと俺んちに移住してくれると嬉しい。人手が足りないんだ。俺は人だけど獣人を差別なんかしない。働いた分はきちんと給料を払う」

 俺が言ったあとフィナは、俺んちの実情を説明した。


「糸を紡いだり、機を織るのを手伝うのは問題ありませんが、村ごと移住となると皆に聞く必要があります。明日もう一度来ていただけませんか?」

 住民で話し合うのだろう。


 次の日、

「私たちは、マサヨシさんのところへ行きます」

 と、村長が言う。

 そして村の者たちも頷いた。


 その一週間後、ノルフォシ村からは建物がなくなる。

 そして、地図の上からノルフォシ村が消えた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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