結局怒られる
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
「お邪魔しますよ」
直接ノーラの執務室に入る俺。
ノーラは机に座って書類にサインをしていた。
あっ、積みあがった書類が前より増えてる……
「あなた、いらっしゃい。今日は何?」
「えーっとな、村を作るための更地ができたので、ちょっと確認してもらおうかと……」
「さすがですね、今回は適度な広さなんでしょうか?」
「えっ、そっ、それは見てからのお楽しみという事で……」
俺は冷汗を流しながら適当にはぐらかす。
そして、扉を出しノーラと共に整地した村予定地に向かった。
広大な土地。地平線が見える。
あっ、わんこ部隊が走り回っている。
たのしそうだねぇ……。
広いからねぇ……。
などと現実逃避をしていると、扉から出たノーラも遠い目をしていた。
そして息を吸い込み、
「あなた、何ですかこの広大な土地は! セリュックよりも広いんじゃないですか! 何人入植すればいいんですか! 千人単位ですか! あれほど岩塩が先だと言っていたじゃないですか。あと、この土地国境超えてますよ。どうするんですか?」
ひとしきり怒るとため息をつくノーラ。そして
「もう、考え無しはやめてくださいね! 見たでしょうあの書類。村関係でも結構あるんです」
と諦めたように俺に言った。
「すんません、今回は精霊たちが張り切り過ぎました」
俺は頭を下げる。
「あなた、作ってしまったものは仕方ないと思います。でも、この全部の土地を畑にするとこの地域は穀倉地帯になるかもしれません。川があるので水源は何とかなりそうですが、生産した穀物をどこに売るのですか?」
「オセーレ、オウル、リンミカ、ストルマンってところ?」
「えっ、全部王都、そんな大きなところに売れるはずがないでしょう? 距離もあるのに」
「商人の件は探さなきゃいけないが、距離の件は俺が何とかするよ。あっ、さっき言った『オセーレ、オウル、リンミカ、ストルマン』は本当にやろうと思えばできるんだ。転移の扉を使ったりダンジョンの階層の一つに魔物を発生させないようにして、その階層の出口を王都の近くに作ればダンジョン内を進むだけでその都市に行ける。魔物が発生しないから安全に移動できる」
ノーラは話を聞いて驚いた顔をした。
「それは凄い! ぜひやればいいじゃないですか」
「でもな、やってもいいんだけど解放なんかしてしまうと困る事もある。いい所だけじゃないんだ」
「困る事?」
「考えてもみて? 今まで使われていた道が使われなくなる。街道で宿を生業にしている者はどうする? 物流の手助けをしている者はどうする? 他にも大きな影響があるだろう。だから急いで変える気はない。まあ、この辺で岩塩を掘る時点で南領から塩を仕入れている商人は敵に回しそうだがね。」
ノーラは静かに聞いていた。
「それに、軍事利用も可能だ。その道を使えば王都の近くに兵士を送り込める。直接その国の中心を攻撃できる。俺にそのつもりはないけど解放したら結構面倒なんだ。だったら、とりあえず今のように扉を許可制にして行き来するほうが無難かな」
ノーラも気付いたのだろう。
「現在、種族同士の戦争のようなことは起こっていません。バランスは保たれています。でも、あなたがダンジョンを使って道を作れば、争いを考える者や犯罪に使う者が出てきてもおかしくありませんね」
ノーラは言った。
「そういう事、だから今はダンジョンを使った近道は作らない。扉を使って定期的に出荷する感じにしたいね」
まあ、状況によって考えるかな。
ノーラは少し考える。
「手順が少し……ではありませんが変わりました。入植者の募集をします。一回目に植える種についてはノルデン侯爵家で持つようにすれば、人は集まるでしょう。しかし、土地の代金はどうしましょう、いくらなんでも無料というわけには……」
土地の代金か。
「俺もはっきりとはわからない、元々資金がかかってない場所だ。だから相場の半額ぐらいにしてみたら? 分割払い可にして、無利子にしておけば文句は出ないと思う。期間は最大二十年ぐらいかなあ」
カールの意見に毛がはえただけ。
俺の家のテストみたいになってしまうけど、やってみる価値はあると思う。
「わかりました、入植者が決まり次第あなたに連絡します。畑を作ってもらわなければいけませんから」
しばらくして、
「セリュックで募集をしたのですが思ったより募集が多いです。一次募集という事で百組程度で締め切って、一度村へ入れようかと」
ノーラから相談があった。
開墾作業と言うのは存外時間がかかる。畑になった土地が手に入るという事で結構話題にはなっているようだ。
「そんなに多いのか?」
「あなた、土地自体が格安ですからね。それに通常は開拓する場所に森林や原野が広がり、草木を除去し、耕し、種を植える。それが種を植えるところから始められる。まだ場所を見ていないので不安がってはいますが、それでも前段階が少ないだけでも挑戦するに足るものなのだと思います。これが成功し噂が流れれば、もっと増えると思います。ですから、必ず成功させないといけません」
そういや、イングリッドから
「『この前言っていた代官の件』お父様が相談したいと言っていました」
って聞いてたんだっけ。
「代官の件で王から呼び出しがあったんだ。代官が決まるかもしれない」
「私の方も下につく者の選定はできています。鉱夫についても何とか手配できました」
「って事は、俺の方もヘルゲ院長に話して使えそうな者を回してもらうよう手配しておかなきゃいけないね」
さて、ランヴァルド王と話をして、代官が決まれば村が動き始める。まあ建物の件も少しは話が有るだろう。
「ランヴァルド王と話をしてくるよ、ノーラも行くかい?」
「いいえ! 私が居なくても話が進むので行きません! 横に立ってるだけなんですもの!」
ああ、あの時の事けっこう根に持ってるなぁ。結局怒られた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




